いもむし 3
テントの中は肌寒い。
しかしそんなことはお構い無しと言わんばかりに、幸せそうな顔で眠っている美少女がいた。マーガレットである。
「すぅ……すぅ……」
マーガレットのモチのように柔らかい頬に、何かが触れた。ひんやりとした触感。マーガレットの脳が覚醒していく。
「う~ん……もう少し寝させてほしいのだけれど……」
マーガレットがまぶたをゆっくり開ける。目の前に大きな大きな芋虫がいた。顔を覗き込み、起きたのかどうか確認している。
マーガレットの目玉が飛び出るほど見開かれる。
「きゃあああああああああああああ!!!」
「ちゃんと起きれたじゃねえか」
「いやあああああああああああああ!!!」」
「芋虫さん……グッジョブ……」
マーガレットがテントの中から勢いよく飛び出す。その表情は恐怖に歪み、今にも泣き出しそうである。
マーガレットはアセビに気づくと、そのまま勢いよく抱きつき、大粒の涙を流した。ショックで喋れなくなっているのか、口をパクパクさせて、テントを指差す。
「…………っ!!」
「あ? 何だって? 聞こえねえぞ」
「マーガレット、ちゃんと起きられて偉いね」
テントの中から、芋虫がもそもそと這い出てくる。彼女はゆっくりとアセビたちに近づくと、元気に触覚をくるくると回した。
「きゃあああ! アセビ、なんとかして! 大きな芋虫がぁぁぁぁ!!」
「マーガレット、安心しな。あの芋虫は仲間だ」
「ぼくと契約したモンスターだよ」
「契約した!? 芋虫と!? なんで!?」
「可愛いから」
「マーガレット、ちゃんと仲良くするんだぞ?」
「いやあぁぁぁぁぁぁ!!」
3人と1匹は朝食を食べ終わり、それぞれ自由に活動していた。
アセビは食後のコーヒーを飲み、ルピナスは芋虫といっしょに寝転がり、マーガレットは離れた場所から彼女たちを観察していた。完全に怯えきっている。
アセビは苦笑しながらマーガレットに声をかけた。
「芋虫怖くないって。お前虫好きだろ?」
「嫌いじゃないけどぉ……大きすぎない? ちょっと寝起きにあれはトラウマになったかもなのだけれど」
「安心してくれよ。芋虫は悪い奴じゃないよ」
「その芋虫に対する信頼は何なの。やっぱダンゴムシ好きだから芋虫も好きなの」
「お前そのネタいい加減やめてくれない」
アセビとマーガレットが芋虫に対して語っているとは知らず、ルピナスは契約したモンスターといっしょにのんびりしていた。
何も知らないということは幸せなことなのだ。
「芋虫さん、今日はポカポカして気持ちいいね」
芋虫はこの可愛い契約者に、自分の実力をなんとかアピールしたいと思い始めていた。期待に応えたいのかもしれない。
芋虫がじっと視線を送り、自身の背中を見つめる。彼女の行動に首を傾げつつ、ルピナスは手のひらをぴしゃりと叩いた。
「……もしかして……背中に乗ってって言ってるの?」
ルピナスの言葉に芋虫が大きく頷く。恐る恐る背中に乗ると、彼女を乗せたまま猛スピードで動き出した。
芋虫はそのまま周囲を走り回る。ルピナスに自分のスピードをこれでもかとアピールしていた。
「ひゃあ!」
ルピナスと芋虫の様子を見て、急いでアセビとマーガレットが駆けつける。芋虫はふたりが側にきたのを確認すると、動きを止めた。その顔はどこか得意げである。
ルピナスは芋虫の背中から降りると、頭を撫でた。
「芋虫さんは足が早いね」
「お前すごいな! 人間を乗せて運べるのか!」
「芋虫さんは力持ちなんだね」
「へぇ……」
マーガレットは、芋虫の背中にそっと腰かけようとしていた。好奇心が恐怖心を上回ったのだ。
「よっこらぜっ!?」
マーガレットは尻餅をついてしまった。背中に乗ろうとしたその瞬間、芋虫が素早く転がって避けたからである。
「いたたた! ねえ? 芋虫くん、今あたしのこと避けたわよね? みんな見てたわよね?」
アセビが視線を逸らす。
「まあほら、ルピナスは体が小さいからな。お前じゃ体重オーバーだったのさ」
「……ふ~ん」
芋虫がアセビに近づき視線を送る。背中に乗れと言っているのだろう。
アセビがゆっくり乗ると、芋虫は周囲を猛スピードで走り回る。不安に思っていたが、風が心地よく、乗り心地も悪くなかった。
しばらくすると、芋虫はマーガレットとルピナスの前まで戻り、再び得意げな顔をした。
「芋虫さん早い!」
「結構快適だったぜ。まさかオレを運べるほどパワーがあるとはな。芋虫と契約して正解だったな!」
「うん!」
目を輝かせて芋虫を見つめるルピナス。彼女とは対称的に、マーガレットは無表情だった。
「オレを運べるぐらいだ。ちょっとした荷物運びとかもできるかもしれないな!」
「運搬系のお仕事もできるね……」
「ねぇ? アセビはあたしより体重軽いの? それとも芋虫くんがあたしのこと嫌いなの?」
「嫌ってないだろ……多分」
「……芋虫さん……どうなの?」
ルピナスの質問には反応せず、芋虫は地面に潜り、そのまま戻ってこなかった。
沈黙。気まずい空気が周囲を支配する。
アセビが引きつった笑みを浮かべながら口を開く。
「よ、よし! 今日も仕事がんばりますか!」
「うん……がんばろう……」
「あたしぃ……ちょっとぉ……疲れたぁ……休むぅ……」
「お前今日はまだ何もしてねえだろ」
「とにかく疲れたの! 何もしたくないの!」
「えぇ……」
マーガレットは芋虫に避けられ、いじけてしまったらしい。テントの中に引きこもってしまった。今日1日は出てこないだろう。
アセビとルピナスは、テントの前で立ち尽くすことしかできないのであった。
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