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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 9

「こいつは……包帯人間!!」

「うむ! 確かマミーというモンスターだ!」


 謎の人影の正体は、マミーと呼ばれるモンスターだった。彼らは全身が包帯で包まれている。生きている死体のような存在だ。墓標で眠る王や財宝を守るために外敵を排除しようと行動する。


「リラちゃんが、豪邸には召使いがいたって言ってたよな。もしかして全員マミーになっちゃったのか?」

「多分そうかも……」


 マミーにとって家主は王であり、この豪邸に残された貴重品は財宝だ。アセビ一行はそれらに手を出そうとしている侵入者だと思われているのかもしれない。

 マミーは握り拳を作った。戦闘態勢に入っている。


「間違いなく敵だな!? やるしかねぇかっ! ってルピナス!? 離してくれ! 動けないだろ!?」

「怖いよう! 怖いよう!」


 アセビは目の前のマミーに向かって攻撃をしかけようと試みるが、ルピナスにしがみつかれて身動きがとれなくなっていた。無理やり引き剥がすこともできなくはないのだが、すでに敵は目と鼻の先だ。


「無理やり引き剥がしたら、その間にルピナスが攻撃されるかもしれねえ! ど、どうすればいい!?」

「怖いよぅ!」

「私に任せてもらおう! はあっ!」


 サツキがヤグルマソウを振り下ろす。マミーは左右に割れ、そのまま地面に倒れると、灰になった。

 廊下に再び静寂が訪れる。


「ひえ〜! サンキュー、サツキ! お前がいなかったらブン殴られてたぜ!」

「怖かったよぅ!」

「お前たちはこの命にかえても守るさ。それより敵は白い鳥だけではないという解釈でよろしいか?」

「ああ……そうだろうな」


 アセビはサツキの質問に肯定の意味を込めて頷く。


「聞いた話によると、貴族と一緒に召使いも住んでいたらしい。この包帯マンはどちらかだろうな。恐らく召使いな気がするけど」

「死んでいるのに生前の世界にしがみつく、か。死ぬときは潔く散りたいものだ」

「ある意味包帯マンも可哀想な存在だよな。まー、倒すんだけど」


 死してなお未練がましく現世にしがみつくマミーのその姿。アセビに憐れみを感じさせた。


「包帯マンは1体じゃないんだろうな。まさか召使いがひとりなわけないもんな」

「恐らくそうだろう。何人いるかはわからないが、複数いるものと考えたほうがいい。警戒は怠らないようにしよう」


 アセビ一行は白い鳥と罠とだけでなく、マミーにも注意しなければいけなくなったのであった。

 アセビは面倒なことになったと感じ、ため息をつきそうになるが、すんでのところで堪える。無意味に何度も大きく頷いてみせた。


「うんうん! まー、1体1体はそれほど強くなさそうだし大丈夫だろう! おいマーガレット、そろそろ真面目にやれ」

「ん〜……あら? 人影は?」

「死んだぞ。最初から死んでたけど」

「あら怖い」


 ずっと瞳を閉じていたマーガレットだが、床に散らばる灰を見て何があったか察したらしい。人影の正体に驚きつつも、周囲を冷静に警戒し始めた。


「敵は白い鳥だけじゃねえ。包帯マンもいるんだ。わかったか?」

「オッケー! 廊下の曲がり角でいきなり出くわさないように注意するわね」

「最初からそんな感じで、真面目にやってほしかったんだよなぁ」


 ルピナスがアセビの背中にしがみついながら、手を挙げた。


「でもそれだとマーガレットっぽくないよね」

「それもそうか。マーガレット、おふざけしていいぞ」

「ふざけんじゃねえわよちゃんとやるわよ」


 マーガレットは周囲を見渡し、目を細めて警戒をし始めた。しかしもう遅い。騒いでしまったため、白い鳥とまだ姿を見せぬマミーたちは、アセビ一行の存在を感知しているだろう。


「ま、切り替えて行こうか」

「前向きね」

「誰かさんのせいでこうなったんだよ」


 アセビは長い廊下を進もうとするが動きを止めた。廊下に並ぶ扉が一斉に開かれたからだ。


「うぉ!?」

「まさか!?」


 そのまさかだ。扉からマミーが一斉に飛び出した。少なくとも10体以上はいる。流石のサツキやアセビでも瞬殺するのは難しいだろう。

 マミーたちはアセビ一行の存在を確認すると、排除しようと、ゆっくりと近づき始めた。

 ルピナスは顔を歪めている。今にも泣き出してしまいそうだ。


「怖いよぅ!」

「みんな来るぞ! 数は多いが安心してほしい! 頭から斬れば一撃で倒せる! 恐れることはない!」

「それできるのあなただけだっての!」

「サツキみたいにうまくやれる自信はないが……ん?」


 アセビにぴったりと張り付いていたルピナスが、いつの間にか離れていた。彼女はマミーの集団に向かって壊れたおもちゃのように1歩前進した。


「あはは……」


 瞳は虚ろ。体は小刻みに震えている。精神状態が良好ではないのは明らかだ。


「ルピナス……?」

「あ……あぁ……倒さなきゃ……あはは……」


 ルピナスは引きつった笑みを浮かべ、懐から本を取り出した。


「ち、地の底より……蘇りし亡者……見事に……討ち取る光の勇者……」


 ルピナスは震える声で呪文を唱え始めている。マミー軍団の存在で恐怖心を刺激されたらしく、精神が錯乱しているのだ。冷静さを欠いている。ルピナスは禁じられているランダム召喚を行おうとしていた。


