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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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究極バトル!!三大スーパー問題児 12

 ルピナスとサツキが模擬戦をしているころ、アセビはひたすら己の腕にエネルギーを集中させていた。足元には炎魔法について記された本が置かれている。覚えるための練習をしているのだ。

 しかし上手くいっていないらしい。アセビは苛立っているのか、表情が険しかった。

 マーガレットは側で、祈るように見守っている。


「ギュイーンって溜めてバーンだったよなぁ!?」

「炎魔法ならギュイーン、ボッ、バーンなイメージでいいわ! ギュイーン、バーンは氷魔法ね!」

「うぉぉぉぉらぁぁぁ! ギュイーン!」

「別に言葉にしなくてもいいわよ? あくまでギュイーンはイメージだから」

「あっはい」


 アセビは冷静なマーガレットの指摘でテンションが下がったのを感じていた。額の汗を拭い、その場に大の字になって倒れ、大きなため息をついている。

 マーガレットがアセビの顔を覗き込んだ。目は死んでいなかった。炎魔法の練習は捗っていない。しかしやる気は失われていなかった。


「大丈夫そうね!」

「おうよ! でもちょっと休憩するわ。ギュイーン、ボン、ババーンだろ? だいたいわかったわ」

「ギュイーン、ボッ、バーンよ!」

「あっはい」


 アセビは体をゆっくりおこし、炎魔法の本を手に取ると、ページをめくり始めた。マーガレットは隣にそっと腰掛ける。真剣な表情のアセビをじっと見つめた。


「マジのマジね……」


 マーガレットはアセビの思考を遮ることになるのではと思ったが、素朴な疑問を口にすることにした。


「ねぇねぇ、あなたはなんでそんなに魔法が使えるようになりたいの?」

「ん?」

「あたしが氷魔法使えるんだし、無理しなくてもいいと思うのだけれど……」


 マーガレットは口にしなかったが、アセビに魔法の才能はないと感じ始めていた。しかし必死に覚えようとしている姿を見て、本音を口にできないでいるのだ。

 アセビは本を置くと、マーガレットに目を向けた。


「あの堕落しきったマーガレットが、魔法を簡単に覚えたんだ。そしてきっとオレにもできるって応援してくれたんだぜ?」

「……?」

「お前の期待に答えたいし才能がないからって簡単に諦めたくないんだ! だから……付き合ってくれてありがとうな!」


 アセビは親指を立て、屈託のない笑顔を見せる。

 マーガレットも自然とつられて笑っていた。


「えへへ、あたしに任せて! あなたを炎魔法が使えるようにしてみせるわ! それはそうと……」

「ん?」

「堕落しきったって言ってたわよね? 記憶を失う前のあたしってどういう……」

「よっしゃ! 休憩終わりっと!」


 アセビはごまかすように声を上げると、急いで立ち上がって腕をぐるぐると振り回した。

 本当のことを教えることはない。何も知らない方が幸せなこともある。


「集中して。腕にエネルギーを集めるの」

「ぐぬぬ……」


 アセビのマーガレットへの想いは本物なのだが、やはり才能がないのか。なかなか事態は好転しない。

 現実はとにかく厳しいものなのだ。

 アセビの表情に焦りの色が見え始めている。


「オレって進歩ねぇ……」

「ねえ、あなた身体強化魔法は使えるのよね? それと同じノリでやってみればいいと思うのだけれど」

「そうは言うがな、マーガレット」

「同じよ! まずは力を抜いて、魔法ができて当然って思うところから始めましょ!」


 マーガレットはアセビの肩を揉み始めた。上機嫌に鼻歌まで歌っている。アセビはマーガレットの行動に面食らったが、そのまま流れに身を任すことにした。

 

「別に魔法ができなくても死ぬわけじゃないわ。リラックス、リラックス!」

「うんうん」


 マーガレットのアドバイスで気が楽になったのか。アセビは何気なく手を正面に付き出してみた。


「リラックス……ギュイーン……ボッ……バーン」


 アセビは自然体になることを意識した。マーガレットに言わなくてもいいと言われた、例のイメージをそのまま口にする。当然アセビの手から炎は出ない。

 しかし、そのとき異変が起こった。アセビは腕を押さえ、その場にしゃがんで叫び声を上げた。


「うぉぉぉ! オレの腕がッ! これはいったいなんなんだッ!?」


 アセビの言動と行動は、年頃の少年特有のアレに目覚めた姿にしか見えない。マーガレットは苦笑いをして頬をかいている。

 アセビはもう18の青年だ。そういう時期は過ぎ去りし過去として思い出となっているはずである。


「マーガレット!? 何だコレ!? 一瞬だけど腕がすげえ熱くなったぞ!?」


 アセビは目覚めたわけではなかった。腕の異変を感じて叫んだのである。

 アセビの発言を聞き、マーガレットは指を鳴らす。


「その感覚を忘れないで! あなたのエネルギーが腕に集まっていたのよ!」

「マジっスか!? これが!?」

「そ! あとは炎魔法をイメージしつつ、集まったエネルギーを変化させて、そのまま解き放つだけでオッケーよ! あっ、そうだ。出力するエネルギーの調整は忘れないでね。どう? 簡単でしょ?」


