究極バトル!!三大スーパー問題児 14
マーガレットが唇を噛んだ。
「あれがハーピーよね? 予想がハズレちゃったわ。しばらくは動けないと思っていたのだけれど……」
「予想は悪くなかったねぇ。ただアタイにはとっておきの傷薬があったのさ。残念だったねぇ」
「ぐぬぬ」
悔しがっている暇はない。ハーピーは姿を晒した。これは宣戦布告だ。戦う以外の選択肢はない。
アセビは不敵な笑みを浮かべながら、銅の剣をハーピーに向ける。戦闘を避けるつもりはないという強い意思表示だ。
「女王サマ元気そうじゃん。昨日翼にでっかい穴が空いて風通し良さそうだったのによ」
「あの程度アタイにはかすり傷さね。アンタには翼のお礼をたっぷりしてやるよ!」
「なら次は顔面に穴開けてやるよ! 息がしやすくなっていいかもしれねえしなぁ! ぶった斬ってやるよ女王サマ!」
アセビは額に青筋を浮かべ、本能のままに叫ぶ。女子たちは目を丸くしていた。
普段のアセビは、滅多に怒りの感情を爆発させることはないからだ。ただし、マーガレットの問題行動に関してだけは例外だが。
アセビは空中を舞うハーピーを睨みつけた。
「オレが行く! あいつは絶対許さん! みんなは警戒しつつ待っててくれ!」
「アセビ怖いよぅ」
「妙に張り切っているじゃないか」
闘志を燃やすアセビを見て、ハーピーは空中からせせら笑った。
「アハハハハ! 無駄に威勢はいいねぇ! だけどそれだけじゃアタイには勝てないのさ!」
ハーピーはニヤリと笑うって石を握り、アセビに向かって投げた。次々と降り注ぐ。まるで石の雨だ。
「ワンパかよ! 女王サマも芸がねえなぁ!!」
石は全部銅の剣で弾かれてしまった。アセビはハーピーに向かってじりじりと、少しずつ前進する。
投げる。弾く。投げる。弾く。投げる。弾く。その繰り返しだった。
ハーピーは不意打ちや奇襲を得意とする。その戦闘スタイルは脅威だ。決まれば勝利が決定するほどに。
しかし不意打ちや奇襲は何度も簡単に通用するものではない。
アセビは余裕の表情を浮かべながら、銅の剣の先端をハーピーに向けた。
「安全圏から石を投げるだけか? それならオレでも四天王になれるんじゃねえか? 早く体当たり仕掛けてこいよ。今度は頭から切り裂いてやるぜ」
「ほざいてな!」
ハーピーはアセビに向かって、ただひたすら石を投げ続けていた。しかし1発も当たる気配がない。銅の剣に石が当たる音だけが響く。
マーガレットは確信した。今のアセビなら絶対にハーピーの攻撃に屈しない、と。
「余裕じゃない!」
「すごいね。ぼくならとてもじゃないけど、絶対近づけないや」
「今のアセビはいつも以上に動きにキレがある。油断はできないがな」
マーガレットとルピナスは安心しながら見守っていたが、サツキだけは違う。鋭い眼光でハーピーを見つめながら、ヤグルマソウを握っていた。
敵は不意打ちや奇襲を得意とする。アセビを狙っていると見せかけて、いきなりマーガレットやルピナスに石を投げつける可能性もあると考えているのだ。
「アセビ……すごいんだなぁ」
「むっ? はっ!? アセビ、避けろ! その石は危ないかもしれない!!」
「ん? なんだって?」
サツキが叫ぶが、アセビはハーピーの石を銅の剣で叩き落としてしまった。音が周囲に響く。
ハーピーはアセビの銅の剣に目を向ける。下卑た笑みを浮かべると、石を投げるのを止めてしまった。
それで終わりかと言わんばかりに、アセビが鼻を鳴らす。
「女王サマぁ? 休憩っスか? 体力ないんスねぇ」
「アハハ! アンタ自分の武器を見てみなよ!」
アセビが銅の剣に目を向けると、刃の部分がみるみるうちに変色していった。
「なっ!? オレの剣が!?」
銅の剣は黒ずんだ色になると、あっという間にバラバラに砕け散ってしまった。
「えっ」
愛用の剣が無惨な姿になってしまった。アセビはただショックのあまり、口をぽかんと開けている。
計画通りに進んだからか、ハーピーはゲラゲラと笑い出した。
「アハハハハ! 立派な剣が台無しじゃないか!」
「オレの剣がぁぁぁ!? なんで!? いやなんで急に壊れちゃったの!?」
大声を上げてうろたえるアセビを見て、今度はハーピーが鼻を鳴らした。
「バカだねぇ。アタイが石を無意味に投げてたと思ったのかい? 普通の石を投げまくって油断させ、本命の石を通したのさ」
「おぉ……」
