究極バトル!!三大スーパー問題児 16
「きゃあああ! 落ちちゃうぅぅぅ!!!」
「大丈夫だ! ちゃんとキャッチするからな!」
アセビは空中から勢いよく落ちてきたマーガレットを抱えた。腕に走る重たい衝撃。腕に走った痛みを顔に出さず、マーガレットをそっと地面に下ろした。
アセビは周囲を見回す。全員無事だった。誰ひとり欠けることなく生存できたのだ。そのことに心から安堵していた。
アセビは満面の笑みを浮かべながら、マーガレットの背中を何度も叩く。
「マーガレット、すごいジャンプ力だったな! お前マジで飛んだのかと思ったじゃねえか!」
「えへへ……でもまだちょっと足りなかったわね。落っこちそうになっちゃうなんて」
「ん? どういうことだ?」
「まぁ……長くなるから、おいおい話すわね!」
マーガレットはそれだけ言うと口を閉じた。ただただニコニコと笑っている。
そんなマーガレットを見て、ルピナスは小さく拍手を送った。
「ハーピーを倒せたのは、マーガレットのジャンプからの不意打ちのおかげだね。奇襲が得意な相手に同じ方法でやり返すなんてマーガレットらしいや」
「うむ、そうだな。だがマーガレットだけでなく、ルピナスの動きも良かったと思うぞ。お前の芋虫への指示があったからこそ、私はハーピーに近づくことができた」
「あはは……ありがとう」
勝利の余韻に浸るアセビ一行。
マーガレットはアセビに向かって笑顔を見せるが、急に眉間にシワを寄せて、突き飛ばした。
「アセビ! そういえばさっき、あたしの記憶がなくなったままだったら良かったって言ったわよね! マジでありえないんですけど!」
アセビは面倒くさそうに頭をかいている。
「ちょっと記憶にないっスね」
「はぁ!? もう知らない! 絶交よ!」
「うーっス」
アセビは欠伸をしながら適当に答えた。そのまま背中を向けて歩いていく。
マーガレットは耳元で何度も怒鳴ったが、全てスルーされてしまった。
アセビは後ろで手を組み、鼻歌を歌いながら、大股で冒険者ギルドに向かっている。マーガレットの記憶が戻り、無事ハーピーを倒せたと報告しに行こうとしているのだろう。
「ぶ〜!!!」
マーガレットは顔を赤くし、頬を膨らませている。
「マーガレット。お疲れさま」
サツキがマーガレットの頭を優しく撫で、慈愛に満ちた表情を向ける。妹を想う姉のそれだ。
しかしそれだけで全てを流せるほど、マーガレットの心は広くない。問題児は涙を流しながら、遠ざかっていくアセビを指差した。
「サツキ聞いてたでしょ!? あたしが記憶喪失のままが良かったって言ったのよ!? 絶対にアセビのこと許せないんだから! 何よあのダンゴムシ男! エッチダンゴムシ!!」
「フフフッ怒るな怒るな」
サツキが懐からハンカチを取りだし、マーガレットに手渡した。
「せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。さあ、早く涙を拭いて。私に笑顔を見せてほしいな」
「ぶ〜……」
マーガレットはハンカチ受け取って涙を拭うと、再び頬を膨らませ、アセビの背中をじっと睨みつけた。
どうやら逆鱗に触れてしまったらしい。
サツキが落ち着かせるようにマーガレットの両肩を掴み、口を開いた。
「このままだとお互いのためにならないな。あのときのことを話そう」
「どういうこと?」
「アセビはお前が頭をぶつけて記憶を無くしたとき、ハーピーに殺されたと勘違いしたんだ。あのときの彼は本気で怒っていたよ。お前が大切だからだろうね」
「えっ……」
自分のために本気で怒った。あの誰よりも人の良いアセビが。サツキの報告。それは予想外の情報だった。
マーガレットの怒りのボルテージが下がっていく。
「アセビは誰よりもマーガレットの記憶を取り戻したいと思っていたはずだ。そうじゃなかったら適当に見限っていただろう。そうしなかったのは、それだけお前のことが大事だったからさ」
「あ、あたしのことが……」
マーガレットの怒りの感情は消え去った。ただ困惑しながらアセビの背中とサツキを見比べている。
