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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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夢見る乙女は眠れない 22

「せいやぁぁぁ!!!」


 オモトの木刀の一振り。それは猛獣が突進してきたと錯覚させるほどの衝撃だった。

 アセビは体重をかけて踏ん張るが、少しずつ後ろに押されていく。


「くそっ! 負けるかよ! うらぁぁぁ!!」


 アセビは負けじと押し返そうとするが、オモトが急に力を抜いて、背後へ飛んだ。

 予想外の行動。アセビは力を入れすぎたせいで、前へ倒れそうになってしまい、大きな隙を晒してしまった。

 オモトは猛スピードでアセビへと接近する。流れるように木刀を容赦なく振り下ろした。


「これで終わりじゃ!!」

「終わらねえ!! ストレングス!」


 アセビは得意の身体能力強化魔法を使い、瞬時に床を転がり、オモトの攻撃を避けた。間一髪である。

 オモトの木刀の威力は凄まじかった。床に穴が空いている。もしこれを受けていたら、アセビもただではすまなかっただろう。


「え!? どうなってんの!? てめえ木刀に鉄でも仕込んでやがるのか!?」

「イチョウの剣は破壊の剣じゃ! ワシの前では岩すら豆腐同然よ!」

「ヤバすぎなんだけどマジで」


 アセビは額に滲んだ汗を拭い、再度木刀を構える。実力差を感じつつも、戦意は喪失していないのだ。

 オモトは再びアセビへと突っ込むが、彼はストレングスで腕力と脚力を強化している。今度は逆にアセビが押し返した。


「純粋な力比べなら負けねえぞ!」


 オモトはアセビの力だけは認めたらしい。大きく息を吐くと、僅かに退いて鋭い眼光を向けた。


「まぁ少しは認めてやるわ。だが!」

「うぉ!?」


 オモトは勢いよく床を蹴り、再びアセビとぶつかり合った。衝撃音が道場に響く。オモトは自身の木刀を何度もアセビのそれにぶつけた。


「どうしたどうしたぁ!? 力だけでこのわしを倒せると思っているのかぁ!?」

「防戦一方だぜ!!」

「オモトさん、いいぞー!」

「くそっ! 耐えるしかねえのか!?」


 しばらくオモトの猛攻が続くが、アセビは木刀を落とすこと無く耐えていた。しかしこのまま守っているだけでは勝てない。

 アセビは勇気を出して攻めに転じることにした。オモトの木刀を払い退けるため、自身のそれをぶつけようと腕に力を込める。


「いい加減にしろや! 次はオレが攻める番だ!」


 しかし、その時、悲劇が起こった。


「なっ!?」

「ワシの攻撃に耐えられなかったようじゃのぅ!」


 アセビの木刀が突然ボキリと折れてしまった。イチョウの剣は圧倒的な破壊力を持つ。まるで岩のように。

 アセビの木刀は耐えきれず、とうとう折れてしまったのである。


「うっそぉ……」


 アセビは目を見開き、自身の握った木刀の柄をじっと見つめている。

 オモトが満足そうに大声で笑い出した。


「ギャハハハハ!! 折れたぞ!」

「今が好機! オモトやっちまえー!」

「オモトさん、実質あんたの勝ちだぜ!」

「ワハハハハハハハハハ!!!!!!」


 取り巻き立ちも笑いだした。道場に大きな笑い声が響き渡る。

 異様な雰囲気に、ルピナスは表情を強ばらせた。


「怖いよぅ……」

「アセビ! 坊主男に負けないで! まだ負けたわけじゃないでしょ!」

「そうは言うがな、マーガレット! もう握る部分しかないんだって!」

「気合よ! 気合でなんとかしなさい! 坊主男なんてリッちんと比べたら大したことないでしょ!?」


 マーガレットが、取り巻きたちの笑い声に負けじと大声を出してアセビを応援した。その必死な姿がオモトとアヤメの溜飲を下げたらしい。ふたりは心底楽しそうにニヤニヤと笑っている。

