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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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覚醒!!最強パワーの問題児 3

「おい!? 大丈夫か!?」


 アセビが池に向かって飛び込もうとすると、それと同時に池に突撃してしまった勇姿たちが顔を出した。


「ひゃ〜! 冷たいよぅ!」

「ぷはっ! な、何よ!? 何が起こったの!?」


 リラは池に飛び込んだときの凄まじい衝撃で、意識を取り戻していた。彼女は乾ききった体に潤いを与えるため、顔をつけて水を飲み始めている。

 アセビは安堵し、ほっと胸を撫で下ろした。


「尊い犠牲は出たが……とりあえず安心したぜ」

「はぁはぁ……み、水もっと飲まなきゃ……って!?」

「やぁ、リラちゃんが元気になって良かった。心配したよ」


 先ほどまで真っ青だったリラが、みるみるうちに赤くなっていく。必死に池の水を飲んだ姿を見られ、羞恥心を刺激されてしまったのだ。

 リラは平静を装って池からゆっくりと上った。


「わざわざアタシを池に運んでくれたわけ? とりあえず、お礼を言っておくわ! フン!」


 リラは水分をしっかりと補給し、すっかりいつもの様子に戻っていた。不機嫌な表情で腕を組んでいるが、顔は赤い。感謝しているのだろう。


「最近暑いだろ? リラちゃんが倒れてないか気になったんだよね」

「ア、アタシのために来てくれたんだ? ふ〜ん、アンタ暇なのね。羨ましいわ」


 リラは素直に感謝の気持ちを口にできない自身のことを呪う。本当はしっかりとお礼を言いたいのだ。

 しかしアセビは嫌悪感を見せず、ただ温かな目で見つめていた。リラの胸に激しい罪悪感が広がる。


「うぅ……あら?」


 リラの目に見知らぬ少女が目に入る。ルピナスだ。互いの視線が交差する。人見知りするタイプがばったり出会ったしまった。


「ひゃっ!」

「ひっ!」


 ルピナスとリラは、同時に声を上げて後ずさった。彼女たちは互いに怯えた表情を浮かべている。救いを求めるようにアセビの手を握った。


「よしっ! じゃあ、そろそろ自己紹介タイムと行こうか! ふたりとも良い友だちになれるはずっていうかちょっと痛いんですけど」

「……」

「……」


 アセビの腕は人見知りコミュ障系女子ふたりに力強く握られている。骨が軋む音が聞こえ始めていた。

 ルピナスもリラも、もじもじとしながら視線を逸して縮こまっている。

 アセビがルピナスに視線を向けた。


「この子はリラちゃん! 地図をくれた女の子で、オレたちの仕事に協力してくれているあのちょっと痛いんだけど」

「……うん」

「この子はルピナス! 召喚士でおとなしいけど優しくてあのちょっと痛いんだけど」

「……ふ〜ん」

「なんでオレの回りにいる女の子は握力ゴリラ系女子が多いの」


 ルピナスとリラはアセビの手を離し、互いに同時に1歩踏み出して近づく。ふたりは恐る恐る視線を合わせると、どちらかともなく手を差し出して握りあった。


「ぼくはルピナス・ルミエール。よろしくです」

「アタシはリラ・チグリジアよ。よろしく」


 ルピナスとリラは、ぎこちない笑みを浮かべる。彼女たちは、短期間で相手のことを人見知りするタイプと判断していた。つまり、自分と同じ人種である、と。

 ならばちょっと歩み寄れば、すぐに仲良くなれるとわかったのだ。

 握手をするコミュ障たちを見て、アセビが嬉しそうにうんうんと頷いた。


「よし、これでふたりとも友だちだな!」

「よろしく頼むわよ……それはそうと、アタシずぶ濡れになっちゃってるわね。池に突っ込まれちゃったみたいだけれど……」

「あぁ、君を運ぶのに力を借りたからね」

「触覚ちゃんがリラを運んでくれたの」

