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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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いもむし 1

「なぁマーガレット。回復魔法ってオレでも使えないのかな?」


 アセビは慣れた調子で畑を耕しながら、野菜の種を蒔くマーガレットに声をかけた。彼女はむっとした表情を浮かべる。そっぽを向き、アセビの言葉を無視して作業を続けた。

 どうやら地雷を踏んでしまったらしい。アセビは作業を中断し、マーガレットに声をかけ続ける。


「あれ? オレ何か言っちゃいました?」

「……あたしが回復魔法使えるんだからいいでしょ?」


 マーガレットは眉間にシワを寄せ、汗を拭っている。

 アセビと視線を合わせようとせず、ご機嫌斜めといった様子だ。


「そうは言うがな。仮にだ。もしお前がモンスターの攻撃を受けて大怪我したらどうするんだよ」

「あたしが?」

「その場合誰が治療するんだよ。オレもルピナスも回復魔法使えないんだぞ」


 基本的に回復魔法が使えるマーガレットは、戦闘では後方支援担当になるだろう。

 しかし何が起こるかわからないのが戦場だ。背後から奇襲される可能性もある。


「あ……あたしのためってこと……?」

「まー、そうでもあるな。一応応急処置はできるが回復魔法使えたほうがいいしな」


 マーガレットは両頬を押さえ、体をくねらせる。構ってちゃんの借金女は、あっという間に上機嫌になってしまった。鼻歌を歌いながら野菜の種をばら撒き始める。


「もうっ! あたしのためならさっさとそう言いなさいっての! てっきりアセビさんがチーム抜けようとしてるって思ったじゃない!」

「……オレが?」

「そ! 回復魔法覚えたらあたしたちを捨てて、他のチームに入るのかなって思ったのよ!」


 アセビは口をぽかんと開け、マーガレットの話を聞き入っている。数回頷くと、小声でぼそりと呟いた。


「その手があったか……」

「えっ」


 マーガレットは耳が非常に良く、アセビの言葉がはっきりと聞こえてしまった。

 ぼっちにとって1番の恐怖は、再び孤独になってしまうことだ。マーガレットは冷や汗を流しながら、アセビに目を向ける。


「フン! 回復魔法教えるのやっぱりやめるわ! あたしが使えればいいじゃない!」

「なら、クレマチスに来た回復魔法の使い手に教えてもらえばいいか……滅多にいないとは思うが……」

「……アセビ? あたしたちは運命共同体よね?」


 アセビは意味深にフッと笑い、マーガレットの質問には答えず作業に戻った。心なしか、先ほどよりも動きにキレがある。

 マーガレットがアセビの顔を覗き込むと、どこか邪な考えがありそうな笑みを浮かべていた。


「アセビ……? アセビさん……?」


 焦るマーガレットの言葉を無視し、アセビはひたすら畑を耕し続けた。

 そんなふたりの様子を、ルピナスは木陰で休憩しながら見つめている。汗を滝のように流しており、呼吸は乱れていた。体を使った作業は苦手らしい。


「ふぅ……」


 ルピナスは落ち込んでいた。無理やり仲間に入ったはいいものの、体力と力が無さすぎて、新人の仕事をこなすことすら困難だったのだ。

 どうせ自分はダメな人間。マイナスな感情がルピナスを支配する。


「おーい! 大丈夫か〜?」

「顔色悪いわね」


