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お庭に根付いた雑草どもは今日も元気に咲き誇る 〜ヒーラー、サモナー、ガーディアン、頼れる仲間は問題児〜  作者: 仔田貫再造


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夢見る乙女は眠れない 4

 翌日。

 アセビ一行は簡単な朝食をすませ、みんなのお家を足早に出た。

 クレマチスを出てしばらく歩くと、マーガレットが不安そうな表情を浮かべる。


「それで、移動手段はどうするの?」

「うむ。シャクナゲに行くには、港に行って船に乗らなければならないのだが……」


 ルピナスは、ぼくに良い考えがあると言っていた。アセビたちは期待を込めて見つめる。

 ルピナスは両頬を赤くし、契約の本を取り出した。


「大地を揺るがす。天を引き裂く。偉大な力を持つ救世主」


 ルピナスが呪文を唱えると、目の前で煙がもくもくと立ち上った。芋虫を召喚したのだ。彼女は元気であることを主張するように、体を伸び縮みさせている。

 ルピナスが意味深に目配せすると、芋虫は何度も頷いて地面に潜った。


「なになに? 芋虫くん帰っちゃったわよ?」

「ちょっと待っててね」


 数秒ほど待つと、地面から芋虫が元気に顔を出した。


「あれは!?」

「あら〜!」


 アセビが周囲を見渡すと、次々と芋虫の仲間と思わしきキャタピラーたちが地面から顔を出した。彼らは元気に地面から飛び出し、ルピナスの前に行儀良く並ぶ。全員どこか誇らしげな顔をしている。


「芋虫の仲間たちか! 不死王のときはお世話になりました!」

「なるほどね! この子たちの背中に乗せてもらうってわけね!」

「ほう、確かに良いアイデアだ」

「うん。馬車を借りるとお金もかかるしね」


 本来ルピナスは契約した芋虫しか呼び出すことはできない。しかし彼女はカリスマ性があるらしく、群れで女王様扱いされているらしい。それにより芋虫と契約したルピナスは、実質同時に多くのキャタピラーを従えることができるのだ。


「芋虫さんに人数分のお友だちを連れてきてって、昨日お願いしておいたの」


 芋虫が連れてきたのは、体の大きな茶色いキャタピラー、顔に傷のあるキャタピラー、触覚が短い体の小さいキャタピラーだ。芋虫も加えると全部で4匹。アセビ一行はひとりずつ背中に乗せてもらえるというわけだ。


「お名前あるのかしら。全員芋虫くんって呼ぶのもわかりにくいわよね」

「えっと。芋虫さん。茶色どん。傷くん。触覚ちゃんです」


 わかりやすい名前である。

 アセビたちは少し適当すぎないかと思ったが、3匹のキャタピラーたちは嬉しそうに瞳を輝かせている。どうやら気に入ったらしい。

 

「芋虫さんのお友だちも可愛い……みんなおいで」


 ルピナスはその場にしゃがみこんで両手を広げた。ぎこちない笑みを浮かべている。

 芋虫たちはしばらく顔を見合わせていたが、意味深に頷き合った。全員同時にルピナスの胸に飛び込んだ。


「あっ!」

「芋虫くん!?」


 芋虫たちはルピナスの背中を頭で持ち上げ、空中に向かって何度も放り投げた。世にも珍しいキャタピラーたちの胴上げである。

 芋虫の仲間たちは、女王の愛する契約者との交流を心から喜んでいるのだ。


「ひゃ~! 落ちちゃうよぅ!」

「芋虫たち、落ち着け! ちょっとストップ!!」


 アセビ一行は芋虫たちを強引に引き剥がし、彼女たちの背中に乗った。


「じゃあ出発! 芋虫たち、よろしくな!」

「よろしくね!」


 アセビ一行は芋虫たちの背中に揺られながら、そのまま目的地の港を目指した。

 天気は非常に良く、雲ひとつない。青空が元気に顔を覗かせている。絶好の旅日和だ。

 猛スピードで走る芋虫たちの背中に乗りながら、アセビは今後のことを考え、会議することにした。


「なあ、サツキ。ちょっといいか? お前のお袋さんの嫌な予感って何だろうな」

「ふむ。両家が何かを企んでいると書いていたが。もしかしたら……」


 サツキは首を横に振り、自身の考えを口にするのを止めた。何を思おうと個人の自由だが、口にした時点で避けられなくなる問題もあるからだ。


「いや、何でもない」

「ねえ。弟くんと妹ちゃんがいるのよね? お母さんわざわざサツキに頼まなくても、そのふたりにお願いすれば良かったんじゃないかしら?」

「ふたりとも剣を握る道を選んだからな。贔屓目に見ても弟と妹に勝てる賊はいないと私は思っている。実力は本物だよ」

「ならなんでわざわざサツキにお願いしたのかな?」

「ふむ……」


 考えれば考えるほど疑問が生まれてくるが、実際に行けばすぐその理由は判明するはずだ。

 アセビは空気を変えるため、ゲラゲラと大声で笑い始めた。


「がははっ! 細かいことを考えても仕方がねえ! 行ってから考えようぜ!」

「そうだな。その方が私たちらしいというものだ!」


 サツキは頬を叩き、気合いを入れ直した。




 その後アセビ一行は、他愛のない会話をしながら問題なく港に到着した。彼らの目線の先には、海に浮く立派な木造の船が一隻。数多の海を航海したのだろう。ところどころ傷が刻まれている。

