覚醒!!最強パワーの問題児 10
「サツキ、確認頼むぜ」
「承った」
サツキは扉に耳をつけ、部屋の物音を探る。彼女のすぐ近くでアセビがグータラソードを構えていた。マミー軍団が急に現れたとき、すぐ迎撃するためである。
「ね、ね! アセビさん!」
「おい、ちょっとだけ静かにしててくれや」
「むぅ!」
アセビに邪険にされ、マーガレットはむっとした表情を浮かべた。そのまま腕を組んで肘で背中をつつく。
「あたしのフラッシュがあれば、このオンボロな豪邸を明るくできるわよねぇ」
「そうだな」
「マーガレットちゃん、お願いしますって言える? そしたら使ってあげても? いいですけど?」
アセビは当然フラッシュのことを考えていた。しかし視界が良くなるということは、白い鳥やマミーたちに見つかりやすくなるということでもある。しかしランタンの小さな光なら、バレずに行動できるだろう。
アセビは戦闘をできるだけ避けたいと思っている。フラッシュを使うのは論外だった。
「まー、ランタンで十分だ。できれば敵には見つかりたくないんでな。慎重に行こう」
「ふ〜ん。あとで後悔しても、あたし知らないわよ」
「後悔してから考えるわ」
アセビとマーガレットの会話が終わると同時に、サツキが振り向く。その目を見るに、部屋からは物音がしなかったらしい。
「どうする?」
サツキがアセビの指示を待つ。先ほどアセビ一行を襲ったマミーたちの部屋は全て調べたが、罠は仕掛けられておらず、ホコリの被ったベッドが複数置いてあるだけだった。金目のものやアルコールもなかったため、召使いたちの部屋だったのだろう。
「物音がしないのは、白い鳥がじっと動かず待ち構えているからかもしれない。油断はできないぞ」
「では私が早速……」
「いや、オレが行く」
アセビはサツキの肩を掴んで動きを止めた。彼女はメンバーで1番の戦闘能力を持ち、妹分をマミーたちから確実に守れる存在だ。罠で負傷することがあってはならないとアセビは判断し、自らが先陣を切って部屋に入ることにしたのである。
「アホウドリ、出てこいやぁ!」
「大げさな物言いなのに、ゆっくり開けるのね」
「うるさいよ」
アセビがそっと扉を開くと、掃除道具、家具、武器が無造作に置かれていた。どうやらこの部屋は物置として使われていたらしい。
「……何もなさそうね」
「……うん」
マーガレットとルピナスは目当てのものがないと判断し、興味が失せている。
アセビがランタンを掲げて床に目を向けると、スイッチが目に入った。踏むと侵入者を排除するための罠が発動するに違いない。
何の情報も無しに豪邸を訪れていたら、確実に踏んでいただろう。アセビはリラに感謝した。
「みんな見てくれ。あそこにスイッチがあるだろ?」
「あっ、よく見たらなんか出っ張ってるわね。あれが噂の罠ってやつかしら?」
「だろうな。リラちゃんの情報に感謝だ。知らなかったら確実に踏んでたぜ」
「ふ〜〜〜〜〜〜ん」
マーガレットは顔も知らない少女に、嫉妬の炎を燃え上がらせる。アセビを奪われるという可能性が、脳裏に過ぎってしまったのだ。
マーガレットは眉間にシワを寄せながら、床をじっと見つめた。
「罠ねぇ……いちいちランタンの小さな明かりで調べるの面倒じゃない? なんかバカバカしいんですけど」
「そうでもないさ。少しでも安全に……」
「フラーッシュ!」
「あっ!?」
マーガレットがステッキを振ると、先ほどまで薄暗かった廊下が昼間のように明るくなった。天井に張られた蜘蛛の巣、部屋の隅のホコリまでしっかりと目で確認できるほどだ。
「おバカ! やめろって言っただろ!」
「調整しておいたわよ。あれ? もしかして上の階も明るくしてほしい? ん? ん? ん?」
「もう何もしないでほしい」
マーガレットが目を細めながら体をくねらせた、そのときである。廊下に並ぶ扉が一斉に勢いよく開かれ、奥からマミーたちが続々と姿を現した。
「やべえ! フラッシュの光で気づかれたんだ!」
