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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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ぼっちは自分に優しくしてくれた人を逃さない 5

「はぁ……はぁ……」


 ルピナスは押し寄せるプレッシャーのせいで、呼吸が荒々しくなっていた。地に膝をつき震えている。

 絶望からか、目からは涙があふれていた。

 そんなルピナスを見て、アセビは両肩を掴んだ。


「大丈夫だルピナス。あと1回チャンスがある」

「で、でも! 駄目だった! 今までも! そしてこれからも! ぼくは駄目な子なんだよ!」

「やってみなければわかんねえさ」

「じゃあ、もし次やっても駄目だったら!?」


 アセビがニヤリと笑う。


「駄目だった時に考えようぜ」


 ルピナスの涙が止まる。不思議とアセビの言葉を聞いたら、次はうまくいく気がしていた。

 ルピナスが顔を上げる。絶望的な状況なのに、アセビは微笑んでいた。ランダム召喚が成功すると信じているのだ。

 一方マーガレットは錯乱していた。涙を滝のように流しながら、周囲を忙しなく走り回っている。


「ルピナスちゃああああん! お願い! 中の下ぐらいのモンスターでもいいのよ!? なんか戦えそうなモンスター呼び出してぇぇぇ!!!」


 ルピナスがゆっくりと立ち上がる。その表情はどこか穏やかに見えた。

 アセビがいてくれるから、きっと大丈夫。ルピナスはそう思っていた。


「スケルトンさああん! あと1時間待ってええ!」


 恐らく次がラストチャンス。

 ルピナスは心を少しでもリラックスさせるため、深呼吸をした。


「まだ死にたくなぁぁぁい!!」


 ルピナスは、この状況を打破できるモンスターを呼び出せるように、集中したいと思っていた。

 再度深呼吸をする。


「いやあぁぁぁぁぁ!!」

 

 ルピナスは苛立っていた。集中したいのに、さっきからマーガレットが非常にやかましいからだ。

 マイナス思考のルピナスは、マーガレットが邪魔をするためにやっているのではと、疑い始めていた。


「お願いぃぃぃ! お願いぃぃぃ!」


 リーダーのスケルトンも呆れている。マーガレットを見て、深いため息をついた。


「あいつマジでうるせぇな。こんなことなら、さっさとぶっ殺しておけばよかった」

「すんません……ちょっと元気すぎる子なんで……」

「死にたくないぃぃぃぃぃぃ!!」


 ルピナスは苛立ちながら思い出した。マーガレットがスケルトンの宝石を盗ったせいで、危機的状況に陥ったことを。

 ルピナスの心と魂に、怒りの炎が燃え上がる。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 ルピナスが、頭をガリガリとかきむしる。ストレスが頂点に達したのだ。

