究極バトル!!三大スーパー問題児 9
「おはよう。お前たちどこに行ってたんだ?」
「……おはよう……ねむいよぅ……」
「おはよう」
「おはよ!」
アセビとマーガレットがみんなのお家に戻ると、すでにサツキとルピナスは目を覚ましていた。朝食の準備をしている。
アセビはふたりに早朝の出来事を語った。
「ふむ。例の拠点に行っていたのか」
「記憶が戻ると思ってね」
サツキは野菜の皮を剥きながら、見て、聞いて、感じたことをそのまま口にした。
「マーガレットは回復魔法の達人だったんだ。だからこそ、他の魔法も自由自在に使えるのかもしれないな」
マーガレットは驚いている。自身の胸を指差し、困惑していた。
「え? あたし回復魔法使えたの? 高い知識と豊富な経験が必要なのに?」
「そうだよ。他には体を固くする補助魔法や光を放つ便利な魔法も得意だったの。マーガレットはすごくかっこいいんだなぁ」
ルピナスは部屋からのんびりと出てきた芋虫の頭を撫でながら、マーガレットに助け出されたことを思い出していた。ゴブリンチームとの戦い。マーガレットの数少ない善行だ。
あの件以降、ルピナスはマーガレットを心から尊敬するようになり、ヒーローのように思っている。
それは芋虫も同じだ。当初はマーガレットに苦手意識があったらしいが、今はもう微塵もない。密かに親友だと思っている。
「あたしが? う~ん、ちょっとイメージできないわね。早く全てを思い出したいわ」
マーガレットは芋虫に近づくと、しゃがんで頭を優しく撫でた。
「いい子いい子! 大きな背中ね!」
「つい最近、芋虫さんたちの背中に乗ってみんなで旅に出たんだよ」
「素敵じゃない! 芋虫くん、今度またあたしのこと背中に乗せてね」
芋虫は目を細め、頷く。
「……何だろう」
アセビはうまく言葉にできない、不思議な感情が芽生えていることに気づく。のどに魚の骨が引っ掛かったような違和感。大切なことを思い出せそうで思い出せない気持ちの悪い、何とも言えない感覚。
アセビがその原因の答えにたどり着きそうになるその瞬間、女子たちの声が耳に届いた。
「ひゃ~! マーガレットすごい!」
「お前やればできるじゃないか!」
「えへへ! あなたたちの真似をしただけよ。すごいのはあなたたちじゃないかしら」
マーガレットが野菜の皮を器用に剥いている。それらを綺麗に素早く切り揃え、まとめて鍋に入れた。アセビの目にはっきりとその姿が映る。
マーガレットはたまに料理作りを手伝うのだが、手先が不器用なため、まともに野菜の皮を剥くことも切ることもできなかった。
しかし今は違う。マーガレットは、余裕しゃくしゃくと言わんばかりの顔で、料理の準備を行っている。
アセビは自然と拍手を送った。
「お前やればできる子だったんだな!」
「マーガレットすごい!」
「さすが私の妹だ」
「えへへ……恥ずかしいからその辺で」
マーガレットは恥ずかしいのか、顔を赤くして体をもじもじと動かす。今の彼女は以前と違い、謙虚な心まで持ち合わせている。ルックスだけでなく、人格面まで優れた少女となっていた。
テーブルの上に白ご飯と味噌汁が並べられ、全員で仲良く口にする。味付けはサツキが行ったが、それでも普段以上に美味に感じたのは、マーガレットの綺麗に切った野菜のおかげだろう。
「おいしい」
「今日は自由行動だったな。みんなでどこか気晴らしに出かけるか?」
「それもいいのだけれど、食べ終わったら魔法の練習をしたいの! アセビに魔法を覚えてほしくて!」
マーガレットの提案を、ルピナスとサツキは目を丸くして見ている。いつものなら休日は食べ歩きをしたいだの、みんなでどこかに遊びにいきたいだの言っていたからだ。
アセビは白ご飯を勢いよく口に入れた。茶碗をテーブルに置いて、自室へと飛び込む。