 タイミング良くアセビとマーガレットがルピナスに声をかけ、小走りで近づく。アセビはポケットから水筒を取り出して飲ませた。


「水分補給大事だからな!」

「……うん。ありがとう」

「おかわりあるから好きなだけ飲んでいいからな」


 ルピナスの乾いた体が潤っていく。それと同時にマイナスな感情も消えていった。


「ねぇねぇ。あたしに良い考えがあるのだけれど」

「ダメです」

「まだ何も言ってないでしょ!?」


 アセビに邪険に扱われ、マーガレットが叫ぶ。あまりのやかましさに、畑に集まっていた小鳥たちが逃げてしまった。

 マーガレットはルピナスの隣にしゃがみこんで、ポケットに向かって指を差す。


「ランダム召喚やってみたら?」

「う?」

「お仕事してくれそうなモンスター呼び出して契約すれば、ルピナスの負担も減るじゃない!」


 アイデア自体は悪くない。アセビは感心しており、ルピナスもマーガレットの意見に従うことにした。契約の本を取り出し、ゆっくりと立ち上がる。

 しかし3人とも大切なことを忘れていた。そのことに気づくのは数分後になる。


「じゃあルピナス、頼むぜ」

「うん。見ててね」


 ルピナスは契約の本を取り出し、深呼吸をした。アセビたちの期待のこもった視線に緊張感を覚える。それでもルピナスは手のひらを正面にかざし、呪文を唱える。


「脅威の力はクレイジー……本気を出したら全てがイージー……敵への慈悲は絶対エヌジー……聞かせてくださいあなたのエレジー……」


 ルピナスはアセビたちと過ごすうちに、若干コミュ障が治ったのか、以前よりは流暢に呪文を唱えた。精神が安定しているのか、以前のようなマイナスワードを使っていない。

 マーガレットは興味津々に聞き入ったあと、脳裏に浮かんだ疑問を口にする。


「前から思ってるのだけれど、ルピナスの呪文ってその場その場で考えてるのかしら」

「多分そうなんじゃないか?」

「頭の回転が早いのね!」


 ルピナスはうつむきながら口を開く。


「別に呪文唱える必要ないんだよね……」

「えっ? そうなの?」

「でも言ったほうが気合いが入る気がして……ごめんなさいバカな子でごめんなさい無駄なことばかりしてごめんなさい生まれてきてごめんなさい」


 ルピナスはしゃがみこみ、自嘲気味な笑みを浮かべながら足元に生えている雑草を抜き始めた。

 油断をすればすぐにマイナス思考になってしまう。アセビは急いでルピナスに駆け寄り、頭と背中を撫で回した。


「いいんだぞ! お前のやりたいようにやるのが1番いいんだからな! 呪文もほら? なんか? かっこいいじゃん?」

「……うん」


 アセビに肯定され、ルピナスは頬を赤くする。メンタルが落ち着いたのか、ゆっくりと立ち上がった。

 問題児とコミュ障マイナス思考の介護。アセビの苦労は絶えない。

 しばらくして、ルピナスの前にもくもくと煙が立ち上った。薄っすらと影が浮かび上がる。


「可愛いのがいいわね!」

「仕事手伝ってもらえるモンスターなら、なんでもいいんじゃないか」

「……煙がそろそろ晴れるよ」


 煙が晴れると、そこにいたのは単眼の巨人だった。筋骨隆々とした体格をしており、片手にはこん棒を握っている。

 アセビたちは口をあんぐりと開け、呼び出されたモンスターを見上げる。


「これって……」

「サ、サイクロプス……」

「ひゃっ……」


 ルピナスが呼び出したのはサイクロプス。圧倒的な力を持つ巨人のモンスターである。外見に似合わず細かい作業も得意なため、畑仕事も薬草の採取も得意だ。契約をしてくれたら、大きな戦力になるだろう。契約をしてくれたら、だが。