マミーたちはアセビ一行の姿を確認すると、うめき声をあげながら小走りで近づき始めた。
ルピナスは取り乱すことはなかったが、体を震わせ怯えてしまっている。
「ひゃっ……マミーがいっぱいくるよぅ!」
「言わんこっちゃない! 団体さんのおでましだ! 無駄に体力消耗したくなかったんだがよぉ!」
「やってしまったことは仕方あるまい! アセビ、準備と覚悟はいいか!?」
アセビとサツキはマミーたちを迎撃するため、それぞれ武器を構えた。数は全部で10体以上。流石のふたりでも無傷で切り抜けるのは厳しいだろう。
マーガレットは舌を出して頭をかいた。
「えへへ……」
「えへへじゃねよブン殴られてえのか」
「ミイラマンさっきはのろのろだったのに、妙に張り切ってるわね。アセビさんのこと好きなんじゃない? モテモテね! ぷっぷっぷ!」
「ついにオレにもモテ期がきたってわけかっ!」
いやなモテ期到来である。
「できれば、もうちょいふっくらしてる子が良かったんですがね!」
「あら〜? それならぁ、あなたの近くにぃ、良い子がいるわよぉ?」
「ごめんなさい」
「まだ何も言ってないでしょぉぉぉ!?」
アセビは泣き叫ぶマーガレットを無視し、接近するマミーたちをにらみつけた。
「来やがれ! 包帯人間!」
しかし不思議なことに、マミーたちはアセビには目もくれず、素通りしてしまった。まるで最初から眼中にないと言わんばかりの態度である。
「あれ?」
「振られちゃったわね! ぷっぷっぷ!」
予想外の行動に思わずアセビは固まるが、背後に控えたサツキとルピナスと触覚に緊張感が走る。
しかし再び不思議なことが起こった。
「む?」
「ひゃっ……あれ?」
マミーたちは、ルピナスとサツキに指1本触れようとせず、ただ前へ前へと進み続ける。目指す先には白い問題児がいた。マーガレットその人である。
「あれ? なんか包帯マンたち、マーガレットの方に行ってね? なんかあいつ好かれてね?」
「うそでしょ!?」
余裕の表情を浮かべていたマーガレットだが、マミーに狙われていることに気づき、焦り始める。すでに敵は目前だ。アセビたちを盾にすることはできない。
「お前モテモテじゃん。よかったじゃん」
「こういうモテ期はいらないんですけどぉ!」
マーガレットは必死の形相で廊下を風のように早く駆け抜ける。マミーたちは腕を振り、スピードを上げて追いかけ始めた。
命がけの鬼ごっこである。
アセビは手助けする様子は一切なく、のんびり高みの見物を始めた。
「へぇ。包帯人間って走れたんだ」
「ちょっとぉ! 早く助けなさいよぉ! 可愛い可愛いマーガレットちゃんが追いかけられてるのよ!?」
「で、あるか」
マーガレットは涙を流しながら訴えるが、アセビは我関せずと涼しい顔である。なぜこの状況になったか、理解させなければ、また勝手な行動をするに決まっているのだ。死なない程度に反省させなければならないのである。
「包帯マンって死んでるからよ。元気が有り余ってる奴がタイプなのかねぇ。知らんけど」
「ぼく暗い人間で良かったんだなぁ」
「オレはお前みたいな子好きだけどな」
「ここは私が……」
サツキは助太刀に行こうとするが、アセビに腕を握られて動けずにいた。マーガレットのピンチは続く。
サツキは可愛い妹分を助けようと抗議した。
「アセビ、もういいんじゃないか!? マーガレットも反省したはずだぞ!?」
「そうよそうよ! 可愛い可愛いマーガレットちゃんは反省したわよ! 早く助けなさいよダンゴムシ!」
反省など、していなかった。
アセビにとっての禁止ワードが耳に届く。
「言っちゃった」
「うむ……」
「ふうん。あいつまだ結構余裕あるじゃん」
アセビはにこりと微笑むが、額に浮かぶ青筋がピクピクと痙攣しているのを、ルピナスとサツキは見逃さなかった。安っぽい挑発は効いてませんよ、オレキレてないですよアピール失敗である。
「いやあぁぁぁぁぁぁ!」
どんなものにも終わりのときは訪れる。マーガレットは広い廊下を駆け抜け続けた結果、とうとう行き止まりまで追い込まれてしまった。