「記憶を失ったときのお前は、魔法をすぐに極めてしまってね。アセビにそのコツを教えていたんだ」
「あたしが魔法を? 回復魔法じゃなくて……?」
「アセビは、魔法を教えてくれたマーガレットの期待に答えたいと、一生懸命頑張っていたよ。結局基礎の基礎までしかできなかったみたいだけどね」
サツキはアセビの背中を目を細めて見つめている。
「で、でも!」
「記憶を無くしたマーガレットは孤独感に包まれていたんだよ。そんなお前に向かって、これからいっしょに楽しい思い出を作ろうとアセビは言ったんだ」
「け、けど!」
「アセビはマーガレットには厳しいことや冷たいことを言ったり、本気で怒ったりするがね。誰よりもお前のことを大切に想っているからこその行動なんだ」
「だ、だって!」
「あの背中を見るんだ」
サツキが正面を指差した。
アセビが上機嫌で鼻歌を歌いながら、大股で歩いている。その背中は喜びを隠しきれていない。
「記憶が戻らないほうが良かったと思ったのが事実だったとしてだ。あれが本気でそう思っている男の子の背中だと思うか?」
「うぅ……」
「アセビはなんだかんだ言って、記憶を失っていた頃よりも、今の元気なお前の方が好きなんだと思うぞ」
「だって……だって……」
マーガレットは、先ほどアセビが自身を庇うように前に出たことを思い出す。傷つかないよう、盾になろうとしていた。
アセビの手には武器がなく、命を投げ捨ててでも守ろうとしていたのは確実だ。
サツキはおろおろし始めるマーガレットから視線を逸らし、寂しげに微笑んだ。
「……私はお前が少し羨ましかった」
「サツキ……あ、あたし……どうしよう!?」
「早く! 行って! こい!」
サツキがマーガレットの肩を押すと、勢いよく走り始めた。
アセビの背中が近づく。もうすぐ手が届きそうだ。
あふれる涙を拭うことを忘れ、マーガレットはアセビの足にしがみついた。
「アセビィィィ! 待ってぇぇぇ! 行かないでぇぇぇ! ひとりにしないでぇぇぇ!!」
「おああ!? なんだよお前!? びっくりするだろうが!!」
マーガレットはもじもじとしながら立ち上がった。アセビの手をそっと握り、満面の笑みを浮かべる。
「えへへ! ただいまっ!」
「ははっ。おかえり」
アセビは珍しくマーガレットに優しく微笑んだ。手を握ったまま、歩いていく。冒険者ギルトに向かって。
「もう頭ぶつけるんじゃねえぞ」
「えへへ! 心配してくれてるわけ?」
「さぁな」
マーガレットはすっかり上機嫌になっていた。怒りと困惑の感情は完全に消え去っている。
実は密かに大切に想われていた。その事実が、問題児の心を癒やしたのだ。
アセビとマーガレットが、楽しそうに話している姿がサツキの目に映る。彼女は小さく微笑んだ。
「フフフッ」
可愛い弟分や妹分が一切の遺恨無く元の鞘に収まったのを見て、サツキは安心したらしい。伸びをして首を鳴らしている。
「アセビ! あたしの頭本気で叩いて!」
「おいおい! マーガレット! お前記憶がごちゃごちゃになって変態になったのか!?」
「もうっ! 違うわよ!」
焦るアセビの手を握り、マーガレットは上目使いで見つめた。
「アセビ記憶喪失のあたしに優しかったんでしょ? ならもう1回記憶を失えば、また優しくしてもらえるってことじゃない! あたしって頭良いわねぇ!」
「ア・ホ・か。つーかオレもう十分お前に優しくないスかね?」
「いいえ足りません! もっともっとあたしに構いなささい! もっともっと甘えさせなさい! もっともっと愛しなさい!」
「やっぱ、お前問題児だわ……」
うんざりしたように、やれやれと肩をすくめるアセビだったが、言葉とは裏腹にその表情は穏やかだった。なんだかんだ言っても、マーガレットのことを心の奥底では大事に想っているのである。
「早く叩きなさいよ! ほら、早く!」
「お前変態に見えるからやめろ」
「サツキみたいってこと?」
マーガレットの言葉にサツキが反応する。彼女は小走りで近づき、アセビたちと合流した。
「変態か……」
サツキは眉間にシワを寄せ、腕を組んで自身のことを考え込み始めた。
