9.いよいよ小型化、ですか?-まさに夢物語の世界である-
全44話予定です
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「いよいよ小型化、ですか?」
アイザックがそう尋ねると、
「基礎試験は私が在籍中に既にクリアされています。ただ、まったくすべてを機械部品だけで構成された義体に人の脳を入れて思い通りに動かせるかは不透明です。皆がゼロフォー……いえ、今はソフィア大尉と呼ぶべきでしたね、彼女のような出来の良い脳みそを持っているわけではないし、そもそも生体コンピューター抜きでは成立さえしない話ですから」
と[襟坂]が言う。
そこで考えたのが従来から存在している現在の[子供]という概念だ。そもそも[子供]は自分と、もう一人の人物との間に、まさに子供を作り、強制培養して時間を早めて発育途中で目的臓器を取り出して使うという、人道的にはまぁ何とも言い難いものなのだが、ことパーツとしてはとてもうまく働いてくれる。もともと半分は自分の遺伝子なのだから神経伝達の速度もいい。ゼロフォーの提案以降、レイドライバーの分野では徐々に重要度が低くなりつつある[子供]を義体の制御系に組み込んだらどうなるだろうか、と。今まではそのシグナルをパイロットの子宮で受け取っていたが、義体を作成するにあたっては、その信号を脳でダイレクトに受け取れないか、と。
それならばいっそ、自分のクローンを培養して……といいたいところなのだが、単一個人だけの培養は上手く行かなかったのだ。
基礎試験は既にクリアできている、というのは義体に使用する各パーツ、それを動かす駆動系は小型化し、実際に用意できているというところだ。皮膚感覚も、レイドライバーの装甲に使用されているセンサーを応用すれば事足りる。
では問題はあとどこにあるのか。
それは駆動系を制御する、いわゆる制御系だ。人間の関節というのは実に複雑怪奇、かつ合理的な作りをしている。当然、その動きを模して義肢は作られているのだし、その動きにもレイドライバー技術が大いに使用されているのだが、全身の制御となるとなかなかにして難易度が上がる。特に制御系は一番大変なのだ。
例えば投げられたボールを受け止める。こんな何気ない動作に、一体どれだけの関節の制御が必要か。しかもそれらを一瞬たりとも遅滞なく、完全に[統括して]動かさないといけないのだ。
事実、この制御系のところまで来ていた研究は、次のブレイクスルーを見ずに千歳の事故という結末を迎えて一旦凍結された。彼女以上にその研究に特化した人材がいなかったからである。上層部も[まずは実際の効果が目に見えてわかる人型兵器を形にして]と指示をしていた時でもあった。だから技術的により安易に可能、かつ軍事的にも効果の大きなレイドライバーの実用化が先だったのである。
そして時は流れて、千歳は[襟坂恵美]として帰ってきた。そこで、自分が取り組んできていた[等身大のロボット]である全身義体の研究に戻ったのである。千歳がチトセになってから脳科学はずいぶん進化した。その最たるものが自我を残した状態での生体コンピューターの埋設である。
だから、
「生体コンピューターを埋め込んでテストを行えば」
元々[子供]という部品を使用することを前提に設計が組まれていたレイドライバーをそのまま小型化できないか、と。
それに、パイロットにするにしてもサブプロセッサーにするにしても、生体コンピューターという強みを使わない手はない。さらに言えば、埋設される生体コンピューターの処理能力の高さである。その能力を使えば制御系も上手く組めるのではないか。
カズからは[この個体は免疫機能が弱いんだ。だから例の実験も、少ない頭数ではあるけどこれで前に進められると思う。もちろんいざとなれば廃棄してもいい。きみにこの命を託すから好きに使って]とまで言われている。つまりは言葉通り[好きに使っていい]のである。もちろんその言葉の裏側には新たに拾ってこられた被検体の存在があるのだが。
それでも研究を進めるという、ある意味常軌を逸したこの研究にもカズをはじめとした各研究者が日々邁進している。
「そうですか。確かに、全身義体というのも研究テーマになっていますからね。実用化すればそれこそアニメに出てくるような兵器が……いや、現在でも十分アニメに出てくるような兵器ですね」
そんな言葉をかける。それほどにレイドライバーという、人型兵器は世界に衝撃を与えたのだから。そして、今度は端的に言えばその小型化したものを作ろうとしているのだ。
「これが世界に出回れば、片手を失っても基地にさえ戻って来られれば部品交換してまた前線に出られる。仮に地雷で両足を吹き飛ばされても味方に救助さえしてもらえればまた戦えるのですから。さらに言えば、ペインアブソーバーで苦痛は自由自在、単独で兵器としてみた場合にこれほどアドバンテージがあるものもないのかなって」
まさに夢物語の世界である。そして、この技術にはもう一つ隠された真実がある。それはまた後日に語られるであろう。
「ただ、比較試験の被検体としての役割は忘れてはいません。こんな事を私がいうのは何ですが、片腕、片足くらいは実験材料に供出する勢いでいます。もちろん、そうならないように研究プランを組むのもまた研究者の、命を預かる研究者の責務ではあるのですが」
そんな言葉を[襟坂]はアイザックにかける。その言葉に含まれるものは何だろうか。純粋な命の量り方なのだろうか、それとも研究者が持つ好奇心への戒めなのだろうか。
アイザックは周りに誰もいないのを確認してから、
「私は、貴方と一緒に研究が出来て光栄ですよ、千歳博士」
そう告げた。
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