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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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その名はブラック・ブリッツ・ブレード 4

 女子たちが服屋で買い物をしていたころ、アセビとフジは美術館で芸術品を眺めていた。


「たまにはこういうのもいいだろ?」

「あぁ。心が豊かになる気がするぜ」

「準備に必要っていう理由もあるが、美術館巡りは俺の趣味なんだ。1度お前とここに来たかった」

「良い趣味してるじゃないか」


 フジの言った準備のための場所とは、この美術館のことだった。

 アセビは美術品への知識はなかったが、それでも作品に込められた思いや作者の情熱を感じることはできるらしく、興味津々に見つめている。そんな彼を見て、フジは連れてきてよかったと密かに思うのだった。


「この絵は……」


 様々な絵画を見てきたアセビが、ある作品の前で足を止めた。闇夜に浮かぶ月が大きく描かれている。独特の色使いはどこか哀愁を漂わせていた。


「他の作品もいいって思ったけど、オレはこれが1番かなぁ」

「ほぅ」

「ただの風景を描いた絵なのに。何だろう、優しいけどちょっと寂しい感じ? それがすごく気に入ったっていうか……うまく言えないんだけど……いいなって」


 アセビは思ったことをそのまま口にするが、上手く言えずにもどかしそうな表情を浮かべている。

 しかしフジにはその思いが十分伝わっていた。趣味の共有ができたこと、作品に込められた想いをアセビが感じ取ってくれたことに嬉しさを隠せず、口元を緩めている。


「生前は評価されなかった画家の作品でな。死後はその技術が認められて作品の価値が上がったんだ」

「そうなのか、良い絵なのに。この作品には作者の悲しみが込められているのかなぁ」


 アセビはしばらくじっと絵画を見ていたが、他の作品も見たいと思い、進むことにした。

 建物は3階建てになっている。上のフロアには、まだ様々な作品が展示されているはずだ。

 フジが待ったと言わんばかりにアセビの肩を掴む。


「準備はできた。ここまでにしようぜ。お前なら爺さんに気に入られるはずだ」

「あれ? まだ上あるよな? 見に行かないの?」

「お前の目的が優先だ。それに……お楽しみはとっておくものだろ?」

「おう!」


 フジはさりげなく、またアセビと美術館に行く約束を交わした。抜け目のない男である。




「フクちゃんとは美術館には来たことないのか?」

「あるぞ。あいつは終始退屈そうだった」

「ははっ、じゃあ次行くときもふたりでだな」

「ああ、それがいい」


 アセビとフジは美術館を出ると、急いで商店街へと向かった。通いなれた道だ。しかしアセビは、安いと評判の武器屋を見た覚えはない。


「本当に武器屋あるんだよな?」


 アセビが不安に思っていると、その気持ちを察したフジは安心させるように背中を数回叩き、路地裏へと案内した。薄暗く、人の気配がない。きらびやかな雰囲気の表通りとは全然違う。

 アセビとフジがしばらく進むと「ぶきや」と書かれた看板が目に映った。目的地へと到着したらしい。


「お邪魔しまーす!」

「爺さん、遊びに来たぜ」


 アセビとフジは武器屋へと足を踏み入れた。店内は蝋燭で照らされた光だけが頼りで路地裏同様薄暗い。空気がこもっており、どこか息苦しさを感じさせる。一般客受けを一切考えていない。知る人ぞ知る店というポジションなのだろう。

 店内の壁には剣、斧、槍だけでなく、弓も並べられていた。店の雰囲気はともかく、商品の品揃えは問題なさそうである。


「いいねぇ。あとは値段だが……安かったらいいなぁ」

「そこは心配しなくていいさ。俺が保証する」

「オレお前みたいに金持ちじゃないからなぁ……ん?」


 アセビは店内の壁に、絵画がかけられているのを発見した。畑で作物を収穫している人々が、独特の色使いで描かれている。それは死後評価された、例の作者の作品だった。


「このどこか哀愁を感じさせる絵は……もしかしてあの作者の作品か? グッときたぜ」

「ククッ、正解だ」

「ほう、これの良さがわかると見える」


 店内の奥から腰の曲がった白髪の老人がゆっくりとアセビたちに近づいてきた。店主で間違いないだろう。

 アセビは頭をかきながら苦笑いした。


「いやぁ~自分芸術品に関してはにわかなんで、良さとかはちょっとわからないかなって……」

「何かを感じられたら十分じゃよ。ほれ、お前さんに頼まれてたやつじゃ」

「悪いな爺さん」


 老人がフジにナイフを投げて渡す。彼はこの店の常連であり、武器の手入れを定期的に依頼しているのだ。


「あんたが研ぐと切れ味が良くなるからな。次もよろしく頼むぜ」

「気が向いたらの」

「それはそうと。爺さん、俺の友人に武器を売ってほしいんだが」

「この若者か」


 フジの言葉を聞き、老人はアセビをじっと見つめ続けた。


「フ、フジ……?」

「気にするな。この爺さん始めて来た客にはいつもこれやるんだよ。気に入らないと武器売ってくれないんだ」

「げっ!? そうなのか!?」

「まぁアセビなら大丈夫さ」


 この店はこの老人がルールなのだ。気に入られないと相手にされない。

 老人に気に入られなかった客が、無理矢理商品を売るよう脅迫してくることもある。しかしそうなると、どこからともなく腕の立つ常連たちが現れ、あっという間に追い払ってしまうのだ。彼らにとってこの店は聖域であり、老人は変人だがどこか憎めない面白い爺さんとして親しまれているのである。

