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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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その名はブラック・ブリッツ・ブレード 7

「それにしても面白い子だったな。気に入ったぜ」

「幸せになってほしいと思う」


 アセビとフジは不死王リッチの館に到着した。周囲は雑草が生い茂っている。屋根と壁にはツタが巻き付いていた。一見すると、廃墟にしか見えない。

 アセビとフジはリラについて語りながら、内部へと足を踏み入れた。中は薄暗く、空気はこもっており、物音も一切聞こえない。

 人間やモンスターの気配はないが、以前スライムの奇襲を受けたため、アセビとフジは警戒しながら少しずつ奥に進んだ。


「確かスライムは、廊下の奥の書庫に隠し扉があるとか言ってたような」

「本当かねぇ? まー、行ってみればわかるか。実際に宝があったら、スライムにジュースでもごちそうしなきゃな」

「でもあいつ死んだじゃん」

「そうだった。フクが燃やしたんだった」


 アセビとフジが書庫に入った。ここも空気がこもっている。棚に並ぶ多くの本は、埃で汚れていた。


「どこかにあるはずなんだが……」


 隠し扉を見つけるために、アセビとフジは手当たり次第に壁を押し始めた。


「あっ! これ!」

「当たりか?」


 1分とたたずに隠し扉が見つかった。まるで侵入者を拒むように、頑丈な鉄でできている。

 アセビとフジはハイタッチし、扉を開いて、奥へと進んだ。




 薄暗い通路を数分進むと、再び鉄の扉を発見した。スライムの言っていた宝物庫だろう。

 アセビは小さく息を吐き、ゆっくりと扉を開いた。


「これは……」

「スライムにジュースをごちそうするぜ。俺が地獄へ行ったらだがな」


 アセビとフジは思わず息をのんだ。隠し扉の先には多くの美術品が飾られていたからだ。

 剣。絵画。壺。その他多くの骨董品。広さや数ではクレマチスの美術館に劣るが、質はこちらが上だろう。フジの瞳が輝いているのかその証拠だ。


「不死王の奴、良い趣味してるぜ……!!」


 フジは壺や木彫りの像を眺めながら、興奮気味に感想を口にした。


 アセビには骨董品や美術品の価値はわからない。しかしフジの反応を見るに、ここに保存されているものは貴重な品々だということはわかった。


「不死王を倒したのはアセビ。お前たちだったな」

「まぁ……そうだな」

「ここの美術品は戦利品。全てお前たちのものということになるな」

「そうなるのか? まー、もらえるものは病気と借金以外は全部……あっ! この絵は!」


 アセビは独特な色使いの絵画を発見した。例の絵師の作品だろう。

 アセビはポケットから唐草模様の風呂敷を取り出して丁寧に包むと、小脇に抱えた。


「へへ、これ先生のお土産にするぜ! 喜んでくれると嬉しいな」

「ククッ! 爺さんショックで心臓麻痺にならないといいがな!」


 フジは、再度不死王リッチの美術品コレクションを見つめた。その目はどこか名残惜しそうに見える。

 アセビはフジの肩に手を置いた。


「お前も好きなの持っていけば?」

「し、しかしだな……ここのコレクションは……」

「お前とフクちゃんにはお世話になったからさ。少しお返しさせてくれや。一応ここのコレクションは、みんなの所有物でもあると思うけど、マーガレットたちは別に文句は言わないだろうさ」

「マジか……なら、これを持っていくぞ!」


 フジは木彫りの像を急いで懐にしまうと、アセビに向かって親指を立てた。


「それだけ?」

「これだけでも十分すぎる。これは明日美術館に寄贈するぜ。俺だけが持っていていいものじゃない……」

「お、おう? あれそんなに価値あったの……?」

「マジでやばい」

「マジか」


 アセビから見たらただのガラクタだった。だがどうやら大変価値のある代物らしい。

 フジはアセビに意味深に視線を送っている。


「……アセビ」

「へへっ、わかってるって! またいっしょに宝物庫に来ようぜ! 美術品見るの好きなんだろ?」

「ククッ」


 フジは自分の気持ちを見抜かれていることを知り、照れ臭そうに笑った。それを汲み取れないほど、アセビは空気の読めない男ではない。


「アセビよぉ。お前は本当に良い奴だぜ」

「お前には負けるさ」




 アセビとフジがクレマチスに戻ると、夕日が顔を覗かせていた。商店街は人通りが少なくなっている。店じまいの準備をする店主の姿もちらほら目に入った。1日が終わりを告げようとしている。

