覚醒!!最強パワーの問題児 5
リラと別れ、アセビたちは急いでクレマチスに戻った。あまり待たせると、空腹のマーガレットが発狂しかねない。
いい子で待っていろよとアセビは祈り、冒険者ギルドの扉を乱暴に開け、酒場へと急いで向かった。
「お・そ・いー!」
酒場にマーガレットの怒鳴り声が響く。アセビの姿を確認した問題児は、感情を爆発させてしまった。
テーブルの上には、すでに多くの料理と酒が並べられている。いつでも食事が始められる状態だ。段取りの悪いマーガレットだが、飲食に関してだけは例外なのであった。
「悪い悪い! ちょっと色々あってさ!」
「まったく! 女の子を待たせたのよ! アセビには何かペナルティを与えないといけないわ!」
「か、勘弁してくれ……ん?」
アセビは両手を合わせて謝罪しながらマーガレットに目を向ける。よく見ると、彼女の口の回りはソースがべったりと付着していた。自然とついた汚れではないことは、誰が見ても一撃でわかる。
「まさか」
よく見ると女子たちの皿には骨付き肉が置かれているのだが、アセビの皿には骨しか残っていなかった。
食べた犯人はひとりしかいないだろう。
マーガレットは瞳を閉じ、腕を組んでいる。まるで説教をするおっさんのようだ。
「女の子は優しさに飢えてるの。つまりアセビはもっとあたしに優しくしないといけないの。理解できる?」
「お前が飢えてるのは食と酒だと思うの」
「は?」
「オレの骨付き肉どこやったの」
アセビの指摘に、これまで強気の姿勢を見せていたマーガレットは視線を逸らす。これでは自白したも同然である。
「知らない……知らない、そんな甘辛いソースが絶妙でおいしかった骨付き肉のことなんて……」
「感想ありがとなあ!」
アセビはマーガレットの皿に乗せられた骨付き肉に目を向ける。彼はそのまま手を伸ばすが、問題児は持っていかないでと言わんばかりに騒ぎ始めた。
「いやああああああ!!」
「うるせぇ! 待たせたのは悪かったが、普通人の分の料理まで全部食わねえだろ! そいつをよこせ!」
「いやん!!」
「いやんじゃありません!」
マーガレットはアセビの腕に必死の形相でしがみついて涙を撒き散らした。醜い争いを始めた弟分と妹分を見て、サツキが申し訳無さそうに頭を下げる。同席していた彼女にも責任がないとは言えないが、空腹のマーガレットはブレーキの壊れた車も同然だ。止めることはできなかったのだろう。
「すまない。どうしても我慢できないから食べたいって言われてしまってな。1口だけなら構わないと許可したんだが……」
「あたし約束守ったわよ! ちゃんと1口で全部食べたもの! えっへん!」
「トンチバトルじゃねえんだよ。普通自分の分食べるべきじゃね? まー、いいや。オレの分の骨付き肉追加で頼むとするわ」
「もう今日の骨付き肉の材料ないみたいよ」
「は?」
「えへへ! おいしかったわ!」
「えへへじゃねえよブン殴られてえのか」
下卑た笑みを浮かべるマーガレット。彼女に怒りの鉄槌が振り下ろされようとしていたが、アセビの耳に異音が届く。
ルピナスの腹が鳴ったのだ。彼女は気まずそうに顔を両手で覆っている。
「……とりあえず、乾杯しますか」
「そうね」
「うむ」
「恥ずかしいよぅ!」
冷静になったアセビたちは、グラスを掴んで無言でぶつけ合うと中身を一気に飲み干した。暑い日差しに晒され続けた体に染み込む酒。それは1日の疲れとストレスを一気に吹き飛ばした。
アセビ一行は、全員喜びで体を震わせる。
「あぁ〜!!」
「しあわせ〜!!」
「アルコール! アルコール!」
「そういえばお前たちは戻ってくるのが遅かったが、何をやっていたんだ?」
サツキが皿に置かれた骨付き肉を、起用に切り分けながらアセビに尋ねる。彼女は自身の分の分を、分け与えようとしていた。