 マーガレットは弾けるような笑顔を見せ、早口で炎魔法のコツを口にした。

 アセビはニヤリと笑っている。わかったような表情だが、理解していない可能性が高い。

 しかしそれでもいいのだ。アセビにとって、これは大きな1歩だったのだから。


「第1ステージクリアってところか。やったぜ!」

「その調子! 次はエネルギーの変化だけどっ!?」


 マーガレットはアセビに突然抱きしめられ、体を硬直させた。体がみるみるうちに熱くなっていく。マーガレットの顔は赤く火照ってしまっている。


「サンキューな! お前のおかげでちょっとだけ魔法のコツがわかったぜ!」

「あ……う、うん……良かったわね……えへへ」


 マーガレットは震える声でアセビを祝福しつつ、肌の温もりを感じていた。それと同時に脳に衝撃が走る。マーガレットは瞳を大きく見開いた。以前アセビに抱きしめられたことを、体が覚えていたのだ。


「あれ……? この感じ……以前どこかで……」

「お前、記憶が戻りかけてるんじゃないか!?」


 アセビの驚愕の叫び声が周囲に響き渡った。当然ルピナスとサツキの耳にも届いている。彼女たちは模擬戦を中断し、急いでアセビとマーガレットに駆け寄った。


「聞こえたよ! 記憶が戻りかけているの!?」

「アセビ、今のは本当か!?」

「ああ、マーガレットがさっきこの感じ、どこかでって言って……」


 アセビがサツキに視線を向けると、彼女が瞳を輝かせて喜んでいる姿が目に映った。サツキにとってマーガレットは妹同然の存在だ。記憶が戻るかもしれない。その喜びは計り知れない。


