ぼっちは自分に優しくしてくれた人を逃さない 6
「えぇぇぇん!! アセビのおバカぁぁぁ!!! エッチィィィ!!!! ダンゴムシィィィィ!!!!!」
帰る道中、すっかり元気になったマーガレットは、火がついたように大声で泣いていた。騒音レベルのやかましさだ。冬眠しているクマも目を覚ますレベルである。
クレマチスに着くと、通行人とすれ違うたびに、アセビはじろじろと顔を見られた。心なしか、女性からの視線が特にきつい。
「びぇぇぇぇぇぇん!!!!!! アセビのせいで辛いよぉ! 苦しいよぉ! 疲れたよぉ!」
「……鼓膜が……破けそう」
「元気じゃん。お前めちゃくちゃ元気じゃん」
「わぁぁぁん! わぁぁぁん!」
「わかったよ。悪かったよマーガレット……」
生き残るためだったとはいえ、アセビがマーガレットのエネルギーを奪ったのは事実である。
半端に人の良いアセビは、己の行為を素直に認め、謝罪した。
「本当に、申し訳ない」
「え〜〜〜ん!!! アセビにぃ! あたしの大切なもの無理やり奪われちゃったぁぁぁ!」
「言い方ァ!!」
「んー! んー!! むぐー!!!」
アセビが急いでマーガレットの口を手で塞ぐ。彼女の言うことは、一応間違ってはいない。しかし事情を知る者は3人だけである。
行き交う人々には、アセビが人間のクズにしか見えていないだろう。
「うぐ〜! むぅぅ!!」
「お前、誤解を招くような言い方はダメだろうが!」
「あ、あのアセビ……無理やり黙らせたら……他の人になおさら誤解されちゃうような気がするよぅ……」
ルピナスがさっと耳打ちした。ごもっともな意見である。
アセビはマーガレットの口から手を離した。
「ぷはっ! はぁはぁ……う〜〜〜!!」
マーガレットは涙を流しながら、アセビをじろりと睨みつける。無理やり黙らせたせいで、怒りの炎はさらに燃え上がってしまっていた。
アセビはこの状況を切り開くアイデアを思いつく。ポケットからジャムパンを取り出した。
「なぁマーガレット。ジャムパン1個あげるから、これで機嫌直してくれよ。ジャムパン好きだろ?」
「フン! あたしはジャムパンさんで買収されるような安い女じゃないわよ!」
マーガレットはアセビからジャムパンをひったくるように奪い、泣きながらむしゃむしゃ食べ始めた。
口内に広がる甘み。ふわふわとした食感。マーガレットの表情がみるみるうちに笑顔になっていく。安い女である。
何とかピンチを乗り越えることはできたようだ。アセビは上機嫌になったマーガレットを見て、息を大きく吐き出す。
「とりあえず、そろそろ帰るかな。ルピナス、今日は楽しかったわ」
「ぼくも楽しかったよ。大変だったけど……ちょっとだけ……自信がついたかも……」
「そっか!」
ルピナスは照れくさそうに笑っている。
アセビは嬉しく思っていた。出会ってばかりのころの暗くてマイナス思考な少女は、もういないのだから。
きっとルピナスは、少しずつだが自分の力で前に歩いて行くのだろう。アセビはそう思うと、爽やかな気分になるのだった。
「ルピナス、お前はきっと良い召喚士になれるぜ。もっと自信持てよ! じゃあ、またな!」
アセビがルピナスに別れを告げ、背中を向ける。その瞬間、腕に激しい衝撃が走った。
ルピナスが、掴んでいる。アセビの、腕を。
「えっ」
「あ、あのね……?」
ルピナスの腕はごぼうのように細い。一見すると握力は弱そうに見える。
しかしアセビの腕は、折れるのではないかと思えるほど凄まじい力で掴まれていた。
「あの、ルピナスちゃん!? ちょっとマジで腕痛いんだけど!? 離してほしいんだけど!?」
「ぼく……もう少しだけ……アセビたちといっしょにいたいなって……」
アセビの言葉が聞こえているのかいないのか。ルピナスは薄ら笑いを浮かべながら、アセビの腕を掴んだまま言葉を続ける。ミシミシと音を立てているが、それでも決して離そうとしない。
「……ぼく……まだモンスターと契約してない召喚士だけど……多分役に立つよ……?」
ルピナスの腕を掴む力がさらに強くなる。このままでは本当に折れてしまうかもしれない。
「ぼくたち……運命共同体……だったよね……?」
アセビは察した。ルピナスは自分たちといっしょにいたいのだ、と。
アセビにはルピナスを応援したい気持ちがある。少しでも前向きになれて良かったと心から思っていた。
しかしアセビはすでに、冒険者ギルドのスーパー問題児とチームを組まされているのだ。トラブル発生機のような女と。
「ランダム召喚……次は完璧だよ……きっと……」
アセビとマーガレットのチームに入ったら、今後もまたトラブルに巻き込まれるかもしれない。
ルピナスは輝かしい未来への1歩を踏み出したばかりなのだ。その歩みを無駄にするわけにはいかない。アセビは数秒の間にそう思い、首を横に振った。
「ルピナス、悪いんだけどさ」
「お友だち料金……払うよ……?」
「いやそういうのが欲しいんじゃなくてな……オレたちといっしょにいるとお前が……」
「お願いします! 捨てないでよぅ! ぼくなんでもやるから!」
ルピナスは目に涙を浮かべながら、アセビに向かって大声を出した。必死のアピールである。
小柄で華奢なルピナスが泣いていると、痛ましく見えてしまう。
この状況は、非常に、よろしくない。
「あの子何かひどいことされたのかしら……」
「捨てるって聞こえたわ。きっとあの男が浮気をしたのよ……」
「まあひどい……」
周囲の視線がさらに鋭くなったのを、アセビは肌で感じていた。絶対に誤解されている。そう、確信した。
焦るアセビを見て、マーガレットがニヤリと笑う。
「え~ん! ひど〜い! アセビ、あたしとルピナスを捨てないで~!」
完全な嘘泣きである。しかし効果は抜群だ。
女の子という生き物は、周囲を味方につけたらその時点でどんな状況であろうと勝てるのだ。
なんとも理不尽な世の中である。
アセビはマーガレットとルピナスの間に入り、急いで肩を組んだ。オレたちは仲良しさんだと周囲の人間に主張しているのだろう。
「わかったわかった! みんないっしょな! 運命共同体だもんな! だから泣くなって!」
アセビがルピナスの頭を乱暴に撫で回すと、表情が明るくなった。みんないっしょだと言われたのだ。こんなに嬉しいことはないのである。
ルピナスがチラリとマーガレットを見ると、笑顔でブイサインを作った。
「えへへ! ルピナスのこと、絶対にぼっちにはしないわよ!」
ルピナスはマーガレットに対して若干苦手意識があった。しかし彼女の援護射撃があったからこそ、アセビのチームに入れたのだ。そのことを思うと、苦手意識は薄れていった。
ルピナスはマーガレットに感謝の気持ちを込めて会釈し、再度アセビの腕を握る。
「あの……ふたりともよろしく……」
「よろしくね! これからは3人でいっしょにがんばりましょ! えいえいおー!」
「おー……」
「不安なものだなぁ」
ぼっちは自分に優しくしてくれた人を絶対に絶対に逃したりしないのだ。ルピナスもまた例外ではない。
この瞬間、アセビは借金悪魔女とコミュ障という問題児ふたりの面倒を見ないといけなくなった。2倍になったのだ。負担も、ストレスも。
それでも強く生きていくしかない。家族の幸せのために。
アセビの物語は始まったばかりである。
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