7.ところで、四体目の被検体ですが-今まで停滞していたものが前に進めるのかなって-
全44話予定です
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「ところで、その四体目の被検体ですが」
アイザックがそんな呼びかけをする。四体目、つまりはテミラデの事を指して、
「はい、比較試験の他にも例の実験をしようと思いまして。今まで停滞していたものが前に進めるのかなって」
[襟坂]は表情を元に戻してそう告げた。
[襟坂]の言う[例の実験]とは。それは[襟坂恵美]という入れ物に入る前の千歳が所長時代から少しずつ、彼女が主導で行ってきた研究の一環と言ってもいい。
現在、同盟連合の義肢作成技術というのはとても水準が上がって来ている。それこそ十年前であれば帝国の一人勝ちだった義肢技術。それを大幅に底上げしたのがレイドライバー技術の応用だ。だから同盟連合全体の義肢技術にしても、確かに大幅に上がってきてはいるが、その最先端はここエルミダスだったりアルカテイルだったりと、つまるところの研究所のある場所なのである。
では米州にある研究所はどうか、と言われれば、もちろんそちらでも研究が行われてきている。ただ、決定的に違う点が一つだけある。それは人体実験の有無である。これには少し説明が必要だろう。
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元々カズたち研究所の職員というのは米州で研究を行っていた。今から十年ほど前の話である。そこでレイドライバー技術の基礎を確立、試作機を経て一個小隊にまで増産できたのがつい五年ほど前である。
現在が二〇五〇年、つまりレイドライバーという兵器は実際のところお披露目してからまだ五年しか経っていないのである。
話を研究所に戻すと、五年前にエルミダス奪還作戦がゼロゼロを隊長機としてゼロワン、ゼロツー、ゼロスリーの四体で行われ、実際に奪還に成功してからというものエルミダス基地を拠点とした作戦が展開された。
具体的な話をすれば、空母がエルミダス基地を母港にしているのである。そして配備された戦闘機や機械化部隊の機体といえば最新鋭のものが用意された。それは三五FDIであったり最新の機械化部隊であったりと様々である。同盟連合はこの地を奪還したのちにそれだけのリソースを割いたのだ。そこから具体的に研究所の移転が始まる。
エルミダスという土地は、元をただせば同盟連合領である。そしてその頃から米州から研究所の移転話は持ち上がってはいたのだ。だから土地も用意してあったし、その場所は政府関係者の中でもまだ数名以外知らないという最高機密とされていた。そして、移転は順調に進むかに見えた矢先の帝国による占領だったのだ。だが、同盟連合はこの地を再奪還に成功した上に最新鋭装備を置くことでむやみにこの地に近寄れないようにしたという経緯がある。
もちろんカズたちレイドライバーの活躍は言うまでもないだろう。帝国は当然再奪還を目指したのだが、ほんの短期間に一個師団レベルの数の車両を失ったのだから。
当時はレイドライバーという技術を持つ国は同盟連合だけ、しかも保有機数は表面上たったの四体である。だが、その四体をして師団クラスの機械化部隊という数を蹴散らしてしまったのである。
同盟連合は、エルミダスの統治が上手く行ってすぐに研究所の作成に乗り出した。初めはバラックを建てて資材置き場を作った。もちろんダミーである。目的は明快、衛星の目から逃れるためだ。次に住居と工場を作った。そして急増にならないように徐々にその軒数を増やしていったのである。その工場の内部からスロープを掘って地下区域を作るという手法を取ったという経緯になる。
そうやって少しずつ、確実に秘密拠点を作っていったのである。実際のところ、研究所の施設の大半は地下に埋設されていて、地上に出ているのはほんの数パーセントにすぎない。
そしてこの施設のある場所から数キロ圏内には、そこらかしこに警戒施設が設けられたのである。今でも有人、無人あるものの警戒は二十四時間体制で行われている。さらに言えば偵察衛星の位置確認も厳密に行われている。研究所に近づくにはう回路を通って、さらにそのう回路も何パターンも存在するという手の入れようだ。
まだ、帝国はこの場所の存在を知らないはずである。仮にもし知っていたら今頃は爆撃やミサイル攻撃のようなものが飛んでくるのだろうし、既に飛んできているはずである。前線基地のある地方に研究所を作るというのはそれほどに危険が伴うというのをこの例からしても示している。
だがそれ以上にメリットが存在するからこそそうしているのだし、そうせざるを得ないという事情もある。
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