 オモトは威嚇するように木刀を振り回した。アセビに向かって恐怖心を刺激するように、じりじりと距離を詰めていく。

 絶望的な状況だ。アセビは汗を拭った。


「ストレングスはもうすぐ効果が切れちまう……オモトはとてもじゃないが素手で勝てる相手じゃねえ」

「アセビ! 降参しろ! このままでは大怪我をしてしまうぞ!!」


 必死の形相で叫ぶサツキを見て、オモトが首を傾げながらアヤメに尋ねた。


「カシワのぉ! この決闘は、決着がつくまで続けるんだったのぉ!?」

「ええ、そうですわ」

「真剣勝負に降参などないわ! どちらかが戦闘不能になるまで戦い続ける……そうじゃのぉ!?」

「もちろん」


 オモトの問いに静かに頷くアヤメ。彼女は薄ら笑いを浮かべていた。

 サツキは理不尽な屁理屈に絶句する。怒りの感情を爆発させ、試合に乱入しようと竹刀を握った。


「そんな屁理屈、この私が許さん!!」


 今にも飛び出しそうなサツキを見て、アセビが手を振った。その表情に焦りはない。余裕すら感じさせる。


「どうどう! サツキ、大丈夫だ! オレ絶対勝つからさ! そこで見ててくれよ!」

「大丈夫って……お前はもう武器が……」

「あちらさんがそういうことするなら、オレも遠慮なくやることやれるってもんだぜ」

「アセビ……?」

「まー、見てなって!」


 実力差は圧倒的。頼れる武器は失ったも同然。

 アセビの勝利宣言は強がりなのか、それとも勝機があるから宣言したのか。サツキにはわからなかった。今彼女にできること。それは勝利を祈ることだけだ。

 オモトがアセビを小バカにするように鼻で笑った。


「おい、わかってるのか? 貴様は丸腰。ワシは武器を持っているんじゃ。勝てる道理がなかろうが」

「言われなくてもわかってるよ」


 アセビは折れた木刀の柄を投げ捨てると、オモトに向かって手のひらを広げ、腰を低くして構えた。

 不安な表情で見つめるキサヌキ家陣営と、大声で笑う両家の取り巻き。非常に対照的である。


「なんじゃその構えは。降参するから許してくれってことか? 認めんと言ったばかりじゃろうが」

「いや? 降参なんてしねえけど?」

「どういうことじゃ」

「あんたを倒すための準備をしてるんだよ。見てわからねえのか?」


 焦る様子を見せないアセビに苛立ち、オモトは額に青筋を浮かべながら叫んだ。


「ド素人が! 命までは取らんが、腕や足の1本や2本は覚悟せい!」

「アセビ!」

「ひゃっ……」


 アセビに向かって突進するオモトを見て、マーガレットとルピナスは目を覆った。大事な存在が傷つく姿は見たくなかったのだ。例えヒールで癒やすことができるとしても。

 オモトがアセビに襲いかかり、数秒が経過した。悲鳴や骨の折れる音は一切聞こえない。道場は静まり返っている。マーガレットとルピナスは指と指の隙間から、アセビとオモトの姿を確認した。


「えっ」

「な、なにこれ……」

「……うぉぉぉ……」


 マーガレットとルピナスの目に予想外の光景が映し出されていた。

 アセビは腰を低くしてじっと構えたまま、一切動いていない。

 一方オモトは両手で頭を押さえ、苦しそうに顔を歪めている。


「な……なんじゃあ……頭が……割れる……っ」


 突然苦しみだしたオモトを見て、アヤメと取り巻きは困惑していた。先ほどまで暴れまわっていた男とは思えなかったのだ。

 サツキははっとした表情を浮かべる。以前アセビの黒魔法の練習台になったことを思い出したのだ。その名はマイグレイン。それは頭が割れるような鋭い痛みを発生させる黒魔法。その苦痛は拷問にも等しい。

 オモトの様子を見てサツキは確信した。アセビが黒魔法を使ったのだ、と。


「あんた言ってたよな? どちらかが戦闘不能にならないと、この決闘は終わらないってよ」

「うぉぉぉぉぉぉ……頭が……割れる……」

「終わりにするぜ」


 アセビがオモトに語りかけるが、等の本人には聞こえていないだろう。激しい頭痛から逃れようと、頭を押さえてうめき声を上げている。

 このまま放置すればオモトの精神は崩壊する。間違いなく。


「そのまま動くなよ!」


 アセビはオモトに接近して懐に飛び込んだ。体を沈めて彼の腕を掴み、そのまま背負って勢いよく投げ飛ばした。


「おりゃあああ!!!」


 綺麗な一本背負いが、見事に決まった。

 

