4.という事は、順当に行けばジュケー行きか-少しでも情報を、と思っていたけど-
全44話予定です
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ゼロフォーことソフィアは機体のチェックを欠かさない。運ばれているトレーラーには予備電源が搭載されていて、現在の電力はすべてそちらから引っ張って来ているのだ。拿捕されることが確定しているこの状況で、少しでも電力を温存したい、そんな考えからである。
「各部、動力系異常なし、視野系異常なし、感覚系異常なし、電圧異常なし、電流異常なし」
頭で読み上げながら、この機体のすべてを把握するのに集中していた。何と言っても主要なパーツは第一世代の初期に使用されていた部品だ、今まで彼女が乗っていた機体とは反応速度も違えば消費電力も違う。ただ、カズからは部品の諸元を貰っている。なので、どこをどう使えばどれくらいの力が出るか、それくらいは演算が効くのである。そして、もしも模擬戦を行うことになればソフィアは持てるすべてを使って屠ってこい、そう言われているのだ。
――マスターはこの機体で屠って来いと仰っていた。それは私が今回すべき事の一つ。それを私に託されたのだから。だけど他にもしなければならない事はある。
とは言うものの、心の中は至ってフラットだ。それはソフィアが何も考えてないからではない。元々、彼女は合理的な考え方を信条としている。例えるなら人工知能(AI)がそれに一番近いのだろう。決して感情的にならず、慌てず、わめかず、常に自分が出せるだけの最適解を導き出す。
そんなソフィアは現在、囚われの身として輸送中という訳だ。もちろんシートはかぶせられており、外の景色までは見られない。だが、GPSの読みでは港湾施設に向かっているようだというところまでは分かっている。
――という事は、順当に行けばジュケー行きか。
それはソフィアでなくともそう感じ、そう思考が帰結するだろう。
現在、帝国のレイドライバーはほぼすべてグランピアにいると考えられるからである。何かしようとしてもグランピアか、それとも後ろのジュケーと考えるのが妥当だ。そして敵機体を検分するという現況を鑑みれば、前線基地であるグランピア基地ではなく後方のジュケーで詳しく見分を、となるのであろう。
ソフィアは試しに無線を拾おうとしてみた。もちろんパッシブ、つまりはこちらからは一切の電波を出さず受信専用にして、である。船の無線でも拾えればこれから先の話が読めそうなものだからである。とは言ってもそう簡単に無線が拾えるわけではない。当然暗号化されていると考えるべきだろう。それでも上手く拾う事ができ、複合化してみた結果としては、
「やはりジュケーか」
と呟くほどには目的地ははっきりしていたというところだ。
次に行ったのがネット接続である。無線で潜り込んで、そこからインターネットに接続できないか、というのだ。だが、これは成功はしなかった。何故ならその相手がまだいないからである。今は移動中、港にはついていない。すると、必然的にレイドライバーから電波を出して接続を、となるのだが、流石に帝国の手前そんな大胆な真似も出来ない。
――少しでも情報を、と思っていたけど流石にダメ、か。
だが、今ここで秘策の[アレ]を出すのはいくら何でも早すぎる。流石にそれくらいの判断は付くつもりでいる。
「さて、私はこれからどうすればいいのか」
マスターからは[パイロットに格上げだ]と言われた。だが、実際の肉体である躰が返ってくるわけではない。つまり、上からの指示がなければ一生レイドライバーという機体に括り付けられてしまうのだ。
だがちょっと待って欲しい。それは人間にも言える事ではないのか。身体という[入れ物]に括り付けられて脳みそ自身は外に出ることはできない。ただ人間と今のソフィアを比べた時の大きな違いは、それが実際の肉体なのかそれとも機械なのかという違いだろう。さらにこの機械は同盟連合の最高機密でもある。ちょっと風にあたりたいから外へ、等というのが気楽に出来ないというところだろうか。それでもソフィアにしてみれば[ヒト]に一歩近づいたというのも嬉しかった。だが、それ以上に嬉しかったもの。それは、
――今の私にはこれで十分。確かにルーツを知りたいところではあるけど、それは今すぐでなくてもいい。マスターと交わした約束なのだから。
そうは思ったものの、本音を言えば直ぐにでも自分の過去を調べたい、そしてソフィアにはそれだけの検索能力があるのだから。
ソフィアの心に芽生えた彩。その彩が普段の彼女にちょっとだけさざ波を与えているのかもしれない。
「とりあえずは、帰って来てからか」
そんな独り言を言いながら各部のチェックを続けていた。
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