 ルピナスは大切にしている契約の本を地面に思いっきり叩きつけ、叫び声を上げた。


「ル、ルピナス!? どうしたんだ!?」

「な、なに!?」


 豹変したルピナスを見て、アセビとマーガレット、スケルトンたちが驚く。

 普段おとなしい子がキレたら非常に怖い。何をするかわからないからだ。

 ルピナスが怒りを込めて呪文を叫ぶ。


「ぼくのエネルギーを全て差し出す! それで足りなきゃ命も吐き出す! 内気な自分とすぐさま別れる! あなたのお力今だけ拝借!」


 ルピナスの前に煙が立ち上る。

 周囲の空気が一変する。息をするのも苦しいほどに。


「ランダム召喚! デュラハン!」


 煙の中から現れたのは、首無しの騎士、デュラハンだった。右手に剣を持ち、首を小脇に抱えていた。

 戦力としては申し分ないモンスターである。

 デュラハンはルピナスに視線を向けた。


「我が名はデュラハン。我を呼んだのは貴様か。覚悟はできているのであろうな?」

「あわわ……」


 ルピナスは目の前に立つデュラハンのプレッシャーに圧倒され、腰を抜かす。怒りの感情も消し飛んでしまった。


「駄目だわ。首無しくん、絶対言うこと聞いてくれるタイプじゃないわ……」


 マーガレットが頭を抱えてしゃがみ込んだ。自身の命が終わるのを感じているのだろう。

 アセビは黙ってルピナスの前に両手を広げて立ち、デュラハンから必死に守ろうとしていた。


「ルピナスに手は出させねえ!」

「ぼくのエネルギー、命、なんでもあげるから……お願い……助けて……デュラハン……」

「別にいいけど」


 デュラハンの答えにアセビたちはずっこける。軽いノリで返事をしてくれるとは、予想できなかったのだ。

 アセビは急いでデュラハンに近づき、声を荒げる。


「おいおいおいおい!? あんたさっき、覚悟はできているのかって言ってたよな!? てっきりルピナスを斬ろうとしているのかと思ったぞ!?」

「斬らない斬らない! 召喚士に呼び出されたら、あのセリフ言うようにしてるだけだから。どう? めちゃくちゃクールでしょ?」

「じゃ、じゃあぼくたちを助けてくれるの!?」


 叫ぶルピナスを見て、デュラハンが剣を地面に刺して答える。


「うーん、いいんだけどね。お嬢ちゃんのエネルギーだけじゃちょっとだけ足りないっていうか。あとちょっとだけエネルギーほしいな? 的な?」

「た、足りない……?」

「ほら、一応おじさん誇り高い系の騎士だから? あまり安っぽく? 動くのも? なんかあれじゃん? イメージ違うじゃん?」

「……う?」


 デュラハンが意味深なことを言いながら、チラチラとアセビとマーガレットを見ている。明らかに何かを求めていた。

 アセビは脳を高速で動かす。


「デュラハンは誠意を見せろと言っているのか……」


 デュラハンの気が変わらないうちに、なんとかしなければならない。ルピナスのエネルギーでは足りないと言う。ならばやることはひとつしかない。


「マーガレット! 手を出せ! この状況をなんとかするには、お前の協力が必要だ! 頼む!」

「別にいいけれど……何をするの?」


 アセビはマーガレットの腕を掴んだ。


「こうするんだよ! 黒魔法エナジードレイン!」

「きゃあああああああ!」

「く、黒魔法……」


 アセビがエナジードレインで、マーガレットのエネルギーを奪い取ると、彼女は膝から崩れ落ちた。ピクピクと痙攣している。

 ルピナスは黒魔法を見たことにより、口をあんぐりと開け固まっていた。


「黒魔法……怖いよぅ……」

「やっぱイメージ悪いよなぁ!? でも今だけは我慢してくれよなあっ!!」


 アセビは構わずそのままルピナスの手を握る。自分の分とマーガレットから奪ったエネルギーをいっしょに送った。

 アセビは疲労感に耐えきれず、地に膝を付き、肩で息をしている。


「はぁはぁ……エナジードレインは……体力やエネルギーを……奪うだけじゃねえ……はぁはぁ……渡すことも……できるんだ……デュラハン……エネルギー……それで足りるか……?」

「お願い! デュラハン!」


 デュラハンはしばらく考え込んでいたが、ルピナスの頭をそっと触り、エネルギーを吸いとる。少しずつ体から力が抜けていく。

 ルピナスは体内から急にエネルギーが減ったことにより、体をよろめかせている。

 アセビは急いで立ち上がって華奢な背中を支えた。

 デュラハンは慌てて手を横に振っている。どうやら予定していたよりも、エネルギーを多く吸い取ってしまったらしい。


「あっごめんごめん! エネルギーちょっともらいすぎたかな? でも確かに受け取ったからね」


 アセビは勝利を確信した。

 ルピナスも勝利を確信した。

 マーガレットは痙攣していた。


「それはそうとさ。ちょっとそこの彼いいかな」


 アセビは、まさかデュラハンが絡んでくるとは思わなかった。表情を強張らせて身構える。


「な、なんだよ?」

「いいんだけどさ。うん。いいんだよ? エネルギーいっぱいもらえたしね」


 などと言っているが、デュラハンはアセビに対して何か思うところがあったのだろう。地面に向かって、剣を何度も刺している。


「おじさんとしては? 兄ちゃんと? そこの痙攣してる彼女が? じゃあオレの、あたしのエネルギーを持っていってほしい的な? そういう感じでお願いしてくれる方が? よかったかなみたいな?」

