8.[例の実験]とは-小型化して全身義体だってコントロールできるのではないか-
全44話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
まず、カズがレイドライバーの部隊を指揮していていつもは基地に常駐しているという事。そしてカズは研究所所長である、という点からその基地周辺に研究施設を持ってくるのは合理性がある。
次に実際にレイドライバーが戦線に出て戦った場合、消耗部品の調達が必要な事。これは港からでもできるが、港に陸揚げされたレイドライバー関連のコンテナは選別されて、一部は研究所に運ばれている。検品はさすがにエルミダス基地で行うのだが。そういう意味ではエルミダス基地の存在は徐々に大きくなっている。現在では後方基地として、また軍港としての役割をまっとうしているのだから。
そして消耗パーツの他には試験段階の兵器のテスト、というのも含まれる。それらをしてもやはり戦場は近くにあった方がいい。テストの結果が良ければ戦場が近ければ近いほど、受け渡しも短期間で終わるからだ。これは米州に拠点を置いたのでは輸送だけで何か月かかるか。そういう意味でもここに置く意味があるのだ。
更にはサブプロセッサーたちの[アップデート]だ。これは交代で行う必要があるが、秘密の少なくなった現在では定期的に行われている。それもやはり遠くの街に研究所があるようでは、とてもではないが実用に耐えない。
上記のような様々な理由からエルミダス基地の傍、いやそんなに近くはないのだが、ある程度近くに設営されているのである。
しかしながらその運用には細心の注意が払われているのは前述のとおりである。
そして研究所の経緯であるが、移転が決定して実際に移転した際に人体実験を含むほとんどのセクションを人間ごと移動したのである。現在米州に残っているのは外装や、駆動系といった[人道的に問題ない]セクションのみとなっている。
つまりは[ガワ]は米州で作り、コックピット周りは研究所で作成するといったスタンスがとられているのだ。
それならいっそそのまま人体実験も米州で、となるべきはずなのだろうが、カズが前線部隊の指揮官として指揮していたという状況が、ゼロゼロとして実際に戦闘に参加している主任研究員である恵美もこの地にいるという、複合的な要因から敢えて戦場に近いこの地に研究所を置き、この非道な実験をすべて引き受けてきたのである。
いざとなったら戦術核でこの研究所ごと吹き飛ばせばいい、研究所を移動すると決まった時には上層部の中にはそんな思惑があったのかもしれない。
――――――――
そこで出てくる[襟坂]の言った[例の実験]とは。
それはレイドライバーの開発と並行して全身義体を作れないか、というものなのだ。これも研究のテーマとなっている。実際にカズ、恵美、千歳は日本の研究所でそんな研究にも携わってはいた。なに、途中から兵器転用を考えてスケールが大型化しただけの話である。元はといえば日本にいたころから[生命と機械との融合]それがテーマだったのだから。
具体的には、当時の日本では全身義体を目標としていたというのがある。初めは部分的な義体から始まり、機械である義体と神経系を繋いで肉体がそれを動かす。それが全身機械の身体を作れたらどうなるか?
全身義体さえ完成してしまえば、最悪の場合を考えても脳みそだけでも帰還すれば身体は乗り換えられる。人的リソースを失わないという意味合いでも実に良い話である。それに兵器として考えてみてもこれは十分魅力的な話だ。
だが、現在に至っても全身義体というのは全世界的に見ても成功例がない。それは、ただ単に義肢技術が優れているだけでは不十分なのである。生命維持はまだいいとしても、その義体を実際に操る術というものがまだ確立していないのだ。だが、思いがけないところから話は繋がる。停滞していた全身義体というこの分野の研究にレイドライバーのサブプロセッサーから声が上がったのだ。
そう、ゼロフォーからの報告である。先の戦闘の際、パイロットであるマリアーナが精神的なものからレイドライバーの操縦ができなくなった時の事である。ゼロフォーは子宮リンクシステムをすべてカットしてレイドライバーの操縦を行ったという。もちろん子宮リンクシステムを使用していないという事はレイドライバーの機体各所に設置されている[子供]と呼ばれる生体部品からのシグナルも使用していないという話になる。そしてそのうえで相手のレイドライバーを撃破したのだ。
その上でゼロフォーは、
[私は自分が優秀だとは微塵も考えません。そんな己惚れた思考はあまりにも無意味だからです。ですが、その上で敢えて言わせて頂ければ、今回、すべて自分にレイドライバーの感覚を自分に回してみて、実際にその身で戦ってみて感じたのは、もしかしたら私のような、サブプロセッサーという存在であれば単独行動が可能なのではないか、という点です]
つまりは最悪の場合、パイロットも[器官]も[子供]も不要ではないか? ゼロフォーはそう告げたのだ。
その報告は実際に部隊配備にも既に使用されている。トリシャとクリスは実際、パイロットのみで搭乗しているし、ゼロツー、ゼロスリーはサブプロセッサー単独で、しかも[子供]抜きの純粋な機械部品だけで構成された機体を操っている。
それならば、いっそ小型化して全身義体だってコントロールできるのではないか、と。
全44話予定です




