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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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その名はブラック・ブリッツ・ブレード 2

 女子たちはクレマチスで1番の品揃えと評判の服屋を訪れていた。この店は高級ブランドの服やアクセサリーを多数取り揃えている。欲しいものは何でも手に入ると評判なのだ。

 当然多くの女性客が集まる。人混みが苦手なルピナスにとっては、地獄に等しい店なのであった。


「これ買うわ!」

「どきなさいよ!」

「引っ張らないで!」

「ひゃっ……」


 高級ブランド服に群がる女性客たち。まるで砂糖に集まる蟻である。

 ルピナスは青ざめ、震え上がっていた。ストレスのせいか、呼吸が荒くなっている。

 ルピナスは流行りものを身につけたら、コミュ障やマイナス思考が改善されるかもしれないと思っていた。しかしそれは都合の良い思い込みだ。自分自身が変わらなければ着飾っても意味はないのである。

 ルピナスはブランド服売り場は危険地帯と判断し、サツキの向かった和服売場へと急いだ。


「サツキ!」

「ルピナス? どうしたそんな顔して」

「怖かったよぅ!」


 ルピナスはサツキの姿を確認すると、必死の形相でしがみついた。

 和服売場は比較的静かで落ち着いた雰囲気である。ルピナスにとって、ここがオアシスなのは間違いない。

 サツキはふっと小さく微笑みながら、唐草模様のハンカチを見せた。


「服を買うのもいいがね。こういった物も、なかなか趣があると思うんだ」

「うん。服以外のものにする。何を買おうかなぁ」


 ルピナスは、自分だけでは満足できる買い物はできないと判断したらしい。サツキの力を借りることにしたようだ。手を握って頼れる姉貴分を見上げている。


「ねぇサツキ。ぼくのお買い物に付き合ってほしいの」

「承った。良い買い物をしよう」


 サツキの心強い言葉。ルピナスは期待と尊敬のこもった眼差しを向ける。


「じゃあ早速……」

「ん? あそこにいるのは……」


 商品を物色しようとしたルピナスとサツキの目に、赤いローブの人物が映った。フクシアだ。彼女は真剣な眼差しで両手に握った服を見つめていた。


「フクシアはちょっとだけ怖いよぅ」

「そんなことはないさ」


 ここで出会ったのは何かの縁かもしれない。

 サツキはルピナスといっしょにそっと近づき、フクシアに向かって口を開いた。


「やぁ。フクシアも来ていたのか」

「サツキさん!? ルピナスちゃんも!?」


 フクシアは突然顔見知りに話しかけられ、かなり驚いていたが、すぐに落ち着き微笑んだ。


「こんにちは」

「フクシアもあそこから逃げてきたの……?」


 ルピナスは高級ブランド服に群がる女性陣を、恐る恐る指差す。

 フクシアは苦笑いして首を横に振った。


「正直ブランドの服って興味ないんですよ。それに大切なのは、誰が何を着るかじゃないかな?」

「おぉ……」

「高級ブランドの服よりも、こっちの服の方が私は好きかなぁ」


 ルピナス自身あまりブランドの服には関心がなく、流れに任せて流行りものを買うことに疑問を抱きつつあったが、確信した。自分は間違っていた、と。尊敬の眼差しをフクシアに向け、自身もそうありたいと誓うのだった。


「あれ~? フクチャンじゃない」

「こんにちは」


 先程から姿を見せなかったマーガレットが、背後からぬっと現れた。ルピナスたちを探していたらしく、合流できたことを喜んでいるように見える。


「全員集合ね! みんなで色々見て回るわよ!」


 女子全員で服屋に着たのだ。みんなで様々な商品を物色したいのだろう。当然フクシアもその中に含まれている。

 サツキはある疑問を抱いた。その答えを知るためにマーガレットに目を向ける。


「お前はブランド服売場にいると思ってたのだが、あの中にはいなかったな。どこに行ってたんだ?」

「えへへ! ちょっとね! それより、フクチャンそういうの着るんだ? 黒好きなの?」


 興味津々と言わんばかりに、マーガレットはフクシアの握っている黒のシャツを見つめた。彼女は赤いローブを身にまとっている。その下は黒を中心とした服装となっていた。

 フクシアは黒魔法の使い手だ。そればバレたら大変なことになってしまう。そのためフクシアは、炎魔法の使い手と思わせるために、赤いローブをまとっているのである。

 フクシアはマーガレットたちに対して、うまくごまかそうと考えた。


「あはは! こういうのもいいかなぁって! わたしの趣味じゃないですけどね!」

「ふ~ん」


 マーガレットは生返事を返し、じろじろとフクシアを訝しげに見つめた。嫌な予感がしたのか、離れようと後ずさるが、その行動は読まれている。

 マーガレットは風よりも早くフクシアに接近し、赤いローブを剥ぎ取ってしまった。


「ちょっ!? 何するんですか!」

「あら? てっきり裸だと思ったのに」


 フクシアは黒のシャツとハーフパンツを身に付けていた。突然赤いローブを剥ぎ取られたので、むっとした表情を浮かべている。

 マーガレットは両手を合わせて謝罪し、笑ってごまかした。


「あはは……ごめんなさい」

「それにしても裸って……それじゃただの変態じゃないですか……」

「もしアセビにやってって言われたら?」

「やるんじゃないかな」


 即答である。


「ただの変態じゃない……」


 何を当然のことをと言わんばかりのフクシア。マーガレットは恐怖に似た感情を覚える。

 得体の知れないもの、理解ができないものに出会ったとき、人は恐れを抱くものなのだ。

 マーガレットは話題を切り替えるため、女子たちの背中を押しながら戦場(ブランド服コーナー)へと向かった。まだ到着するまで距離はあるものの、ルピナスはすでにこの世の終わりのような顔をしている。


