究極バトル!!三大スーパー問題児 7
「……というわけなんだわ」
「お、おう……そりゃまた……」
アセビ一行は急いで冒険者ギルドへ戻り、これまでの経緯を大男に話した。周囲には他の冒険者たちも集まっている。口を挟むことなく聞き入っていた。
「これまでの白い鳥の行動は、お前たちを誘い出すための作戦だったのか」
「そうなるっスね……」
「それにしてもアレだな。モンスターっていうのは、まどろっこしい作戦を考えるものなんだな」
この場にいた冒険者一同、面倒な作戦を考えるものだと感じていた。
ごもっともである。
冒険者たちはアセビ一行をおとりにすれば、白い鳥やハーピーを誘い出すことができるのではと考えていた。集団で同時に襲いかかれば、難なく倒せる可能性はある。
冒険者たちの考えていることをアセビは察した。しかし実際に実行するのは難しいと考えている。
「みんなの言いたいことはわかるぜ。今度はオレたちがおとりになって、白い鳥とハーピーを誘い出して倒そうってことだろ?」
冒険者たちは頷き、胸を叩いた。
「ダンゴ、安心しな! 絶対にしくじらねえよ!」
「ハーピーと白い鳥は不死王よりは弱いんだろ? 全員でいけば間違いなく倒せるさ!」
「弓矢の調達をしなきゃな!」
心強い言葉にアセビは嬉しく思うが、首を横に振って手助けを拒否する意思を示した。
「みんなの気持ちはマジで嬉しいよ。でもあいつらの狙いはオレたちのチーム全員の命だ。不必要な戦闘は避けたいはず。集団で待ち構えてたら絶対出てきてくれないぜ。勝ち目のない勝負には最初から乗らないと思う」
白い鳥とハーピーは、我慢強くまどろっこしい作戦を実行してきた。その目的はアセビ一行への復讐。不死王と再生王の敵討ち。
白い鳥とハーピーは自身の命を捨ててでも成就させたいと思っているに違いない。一矢報いることもできずに死ぬことこそ、1番避けたいと思っているはずだ。
冒険者が集団で森や山岳地帯へ足を踏み入れたら、白い鳥とハーピーは姿を見せないだろう。ある意味犠牲者がでない平和的な解決策だ。
しかし毎日多くの冒険者たちが同時に行動するとなると、冒険者ギルドも困るだろう。仕事を引き受ける者がいなくなってしまうからだ。ずっとかかりっきりで白い鳥とハーピーを相手にするわけにもいかないのである。
アセビはそれらの事情を早口で説明し、冒険者たちを説得した。
「そうか。単純な話じゃないってことか」
「それならダンゴたちに任せるしかないわな」
「ああ、オレたちだけでやるしかない。白い鳥はもともと集団の前では姿を見せない臆病な奴だったし、少数でやるしかないと思うんだぜ」
「足はすごく早かったけど、不意打ちに気を付ければ怖くないと思う。だからぼくたちに任せて」
珍しく意見を自然と口にするルピナス。他の冒険者たちは目を丸くしている。ルピナスは恥ずかしくなったらしく、アセビの背中に急いで隠れた。
少しずつ改善されてはいる。しかしまだまだルピナスのコミュ障は治りそうにない。
「まー、白い鳥とハーピーはアセビたちに任せるとしてだ……」
大男と集まった冒険者たちが、マーガレットを見つめる。彼女の頭には、トレードマークの白頭巾ではなく包帯が巻かれていた。
「えへへ」
マーガレットは記憶を失った影響か、どこか普段よりも品があるように見える。小さく微笑みながら控えめに手を振ってみせた。冒険者たちは顔を赤くして、一斉に視線を逸らす。
「問題児……可愛くね?」
「……うん」
「……おかしいな……あの悪魔みたいなマーガレットが可愛く見える」
「……あ、明日病院行くわ」
マーガレットへの感想が飛び交い、アセビたちの耳にも届く。黙っていれば、何もしなければ、クレマチスでも上位の可愛さを誇る美少女なのだ。
冒険者たちにそう感じさせなかったのは、マーガレットの積み重ねてきた問題行動が原因だろう。ルックスと使用する回復魔法は非常に優れているのにぼっちだったのはそれが原因だった。
日頃の行いが大切とは、まさにこのことである。
「一時的に記憶喪失になってるだけと思いたい」
「そのうち戻るさ! ゆっくり待とうじゃねえか」
心配そうな表情でマーガレットを見つめるサツキ。大男は慰めの言葉を送った。