「嬉しいなぁ! マーガレット、早く思い出してね!」

「うむ!」


 アセビはどうしてもツッコミたい衝動を押さえられなかった。


「サツキ。お前その頭どうしたよ」

「う……うむ」


 アセビの指摘通り、サツキは見るも無惨な姿になっていた。和服は泥で汚れ、彼女のサラサラとした黒い髪の毛は糸が絡まっている。

 当然こうなったのはルピナスとの模擬戦が原因だ。全て芋虫たちの仕業である。


「私のことはいいじゃないか! それより……」

「ごめんなさい。記憶が完全に戻ったわけじゃないのだけれど……感覚は覚えていたの。きっと過去に同じことがあったのね」


 ルピナスは手をぴしゃりと叩いた。アセビたちの視線が集まる。


「思ったんだけど、これまでマーガレットが行った場所に行けば、もしかしたら記憶が戻るんじゃない?」


 ルピナスの提案にアセビたちも納得したらしい。全員何度も頷いている。

 過去の思い出がマーガレットの記憶を呼び覚まそうとしているのなら、馴染みのある場所に足を運ぶのは効果的かもしれない。


「でもあなたの魔法の練習……」


 アセビは片手をかざし、マーガレットの言葉をすぐに遮った。


「お前の記憶が優先だぜ! 魔法の練習はあとからでもできるさ!」

「きっとうまくいくよ。まずは森に行こう!」

「みんなで支えあってきたんだ。これからもそれは変わらないさ」

「あ……ありがとう」


 マーガレットは瞳を潤ませている。アセビたちはその姿を見つめていた。

 マーガレットが目を細めながら口を開く。


「ねぇ? あたし記憶を失ってしまったけれど、みんな優しくしてくれるじゃない?」

「おう! 仲間だからな!」

「みんなが優しくしてくれるのは、記憶を失う前のあたしが良い女の子だったからなんじゃない?」

「……おう」

「当たってる? 当たってるわよね!」

「……そうだね」

「あたしわかってるんだから! えへへ!」

「……うむ」


 アセビたちは顔を見合せ、そのまま沈黙した。脳裏にマーガレットのこれまで犯してきた悪逆が、鮮明に映し出される。

 良い女の子など、どこにも、いなかった。

 マーガレットが瞳を輝かせながら言葉を続ける。


「借金を肩代わりさせたり」

「……おう」

「勝手に物を持ち出したり」

「……うん」

「無理矢理お酒飲ませたり」

「……うむ」

「そういうひどいことするような女の子じゃなかったっていうのは確実ね!」


マーガレットは笑顔でアセビたちを見つめている。3人はわざとやってるのかとツッコミたくなったが、汚れない表情を見るに、記憶が失われているのは確実だろう。

 アセビたちは沈黙したままマーガレットに近づき、頬をつねった。


「いたたっ! みんな何するのよ!?」

「別に……」

「モチモチ!」

「さて、行こうか」


 マーガレットは抗議しようとしたが、腹部から異音を発してしまった。胃袋が悲鳴を上げたのだ。


「お腹……空いちゃった」


 マーガレットは頬だけでなく、顔も赤くしている

 アセビはポケットから大きなシートを取り出した。


「よっしゃ! そろそろご飯にしようぜ! オレも何か食いたいと思ってたんだ!」

「……えへへ」


 マーガレットは照れ臭そうに腹部を押さえて笑っていた。記憶を失い、天使のような少女になったが、空腹には勝てないのだ。

 アセビは吹き出しそうになるのを堪えながら、女子たちにパンを配った。


「ここでみんなで食べるのも久々だね」

「フフフッ懐かしく感じるよ」


 ルピナスとサツキは、これまでの出来事を思いだしながら、笑顔でパンを食べている。楽しかったことばかりではない。それでも、毎日が輝いていた。

 マーガレットはパンから口を離し、寂しげな表情を浮かべている。アセビは心配そうに背中を撫でた。


「マーガレット? どうした? 大丈夫か?」

「なんでもないわ。いえ、あなたたちには嘘をつけないわね……」


 マーガレットの様子の変化に、ルピナスとサツキも気づいた。


「あたしだけ記憶がないじゃない? それでもみんな優しくしてくれるし大丈夫って思ってたの……でも」

「マーガレット……」

「やっぱり……記憶がないって……寂しい……」


 マーガレットは体を震わせていた。記憶を失うということは、自分の生きてきた世界から孤立してしまうことに等しい。

 マーガレットは孤独感をアセビたちに悟られないようにしていた。精神に大きな負担を抱えながら過ごしていたに違いない。

 マーガレットは弱々しく微笑む。


「ごめんなさいね……変なこと言っちゃって」

「マーガレット」


 アセビがポケットからジャムパンを取り出し、マーガレットの口元に近づけた。


「お前コレ大好きでさ。よくオレに食べさせてっておねだりしてきたんだよね。はいあーんして」

「えっ!? やだ! あたし甘えん坊だったのね……」


 マーガレットは羞恥心で顔を赤くし、過去の自分自身を呪った。


「いいから食べな! いつだって好きなときに甘えていいんだぜ! オレたち仲間じゃねえかよ!」

「……アセビ」

「思い出がない? ならこれから作っていこう! マーガレットとオレたちの、最高の思い出を!」

「そうだよ!」

「うむ!」


 マーガレットは顔を歪ませ、無心でアセビの差し出したジャムパンを頬張った。濃厚な甘みと塩味が口内に広がっていく。仲間たちの温かい言葉と肌の温もりが、マーガレットの涙腺を刺激する。瞳から大粒の涙があふれた。


「うっ……うっ……ううっ」

「ほら、いっぱい食べな」

「いい子いい子」

「大丈夫だ。何も心配しなくていい」

「うわぁぁぁん! 優しくしないでぇぇぇ! 涙が止まらなくなっちゃうでしょぉぉぉ!!!」

「いっぱい優しくするぜ! だってお前は大切な、あっマーガレットちゃん。それオレの指なんで噛まないでほしいんだわ。微妙に痛いんだわ」


 アセビのツッコミで女子たちに笑顔が戻り、寂しげな空気は見事に吹き飛んだ。

 マーガレットは笑みを浮かべ、指を歯で挟んだまま離そうとしない。構ってほしくなったのだろう。

 記憶を失う前のマーガレットに1歩近づいたことになる。アセビは思わず苦笑した。


「しょうがない奴だなぁ……あれ」


 アセビは再び言葉にできない違和感を覚え、言葉を詰まらせた。

 マーガレットは急いで指から口を離す。両手を合わせて頭を下げた。


「ごめんなさい! 痛かった!?」

「いや、痛くはないよ。ただ……」


 マーガレットはほっと胸を撫で下ろすが、アセビは胸に残ったしこりのせいですっきりできないでいた。


「この違和感はなんだ……?」

「アセビ?」


 違和感の正体はわからなかった。

 アセビは勢いよく立ち上がり、マーガレットの手を握る。


「ははっ、なんでもない! さぁ行こう!」


 アセビは一行は森へ向かった。

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