 アセビは唐草模様の包みを落とさないようにしっかりと小脇に抱え、フジといっしょにぶきやへ向かった。


「先生、また来たっスよ」

「おお、若いの待っておったぞ! お前さんに渡す剣なんじゃが……」

「あっ、その前にこれを」


 アセビは包みといっしょに、例の絵画を老人へと手渡す。


「これはなんじゃ……おおっ!?」


 老人は中身を確認すると、胸を押さえながら店の扉を閉めた。部外者が入ってこないようにするために。

 想像通りのリアクションが見られたからか、フジは肩を揺らしながら必死に笑いを堪えている。

 老人は驚愕の表情を浮かべ、アセビを指差した。


「お、お前さん!? これをどこで!? 間違いなく本物じゃぞ!?」

「先生へのお土産っス。一応言っておくけど、盗品じゃないっスからね」

「えっ!? わしにくれるのか!?」

「どうぞ」


 軽いノリで答えるアセビに驚きつつ、老人は震える手で絵画を握った。その瞳には光るものが浮かんでいる。   

 老人は丁寧に絵画を置くと、何度も満足気に頷いていた。


「若いの……ありがとよ。まさか生きている間にこの名画を見られるとは思わなんだ。無駄に長生きした意味があったというものよ……」

「ははっ喜んでいただけたのなら良かったっス!」

「爺さん、もう少しだけ長生きしろよ。1回見ただけじゃ満足できねえだろ?」


 老人は涙を乱暴に拭うと、絵画を壁にかけた。


「フジ。わしが死んだらこの作品を美術館に持っていってくれるかの」

「構わんが、その日は100年後ぐらいかねぇ」


 フジの冗談に老人は手を叩いて笑っている。彼はアセビに体を向けると、力強く両手を握った。


「質の良い安物の剣を用意してたんじゃが、気が変わった。若いの、お前さんにはわしの最高傑作を渡す」

「えっとぉ……気持ちはありがたいんスけどぉ……オレ資金面がちょっとアレなんスけどぉ……」

「金は1イーサンもいらん。お前さんにはあの絵画をもらったんじゃ。お返しぐらいさせてもらうぞ」


 老人は最高傑作を取りに店の奥へ入ってしまった。

 アセビは頭をかいて、壁にかけられた絵画をじっと見つめる。


「なんか剣目当てでお土産持ってきた感じになっちゃったなぁ。その気はなかったんだけど」

「ククッ、だとしてもだ。爺さんが喜んだんだ。それでいいじゃねえか」


 アセビは気まずそうにしているが、フジは壁にもたれかかってニヤニヤと笑っている。

 老人が店の奥から出てきた。その両手には剣が乗せられている。


「若いの、待たせたな! 受けとるのじゃ! これがわしの最高傑作じゃ!」


 老人は古めかしい雰囲気の鞘に収まった剣を、アセビに押し付けた。


「こ、これは……!!」


 以前アセビが使っていた銅の剣より大きく、それでいて非常に軽い。グリップは墨で塗られたと錯覚するほど黒く、不思議なほど手に馴染む。


「ではでは中身を拝見……」


 アセビは震える手で鞘から剣を抜くと、思わず息を飲んだ。グリップだけではなく、剣身までも墨のように黒かったからだ。

 じっと見つめていると、吸い込まれそうな感覚に陥ってしまう。アセビは首を振って正気を保つと同時に、確信した。

 この剣は間違いなく、名剣であると。


「先生……これすごいっスね」


 アセビは老人の最高傑作に圧倒されていた。気の利いたことを言えるはずもない。これまで見たことも触ったこともない名剣に出会えたのだから。

 ナイフ使いのフジは剣を使わないが、興味を持ったらしく、黒い剣の先端に向かって手を伸ばした。

 老人が口を開く。


「フジ、そこには触らぬ方がいいぞ。この剣はブラックウルフの牙で作ったものじゃからな」

「マジかよ……」

「フジ、知ってるのか?」

「知ってるも何も超がつくほどの貴重品だ。少なくとも2度と市場には出回らないだろうな」

「マジっスか」


 ブラックウルフとは、50年以上前に絶滅したモンスターのことだ。鋭い牙が生え、漆黒の体毛を持つ狼に似た姿をしていた。穏やかな性格なのだが、害獣と勘違いされ多くの冒険者に狩られた結果、絶滅してしまった悲劇のモンスターである。


「マジにあのブラックウルフかよ。爺さんすごいの隠し持っていやがったな……」

「若いころは鍛冶屋をしてたんじゃ。その時にある貴族様に儀式用の剣を作ったんじゃが、えらく気に入ってくださってのぉ」

「報酬とは別に、ボーナスでブラックウルフの牙をもらったって感じか?」

「その通りじゃ」


 老人は頷き、誇らしげに胸を張っている。


「わしには必要ないものじゃ。持っていくがよい」

「ではお言葉に甘えて……やったぜ!」


 アセビは恐る恐る剣に目を落とす。これまで使っていた安物とは格が違う。早速使ってみたいという衝動を押さえるため、何度も深呼吸をした。

 老人はアセビの反応を見て満足したようだ。フジに視線を移すと、懐からナイフを取り出して手渡した。


「ほれ、お前さんにもプレゼントじゃ」

「なんだ? 俺にも何かくれるのかよ?」

「それもブラックウルフの素材で作ったものじゃ」

「なんだと!? あんたどんだけ貴重品隠し持ってやがったんだよ!?」

「ほほ。そう驚くな。無駄に長生きしてると色々あるんじゃよ。ちなみにブラックウルフの素材で作った武器はそれで最後じゃ」


 フジは珍しく目を大きく見開き驚いている。鞘を外して握ったナイフを確認した。アセビに託された剣を、そのまま小さくしたようなデザインだ。武器の性質上、長さでは劣るが、切れ味は同等だろう。

