覚醒!!最強パワーの問題児 8
アセビ一行は霧の森に到着すると、白い鳥が決戦の場に選んだ豪邸に向かった。
ちなみにだが、触覚もついていきている。首をせわしなく動かして、白い鳥の奇襲に備えていた。マーガレットに恩返しをするために、恐怖の感情を押し殺し付いてきたらしい。
「触覚ちゃん怖くないのかな」
「怖いだろうさ。それでもお前たちを守りたい気持ちが恐怖心を消し飛ばしているんだ」
「触覚くん偉いわねぇ」
霧の森は相変わらず見晴らしが悪く、熱気のこもった地獄のような空間だった。アセビ一行は水を飲んで渇いた体に潤いを与える。ルピナスは水筒から口を離し、アセビに向かって声をかけた。
「ねぇアセビ。白い鳥が言ってた豪邸って……」
「ああ、間違いない」
アセビとルピナスは、リラから聞いた情報を思い出していた。目的地の位置を考えると、間違いなく彼女の言っていた豪邸だろう。
アセビは移動しながらマーガレット、サツキにもリラから教えてもらった情報を伝えた。
「罠だらけの豪邸か。理解した。数の差を埋めるために選んだとみえる。罠に気をつけて進もう」
「せこいわよね〜。正面から戦ったら勝てないですぅ怖いですぅっていうことじゃない!」
「実際そうだろうな。こっちは4人と1匹だ」
数では圧倒的に有利だ。しかしルピナスは不安そうに体を震わせている。
「でも白い鳥には毒があるよぅ!」
「ま、あたしのヒールで解毒できるんですけどね。大した毒じゃないわ。ぷぷぷ」
余裕の笑みを浮かべるマーガレット。だが内心どう思っているかはわからない。
アセビはサツキに目を向けた。
「サツキ、頼りにしてるからな」
「うむ」
サツキと正面から戦って無傷で勝つことは難しい。あの不死王リッチですら不可能だった。
白い鳥は色々と理屈をつけて豪邸へとアセビ一行を誘ったが、少しでも有利な状況で戦いたいというのが本音なのだろう。
「とりあえず、奴と戦う前に罠で全滅しましたってのは避けないとな」
「平気平気! それより! 豪邸ってことは宝石やお金がたくさんあるんじゃない!? 楽しみだわ!」
マーガレットは両頬を押さえ、喜びに震えている。すでに貴族の残した大いなる遺産を手に入れたつもりになっているのだ。どこまでも欲深い女である。
マーガレットとうってかわって、ルピナスは不安な表情を浮かべていた。慣れない土地で罠を警戒しつつ進むというのは、精神に負担がかかるのだろう。
「宝石はともかく! これも仕事だ。豪邸の調査もしつつ、白い鳥を倒す形になるぞ」
「豪邸ってことは酒蔵もあるんじゃないかしら? たっぷり寝かせたお酒……きっとあるわよ!」
「まずは酒蔵を探そう!」
ルピナスは顔を赤くし、拳を震わせやる気に満ちていた。先ほど見せていた表情は忘却の彼方である。
我が道を進む問題児たちを見て、アセビは自分がしっかりしなければならないと心に思うのだった。
アセビ一行の目の前に現れた大きな建物。そう、目的地の豪邸である。これまでこの建物の存在に気づかなかったのは、深い霧で隠されていたからだ。生前住んでいた貴族にとって、さぞ便利な隠れ蓑として機能していたことだろう。
「近くで見たら大きいが……」
アセビは建物を見上げた。壁はひびわれており、家主が生きていた頃は手入れされていたであろう庭は、ジャングルのように木々が生い茂っていた。
かつては美しい豪邸だったのだろうが、今はもうその面影はない。あるのは朽ち果てた建物だけだ。
「これ豪邸っていうか廃墟だな……」
「期待外れね。これじゃ宝石もお宝も何もないんじゃないかしら」
「ま、気を付けて行こうや」
アセビ一行が一礼してから豪邸に入ると、途方もなく広いエントランスとこもった空気が出迎えた。
天井や壁には蜘蛛の巣が張られている。赤々としたカーペットは見る影もなく、どす黒く変色していた。正面には2階に上がるための階段がある。
マーガレットは周囲を見回し、顔をしかめた。
「空気悪いし汚いし最悪じゃない。リッチんのお家って結構綺麗な方だったのね」
「リッチは定期的に掃除とかしてただろうしね。ここは住人が多分誰も……」
「しっ!」
サツキが唇に人差し指を当て、マーガレットたちの口をつぐませた。エントランス全体に緊張感が走る。
アセビはグータラソードの柄に手を伸ばす。彼は白い鳥は館の奥で待ち構えていると予想していた。しかし敵は奇襲戦法を得意とするモンスターだ。いきなり襲いかかってくる可能性も十分ある。
サツキはアセビたちに向かって口を開いた。
「すまない。音が聞こえた気がしたのだが」
「気のせいだったのか……?」
アセビはほっと胸を撫で下ろし、グータラソードの柄から手を離した。