 アセビ一行は乗船するため、受付の小屋に向かって歩みを進めた。そこには眠たそうな顔をした男がいる。彼はアセビたちに気づき、軽く会釈した。


「どうも。乗るのかい?」

「うっス。よろしくおねがいしまーす!」

「全員で4人だね? ひとり2千イーサンだけど、いいかい?」

「合計8千イーサン!? 運賃って高いのねぇ……」

「その代わり命がけで私たちを運んでくれるのさ」

「へへっ、その黒髪の姉さんの言うとおりさ。運賃はあんたたちの命の保証金なんだ。お嬢さん、そう考えたら安いものじゃないかい?」

「ぶ〜……」

「あれ……?」


 受付の男が眉間にシワを寄せた。視線の先にはルピナスの後ろに並んだ芋虫たちがいる。


「そのキャタピラーたちはちょっと……」

「だ、だめなの……?」

「死体とモンスターは船で運んだらいけないことになっているんだよね……」


 男が申し訳なさそうに言った。

 芋虫たちは体を小刻みに震わせながら、大きな目玉を潤ませている。泣き落とし作戦だ。芋虫たちもアセビ一行といっしょに船に乗って、シャクナゲに行きたいのだろう。


「そんな顔しても駄目だって……ん、待てよ? キャタピラーで気づいたんだけど、あんたたちもしかしてクレマチスの冒険者さん?」

「うっス。クレマチスで冒険者やってる、アセビ・ワビサビーっス」

「あたしはマーガレット! マーガレット・デット・ダメットよ!」


 男は眠たそうな目を擦り、アセビ一行を見回した。


「クレマチスには足の不自由な俺のババァが住んでるんだよ! あんたたちのおかげで助かったんだ!」

「それはよかった」

「えっへん!」

「あんたたちは恩人だ。恩は返さないといけねえ。ババァが言ってたしな。お嬢ちゃん。そのキャタピラーはぬいぐるみだろ?」


 ルピナスはきょとんとした顔をするが、男の気持ちを察した。恩を返すため、ルールを無視して見て見ぬふりをすると言ってくれているのだ。


「うん。ぬいぐるみだよ」

「なら問題はないね。でも船の上ではちゃんとおとなしくさせててね」

「おじさん、ありがとう」

「どうもっス! 甘えさせてもらうっスよ!」

「ダンゴムシくん、これからもあんたたちの活躍期待しているからな!」

「はは……」


 良い空気のまま別れたかったのだが、ダンゴムシという言葉がアセビの胸に突き刺さった。アセビ一行は世界的に有名になってしまったため、どこまでも風評被害がついてまわるのである。

 しかしダンゴムシと言うなと言えるはずもない。男は純粋に応援してくれた。アセビのことを煽る気持ちはこれっぽっちもないのだから。


「ぷっぷっぷー! 応援されて良かったわね! ダンゴムシのアセビさん!」

「……」


 アセビはマーガレットの煽りを無視し、そのまま船に向かった。いつもなら頭をぐりぐりしたり、デコピンを額にブチかますのだが、その様子はない。

 マーガレットは下卑た笑みを浮かべながら、アセビの周囲を煽るように動き回った。


「ダ・ン・ゴ・ム・シ・さ・ん。聞いてる? ぷっぷっぷーのぷー!」

「マーガレット、その辺にしておいたほうが……」


 普段のアセビとは違う異様な雰囲気に、ルピナスは恐怖を覚える。しかしマーガレットは気にせず煽り続けていた。

 アセビは一切言葉を発せず前に進み続ける。

 全員が船に乗り込むと同時に出港した。アセビ一行の船旅が始まりを告げたのである。


「コロコロダンゴ、まるまるダンゴ」

「マーガレット」

「ひっ」


 煽ることをやめないマーガレットを見て、サツキがじろりと睨む。これ以上の煽り行為は命にかかわると判断した。マーガレットはおとなしく口をつぐんだ。

 肝心のアセビは煽りが聞こえていないのか、それとも完全に無視を決め込んでいるのか。船の上から海をじっと眺め、穏やかな表情を浮かべている。


「マーガレットちゃん」

「なによぉ」


 マーガレットはアセビから珍しくちゃん付けで呼ばれたが、素直に喜べなかった。穏やかな表情は、どこか荒んでいるかのように見えたからだ。


「絶対にばれないモノの隠し方があるんだが。お前知ってるか? 簡単な方法なんだが教えてやろうか?」

「なになに? 教えて教えて!」

「……あっ!」

「……むっ!」


 アセビの言う絶対にばれないモノの隠し方。ルピナスとサツキはそれを察してしまった。

 右を向いても左を向いても、見渡す限り海が広がっている。船の上から突き落とされたら、救助しない限り簡単に命が失われてしまうだろう。

 サツキがマーガレットに、アセビの言う簡単な方法を耳打ちした。恐怖心で顔がみるみるうちに青くなっていく。マーガレットはゆっくりと後ずさった。


「アセビさん……いえ、アセビ様……?」

「海……綺麗だな。そう思わないか?」

「あの……えっと……」


 アセビは穏やかな微笑みを浮かべているが、その目は笑っていない。次煽ったらここから落とすからな借金女と物語っている。

 殺伐とした状況を理解していない芋虫たちだけが、海を眺めながら楽しそうに体を伸び縮みさせていた。

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