「死者は……聞けない勝者の……謳歌……いつでも……勝ち進むのは……ぼくだ……」

「ちょっと!? ルピナスまさかランダム召喚しようとしてない!?」

「なにっ!?」


 先ほどまでふざける余裕をみせていたマーガレットだが、冷や汗を流している。ランダム召喚で呼び出したモンスターは、必ずアセビ一行の味方をしてくれるわけではない。勝手に召喚された結果、怒り狂って新たな敵として立ちふさがる可能性もあるのだ。

 その場合白い鳥、マミー軍団、呼び出されたモンスターと同時に戦わなければならなくなる。最悪な未来を想像し、アセビたちは青ざめた。


「ち、力を貸して……! 召か……」

「ストーーーーップ!」

「待って!」

「ルピナス!」


 アセビたちは、錯乱したルピナスの暴走を止めるために、勢いよく飛びかかった。口を塞ぎ、肩を押さえ、しがみついた。ランダム召喚は阻止された。状況を悪化させることはなくなったのである。

 味方が増える可能性もあったが、現状アセビ一行は戦力には困っていない。ランダム召喚は、状況が詰まった時だけに行うべき最後の手段なのだ。


「む〜っ! むぐ〜っ!」


 ルピナスは呪文を唱えようとするが、口を塞がれているためくぐもった声を出すことしかできない。苦しそうに顔を赤くして体を動かしてもがいているが、しっかりと押さえつけられているため、身動きが取れずにいる。