「むぅ……私は変態に見えているのか……」
「いや、まぁほら。サツキはサツキだから。他の誰でもないサツキだから」
「そうね。ソフト変態的な感じ?」
「フォローになってないですよね」
遠回しに変態扱いされてしまったが、サツキは愉快そうに笑っている。
「まー、そうだな! 私が変態なことは、否定できないな! フフフッ!」
「えぇ……」
「そこは否定してほしかったわね……」
「己を認めることで前に進めることもある。アセビ、お前もそう思わないか」
「開き直っただけだと思うんスけど」
「フフフッ!!」
頬を赤く染め、照れ臭そうに笑うサツキを見て、アセビとマーガレットは青ざめた。今目の前にいるのは、頼れるお姉ちゃんではない。ただの変態だ。
「みんなー!」
アセビたちの背後から声が聞こえた。3人が振り向くと、ルピナスが必死に手を振っている。彼女は戦闘終了後、芋虫と今回の戦いの反省会をしていた。そのためアセビたちが帰ろうとしていることに気づかなかったのである。
ルピナスは慣れていないのか、ぎこちないフォームで走り始めた。
「ぼくのこと置いていかないでよぅ! すぐそっちに行くからね!」
「走らなくていいぞ! 待ってるからな」
「置いていかないわ。安心して!」
「おいで」
アセビは両手を広げ、ルピナスが飛び込んでくるのをその場で待つことにした。
マーガレットとサツキも手を振りながら、笑顔で待っている。
「まってー! ぼくもすぐっ!?」
ルピナスは何もないところで、正面から転んでしまった。急いでいたので足がもつれてしまったのだ。
「ルピナス!?」
アセビたちが急いでルピナスに駆け寄って抱き起こすと、意識を失っていた。それだけでなく、額から血を流している。
アセビは慌ててルピナスの体を揺さぶった。
「血が出てるじゃねえか!? 大丈夫か!? おい、ルピナス!?」
「大丈夫! あたしがヒールを使うわ! ヒール!」
ルピナスが光に包まれると、額の傷はあっという間に塞がった。
マーガレットは1度記憶を失ったが、回復魔法の使い方はしっかりと覚えていたようだ。
「うぅん……」
ルピナスがゆっくりと目を開いた。不安そうな表情を浮かべている。きょろきょろと周囲を見回し、恐る恐る口を開いた。
「ぼくはどこ……? ここは誰……?」
ルピナスの謎の言動。
アセビたちの脳裏に嫌な予感が過った。
「えっ……」
「もしかしてだけど……」
「まさかな……」
ルピナスは目頭を押さえ、体を震わせている。すっかり恐怖心が芽生えていた。
「ぼく何も覚えてないよぅ……何もわからないよぅ……あなたたちは誰なの……? ぼく怖いよぅ……」
アセビたちは顔を見合わせた。
「やっぱりぃぃぃ!?」
「記憶喪失になってるわぁぁぁ!!」
「ルピナスゥゥゥ!!」
山岳地帯にアセビたちの声が響き渡った。ルピナスは転んだときに頭を強くぶつけてしまい、記憶喪失になってしまったのである。
今回の戦いで最強四天王のハーピーを倒した。白い鳥は旅商人や観光客を襲うことはなくなるだろう。
しかしアセビたちに喜ぶ暇はない。大切な仲間の記憶が失われてしまったのだから。
「アセビ、どうしよう!?」
「ル、ルピナスが……ルピナスが……」
マーガレットはショックで口を押さえ、サツキは瞳を見開き口をパクパクと動かしている。
アセビは女子たちを落ち着かせるよう、手をぴしゃりと叩いた。
「う、うん! と、とにかく! まずは冒険者ギルドに行くぞ! 医務室へゴーだ! ルピナス、大丈夫だからな! すぐなんとかなるからな!」
「怖いよぅ!」
アセビは恐怖心で体を震わせているルピナスを小脇に抱えると、急いで走った。マーガレットとサツキもすぐそのあとに続く。目的地は冒険者ギルドの医務室だ。
一難去ってまた一難。どうやらアセビには、なかなか平和な日常は訪れてくれないらしい。
本当に、本当に幸せになってほしいものである。
お読みいただきありがとうございました!
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