5.どう見るね-供出された機体の話ですよね?-
全44話予定です
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クロイツェルはクラウディアを連れて一路軍事空港へと向かっていた。同盟連合の派遣団は民間の空港を使って帰る手はずになっているが、流石に同じ場所に居合わせるのも何なので、こちらとしてはせっかくだから持っている空軍基地を使用して岐路へ着く、という運びとなったのだ。
「どう見るね」
クロイツェルはクラウディアにふと尋ねる。
「その、どう見る、というのは供出された機体の話ですよね?」
と返す。相手が[そうだ]と言うのを待ってから、
「正直なところ、マトモな機体を寄越すとは考えにくいか、と。ですが相手は[模擬戦でも]と言ってきた。それらを察するに、搭載されている兵士はおそらく、相当に実戦経験豊富な人材か、と。それに[こうしてお会いするのは]というくだりを考えると、前回我々と対峙した人物なのではないでしょうか」
――及第点だ。まぁ、それは間違いないだろうな。
とクロイツェルに思わせるくらいには相手だって策をうってきた、というところだろうか。何せ帝国の機体が拿捕された状況とはまったく違う。かたやその場で拿捕、かたや数週間の時間を経て供出という違いがあるのだ、相手にはそれだけの時間があった。その時間というのはとても大きなものだ。
「何か、咬ませモノでもしてあるのか、まずはモノを見てから、というところか。しかし、時間というのはなかなかに思うようにはならないものだな」
とごちてみる。よく、楽しみは一瞬で過ぎるというが、その楽しみを待つ時間というのはこれほど長いものもなかなかない。
そういう意味ではクロイツェルはちょっとご機嫌ではあるのだ。
「しかし、そんな人材を送り出すとは。いや、そもそも人間と呼ぶべきなのか。もしかしたら人工知能(AI)の類ではないのだろうか」
とさえ勘ぐってしまう。それほど相手の将校は、カズは自信を見せていたのだから。
だが、二〇五〇年のこの時代、人工知能は確かに存在しはするが、単独兵器としての人工知能は実用化には至っていない。いわゆる[自立して考える兵器]とまでは至っていないのである。それは三国とも同じようなものだろう。では無線で操縦となればならどうか? しかし、それも不可能な話である。相手がジャミングを掛ければすぐに行動不能に陥ってしまうからである。それは同盟連合だって同じだ。電波妨害の技術というものは既に確立されていて、実際に電子戦兵器として存在する。
確かに過去、帝国では[無人機と人工知能の組み合わせでレイドライバーの操縦に充ててみてはどうか]という話が無かったわけではない。しかし、リスクが大きいのだ。ジャミングを一たび受ければ、ある程度は自立行動をとれるとはいえ出来としては不十分、最悪の場合は行動不能に陥ってしまう可能性が高い。そんな状態で拿捕、等となれば目も当てられない。有人機と混合で、とも考えられるが電波妨害というリスクを負った兵器と一緒というのもどうかと思われる。
ただ、衛星回線を使用すれば可能性としては広がるのも事実である。それはどの国も検討課題の一つとして持っているのであろう。事実、帝国でも衛星回線による無人機の構想がない訳ではない。
――それでも人が操るのが一番だろう。何せ、我が国はニンゲンの数量でいえば世界一だからな。
とクロイツェルに思わせるほどにはこの国の人口は多いのである。何と言っても世界のほぼ半分を占めているのだから。逆を返して言えば、少しでも危険と判断した人物は粛清の対象たり得るのである。
つまり[替えなら幾らでもいる]というやつである。
そういう意味ではクロイツェルはクラウディアを高く買っているのだろう。何と言っても現在は自分の秘書の仕事を任せていて、その会合にも立ち会わせているくらいだから。
「さてさて、同盟連合は一体どの程度のものを見せてくれるのか。ひとつ、楽しみにしていようじゃあないか」
クロイツェルはクラウディアにそんな話をしながら、
――人間の脳みそだけ、か。それもまた一興なのかもな。
少しだけ口角が上がるのを噛みしめていた。
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