 フジは老人に頭を下げた。


「……もらっとくぜ。爺さん、ありがとよ」

「老い先短いジジイが持ってても仕方がないしの。若者が使うべきなんじゃ」


 アセビとフジはとんでもない掘り出し物をもらうことになった。他者を思いやる気持ちは、巡り巡って返ってくるものなのだろう。

 アセビは老人に心から感謝し、剣に目を落とした。


「貴重な素材で作られた剣なんだよな。オレ、この剣に名前をつけようかなって思うんだ」

「ほう、いいじゃないか」


 サツキの愛用している刀は、ヤグルマソウ、オトギリソウと名付けられている。彼女を見習い、アセビも武器に名前をつけたくなったのだ。


「カッコいい名前がいいんだけど」

「どれどれ」


 フジはアセビの剣をじっと見つめる。それはまさに黒い塊。もうこの世には存在しない、ブラックウルフの魂が込めらているように思えた。

 フジは腕を組んで口を開く。


「うん。B3(ビースリー)っていうのはどうだ?」

「ビースリー? その心は?」

「ブラックウルフに噛まれると、電撃のような鋭い痛みに襲われるらしい。絶滅したモンスターだから、今となってはわからんが」

「うんうん」

「その剣は黒く、そして電撃を放つ剣と言ってもいいだろう。ブラック・ブリッツ・ブレード……そいつを省略してB3というわけだ」

「おぉ!! いいねぇ!」


 どんな少年でも必ず目覚める時期が訪れる。アセビはその忘れていた感覚を思い出していた。少年時代の熱い想いは、誰も止めることはできない。

 アセビは言葉の響きだけでなく、シンプルに覚えやすい名前も気に入ったらしく、指を鳴らした。


「サンキュー、フジ! その名前採用します! この剣はB3! 最強の剣だ!」

「ククッ、気に入ってもらえたようで」


 フジは瞳を輝かせるアセビを見て、満足気に髪をかきあげた。数秒で思いついた名前だったのだが、本人が納得しているのなら、それでいいのだ。

 老人がアセビとフジを見上げた。


「ほほ。忘れ物があるぞい」

「ん?」

「お前さんたちに渡した鞘は予備のものじゃ。実は専用のがあるんじゃよ」


 老人は店の奥から剣とナイフの鞘をアセビとフジに差し出した。

 剣の色と合わせて黒い。ブラックウルフの皮と体毛を加工して作られたものだった。


「おぉ、わざわざ鞘まで! あざーっス!」

「爺さん気前良すぎだろ」

「ちなみにじゃが、剣とナイフの名前はわしがすでにつけておいたぞ。鞘に彫ってあるから確認するのじゃ」

「えっ、そうなんスか?」

「ほう。では確認といこうじゃねえか」


 アセビとフジは剣の鞘に目を向ける。ふたりは期待を込めて、彫られている文字をゆっくりと口にした。


「グータラ……」

「ソード……」

「グータラソード……」


 嫌な名前である。

 アセビは老人に真意を訪ねることにした。


「先生……? この名前はその……どういう意図でつけた感じなんスかね……?」