屋内は薄暗い。視界が悪いため、常に警戒しながら進まなければならないだろう。罠がしかけられているのならなおさらだ。
「チャラララッチャラー」
「アセビどうしたの。頭おかしくなったの」
アセビはポケットからランタンを取り出した。昨夜準備しておいたのを思い出したのである。
ルピナスが瞳を輝かせた。
「おお、ランタン!」
「ありがたい。これで暗い室内も安心して進める。準備がいいじゃないか」
「自分、リーダーなんで。よし、みんなで罠を確認しながら進も……」
アセビが言い終える前に、マーガレットが扉を開けて前進していた。
「お、おい!? マーガレット待てって! 罠があったらどうするんだよ!?」
「大丈夫! ガンガンいきましょ!」
「大丈夫じゃねえって! 危ないって!」
アセビはマーガレットの肩を掴む。先へ進ませないように必死だった。幸い扉に罠はなかったが、もし猛毒が仕掛けられていたら、マーガレットは今頃地獄へと旅立っていたことだろう。
問題児の暴走を止めるのもアセビの役割である。彼はやれやれとため息をついた。
「お前が自由に動いたせいで、大ピンチに陥るいつものお約束の流れは勘弁してくれよ。これフリじゃねえからな。絶対変なことするんじゃねえぞ」
「ねぇ」
「ん?」
「あそこ……誰かいない?」
「そんなわけねえだろ」
マーガレットは嘘をついている様子がなく、ただ一点を指差している。
アセビは目を細めた。扉の先に広がる廊下をじっと見つめると、うっすらとだが人影のようなものが動いているように見える。
「……誰かいるな」
「でしょでしょ?」
「ひゃっ……」
ルピナスは怯え、アセビを盾にするように背中にぴったりとくっついた。影の大きさを見るに、白い鳥ではないだろう。
しかし人影が存在するということは、豪邸に何者かが存在するということでもある。アセビ一行に緊張感が走った。
「敵じゃないにしても、あまり関わりたくないな。気づかれていないと思うから、別のルートを調べて……」
「はっ、はっ、はっっっくしょん!!!」
マーガレットの鼻孔を、こもった空気とホコリが刺激した。彼女のくしゃみは非常に大きく、豪邸全体に響き渡ったことだろう。白い鳥にもアセビ一行が来たと知られたに違いない。
「えへへ……」
「えへへじゃねえよブン殴られてえのか」
「わざとじゃないわ! しょうがないじゃない! 自然にくしゃみが出ちゃったんだから!」
マーガレットは悪びれる様子もなく、顔を真っ赤にして無実を叫ぶ。彼女は口からマシンガンのように、次々と言い訳の言葉を撃ち出した。
「あたし悪くないわよ! あたし悪くないわよ!」
たった一言ごめんねと言えれば、それでアセビは許していただろう。だがマーガレットは謝らない。
アセビは額に浮かんだ青筋を震わせている。
「お前の口、食事の時以外ずっと塞いでていいか?」
「あらやだ! それってあたしとずっとキスしていたいってこと!? もうっアセビさんってエッチね!」
「狂ったか? 元々か?」
「しょうがないわね! ん〜……」
「お薬多めに出しときますね」
アセビは瞳を閉じて唇を突き出すマーガレットを無視することにした。バカを相手にしても良いことはなにもないからだ。
「あの影……こちらを見てないか?」
「えっ」
サツキが小声でアセビたちにささやく。よく見ると人影は動きを止めていた。
「……見てるね。絶対見てるね」
「怖いよぅ」
あれだけ騒いだのだから気づかれないはずがない。
マーガレット以外に緊張感が走る。触覚は人影に向かって威嚇するように体を伸び縮みさせていた。
ルピナスはアセビの腹部に手を回し、背中に顔をうすめて恐怖に震えている。
「怖いよぅ! 怖いよぅ!」
「る、ルピナス……今朝食ったパンが口から爆誕しそうだからちょっと離してほしいんだけど……」
アセビにとっては、目の前の人影よりも背中にくっついているルピナスのほうが恐ろしかった。しかしゲロをぶちまける心配をしている場合ではない。人影が少しずつ、アセビたちに向かって前進しているのがわかったからだ。
「アセビ、来てるぞ」
「こっちも胃袋からパンが喉元まで来てるぜ」
サツキは腰に差したヤグルマソウを素早く抜いて構えると、鋭い眼光で正面をにらみつけた。
「アセビ、来るぞ!」
「こうなっちゃうよなぁ!」
ふらふらと揺れながら、人影はゆっくりとアセビ一向に向かって前進していた。歩みは遅いのだが、確実に近づいている。老朽化した床が軋む音だけが、不気味に響いている。
薄暗く見晴らしの悪い屋内だが、ランタンの明かりに照らされ、人影の正体が判明した。