「怖いよぅ……あそこは化け物の集まりだよぅ……」

「フフフッそういえば、マーガレットの好きなミスアスターの新作が出たらしいぞ?」

「なら、行くしかないわよねぇ! 全員でッ! 今すぐッ!」


 怯えるルピナスの声は届いていない。マーガレットはブランド服コーナーを目前にして、気合いが入ったらしく、キリッとした表情を浮かべている。普段からこれぐらい気合いを入れて、仕事に励んでもらいたいものである。


「わたしは別に興味ないんですけど……」

「いいじゃないいいじゃない! 見るだけでもいいじゃない!」


 気乗りしないらしく、テンションが低いフクシア。そんな彼女をマーガレットはじろじろと興味津々に見つめていた。


「にしし!」


 マーガレットは下卑た笑みを浮かべると、フクシアに接近して体を触り始めた。


「ちょっ!? 何なんですか!?」

「女の子同士だからいいじゃない! 女の子同士だからいいじゃない!」


 これではただの酔っ払ったセクハラ親父である。何かしらのペナルティを与えなければならないだろう。

 しかし自由人のマーガレットを、法で裁くことはできない。実力行使をするため、サツキがヤグルマソウに手を伸ばす。マーガレットはフクシアからさっと離れた。


「うぅ……ひどい……泣きそうです……」

「ごめんなさい! でもアセビがやったとしたら?」

「想像したらちょっと興奮してきました」

「やるじゃない」


 フクシアは両頬を押さえ、恍惚の表情を浮かべているがマーガレットは青ざめている。流石の悪魔のような問題児も、本物のやべー奴には勝てないのだ。

 フクシアが妄想という名の自分だけの世界に入り込む前に、マーガレットは感じていたことを口にして、現実に引き戻すことにした。


「フクチャンスタイル良いわよね」


 フクシアは通常赤のローブをまとっている。そのせいで体つきはわからない。しかし今ならよくわかる。

 ぴったりとした黒のシャツは胸と体のラインをくっきりと見せ、ショートパンツから覗く足は細長い。

 フクシアは頬を僅かに赤くし、首を横に振った。


「そんなこと……」

「良いもの持ってるのに、ローブで隠れちゃってたから気づかなかったわ」


 マーガレットは嫌味や皮肉ではなく、純粋にフクシアの容姿を誉めている。嘘をついているときは非常にわかりやすい反応を見せるが、今はそれがない。本心で言っているのだ。


「ねえ? これいる?」


 マーガレットはフクシアから奪ったローブに目を落とし、首を傾げてみせた。


「せっかくスタイル良いのに、これ着てたら隠れちゃうわよね。もったいないわ!」

「それは……わたし……」

「これ捨てて、いっしょにおしゃれしましょ!」


 フクシアにとってこの赤いローブは、自身に与えた枷だ。これを身にまとっていると黒魔法を使ってはいけないと自覚することができる。

 フクシアはマーガレットに容姿を誉められたことは嬉しく思っているが、フジと地元の仲間たちの顔が脳裏を過る。彼らとの誓いは守らなければならない。

 フクシアは喜びとためらいの感情で胸がいっぱいになり、うつ向いてしまった。


「うむ……」


 サツキが顎に手を当てながら頷く。フクシアが体を晒したくないという理由で、ローブをまとっているのではないと判断したようだ。


「訳ありと見えるな。聞き流してもらっても構わないのだが、私も人には言えない秘密がある」

「サツキさんが?」

「変態なところ?」

「ルピナス、今は黙っていなさい」


 サツキはアセビに自身の特殊な価値観を告白し、受け入れられたことを思い出していた。想いの込められた言葉と抱きしめられたときの温もり。それらが救いとなり心の支えとなっている。それはこれからも変わらない。


「あなたにどんな秘密があっても親友でいたい。私のこの気持ちは変わらない」

「サツキさん……」


 サツキの真剣な眼差しは、フクシアの心の壁を少しずつ溶かし始めていた。

 遠回しな優しさを見せるフジとは違い、ストレートに向き合ってくれる。サツキの言葉はフクシアの胸を熱くさせた。


「わたし……実は……」


 サツキが手をかざした。


「無理に言わなくていい。ローブを捨てたくない理由を話したくなったら、その時にあなたのことを聞かせてもらえるかな?」

「……はい」

「いつかお互いに秘密を言い合える……そんな関係になれたらいいと思うよ」


 サツキが優しく微笑む。

 フクシアは嬉しさを隠しきれず、口元をむずむずとさせていた。

 

「……うん」


 マーガレットは奪ったローブをフクシアに返すことにした。心残りがありそうな表情だが、サツキの対応を見て、いっしょに待つと決めたようだ。


「フクチャンごめんなさい。このローブ返すわ!」

「こちらこそご期待に添えず……」

「えへへ、いいわ! それより戦場に行きましょ!」


 フクシアはローブを素早く身に付けると、どこか気まずそうな表情でマーガレットに続く。

 容姿を誉められたことは嬉しかったのは事実。

 しかしローブを捨てると、黒魔法を人前で使わないという誓いを破ってしまうかもしれないという不安があるのだ。


「わたしの本当の姿を見せたら……きっと……」

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