無頼漢JKとの出会い!
「僕の友達に手を出した落とし前、つけてもらうから」
そないなかっこいい台詞と共に城ヶ崎ちゃんはたくさんの不良生徒に立ち向かった。
「逃げて、城ヶ崎ちゃん! あたしのことはええから!」
涙を流しながらあたしは訴える。
せやけど城ヶ崎ちゃんは止まらない。
それどころか不良生徒を倒していく。
でも倒されるのは時間の問題や。
「流石にこの数じゃ分が悪いだろう」
そう笑うたのはこの勝負を仕掛けた卑怯な男。
あたしはこいつの顔を殴ってやりたい衝動にとらわれた。
「いくら無頼漢JKでもこの俺――風間龍太郎には勝てない」
◆◇◆◇
あたしが無頼漢JK――城ヶ崎加奈子ちゃんと出会ったのは転入初日のことや。
初めて見たときはえらい可愛い子としか思わんかった。
まるで日本人形みたいな艶やかな黒髪ぱっつんで、肌もこれまた透き通るように白かった。目の形も鼻の位置も唇の色も均整が取れてるちゅう感じで美少女とはああいうんやろなと思うた。
あたしも檻神高校の一年四組に転入したてで周りに目が言ってへんかったけど、はあこんな美人の隣で居ったら霞んでまうなあとかのんきなことを考えとった。せやからここが都内で最も危ない学校やということを一瞬だけ忘れてまうところやった。
「えっと、久坂登紀子といいます。よろしくお願いします」
我ながら無難な挨拶やった。拍手すら起きない――それもそのはずや。ここは不良生徒の溜まり場で、そもそも出席しとる人も少なかった。無関心にあたしの自己紹介はスルーされた。
「……城ヶ崎加奈子」
隣の城ヶ崎ちゃんは短くそう言うたきり何も話さなへんかった。
クールそうな見た目どおりやなとあたしは感心したもんや。
「それでは久坂さんと城ヶ崎さんはそこの席へ」
年配の先生の促しで隣同士に座ってホームルームが終わった。
あたしは「えっと、城ヶ崎ちゃんやね?」と話しかけた。
「これからよろしゅうな!」
「…………」
無言のままあたしを一瞥して、そのまま真っすぐ黒板を見た。
おお、ほんまにクールビューティやな。
ちょっと気まずい空気の中、あたしは次の授業の準備をする――
「ざけんじゃねえぞ! てめえ!」
「あんだとゴラァ! ぶっ殺すぞ!」
「ひい!?」
廊下から男子生徒の怒鳴り合う声。
せやけどあたし以外は動揺せえへん。
同じ転入生の城ヶ崎ちゃんも平然としとる。
「あ、あの。怖くないの?」
「……全然」
返事をくれたけどこっちを見てくれへん。
なんや知らんけど泣きそうになる。
おとんとおかん。あたし、この高校でやっていけるやろか……?
◆◇◆◇
授業を受けとる間は比較的平和やった……窓ガラスが割れて廊下に血の跡があったりしたけど、あたし自身に危害は加えられなかった。あー、良かったと思う反面、これからどうなるんやろと思うておると違うクラスの女の子五人から「お前、新入りだろ」と話しかけられた。全員、濃い化粧と制服を改造しとる。
「ええ、そうですけど……」
「私たちさー、今月お金ないんだよねえ。ちょっと学食で奢ってくれないかなあ」
いわゆるカツアゲやな……ほんまにこないなことされるとは思わなかったわ。
「ええと。あたしも余裕が――」
だん! と机の脚を蹴られた。
五人があたしを囲う。
隣でお弁当を食べていた城ヶ崎ちゃんの姿が見えなくなる。
「いいからさ。お金、あるんでしょ」
「痛い目見るよりいいんじゃないかな?」
冷汗が噴き出てまう。
せやけど、あたしのお金はおかんが働いて稼いでくれたから……
「い、いやや……」
もう一回、だん! と机を蹴られた。
一人の女の子が城ヶ崎ちゃんの机に座って「舐めてんの?」と凄んでくる。
「私たちファイヤーレディースに逆らってこの学校で生きていけると思うの?」
「そ、そんなん……」
「ちょっとお金くれるだけで――」
ふいに女の子の言葉が途切れた。
下向いてたから分からへんかった。ゆっくりと顔を上げる――
「……邪魔なんだけど」
隣の席の城ヶ崎ちゃんが女の子の腕を捻り上げてた。
関節が完全に決まっているのか、声も出せないくらい痛がってる。
「城ヶ崎ちゃん……?」
「て、てめえ! 何すんだよ!」
四人が拳握って威嚇しとる。
すると城ヶ崎ちゃんは「僕の机に座らないで」と静かな声で言うた。
それから掴んでた女の子を――床に叩きつける。
よう分からへんけどその動きは洗練されとって、まるで武道の達人のような所作やった。
女の子四人は「なんだこの新入り!」と怒ってた。
あたしからすればなんで怒ってるのか分からへん。
今すぐ逃げたほうがええと思うんやけど――
「やっちゃえ!」
一人が大声で怒鳴ったの合図に一斉に襲い掛かった。
まず城ヶ崎ちゃんの顔を殴ろうとする――せやけど当たる前に膝をついてまう。
城ヶ崎ちゃんを見るとファイティングポーズを取ってた。恐ろしく速いパンチで殴ったんやと気絶している女の子の顔の痣を見て分かった。
次に空席の椅子を使う――卑怯って言葉が頭に浮かぶ――それを城ヶ崎ちゃんはそばにいた女の子を壁にして身を守った。鈍い音が教室中に響いて女の子は倒れる。それから城ヶ崎ちゃんは動揺しとる椅子を持った女の子に接近して顎を掌で押した――教室の扉まで吹っ飛んだ。
僅か数秒の出来事やった……あたしには流れるように見えた。
残された女の子は「この女!」と拳を握り直した。
戦意を無くしてなかったのは凄い思うけど、もう逃げたほうがええんちゃうか……
「…………」
城ヶ崎ちゃんがため息をついた――絵になるなあと思うた時には回し蹴りが残った女の子の首に当たった。崩れ落ちたその子を一瞥して城ヶ崎ちゃんは自分の席で食事を再開した。
あたしは城ヶ崎ちゃんを怖いと思うた。
せやけど、その反面――かっこいいと思うた。
何故か爽やかな気持ちでいっぱいになった。
清々しいほどスタイリッシュやった。こんな女の子見たことなかった。
「あのう、城ヶ崎ちゃん……」
クラスメイトが慄く中、あたしは城ヶ崎ちゃんに話しかけた。
卵焼きを無表情に食べる城ヶ崎ちゃんは咀嚼を終えた後に「なに?」と答えてくれた。
「えっと……ありがとう! おかげでお金盗られなくて済んだわ!」
「別に、あなたのためにやったわけじゃない」
「それでもありがとう!」
あたしは机をくっつけて持ってきたお弁当を取り出して「一緒にご飯食べていい?」と訊ねた。
城ヶ崎ちゃんは「勝手にすれば」とそっけなく言う。
「うん! 勝手にするわ! ねえねえ、城ヶ崎ちゃんはどこの出身? あたしは大阪なんやけど――」
転入初日、あたしと城ヶ崎ちゃんは友達になった。
まあ一方的にあたしが近づいただけやけどな!