「うおぉぉ……」


 オモトは受け身を取ることができず、床に勢いよく叩きつけられてしまった。体全体に走る激痛。しかしそれは救いでもあった。意識が飛べば、黒魔法から逃れることができる。

 オモトは絞り出すように声を出した。


「うぉぉぉ……わしの……負けじゃあ……」


 それだけ言うとオモトは意識を失い、大の字で伸びてしまった。戦闘続行は不可能だろう。

 アセビの完全勝利である。


「オモトさんが負けた!?」

「バカな!? 素手の素人だぞ!?」

「あ、ありえねえ!!」


 信じられない現実にショックを受け、ざわつくイチョウ家の取り巻きたち。激しく動揺している。まさかイチョウ家陣営最強のオモトが敗れるとは思っていなかったのだ。


「それにしても、なんでオモトさんは急に苦しみだしたんだ……?」

「あ、ああ。確か頭を押さえてたが……」


 取り巻きに説明するため、サツキが腕を組みながら口を開いた。


「西の大陸の人間は魔法を使う。それぐらいは知っているだろう? たった今、アセビも使ったんだ」

「ま、魔法……」

「あぁそうだ。アレは目の前の人間に鋭い頭痛を与える黒魔法だ。アセビがすぐに投げ飛ばしたから障害は残っていないだろうが、長時間放置していたら精神が崩壊していてもおかしくなかっただろう」


 取り巻きたちは震え上がった。恐怖心の芽生えた目でアセビを見つめている。


「あいつ人畜無害みたいな顔して、そんなエグイ魔法使うのかよ……」

「気持ち悪い……」

「恐るべし西の人間……」


 取り巻きたちは困惑しながらも、アセビに対する評価を改めた。彼はクレマチスを救った英雄。最初から戦闘の素人と侮ってはいけなかったのだ。

 アセビは倒れているオモトに視線を向けた。


「あんたが降参を認めてくれていたら、オレはきっとそうしてたぜ」


 アセビは思う。やはり黒魔法はできるだけ使うべきではない、と。純粋な技量で勝てる実力があれば、オモトを苦しませることはなかったのでは、と。

 見事勝利したが、アセビの表情は曇っていた。


「やれやれ……終わり終わりっと」


 アセビがキサヌキ家陣営に近づくと、複雑そうな表情を浮かべているマーガレットとルピナスが出迎えた。彼女たちは黒魔法に何度か救われている。忌み嫌っているわけではなく、それなりに理解はある。

 しかし黒魔法を受けてもがき苦しむオモトを見てしまった。思うところがあったのだろう。どこか、もの言いたげな様子だ。


「まぁ……勝ちは勝ちなんだけどぉ……ねぇ?」

「うん。でも降参させないって言った、あの坊主男も悪かったと思うよ……うん。でも……うん」


 言葉にできないアウェイ感。アセビは天を仰ぐことしかできなかった。


「アセビ!」


 サツキはアセビの頭を乱暴に撫で回した。ウツギとカエデは微笑みながら拍手を送っている。

 キサヌキ家の一族は、全員アセビの勝利を純粋に祝福しているのだ。アウェイ感など、なかった。


「全く! あまり私を心配させるな! 大怪我すると思ったぞ! だが……おめでとう。見事だった!」

「練習の成果が出ていましたな。アセビくん、木刀は折られてしまったが、動きは悪くなかったですぞ!」

「おばさん何が起こったかようわからんけど、アセビさんおめでとう! あんたの勝ちやで!」

「はは……」


 勝利を祝われ、アセビは照れ臭そうに頬をかいた。

 東の大陸には魔法を使う文化は一切ない。この土地に住む人々は、己の肉体や知恵だけで、全ての問題を解決してきた。

 東の大陸の人々は、生きるためならどんな技や武器も躊躇わず使うべしと考える者が多い。そのため黒魔法を堂々と使用しても、蔑まれることはないのだ。ある意味アセビにとって楽園なのかもしれない。


「今の仕事終わらせたら、オレ、シャクナゲに移住しようかなぁ。ここエデンじゃん。帰るべき場所じゃん」

「ええよええよ! ウチに住み! おばさんが部屋も用意するで!」

「あぁん! ダメダメダメダメ! アセビはあたしのだからダメなの!」


 アセビの腕にしがみつくマーガレットを見て、サツキは微笑みを浮かべる。しかしすぐさま視線を道場の中央へと向けた。

 アヤメが怒りの感情を隠そうともせず、サツキを睨みつけていたからである。まるで般若のようだった。滅多に見せない表情なのだろう。カシワ家の取り巻きたちは恐怖で震え上がっている。

 アヤメが勢いよく竹刀をサツキに向けた。


「喜ぶのはそれまで! 本番はここからですわ!」

「次は私の番か」

「わたくしが受けた数々の屈辱! 倍にしてあなたにお返ししますわ!! イチョウさんは敗北しましたが、あなたを倒し、アセビ・ワビサビーを倒せば我々の勝利です。どうかそのことをお忘れなきよう」

「そうか」


 サツキはそっけなく答えて竹刀を構えた。

 カシワ家の取り巻きは顔を見合わせ、大きく深呼吸する。全員同時に手を上げ、宣言した。


「では……始め!」

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