頼れる姉貴分の優しさに感涙にむせび泣きそうになりながら、アセビは口を開く。
「調査でいつも使ってる地図あるだろ? あれをくれた女の子が心配でさ。会いに行ってたんだ」
「行ってよかったよね。実際倒れてたしあのままだったら死んでたかも」
「それはよかった! その子も喜んだであろうな」
見たことのない顔も知らない少女の生存に、サツキは心から安堵している。義理堅い彼女は、調査に役立っている地図をくれたリラに感謝しているのだ。
アセビはサツキから恵んでもらった肉を味わいながら、霧の森に住む孤独な少女の顔を思い出した。
「喜んでくれてた……よな?」
「うん。感謝してたよ」
「それはよかったぜ」
「わかりやすいからね」
リラの微笑ましい反応は、この時代では逆に珍しいかもしれない。
サツキが腕を組んで考え込んでいる。アセビとルピナスが楽しそうに語っている姿を見て興味深いと感じたのだろう。
「うむ! 私もその子に会いたいものだな! 地図のお礼も言いたい」
「おう! 機会があったらみんなで行こうぜ!」
「ぼくはああいう子好きだなぁ」
初対面の人間とのコミュニケーションが苦手なルピナスが気に入った相手。それがリラなのだ。サツキに興味を持つなと言うのは無理な話だろう。
臆病なところがあるリラと会わせるのは危険かもしれないが、面倒見の良いサツキなら大丈夫という安心感がアセビにはあった。
本能のままに酒を飲み続けていたマーガレットが、口を開く。
「ぷは〜っ! ねえ、その子のお名前は? どんな感じの子?」
「リラちゃんっていう子だぞ。ある意味素直でわかりやすいタイプ」
「リラちゃん……? どこかで聞いたような……」
マーガレットはグラスをテーブルに置き、額を指でつつきながら考え込み始めた。彼女のつるつるした脳みそは、過去の出来事を振り返るため、高速で回転し始めている。
必死に思い出そうとしているマーガレットを見て、今度はルピナスが口を開いた。
「マーガレットと同じぐらい、すごく可愛い女の子だったよ」
「あらやだ! ルピナスったら正直なんだから!」
マーガレットはルピナスに容姿を褒められ、嬉しそうに両頬を押さえて体を震わせている。彼女のつるつるした脳みそは、回転を止めてしまった。
「あの子回復魔法も使えるんだ。触らないとできないって本人が言ってたけどな」
「ふ〜ん」
「ほう。回復魔法の使い手でもあるのか。次に霧の森の調査に行くときは、私にも紹介してほしい」
サツキはますます興味が出たらしく、リラとの出会いを所望し始めた。
しかしマーガレットは、どこか不安そうな表情を浮かべている。それを払拭するためか、彼女はアセビに視線を向けて言葉を紡いだ。
「回復魔法が使えるってことは……あたしとキャラ被ってない?」
「安心したまえ。被ってないから」
「そうよね! あたしみたいに可愛くて性格良くてスタイル良くて回復魔法の達人で心の綺麗な女の子、他にいるわけないものね!」
「そうですね。そうであってほしいですね」
アセビは真面目に聞いているのかいないのか。サツキに分けてもらった肉を味わっていた。
回復魔法に関しては他の追随を許さないマーガレットだが、性格に関しては言わずもがなである。それを言うと怒るか泣くかすると予想できるため、アセビは黙っておくことにした。
「回復魔法も触らないと使えないんでしょ? なら完全にあたしの方が全てにおいて上回ってるわね! ぷぷぷのぷ! やっぱりあたしこそが最強無敵の天使系アイドルってことよね!」
「そういうところなんだよなぁ」
辛辣な言葉を吐き出すマーガレットだが、自分の知らない女の子にアセビを取られたくないだけなのだ。彼女がフクシアと衝突しかけた時の反応を見るに、本心から言っているわけではないだろう。そのことはアセビもわかっている。しかしもう少しましな言い方というものがあるだろとも思っていた。