「あぁ……?」


 サイクロプスがアセビたちを見下ろす。特徴的な目は血走っており、肩を震わせている。明らかに機嫌が悪そうだ。

 ルピナスは魂が抜けたように、放心状態で固まっている。

 このままではまずい。アセビが動く前にサイクロプスが口を開く。


「これアレだろ? 召喚術ってやつ?」

「うっス! そうッス!」

「よろしくね!」

「面倒くせえなぁ……」


 サイクロプスは海よりも深い溜め息をつき、頭をかいている。機嫌は悪そうだが、とりあえずアセビたちに対する殺意はなさそうだ。

 アセビが放心状態のルピナスの肩を押すと、彼女は正気を取り戻した。


「ルピナス……言うことあるだろ? 大丈夫か?」

「目玉のおじさんに失礼なこと言ったらダメよ。ああいうタイプはキレやすいし根に持つタイプだから」

「そこの白い子さ。すでになんかワシに対して失礼なこと言ってるよね……」

「あっ……あの……お願いがあるの……」


 ルピナスが口を開くと同時に、サイクロプスが1歩前進した。大地が大きく揺れ、アセビたちは倒れそうになるがぐっと堪える。

 サイクロプスはこん棒で肩を叩きながら、再びため息をつく。


「契約しろってやつだろ?」

「あら? 話が早いじゃない。じゃあ早速……」

「待てや。ワシはそこのちびっこに対して対価を要求する権利があるんだろ?」

「……うん」


 ルピナスは震えていたた。口の中はカラカラになっており、呼吸も荒々しくなっている。

 殺意を感じないとは言え、目の前には自分の身長の何倍もある巨人が立っているのだ。ルピナスでなくても恐怖するだろう。


「う〜ん。でもそこのちびっこやお前たちに、ワシの欲するものは用意できねえと思うぞ」

「いいから言ってみなさいよ」

「サイクロプス先生は何が欲しいんスか?」


 アセビがサイクロプスに問いかけると、彼は瞳を閉じてしまった。特徴的な目玉から大粒の涙が滝のように流れる。近くにいたルピナスは、豪雨を浴びたように濡れてしまった。


「ひゃあっ!! 冷たいよぅ!」

「……ワシ……彼女欲しい……」

「えっ」

「うそっ」


 予想外の回答にアセビたちは硬直する。


「ワシよりでかくて年上がいい……」


 サイクロプスは巨人のモンスターだ。彼より大きい女性型モンスターはいるのだろうか。

 少なくともアセビたちでは、サイクロプスの欲するものを用意することはできない。


「ル、ルピナスは……ちょっと小さいわね……」

「な? 無理なんだよ……」

「せ、先生。もうちょっと小さいメスのモンスターじゃダメっスかね?」

「ダメだ! ワシの理想の相手は絶対どこかにいるはずなんだ! でも……ワシより大きくて年上の子……見たことないんだよなぁ……」


 サイクロプスは再び目から大粒の涙をこぼすと、アセビたちに背中を向ける。

 ルピナスはずぶ濡れになりながらも、追いかけようとするが、石につまずいて転んでしまった。泥だらけになってしまっている。まさに踏んだり蹴ったりだ。


「今日は萎えちゃったから見逃すけど、次またワシのこと呼び出したら叩き潰すからな」


 サイクロプスはそれだけ言うと、そのまま山岳地帯へと去っていった。アセビとマーガレットは、同時に肺に残った空気を吐き出す。

 ランダム召喚は、どんな考えのモンスターが現れるかわからない。その危険性をアセビたちは、身を持って知ることになったのだった。


「ルピナスがランダム召喚はやばいって言ってたが、その意味がわかったぜ……」


 下手をすれば全滅していた可能性もある。その事実に気づき、流石のマーガレットも震え上がった。

 一方ルピナスは泥だらけになりながら、目から涙を流している。契約できず、みんなを命の危機に巻き込んでしまった。その事実が悲しみを加速させているのだ。


「……ダメな子でごめんなさい……契約できなくてごめんなさい……」


 アセビは急いでポケットからハンカチを取り出し、ルピナスの泥だらけになった顔を丁寧に拭き取った。体全体が冷え、さらに汚れてしまっている。急いで風呂に入らせる必要があるだろう。


「いいんだぞ! 次だ次だ次だ! まだ契約のチャンスはあるからな!」

「あの対価は無理よね。忘れて切り替えましょ!」

「ほらほら! マーガレットもこう言ってるしな!」

「……うん」


 ルピナスは自信を取り戻したが、失敗する度にマイナス思考モードになってしまう。このままでは仕事に支障が出てしまうだろう。

 アセビはなんとかして、ルピナスに自信をつけさせたいと思うのだった。


「とりあえず銭湯行こうぜ」

「そうね。ルピナス泥んこで汚れちゃってるものね」

「お風呂屋さんは怖いよぅ……人がいっぱいだよぅ」


 重症である。コミュ障にとって人の集まる場所は地獄に等しいのだ。

 しかしこのまま放っておけば、風邪を引いてしまうかもしれない。


「まだ夕方前だぜ? お客さんそんなにいないんじゃないか?」

「すぐ入ってすぐ出ればオッケーよ! あたしはのんびりお風呂に入らせてもらうけれど」

「怖いよぅ……アセビもいっしょに入ってよぅ」

「オレが女風呂入ったら逮捕されるよぅ!」


 アセビはルピナスの背中を押しながら、客が少ないことを祈り、銭湯へと急いだ。

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