逃げ場がないことを知ったからか、マミーたちは走るのをやめ、ゆっくりと近づき始めている。
「ごめんなさぁい! アセビさんのこと無視して勝手にフラッシュしてごめんなさぁい!」
「やれやれ……」
マーガレットの心からの謝罪が廊下に響く。
アセビは首をボキボキと鳴らしながら、グータラソードを構えた。問題児を助けに行く準備を始めている。
「ごめんなさぁい! ルピナスのこと無理やり押さえつけてごめんなさぁい!」
「ぼくの方こそ……」
マーガレットの心からの謝罪が廊下に響く。ルピナスはランダム召喚を止めてくれたこと、恐怖心を克服できたことを感謝していた。
「ごめんなさぁい! サツキのこと怖い変態鬼って言ってごめんなさぁい!」
「う、うむ……変態鬼とまでは言ってなかったような気がするのだが……」
マーガレットの心からの謝罪が廊下に響く。サツキ自身複雑な思いはあるものの、可愛い妹分の言ったことは根に持たずに許している。
アセビたちは顔を見合わせ、頷きあった。
「そろそろ助けに行きますかね。あのおバカも反省しただろうしな」
「うん!」
「行くぞ!」
マーガレットはしっかりと反省したものと判断し、アセビたちは床を蹴り、廊下を駆け抜けた。足の遅いルピナスは、触覚の背中に乗っている。
「ごめんなさぁい! 助けてぇ! 許してぇ!」
「安心しろ! そんな心配しなくてもちゃんと助けるからよ! もう少しだけ待ってな!」
アセビは走りながら、必死に謝罪の言葉を口から吐き出し続けるマーガレットに苦笑した。
「ごめんなぁい! おバカで自分勝手な女の子でごめんなさぁい!」
「いいっていいって! もう謝らなくていいって!」
「いつもみんなに迷惑かけてごめんなさぁい!」
「だからいいって! もういいって!」
「アセビさんがダンゴムシフェチの変態って噂流してごめんなぁい!」
「おい、今あいつなんて言った」
「と、とにかく今はマーガレットを助けるぞ!」
サツキはスピードを上げ、マミーたちに接近する。彼らは目の前のマーガレットに夢中で、隙を晒し続けている。それを見逃すサツキではない。
「はぁぁぁ!」
サツキはマミーに次々とヤグルマソウの一撃を与えていく。
しばらくしてアセビとルピナスも追いつき、マーガレットを救い出しながら、攻撃を開始した。
数は多くとも、不意をつければ無傷で倒せないわけではない。マミーたちは3人の猛攻を受け、あっという間に全員灰と化した。
「やれやれ。数は多いがなんとかなったな。さて、探索を続けようぜ」
無事マミーたちを倒したアセビ一行は、1階を調査し終えた。罠がしかけられた部屋は多いが、白い鳥はどこにもいない。つまり上の階にいることは間違いないだろう。
2階に上がる階段を登りながら、マーガレットが口を開く。
「みんなごめんなさい。助けてくれてありがとう……」
流石のマーガレットも命の危機を救われ、反省したらしい。アセビは肩をすくめ、足を引っ張りまくる問題児の頬を掴んで引っ張った。
「いふぁいいふぁい!」
「この件はもう終わりっ! これからは勝手な行動をせずに気をつけるんだぞ」
「ごふぇんなふぁい!!」
「もちもちほっぺ!」
「フフフッ」
アセビはマーガレットの頬を離した。何事もなかったようにそのまま進み始める。
マーガレットは真っ赤に腫れた頬を押さえながら、アセビの背中をじっと見つめていた。
「いたたたた……」
「これからは気をつければいいさ。お前が活躍する時は絶対に訪れる。名誉回復はその時だ」
サツキはマーガレットの肩を優しく叩く。頼れる姉貴分の行動と言葉。マーガレットは頷き、胸を叩いて得意げな表情だ。
「まかせなさい! あたしは回復魔法の達人スーパー美少女マーガレットちゃんよ! どんな傷も毒もすぐ治しちゃうんだから!」
いつものような明るさを取り戻したマーガレットを見て、サツキはくすりと笑う。優しい鬼は大切な仲間が元気でいてくれるだけで、幸せな気持ちになれるのだ。
「フフフッ急ぐぞ」
「はーい!」