「えっ」

「そしたらほら? フハハハハ、面白い奴らよ! 特別に僅かばかりのエネルギーでも構わぬ! 的な? 流れになるじゃん?」

「そ、そうっスかね……?」

「そっちのほうが誇り高き騎士っぽいじゃん? 兄ちゃんもそう思うじゃん?」

「すんません……勉強不足だったっス……」


 デュラハンの面倒臭い親戚のおっさんのような言動に面食らいながら、アセビは素直に謝罪した。


「兄ちゃんまだ若いしね。まー、わかってくれたらいいからね。次から気をつけてくれたらいいからね」


 言い終わると、デュラハンはアセビたちに背中を向けた。この場から立ち去ろうとしている。

 ルピナスが慌ててデュラハンの前に立ち塞がる。涙を流しながら必死に両手を広げた。


「待って! デュラハン、ぼくたちを助けて! アセビとマーガレットを守って!!」

「ん? スケルトン倒せばいいんだよね?」

「そうだよ! 頼むぜ! あんた強いんだろ!?」


 アセビが叫びながら周囲を見渡す。

 先ほどまで大量のスケルトンに囲まれていた。

 しかし不思議なことに、もうどこにもいなかった。


「あ、あれ……?」


 アセビは理解した。目の前のデュラハンが全て倒したのだ。いつ倒したのか、まるで気づかなかった。

 風が吹き、灰が飛んでゆく。先ほどまでスケルトンだったものだろう。

 アセビとルピナスは息を飲んだ。


「い、いつ倒したの……? 見えなかった……」

「これが誇り高き騎士の実力……!!」

「あれ? おじさんなんかやっちゃいました? 全然本気じゃなかったんだけどなぁ〜20パーぐらいしか力出してないんだけどなぁ〜」


 デュラハンが得意げに勝ち誇る。

 内心ルピナスは複雑だったが、無事に窮地を脱することができたことに安堵していた。

 契約を持ちかけるには今しかないだろう。ルピナスは勇気を出して、デュラハンに語りかける。


「デュラハン……ぼくと契約してくれない……?」


 デュラハンは優しくルピナスの頭を撫でた。


「そうだね。お嬢ちゃんが立派な召喚士になれたらいいよ。その日がくるのを待っているからね」

「……うん! ぼく、がんばる……!」


 前向きに検討するというやつである。大人の対応だ。 

 面倒くさそうなおっさんに見え、ルピナスを傷つかせないようにする完璧な言葉選びである。

 アセビは心の中でデュラハンのに敬意を表した。本人の言う通り、本当に誇り高き騎士なのかもしれない。


「えっとねぇ。お嬢ちゃんは守ってあげたくなるような雰囲気あるんだよね。だから多分すぐ契約できるよ。おじさんが保証する」

「そうなの? でもぼくエネルギーちょっとしかないから、うまく契約できるかな……」

「大丈夫大丈夫! どんなに望むものをくれようが、気に入らない奴とは契約したくないものだからねぇ。逆を言っちゃえば、気に入られたら即オッケーなのよ」

「……本当に?」


 ルピナスは疑問をぶつける。デュラハンは快く答えてあげることにした。未来ある少女のことを、放っておけなかったのかもしれない。


「そういうもんさ。信じてほしいね。お嬢ちゃんだって嫌いな上司と仕事したくないだろ?」

「うん。したくないよぅ」

「これはおじさんからのちょっとしたアドバイス。契約するなら、鳥系とか精霊系はやめときな。あいつら態度でかいしむかつくからな!」


 ルピナスは懐からペンと紙を取り出した。アドバイスを必死にメモしている。

 デュラハンはさらに言葉を続けた。


「お嬢ちゃんには、植物系とか獣系とか虫系が向いてる気がするよ。あいつらバカだけど、寂しがり屋で素直で頑張り屋だからね」

「そうなんだ……うん。参考にするね」


 親身になってくれるデュラハンに、ルピナスの胸の奥が暖かくなっていく。いつかこの誇り高き騎士に認められるよう、立派な召喚士になろう。そう心に誓うのであった。

 マイナス思考のルピナスが、少しだけ前に進んだ瞬間である。


「……デュラハン、ありがとう」

「うん。じゃ、またね」


 デュラハンはアセビとルピナスに軽く手を振り、そのまま立ち去った。若干テンションがおかしなモンスターだったが、助けてくれたことに変わりはない。

 アセビたちは生き残ることができたのだ。

 ルピナスはほっとしたのか、膝から崩れ落ち、瞳から熱い歓喜の涙を流した。


「よかった……よかった……」

「やったなルピナス! お前のおかげだ! お前の召喚術で全員生き残れたんだぜ!」

「アセビ……ぼく……!」


 ルピナスがアセビに抱きつき、嗚咽を漏らす。


「うわぁぁぁん! よかったよぅ! みんなで生き残れてよかったよぅ!」

「ルピナスありがとう! お前は最高の召喚士だ!」


 アセビがルピナスの頭を優しく撫でる。

 コミュ障でマイナス思考の少女が出した勇気。アセビはそのおかげで救われたことを、生涯きっと忘れないだろう。

 ルピナスは顔を上げ、恐る恐る尋ねる。


「アセビ……ぼく……変われるかな……?」

「何言ってんだ。変われたじゃねえか」


 夕日がアセビたちを優しく照らす。それはまるで、変わり行くルピナスを祝福しているかのようだった。

 ふたりはいつまでもいつまでも、穏やかな表情で夕日を眺めているのだった。


「ははっ!」

「……ふふ」


 アセビとルピナスの足下で、白目で痙攣しているマーガレットが転がっている。彼女の存在にふたりが気づくのは、まだまだ先のことである。

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