「落ち着いて! あはは、ちょっ、ルピナス! 舐めないで! 手のひらくすぐったいって!」

「む〜!」


 マーガレットはルピナスの口からさっと手を離す。息苦しかったのか、彼女は深呼吸をし始めた。

 アセビは錯乱したルピナスがマミーに向かって突っ込まないよう肩を掴んでいる。


「はぁはぁ……怖いよぅ! 苦しいよぅ! 無理やり押さえつけてひどいよぅ!」

「お前忙しいな」

「も、もう1度……」


 マーガレットは口元を僅かに緩めると、ルピナスの顔に手のひらを近づけた。もう1度ランダム召喚を行っても、何度でも邪魔するから無駄と言いたいらしい。


「うぅ……」


 ルピナスは抵抗をしても無意味と察し、うなだれて大人しくなった。彼女が冷静さを取り戻したと判断し、アセビは肩からそっと手を離す。

 マーガレットが腰をかがめ、ルピナスと視線を合わせた。


「ねぇルピナス。マミーってそんなに怖い? スケルトンは平気よね?」

「怖いよぅ……でもスケルトンは怖くないよぅ」

「不思議ねぇ」


 マーガレットは珍しく、優しい声色でルピナスに語りかける。


「じゃあサツキとマミーはどっちが怖い?」

「う?」

「……ん? 当然マミーであろう?」


 ルピナスはうなだれていたが、マーガレットの簡単な問いかけに答えるため、顔を上げて口を開く。


「サツキ」

「そうよね!」

「えっ」

「どれぐらい怖い?」

「マミーの100万倍」

「えっ」


 即答だった。迷いもためらいもない。即答だった。


「あなたはマミーより100万倍怖いサツキと、いつもいっしょにいるけど平気でしょ?」

「……うん」

「なら、マミーも怖くないでしょ?」

「うん!」


 マーガレットはにこりと微笑む。

 マミーに怯え、錯乱状態だったルピナスだが、瞳には生気が戻り、表情には余裕すら見える。恐怖を乗り越えたのだ。

 ルピナスは足元で待機していた触覚に目を向ける。


「触覚ちゃん! 力を貸してね!」

「そうそう! その意気よ!」


 触覚は元気よく体を伸び縮みさせていた。

 アセビが恐る恐るサツキに目を向ける。彼女は肩を震わせ、天井をじっと見つめていた。そうしないと、瞳から熱いものがこぼれ落ちてしまうからだろう。


「そっかぁ……私ってそんなに怖いかぁ……マミーの100万倍……もうそれアレじゃん。限界突破しちゃってるじゃん」

「と、とにかく戦うぞ! 今は!」


 アセビは士気が落ちたサツキを放置し、グータラソードを構えてマミーたちに向かって飛び込んだ。


「オラぁ!」


 グータラソードによる一撃。マミーは一瞬でバラバラになって灰と化した。

 アセビの勢いは止まらない。流れるように背後に控えたマミーたちに、グータラソードを振り下ろす。見事攻撃を命中させ、数を減らしていく。


「いけるぞ! っと!?」


 マミーが5体同時に拳を振り上げ、アセビに向かって襲いかかる。彼はとっさにグータラソードで攻撃を受け止めるが、腕に衝撃が走り、顔をしかめる。


「こいつ!? 見た目よりパワーあるじゃねえか!」


 アセビは怯みそうになるが、負けじと押し返してマミーたちの腕を切り落としていく。


「田舎育ちの農家舐めんじゃねえぞ! だが流石にこの数相手はちょっときついな!」


 アセビの漏らした弱音に反応し、天井を見上げていたサツキがようやく動いた。彼女はヤグルマソウを振り下ろし、マミーたちの頭部を素早く斬り落としていく。


「触覚ちゃん、いける? 糸お願い!」


 ルピナスの指示に触覚は頷き、残ったマミーに向かって糸を吐き出す。敵の足に見事絡まった。


「ナイス援護! あとはオレがやる!」


 マミーはバランスを崩している。正面から倒れそうになるが、床とキスをする前に、頭部にグータラソードの一撃を浴びてしまった。


「どうでい!」


 マミーの頭部が床に落ち、そのまま全身が灰になって崩れ落ちた。

 アセビが周囲を見回す。もうマミーは残っていなかった。


「はい終わり終わりっと! みんな怪我はないな?」

「ないでーす!」

「触覚ちゃんかっこよかったよ」


 マーガレットとルピナスは触覚の背中を撫で回し、活躍ぶりを褒め称えた。大好きなお姉ちゃんたちに褒められたのだ。触覚は誇らしげな表情を浮かべている。マーガレットとルピナスの手に体を擦り付け、瞳をキラキラと輝かせていた。


「包帯マンたちは思ったより力が強いぜ。気をつけたほうがいいな。サツキ、お前が暴れてくれなかったら危なかったぜ。サンキューな」

「……そうか」


 サツキは膝を抱えてしゃがみ込んでいた。指を床に向けて動かしている。完全にいじけモードになっていた。

 アセビは恐る恐るサツキの肩を叩いた。


「サツキ……? サツキさん……?」

「どうせ私は怖い女だよ。マミーの100万倍だよ。鬼女だよ。魔神女だよ」

「サツキさん、さっきマミーより怖いって言われて結構ショックだったんです?」

「……知らんっ」


 サツキは悲しみに近い感情を抱えていた。彼女は傷つけられても狂気の笑みを浮かべ、戦い続ける無敵の鬼である。しかし内面はまだ年若い乙女だ。

 今さら他者にどう思われても仕方ないと割り切ってはいるが、せめて大切な弟分や妹分には優しいお姉ちゃんと思われていたいのである。

 アセビは微笑みながらサツキの背中を撫でた。


「サツキが誰よりも優しいことは知ってるから」

「アセビ……?」

「みんなのために、鬼の仮面を被って戦ってくれてるってオレはちゃんとわかってるからさ」

「……」

「本当は優しい鬼のお姉ちゃんだもんな」

「むぅ……鬼はやめてほしいな」


 サツキは頬を膨らませると、アセビの手を取り勢いをつけてそのまま立ち上がった。彼女は弟分の前でいじけてしまったことを恥ずかしいと思っているのか、顔を赤くしている。照れ隠しにアセビの背中を強く叩いた。


「いててっ!」


 廊下に背中を叩いた音が響き渡る。


「おい、サツキ! 背骨バキって言ったぞ!!」

「その……なんだ……ありがとう。私はこれからもお前たちを守るお姉ちゃんだからな!」

  

 サツキは鼻歌を歌いながら、愛する妹分たちの元へと歩みを進める。すっかり上機嫌になっていた。マミーよりも100万倍も怖いと言われたことはもう気にしていないだろう。

 アセビは優しい鬼のお姉ちゃんを、どこか爽やかな表情で見守っていた。


「フフフッお疲れ様」

「さ、サツキ……」


 マーガレットがサツキを見て1歩退く。両手を合わせながら、引きつった笑みを浮かべていた。

 ルピナスを落ち着かせるためとはいえ、恐怖の象徴扱いしたのだ。マーガレットは体を勢いよく折り曲げた。


「ごめんなさい! あなたのことスーパーアルティメット変態鬼のお姉さん扱いしちゃってごめんなさい!」

「そこまで言っていなかったような……」

「別にいいさ」


 マーガレットはてっきり怒られるか、スキンシップと言う名の暴力を受けると思っていた。しかしサツキの予想外の言葉に、口をぽかんと開けたまま固まる。


「えっと……」

「フフフッ」


 サツキは優しさに満ちた表情で微笑むと、マーガレットの顎に手を当て持ち上げた。


「うぐっ!?」

「フフフッ口を開けたままだとみっともないぞ?」


 サツキが根に持っていないと判断し、マーガレットは胸を撫で下ろす。

 それはそれとして、できるだけ刺激する言葉は吐かないようにしようと心に誓っていたが。


「それにしてもアセビめ。優しい鬼のお姉ちゃんとはひどいではないか。だがそれも……悪くない」


 サツキは誰にも聞こえない声でそっと呟く。やはり弟分は自分のことをわかってくれている。その事実がサツキの傷ついた心を癒やした。彼女はどこか弾むような足取りで、愛する仲間たちを導くように歩み始めた。

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