「ぐうたらやってるボンクラでも使える最強の剣ということじゃ! ガハハハッ! 気に入ったかの?」


 気に入るわけがない。

 老人の壊滅的なネーミングセンスに、アセビは絶句する。しかしすぐに気持ちを切り替えた。気に入らなければ、勝手に改名すればいいだけと思ったのである。


「……申し訳ないスけど名前変えてもいいスかね」

「しかしじゃのぉ。もう鞘に名前彫ってるからのぉ。どうせ使うなら専用の鞘がいいじゃろ? この鞘も良いものなんじゃぞ?」


 アセビが手に入れた黒い剣は文句なしの名剣だ。相応しい鞘が必要だろう。


「ほれ、鞘をよく触ってみ?」

「おぉ。サラサラでいいっスね!」

「どうじゃ? この鞘がいいじゃろ?」


 頑丈なだけでなく肌触りが良かった。理想的な鞘である。グータラソードと彫られていなければだが。

 例え名前が気に入らなかったとしても、この鞘を手放すことはできまい。最高の剣には、最高の鞘が必要なのだから。


「まぁ……そうスね……グータラソード……はい……」

「大切なのは名前よりも、使い手のお主の腕と心なのじゃよ! ほっほっほ!」


 名前のせいだろう。

 アセビはすっかりテンションが下がっている。うつむきながらぶつぶつと何か呟いている。

 フジは話題を切り替えるため、自身のナイフと鞘に目を落とした。


「さぁて! 俺のナイフにも名前があるんだろ? ナマケモノナイフか?」

「すまんのぉ。なかなか良い名前が思い付かなかったんじゃよ」


 アセビとフジはナイフの鞘に目を向ける。期待せずに彫られている名前をゆっくりと口にした。


「ブラック……」

「ファング……」

「ブラックファング……」


 直訳すると黒い牙。

 フジはシンプルな名前を気に入ったらしい。大事そうに懐に入れた。


「爺さん、このナイフいい名前じゃねえか」

「でも、つまらないじゃろ?」

「シンプルなのがいいんだぜ」


 アセビは再度鞘を見つめる。グータラソードという文字が彫られていた。

 何度見ても。何度見ても。グータラソードという文字が彫られていた。

 アセビが首を傾げながら口を開く。


「あのぉ……オレの剣も、シンプルにブラックソードとかでよかったんじゃないスかね?」

「でもそれじゃ面白くないじゃろ?」

「面白さよりも、かっこよさやシンプルさが大事だと思うんスけど」


 アセビはグータラソードを、フジはブラックファングを手に入れた。どちらも最高の武器だ。その事実は決して変わらない。

 例えそれが、気に入らない名前だったとしても。

 アセビは店に並べられている剣を指差した。


「この店に飾られてる剣ほかにもあるっスけど、アレにも名前あるんスか?」

「ないぞ。まー、買った者が好きに名付けるじゃろ」

「俺もそのシステムがよかったんスけど

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