夢見る乙女は眠れない 10
「それにしても……」
広い。キサヌキ家の屋敷は迷路のようだった。ひとりだと迷ってしまうかもしれない。
アセビは緊張しているが、マーガレットとルピナスは滅多に入れない大きな屋敷に興味津々だ。瞳をキラキラと輝かせている。
「3人とも、ちょっと見ててな」
「おばさん?」
「えいっ!」
カエデが廊下の壁を押すと、勢いよく回転した。アセビたちがそっと中を覗く。目に小部屋が映った。壁には刀と槍が立て掛けてある。敵襲に対応するための部屋なのだろう。
マーガレットは驚き、目を見開いていた。
「おばさんなにこれ!? どういうこと!?」
「すごいやろ? このお家には、こういう仕掛けが結構あるんよ」
キサヌキ家の屋敷には、隠し部屋以外にも様々な仕掛けがあった。床を強く押すと地下に進むための通路が現れ、天井を棒で叩くと屋根裏へ進むための階段が下りてくる。その姿はまさにカラクリ屋敷だ。
刺激的な仕掛けに、ルピナスは頬を赤くして興奮していた。
「すごいなぁ! 憧れちゃうなぁ!」
「せやろ? オバさんも始めて見たとき驚いたわ。そうそう、まだまだ見せたいところがあるんよ」
「おばさん! あたしお庭のお花畑が見たい!」
「ええよ! あそこはウチの努力の結晶やしな!」
マーガレットの提案をカエデは快く受け入れ、全員で庭を見に行くこととなった。
爽やかな風が吹き、花々が元気に揺れ動く。まるで踊っているように見える。マーガレットは花畑の前でうっとりとした表情になっていた。
カエデは誇らしげに胸を張っている。
「どや? 素敵なお庭さんやろ?」
「素敵……」
「みんなのお家の庭じゃ、こういう広くて綺麗な花畑は作れねえなぁ……」
「綺麗よね。あたし、こんなお花畑に囲まれて生きていたいわ!」
「綺麗やろ? オバさんみたいで! アハハ!」
マーガレットとカエデは顔を見合わせて、いっしょにゲラゲラと笑った。
明るく和やかな空気になったからだろう。ルピナスもつられてくすりと笑っている。
「ルピナスちゃんただでさえ可愛いのに、笑うともっともっと可愛いくなるわぁ! ええよええよ!」
「そんなこと……」
「まー、1番可愛いのはオバさんなんやけどな!」
カエデの冗談を聞いて、マーガレットとルピナスは口を大きく開けて笑った。出会ってまだ数時間だ。しかし女性陣はすっかり打ち解け、仲良くなっていた。
コミュ障のルピナスの笑顔を引き出す、カエデのコミュニケーション能力の高さに、アセビはただただ感服していた。
明るく遠慮がなく、おしゃべりでお節介焼き。しかしどこか憎めない最強の生命体。それがオバハンなのである。
「よっしゃ! ついでにお野菜さんも見にいこか! オバさん結構お野菜さん作りも得意なんやで!」
「行きましょ! あれ? あそこにいるの芋虫くんたちよね? 何やってるのかしら?」
「えっ」
ルピナスは芋虫たちに、玄関の前で待機するように指示を出していた。しかし彼女たちはいつのまにか移動していたのである。
アセビたちだけでなく、芋虫たちにとってもキサヌキ家の屋敷と庭は刺激的だったのだ。彼女たちは興味津々に周囲を見回し、その結果、宝の山を見つけた。
芋虫たちはヨダレをたらしながら、野菜畑に向かって前進している。
「もしかして芋虫くんたち……お野菜さん食べようとしてるんじゃない!?」
「ひゃー! 芋虫さんたち待って! お野菜食べだらダメだよぅ!」
「あら~! 芋ちゃんたち食いしん坊さんやねぇ」
マーガレットとルピナスは、急いで芋虫たちに向かった。必死に背中にしがみつき、野菜畑に向かうのを阻止している。カエデは笑いながら小走りでマーガレットたちの後を追った。
「ちょっ!? みんな落ち着きなさいって! おばさんのお野菜さんなのよ!?」
「触覚ちゃん、お芋食べないでぇ! 傷くんも人参食べたらダメだよぅ!」
「ええよええよ! ええ食べっぷりやないの! ウチのお野菜さんが美味しかった証拠やね!」
野菜を食べられてしまったが、特にカエデは気にしてなさそうだ。むしろ喜んでいるように見える。
アセビはそんな芋虫たちの暴走を見て、堪えきれず吹き出してしまった。マーガレットたちの援護に行こうと足に力を入れるが、瞳に道場が映る。
アセビは興味を覚えたのだろう。道場をじっと見つめている。
「……行ってみるか」
アセビは芋虫たちのことをマーガレットに任せ、道場に向かった。




