覚醒!!最強パワーの問題児 11
「罠しかないな。白い鳥はどこにいるんだ? まさか宣戦布告しておきながら逃げたんじゃねえだろうな」
アセビは汗を乱暴に拭いながら、仲間たちの様子を確認した。表情を見るに女子たちにも疲れが見られる。
部屋を調べるたびに白い鳥、マミー、罠を警戒するというのは、なかなかストレスが溜まる作業なのだ。
「さて、そろそろ3階に行こうと言いたいが。次の部屋を調べたら休憩しようか。みんなも疲れただろ」
「はーい」
「うん……」
「それがいい……」
アセビはふと白い鳥が本当に潜んでいるのか不安になったが、床に視線を向けると白い羽が落ちていた。
「これは……」
「なになに?」
アセビの背後から女子たちも確認する。アセビ一行は顔を見合わせ、声を落として白い羽の持ち主への思いを口にする。
「……白い鳥、絶対近くにいるぞ」
「……気をつけようね」
決戦のときは近いだろう。アセビ一行の表情に希望の光が灯るが、油断はできない。気を抜いたときにこそ足元をすくわれるからだ。
当然サツキはそのことを理解している。警戒しながら近くの扉に耳をつけ、物音の確認作業を行い始めた。
「どれどれ……」
アセビが護衛のためにグータラソードを構えようとするが、隣でマーガレットが瞳を輝かせながら手を挙げている。何か物言いたげな様子だ。
「マーガレット、この部屋の調査終わったら休憩だからな。いい子にしてるんだ」
「あたしアホウドリがどこにいるかわかったわ。バカは高いところが好きって言うじゃない? あたしの推理が正しかったら屋上にいるわ!」
迷探偵の登場である。マーガレットは得意げな顔で階段を指差していた。
仮にマーガレットの推理通りなら、真面目に部屋を調べたのが無意味となってしまう。そのまま気にせず上に行けばよかったのだから。金目のものや酒が目当てなマーガレットとルピナスにとっては、これまでの行動は無意味ではないと言えなくもないのだが。
「……お前の推理当たってるといいな」
「でもここまで来たら、全ての部屋調べたいわね。宝石が欲しいじゃなかった、マミーが急に部屋から飛び出す可能性があるもの」
「正直ですねぇ」
豪邸と言われていたから期待していたのだが、金目のものはまだ見つかっていない。マーガレットは内心不満を感じていた。思わず煩悩にまみれた本音が漏れてしまったのである。
「物音は無い。気配もない。この部屋にマミーはいないだろう」
サツキの太鼓判にアセビは頷き、早速部屋へと足を踏み入れた。
「むっ!」
こもった空気と積もったホコリが出迎える。しかしアセビは気にせずランタンを掲げて床を確認した。見慣れたスイッチが目に入る。
「見つけたぜ。罠があるってわかってたら案外怖くもなんともないな」
「でも気を付けて。踏まないようにしなさいよ」
アセビはスイッチを踏まないように、部屋の奥へ進んだ。空気を入れ替えるために窓に手をかける。できるだけ良い環境で女子たちを休憩させたいと思っての行動だった。
「あっ!?」
アセビは思わず声を漏らす。窓には糸が引っかかっている。それを動かした瞬間、切れた。どうやら糸を使った罠も仕掛けられていたらしい。
アセビはよく調べれば良かったと心のなかで後悔するが、もう遅い。気配を感じて天井を見上げると、大きな物体が降ってくるのが目に入った。アセビは思わず声を上げる。
「うおおおぉぉぉあああぁぁぁ!?」
アセビの頭上に向かって落下しようとしている物体の正体。それは。それは。それは。
非常に大きなタライだった。
「いでえっ!?」
タライはアセビの脳天を直撃すると、そのまま床に落ちた。鈍い音が無情にも響き渡る。
部屋は沈黙が支配する空間となっていた。
「フッ……!」
アセビはごまかすよう髪をかき上げ、得意げな顔でニヤリと笑った。部屋の入口でずっと見守っていた女子たちに向かって、まるで何事もなかったかのように近づいていく。
「お前たち、怪我はないか? 大丈夫か?」
「え、えぇ……」
「う、うぅ……」
「あ、あぁ……」
アセビは頭を直撃したタライから、そっと目を逸らした。仲間に気を使ったつもりが、かっこ悪い姿を晒すことになってしまったのだ。なかったことにしたい思うのは仕方のないことだろう。
アセビが平静を装いながら女子たちを見ると、うつむき肩を震わせていた。
迫真の叫び声。落下するタライ。響き渡る音。シュールな笑いを誘うにはうってつけだ。
女子たちは口を結び、顔を赤くし、笑い声が口から漏れないよう必死だった。
「……なあ、休憩しようや」
「そう……ねっ」
マーガレットは震える声でそれだけ言うと、スイッチを踏まないよう部屋に足を踏み入れた。うつむきながらルピナスとサツキもあとに続く。
女子たちは笑わないように、自分自身と戦っているのだ。絶対に負けられない戦いの開幕である。
「……人数分水筒あるからな」
「……あ、ありが……」
マーガレットが口を開いた、そのときである。ルピナスにぴったりとくっついていた触覚が、タライに向かって糸を吐き出した。
「触覚ちゃん? 急に何を……」
触覚は顎を引いてタライを手繰り寄せると、手で叩き始めた。どうやら罠がないか調べているらしい。
「ちょっ……触覚ちゃ……」
「くっ……」
触覚がタライを叩くたびに、鈍い音が部屋に響く。
女子たちの脳裏に鮮明に過る。タライが直撃したアセビの姿が。大きなリアクションを見せた頼れるアセビの姿が。何事もなかったかのようにカッコつけるアセビの姿が。
「……はっ……っくっ……」
マーガレットは必死に自分の口を押さえ、体を折り曲げて堪えている。ルピナスやサツキも顔を赤くし、歯を食いしばっていた。
笑ってはいけないという現実が、女子たちの笑いのツボに強烈なボディーブローをぶち込み続けている。
「……あのさ」
アセビも女子たちが気を使って、必死に笑いを堪えているのを察している。しかしそれを指摘するのは、彼女たちの気づかいをぶち壊すことになるともわかっているのだ。だから互いに見て見ぬふりをし続けられれば良かったのだが、世界は優しさだけで構成されてはいない。
「触覚ちゃ……もう……やめて……っ」
触覚はタライに罠がないと確信したらしい。もう用はないと言わんばかりに投げ捨てた。その瞬間。部屋に鈍い音が再度響き渡る。
女子たちは、弾けた。
「た、タライがアセビの頭にガシャーンって! あはははははは!!!」
「笑ったらダメだよぅ! あははははははは!!」
「す、すまないアセビ! あはははははは!!」
「オレ泣きそう」
女子たちは笑い転げ、床を叩き、苦しそうに胸を押さえている。
アセビは大きく息を吐き、窓の外へと目を向けた。悲しい現実逃避である。
「なんだろう……よく外が見えないや……」
霧の森は見晴らしが悪いのだが、いつも以上にアセビにそう感じさせるのは、間違いなくタライのせいだ。少しずつ視界がぼやけていく。
「なんだ……? オレの涙か……」
アセビは女子たちの笑い声を背中に浴びながら、景色を見続けることしかできないのであった。