「さっき投げた石とアンタの剣を壊した石。よく見れば違いがわかるんだけど……弾くことに夢中になっていたせいで、見分けがつかなかったみたいだねぇ」
「くっ……もっと私が警戒していれば……!」
サツキは石の違いに気づいていた。早く伝えることができればと後悔するが、常人場馴れした動体視力を持っているからこそ、石の変化に気づけたのだ。指示が早かったとしても、いきなり回避するのは難しいだろう。
アセビをうまく罠にはめたハーピーの手際の良さを評価するべきだ。
「アハハハハ! おやおやおやおや。さっきの余裕はどこへ行ったんだい?」
ハーピーが鋭利な石をアセビに見せつける。先が紫色になっていた。これまでアセビたちに投げた石とは違うものだ。
「これがアタイの秘密兵器さ! 仲間に協力してもらってね! そいつのうん……をこいつにつけたのさ!」
「ひ、秘密兵器だと……」
決まれば相手の装備は容赦なく破壊される。まさに秘密兵器だ。
「ねぇ、うんってなに?」
「こいつは触れたものを溶かす最高の武器さね! 触ったら楽に死ねないとだけは言っておくよ」
「親切にどうも……」
「うんってなに?」
「そこのチビもしつこいねぇ! うんこだよ! 言わせるんじゃないよ!」
「なんかごめん」
アセビは額に浮かんだ汗を拭い、ハーピーから一瞬でも目を逸らさないよう、瞬きすら我慢していた。隙を見せることはできない。ハーピーは触れたら溶けるうんこの付着した石を持っている。
愛剣が失われたことを悲しむ暇はない。
「安心しな、秘密兵器はあと5個だけさ。アタイもうっかりこれに触れたらおしまいだからねぇ。できればあまり持っていたくないのさ」
「……ん? そうなのか? ポンポン投げてこないのは貴重な武器だからっていう理由もあるのか」
「うんぴっぴの付いた石、できればたくさん持っていたくないもんね。ぼくだったら絶対嫌だなぁ。汚いし不潔だもの」
ハーピーの目つきが鋭くなった。その視線の先にいるのはルピナスである。
「チビ……次はあんただよ」
「怖いよぅ!」
アセビはうんこの石を、雨あられのように投げられることはないと知りほっとする。しかし自身を守るための武器はない。ピンチなことにかわりはないのだ。
せめてハーピーに手が届けば、得意の黒魔法で対抗できる。しかし空中を自由自在に飛び回る相手には、簡単に触れることはできない。
アセビはハーピーに向かって両手を合わせた。
「女王サマ……陸で戦いません? 正々堂々タイマンで決着つけません?」
「嫌だねぇ! あんたは地べたを這いつくばって無様に死にな! これでぇえっ!?」
ハーピーの顔を、鋭利な物体がかすめる。彼女が頬を触ると、手には血が付着していた。
ハーピーはアセビ一行が遠距離への攻撃手段を持たないと判断していたが、誤っていると認識する。焦りをごまかすように怒りの感情を爆発させた。
「どうなっているんだい!」
ハーピーはアセビではなく、遠くで待機している女子たちへ目を向ける。
マーガレットが人指し指を向けていた。鋭利な物体を飛ばしたのは、間違いなく彼女だ。
「アンタ……攻撃魔法が使えたんだねぇ」
「鬼ゴッコしましょ? あたしが鬼をするわ!」
「やったれやったれ!」
マーガレットは次々と鋭利な形をした氷を発射させながら、ハーピーへ近づいていく。彼女は翼を器用に動かし、素早く空中を動き回った。
「そんなものかい!」
「ほらほら! 逃げないと当たっちゃうわよ!」
「フン、当たるものかい!」
ハーピーは簡単に氷を避けているように見える。しかし表情からは余裕の笑みが消えていた。
ハーピーにとって空中は誰にも侵されない安全圏だった。だが今は違う。鋭利な氷が勢いよく何発も飛んでくるのだ。
当たれば命はない。石を投げ返す暇すらなかった。
「なんてこったい! そんな危ないものポンポン飛ばしてくるんじゃないよ!」
「女王サマ、ブーメランになってるっスよ」
「ほらほら、逃げないと当たるわよ! お次はアイスダイスをお見せするわ!」
「マーガレット、カッコいいところ見せてくれ!」
マーガレットはアセビの隣に立ち、次々と四角い形の氷を生み出し、発射し続けた。こちらも当たれば致命傷は避けられないだろう。
遠距離から攻撃可能な氷魔法は、非常に強力で便利なものだ。
アセビは思わず感嘆の声を漏らす。
「すげぇな。お前が敵じゃなくてよかったぜ」
「えへへ! まだまだ発射できるわよ!」