サツキにとってマーガレットは大切な妹だ。いつものように元気な姿を見せてほしいのである。
例えそれが、問題児、悪魔、借金女と呼ばれる愚か者であったとしても。
大男がアセビに視線を向けた。
「アセビ。明日はお前さん、マーガレットの面倒見てやりな。いっしょにいれば記憶が戻るかもしれねえ」
「えっ、でも白い鳥とハーピーはオレたちを狙ってるんだぜ!? オレたちが行かないと……」
アセビの言葉を遮るように、周囲の冒険者から声が上がる。
「お前ハーピーにそれなりにダメージを負わせたんだよな? なら奴も簡単には動けないんじゃないか?」
「1日ぐらい休んでも平気だって!」
「それに、あの子の面倒見られるのはあんたぐらいだからねぇ。たまにはゆっくりしなよ」
冒険者たちの温かい言葉に、アセビは感謝の気持ちを込めて頭を下げた。マーガレットは問題児で、これまで様々な迷惑をかけてきた。しかしそれはそれとして、冒険者たちに仲間意識がないわけではないのだ。
さらに言うと、記憶喪失になったマーガレットは普段より上品で弱々しく見えるようだ。支えてあげたいと思わせるオーラがある。ほとんどの男性冒険者は、庇護欲を刺激されてしまったのだった。
ちょろい男どもである。
マーガレットはペコリと頭を下げた。
「えへへ……みなさんありがとうございます」
「いいってことよ!」
「いつでも頼ってくんな!」
鼻の下を伸ばす男ども。女性冒険者たちは苦虫を噛み潰したようなで顔である。
これまでさんざん問題児、悪魔扱いしてきたマーガレットに対してデレデレする姿を見て、呆れに近い感情が芽生えているのだ。
そんな女性冒険者たちの目に、アセビが映った。彼は心底ほっとした表情を浮かべている。
「ま、まー? アタシたちは、アタシたちにやれることを、一生懸命がんばろ!」
「ダンゴも大変だろうからねぇ!」
隠れアセビファンの女性冒険者は少なくない。彼女たちにとって数少ない小さな癒しになっているからだ。アセビが嬉しそうにしていると、女性冒険者たちも同じ気持ちになるのである。
「どうする?」
「困ったな……」
「向こうには向こうの事情があるだろうけど……」
旅商人たちは、食堂から冒険者ギルドのメンバーの会話をしっかりと聞いていた。それぞれ意見を交換し合っている。
旅商人たちは、マーガレットの記憶喪失問題、ハーピーの存在はどうでもいいと思っている。早く白い鳥を討伐してほしいというのが本音だった。商売の障害になりうる存在を放置せずに、早く排除してほしいのだ。
「……ここは待とう」
「……うん」
「……そうだな」
旅商人たちは冒険者ギルドに全てを託すことにしたようだ。強気な態度は見せられない。元々乗り気じゃなかった依頼を大男に仕方なく引き受けてもらったからだ。無理を言って、白い鳥の討伐を断られでもしたら、泣くに泣けない。
旅商人たちにできることは、ただ黙って吉報を待つことだけなのだ。
「白い鳥だったわね。そのモンスターはこれまで少人数に対して、不意打ちをしてきたのよね?」
「そうだな」
マーガレットはアセビに尋ねると、顎に手を当て数秒瞳を閉じた。冒険者ギルドに集まった面々の視線が集まる。マーガレットは基本ノリと本能で動く。考え込む姿はなかなか見られない。貴重なのだ。
マーガレットは瞳を開くと人差し指を立て、自信満々に口を開く。
「わざわざそういうことするってことは、白い鳥って戦闘に自信がないんじゃないかしら? ハーピーを倒したら仲間を失うことになるわよね。きっとおとなしくなると思うわ。ハーピーを倒すことで平和が訪れるのよ」
「確かに」
マーガレットの意見は希望的観測に近い。しかし彼女の自信に満ちた表情と態度は、不思議と周囲を納得させる力があった。
「ハーピーとかいうモンスターを倒せば……」
「間接的に白い鳥は消えるかもしれないと……」
「そうだ。そうに違いない」
旅商人たちは再度顔を見合せ頷き合う。そのまま食堂を出て宿泊している宿へと戻った。
「がんばってハーピーを倒しましょう! きっと平和への近道になると思うわ!」
「その前にお前の記憶をなんとかしないとな」
アセビのツッコミに冒険者ギルドは笑いの渦に包まれる。マーガレットは照れ臭そうに頭をかくのだった。