「ひっ!」


 リラの視線の先に体を上下に動かす触覚が映る。スピードを上げすぎたせいで池に突撃してしまったが、何故か誇らしげな表情を浮かべていた。


「キャタピラー……よね?」

「うん」

「噛みつかない……?」


 怯えるリラを見て、ルピナスは触覚が危害を加えないことを証明するために、しゃがんで背中を撫でた。


「芋虫さんたちはみんなおとなしくて優しいの。人間とは違って」

「そ、そうなの……?」


 ルピナスを見習い、リラも恐る恐る触覚の背中を撫でる。すべすべした肌触りは、恐怖心を吹き飛ばした。

 触覚は嬉しそうに、リラの手に自身の体を擦り付けている。


「はは! リラちゃん、触覚に懐かれたみたいだな!」

「良かったんだなぁ」

「この子触覚って言うのね。アナタもよろしく」

「そういえばリラちゃん。さっき倒れてたけど、どうしてまたあんなところで?」


 アセビの問いかけ。リラは気まずそうにしている。

 しかしこのまま黙っていても仕方がないため、恥も外聞も捨てることにしたらしい。リラは口を開いた。


「最近暑いでしょ? 外に出るのも嫌になってて。でも瓶の中の水無くなっちゃって……」

「面倒くさくてお家に引きこもってたけど、水がなくなって仕方なく外に出たら、池に到着する前に力尽きたってこと?」

「まー、そんなところかしら……」


 シンプルに言うと、ニートしてたら行き倒れましたということである。

 リラは腰に手を当て、胸を貼ってごまかすことしかできなかった。


「そ、そうだったのか……」

「そ、そうよ! それで気づいたら、アンタたちに助けられていたってところよ!」

「そっか。助かって良かったね」

「その……ありがと……」


 リラは視線を逸して感謝の気持ちを口にする。彼女は先ほど言えなかった言葉を言えて、心のなかでガッツポーズをしていた。

 微笑ましいリラの姿を見ながら、アセビは脳裏に過ぎった最悪なシナリオを思い浮かべる。


「今回は何とかなったけどさ。リラちゃんがまたニートして倒れたら大変だよな。どうすっかなぁ」

「ちょ、ちょっと! アタシのことニートって言うのやめなさいよ!!」

「ニートするのも命がけだもんね」

「アナタも可愛い顔して結構ひどいこと言うのね……」


 アセビたちにリラを煽る気持ちは一切ない。ただ心配しているだけなのだ。


「リラちゃん、お家入っていい? 水を入れるための瓶があるんだろ? 取ってくるよ。それに水をたっぷり入れておこうぜ」

「い、いいわよ! 余計なお世話だっての!」

「リラがちゃんとニートできるようにしなきゃね。協力するよぅ」

「も、もうニートでいいわよ……じゃあアタシの家に行きましょうか……」


 リラの胸に温かな気持ちが広がる。ルピナスの言葉は悪意があるように聞こえるが、そこに攻撃するような感情が含まれていないと、わかっているからだ。

 アセビのあとに続こうとするリラを見て、彼は手でその動きを止めた。


「リラちゃんはここにいてもらえるかな? さっきまで倒れてたし、あまり動き回らない方がいいと思うんだよね。君の家はどこにあるかわかってるから、案内してもらわなくても大丈夫さ」

「それがいいよ。池のお水、どんどん飲んでね」

「もう十分飲んだわよ……お腹タプタプよ……」

「じゃ、行ってくるわ。動かないでね」

「少し待っててね。ニートしようね」


 アセビとルピナスはそれだけ言うと、リラに背中を向けて目的地の小屋へ向かっていった。ふたりは顔を見合わせながら、遠ざかっていく。恐らくリラのことについて語り合っているのだろう。表情を見るに、悪口を言っているようにはみえない。

 リラは頬を僅かに赤くし、口を開いた。


「アセビ……ルピナス……ありがと……」


 リラは自然に再度感謝の気持ちを口にする。正面から言えない自分に嫌気がさすこともあるが、今はそれでもいいと思っていた。いつかきっと素直に言える日が来ると信じているからだ。