魔法を使うには、体内に存在するエネルギーを消費しなければならない。しかしマーガレットの辞書にガス欠という言葉は存在しないのか、ハーピーに向かって絶え間ななく氷を発射し続けている。当たらないよう必死に避け続けることしかできないでいた。
「えぇい! そろそろ氷撃つのやめたらどうだい! アタイにも攻撃させな!!」
「いやよ。このまま当たるまで氷を撃ち続けるわ」
「ぼくの出番なさそう」
「すごいな。これが攻撃魔法を使える人間の強さか」
気づけばアセビの隣には、ルピナスとサツキが立っていた。アセビ一行大集合である。
ハーピーに氷魔法は当たっていない。一見すると無駄に撃ち続けているように見える。しかしそうではないのだ。
ハーピーは常時必死に動き回っている。体力を消耗し続けているのだ。
ハーピーの高度は下がりつつある。このままマーガレットが氷魔法を撃ち続ければ、いずれ地を這うことになるだろう。
「マーガレットすげぇな! 回復魔法だけでなく、氷魔法の達人でもあるぜ! 遠距離から戦えるって、こんなに精神的にゆとりが生まれるものなのかぁ!」
「えへへ! 今のあたしじゃ残念だけれど回復魔法は使えないわ。でも氷魔法は極めたわよ! このままあたしに任せて!」
「かっこいい!」
「うむ! 任せるぞ!」
記憶を失ったマーガレットは、回復魔法が使えなくなっていた。しかし氷魔法は完全に使いこなしている。
失う代わりに掴むものがあったのだ。
「えぇい! なんとかならないのかい!」
ハーピーは悟る。このまま氷魔法を発射され続けたら敗北は避けなれない、と。
しかしこのまま逃げることはできなかった。白い鳥に大きなことを言った手前、撤退するにしても、せめてアセビ一行に痛手を負わせたかったのだ。
「そらっ!」
ハーピーは苦し紛れに一か八か、貴重な秘密兵器をマーガレットに投げた。出し惜しみして敗北するよりはいいと思ったのである。
しかし避けながら投げたため、綺麗なフォームではなかった。
「む!? みんな! あの石は毒がついているぞ! 気をつけるんだ!」
「うんぴっぴだよね」
「うわ、きったね」
「きゃっ!」
アセビはルピナスを抱え、マーガレットとサツキも石を避けるために散開した。しかしわざわざ回避行動をとる必要はなかったようだ。秘密兵器の石は、アセビ一行から遠く離れた場所へ向かっていく。乱れたフォームで投げたせいで、うまくコントロールできなかったのだ。
マーガレットがニヤリと笑った。
「残念ね。ハズレよ」
「ぐぬぬ!」
ハーピーは肩で息をしていた。これ以上空中で激しく動き回れば、スタミナをさらに消耗することになる。地面に足をつけることになるだろう。
アセビ一行は勝利を確信した。
「このまま近づきながら一気に叩くわ! みんなあたしに続いて!」
「よっしゃ! 女王サマが落ちてきたらあとはオレに任せな! 素手でも十分だぜ!」
「逃しはしない! ここで決着をつけよう!」
「ぼくの出番なさそう」
マーガレットがが正面を切って走る姿が見え、ハーピーは震え上がった。
せめてひとりだけでも道連れにしたい。このままでは終われないじゃないか。ハーピーが思った、その瞬間である。
「これで終わりにっ!?」
マーガレットが、正面から、転んだ。脳天に衝撃が走る。
山岳地帯はハーピーが投げた石が散乱した状態になっていた。マーガレットは、うっかりつまずいてしまったのである。
「マーガレット!?」
アセビたちはマーガレットに駆け寄り急いで抱き起こす。彼女は白目を向いていた。
「いやぁぁぁ! マーガレットがぁぁぁ! 死んじゃったぁぁぁ!」
「てめぇハーピーよくもやりやがったな!」
「えっ、だからアタイは何も!?」
「またか……」
絶叫するルピナス。怒りに燃えるアセビ。一方サツキは落ち着いていた。彼女は無表情でマーガレットの胸に耳をつけ、口に手を当て、脈を図った。
サツキは動揺する仲間立ちに向かって手を叩く。
「はいはい、落ち着く! 生きてる! マーガレット生きてるから!」
「なんと」
「おぉ」
アセビとルピナスは顔を見合わせ、気まずそうにサツキから視線を逸らす。
「やれやれハーピーに騙されるところだったわ。あいつマジ卑怯だわ。許せんわ」
「ぼくもそう思うよぅ」
「多分ハーピーにその気はなかったと思うぞ」
「ん……」
マーガレットは意識を取り戻した。瞳をゆっくりと開けると額を押さえて飛び上がった。
「いったぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」