サツキがマーガレットに微笑んだ。
「マーガレット」
「あっはい」
「私の言いたいことは、わかるな?」
「あっはい」
「フフフッならばよし」
サツキのプレッシャーに押され、マーガレットはこれ以上出会ったことのない少女に心無い言葉を吐くのを止めることにした。
顔も知らない少女の地図があるからこそ、霧の森の調査が順調なのだ。たとえ本心でないとしても、世話になっている相手への誹謗中傷を義理と人情を重んじるサツキが許すはずがない。
「なぁマーガレット。完璧な人間なんてこの世のどこにもいないんだ。オレたちだってそうだろ?」
アセビが仲間たちを見回すと、女子たちは頷いて見せた。アセビ一行は有名な冒険者となったが、メンバー全員に短所がないわけではない。
「オレは回復魔法も召喚魔法も使えねえし、剣の腕も素人に毛が生えたレベルだ」
アセビの言葉にサツキが物言いたげな表情を浮かべるが、口をつぐんでいる。
「オレにできないことはお前たちに任せる。だからお前たちにできないことはオレに任せてほしい」
「アセビ」
「うん」
「オレは今後もみんなで支え合っていけたらいいなって思ってるんだ」
アセビが照れくさそうに頭をかいて見せると、マーガレットは頬を赤くする。彼女は照れ隠しに、何度も背中を強く叩き始めた。
ぼっちは信頼している者に頼られると嬉しく感じてしまう生きものなのである。
「いってぇな! お前いてぇんだよマジで!」
「まっ! あたしたちに任せなさいっての!」
「ぼくもがんばるからね!」
「もっとお姉ちゃんに頼るといいぞ!」
町1番の問題児マーガレットは、満面の笑みを浮かべていた。彼女だけでなく、ルピナスとサツキも。
この問題児どもは、アセビと出会うまでは、ぼっちという名の孤独の道を爆進していた。
しかし、今は違う。仲間と出会い、絆を深め、互いに支え合うことで成長してきたのである。
そんな女子たちにとって、アセビは自分自身を変えるきっかけを作った恩人であると同時に、特別な存在でもあった。
ルピナスが控えめに手を挙げた。
「ぼく、これからもお世話になるかもだけど……」
「おう! いいってことよ!」
「私もまだまだ未熟なのでな。お前を頼ることが多々あるかもしれないが……」
「オレだってそうさ! 頼りにしてるぜお姉サマ!」
「アセビぃ、あたしぃ、今後もぉ、いっぱいぃ、甘えちゃうんだけどぉ、いいわよねぇ?」
「ダメだ」
「なんであたしだけいつもそうなのぉぉぉ!?」
居酒屋にマーガレットの絶叫が響き渡り、ルピナスとサツキは大声を上げて笑った。涙を流し、必死の形相で抗議する問題児を、アセビは適当になだめている。
「どうどう」
「どうどうじゃねえわよ! やっぱりあたしだけ扱いが違うわ! 差別よ! 訴えてやるんだから!」
「おお怖い怖い」
アセビは何だかんだ言って、マーガレットのことを大切に想っている。冗談を言える程度には。
アセビに構ってもらいたいマーガレットが不当な扱いを受けるお約束の流れは、ある意味おいしいイベントなのかもしれない。
アセビ一行の楽しい食事会は、夜遅くまで続いた。
「で?」
「あ?」
「あたしは回復魔法。ルピナスは召喚魔法。サツキは剣術が使えるでしょ?」
「あ、はい」
「あ、はいじゃないわよ。アセビさんができることって何よ? ん?」
「……マーガレット、酒もう1杯飲みたくないか?」
「あら〜! 飲みたいわね! 疲れたときはやっぱお酒さんが1番よね!」
「……アセビ……逃げたね」
「私たちをまとめられるのはアセビだけさ。司令塔としていつも頑張ってくれているよ。本人は気づいていないだろうがね」
サツキは最後に残った肉を1切れ口に入れ、アセビの背中を優しく叩いた。