 しかしそれは限りなく願望に近いものだった。


「ねぇねぇむらさきちゃん」

「ひっ!? だ、だれ!?」


 アセビとルピナスへの思考は、謎の高い声によってかき消された。

 リラは驚きつつも声の出所は足元からだと気づく。そちらに目を向けると、触覚がいた。彼女は興味津々と言わんばかりに、リラを見上げている。


「今の声はまさかこの子……ってキャタピラーが喋れるわけないわよね……」

「ちょっとだけならしゃべれるよ」

「うそっ!?」


 リラが驚きその場で飛び上がった。リアクションが面白かったのか、触覚が楽しそうに体をゆらゆらと揺らしている。

 リラは顔を赤くし、ごまかすように咳払いをした。


「おっほん! アナタ触覚だっけ!?」

「むらさきちゃん、さっきしんでたけど、いきかえってよかったね」

「い、生きてたわよ……ギリギリで……」

「しぬぐらいなら、ニートになったほうがいいよ。でもおにいちゃんをあんまりしんぱいさせないでね」


 触覚はルピナス同様、素直に思ったことを口にするタイプのようだ。リラは少々苦手と思いつつも、裏表のないその性格を気に入りつつもあった。

 ぼっちはわかりやすいタイプを好むのである。

 リラはその場にしゃがみこむと、ルピナスのように触覚の背中を撫で始めた。


「だーかーらー、ニートじゃないっての!」

「ニートでもいいんだよ。そうそう、あたちがしゃべれること、ルピナスちゃんにはないしょにしてね」

「なんでよ? まー、いいけれど……さっきはアナタが背中に乗せてくれたのよね? 一応感謝しとくわ」


 触覚は気持ちよさそうにリラの手に自身の体を擦り付け、口を開く。


「ねぇねぇむらさきちゃん。おにいちゃんのことすきなんでしょ?」

「そんなんじゃねえよ」


 リラは顔を赤くして手を払いながら、そっけなく答えた。

 アセビは同じ年頃の、心優しいお人好しの田舎の青年だ。孤独の中でしか生きられないぼっちには、劇薬と同じである。

 触覚は首を捻りながら体を丸めた。


「ふ〜ん。まあいいや」

「な、なによ……」

「おにいちゃん、たぶんすきだよ」

「えっ!? ほ、本当に!? どういうところが!?」

「あたちのこと」


 リラはその場でずっこけた。


「おーい! 瓶持って来たぜ!」

「あっ、おにいちゃんたちもどってきたね。あたちしずかにしておくね」


 触覚は口を閉じると、アセビの持ってきた瓶を背中に乗せて池に近づいた。


「どうするんだ?」


 触覚は瓶を乱暴に池に落とした。糸を吐いてそれに巻きつけている。瓶の中身が水でいっぱいになるまで、触覚はじっと池を見つめていた。


「これで簡単に引き上げられるな。池に入らなくても安心だぜ」

「ふ〜ん。キャタピラーって器用なのね」

「芋虫たちって力もあるし結構優秀なんだぜ」


 アセビたちの賛美の言葉に気を良くし、触覚は巻き付けた瓶を池から勢いよく引き上げた。中身は冷たく綺麗な水で満たされている。これならリラもニート生活を満喫できるだろう。

 触覚は瓶を背中に乗せ、仕事は終わったと言わんばかりにアセビを見上げる。


「サンキュー、触覚! お前芋虫たちと比べると体は小さいけど、パワフルだよな! よし、じゃあリラちゃんのお家に運ぼうか!」

「いやいや、そこまで面倒見てもらう気はないわ! あたしが運ぶから!」

「でもリラ、この瓶重たそうだけど運べる? 無理じゃない?」


 リラの細い腕では、とてもじゃないが運ぶことはできないだろう。彼女はルピナスの質問に沈黙で返す。

 アセビが手をぴしゃりと叩いた。


「ではでは、みんなで行きましょうか!」

「触覚ちゃん、よろしくね」

「じゃあ勝手にすれば!?」


 アセビたちは全員でリラの小屋へと向かう。道中行われた何気ない世間話が、彼女には新鮮だった。

 外の世界は、リラの知らないことだらけなのである。

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