「アセビ?」
女子たちは席を立ち、アセビの部屋を覗き込む。彼は魔法の本を胸に抱え、ニヤリと笑っていた。
「マーガレット先生! オレ手から炎とか氷とか出してみたいっス! オレが魔法使えるようになれば、今よりチームの戦力アップになるしな!」
「うん! そのいきよ!」
「やる気がすごいなぁ。まぶしいよぅ」
「フフフッいいことじゃないか」
アセビはすっかりやる気になっていた。マーガレットが魂に火を着けたのである。彼女は天使のような笑顔を浮かべ、努力する道を選んだアセビを心から応援していた。
「いっしょにがんばりましょうね! きっと魔法を使えるようになるわ!」
「サツキ、ぼくたちも何かしようよ!」
「応じよう。実戦形式に近い模擬戦でもするか」
「おぉ」
ルピナスとサツキのやる気にも火が着いたらしい。みんなのお家は今、猛烈に熱い空間となっている。
そんな仲間たちを見て、優しく微笑むマーガレットだったが、アセビの抱えていた本を見て表情を変えた。眉間にシワを寄せ、肩を震わせている。
「アセビ……それは……なに?」
「お、おう……?」
突然のマーガレットの豹変。アセビは思わず後ずさっった。緊張感のある空気が広がっていく。
マーガレットはアセビに急いで近づくと、1冊の本をひったくった。中身を確認し、ため息をつく。マーガレットは本を乱暴に閉じ、表紙をアセビに見せる。
「この本……なに?」
「黒魔法の本……だけど?」
「まさかだけど。あなた黒魔法使いたいの?」
マーガレットが嫌悪感を示したのは、黒魔法の本に対してだった。汚らわしいものを見るような目で見つめている。記憶を失う前は苦手意識があるものの、正しい使い方をすれば問題ないと、柔軟に考えることができていた。
しかし今のマーガレットは違う。黒魔法は邪悪なものと考え、この世に存在してはいけないものと認識しているようだ。
どんな魔法も使い方次第なのだが、記憶を失ったマーガレットは、柔軟な考えができなくなっていた。
アセビは冷や汗を拭い、作り笑いを浮かべる。
「別に興味はないさ。ただ、色んなジャンルの魔法を知りたくて買ったんだ。それだけ」
「それだけ? よかったわ! あなたが邪悪な黒魔法を使っていたらと思ったらあたし胸が苦しくて……」
マーガレットは胸を押さえ、気持ちを落ち着かせるために何度も深呼吸をしている。
アセビは咄嗟に嘘をついてしまった。マーガレットに対して後ろめたさを感じている。
ルピナスは首を傾げ、口を開く。
「アセビは黒魔……」
「しーっ」
サツキがルピナスの口がそっと塞ぐ。彼女は他人との交流が苦手だが、それだけでなく空気の読めないことを言うタイプのコミュ障でもある。サツキが口を押さえていなかったら、アセビが黒魔法を使っていると暴露していたに違いない。
「黒魔法は駄目よ! 絶対駄目! 害を与えるだけの魔法なんて許せない! そう思うでしょ!?」
「デスヨネー」
冷や汗を流すアセビとは対照的に、マーガレットは憎悪に近い感情を爆発させている。もし黒魔法を使ったことがあると知られたら、大変なことになってしまうだろう。
アセビは最悪のシナリオを想像して震え上がると、悟られないようにマーガレットの背中を押した。
「ささ、先生! 魔法の練習しましょうや! オレがんばるんで! 一生懸命がんばるんで!」
「オッケー! じゃあ早速みんなでさっきの原っぱに行きましょう!」
ルピナスとサツキは、外に飛び出すアセビとマーガレットの背中をしばらく見つめていた。天使のようなマーガレットだが、黒魔法に対する嫌悪感は少々異様にも見える。
サツキはルピナスの両肩を掴みながら、声を潜めた。
「ルピナス。アセビが黒魔法を使うことは、絶対マーガレットに言わないように」
ルピナスは自身の口を両手で押さえ、了承した。