 フジが不安そうにしているアセビに向かって肩をすくめて笑ってみせた。


「最低限の一般常識があるか、美術品への理解があれば問題ないさ」

「そ、それなら良かった……」


 老人がアセビから目を逸らす。何事もかかったかのようにカウンターへと向かった。

 アセビたちは老人の後を追う。


「あのぉ……それで、武器なんスけどぉ……売っていただけるんスかね……?」

「ほっほっほ。あの美術品の良さをわかる若者を邪険にはせんよ。安心せい。お前さんに武器を売ってやろうではないか」

「爺さんありがとよ」

「うっス! 先生ありがとやんす!」


 アセビは老人に勢いよく頭を下げた。新しい武器が手に入る。その瞳は希望に満ちていた。


「この剣はどうだ? 値段も手頃だろ」

「他のはちょっとオレの資金じゃ届かないけど……やったぞ! これなら買える! しかもオレが前使ってた剣よりも質がいいな! 最高じゃんこの剣!」


 アセビは店の奥に立て掛けてある剣を握り、鏡の前で構えてみせた。以前使っていた銅の剣より軽いが、しばらく使い込めばすぐ手に馴染むだろう。

 アセビは少年のようにはしゃいでいる。

 フジはやれやれと肩をすくめるが、嬉しそうに小さく笑っていた。


「あっそれ……それは……売れないんじゃ」

「えっ」

「おいおい爺さん約束が違うだろ」


 老人は申し訳なさそうに両手を合わせ、アセビに向かって謝罪した。

 天国から地獄とはこのことである。

 老人は気まずそうな表情でアセビを見上げた。


「この剣はさっき買われてしまってのぉ。客には研ぎ直すからあとで取りに来るように伝えて1度帰ってもらったんじゃ」

「売り場から撤去するの忘れてたのか」

「あちゃー……じゃあ……しゃーないっスね」


 アセビは剣から手を離し、元の場所に戻した。

 老人のミスを咎めても何も手に入らない。フジは顔馴染みの爺さんにネチネチ言うのもナンセンスと考え、新たに武器を探すことにした。


「おっ」


 フジは埃被ったガラスケースに飾られたナイフを指差した。


「いっそ武器を新規開拓するのはどうだ? ナイフも悪くないぞ? どうだ?」

「自分、不器用ですから」


 アセビは首を横に振った。やはり使い慣れた剣がいいのだろう。

 老人は1度頷くと、アセビを指差した。


「わしも男じゃ! お前さんに必ず剣を用意する!」


 老人は胸を叩き、店内に並べてある剣を物色し始めた。アセビは慌てて口を開く。


「先生! 本当大丈夫なんで! それに言いにくいんスけど、オレ予算そこまでないんで……」

「あの絵画の良さがわかる若者が現れたんじゃ! わしはお前さんのことが気に入った! それに約束は必ず守れと婆さんにも言われておる!」


 老人はさらに言葉を続ける。


「お前さんに相応しい剣を準備しておくぞ! 金のことは心配しなくていい! あとでまた取りに来い!」


 老人はアセビに向かってそれだけ言うと、店の奥に入ってしまった。彼が気に入っている絵画の良さがわかる若者が現れたことが、よほど嬉しかったらしい。

 老人はアセビのために必死に剣を探している。とても遠慮できる空気ではない。

 アセビはフジに目を向けた。


「……どうしようか?」

「爺さんに甘えようぜ。1度出直そう」


 アセビとフジは店を出ることにした。




「夕方また来るとしだ。結構時間があるな」

「お前暇なんだろ? どこかで時間潰さないか?」


 アセビとフジは仲良く商店街を歩き、今後の行動について考えた。


「たまには食べ歩きでもするか?」

「う〜ん……」


 フジの提案に賛成したいところだが、アセビは無駄な出費ができない状態である。今さら女子たちに、報酬を平等にしようと言うわけにもいくまい。


「できればあまり金がかからないような場所がいい感じか? さっきの美術館みたいな?」

「そうそう! あそこなら安い入場料で……」


 アセビは先ほど行ったばかりの美術館のことを思い出した。

 その時である。頭の片隅に残された微かな記憶が脳裏を過った。


「宝物庫……」

「ん? 何だって?」

「宝探しに行かないか? もしかしたら結構な価値のある美術品もあるかもしれない」

「宝探し……」


 突然のアセビの提案。フジは強い興味を示しているのか、熱い眼差しを送っている。普段クールな彼がなかなか見せない顔だ。フクシアが見たら目を丸くしていただろう。

 アセビはフジが提案に賛成したものと判断し、町の外を指差した。


「霧の森に館があるんだ。行こうぜ」

「別に構わんが、そこに何かあるのか?」

「以前フクちゃんが倒したスライムがいただろ? あいつが面白いことを言っててさ」


 スライムは、アセビ一行と戦闘を行った最強四天王のメンバーである。再生能力を持つ強敵だった。フクシアに燃やされて灰も残らなかったが。

 スライムはアセビ一向に向かって、館の書斎に宝物庫が隠されていると言った。確認はしていないが、嘘をついているようには見えなかったため、事実だろう。

 アセビはもしかしたら書斎の宝物庫に、美術館で見た絵画のような作品が眠っているのではと思ったのだ。


「……ってわけなんだけど。行ってみたくないか?」

「ほう、面白いじゃねえか」

「だろ? まー、不死王の趣味だから、何が保管されてるかわからないんだけどな。ガラクタやゴミクズしかなかったりして」

「どっちにしろ暇なんだ。行こうぜ」


 アセビとフジはゴブリンの巣のショートカットを使って、急いで霧の森へと向かった。

 相変わらず霧が深い。周囲は不気味なほど静まり返っている。

 しかしアセビとフジの気持ちは明るい。不死王リッチの館へ宝探しに行くからだ。ふたりの精神状態は、夢見る少年時代のそれと同じだった。


「さて、行きますかねぇ!」

「ククッ!」

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