38.実はお願いがあるの-サブプロセッサーが一つ欲しくて-
全44話です
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「今、大丈夫かな?」
と問いかけられる。その問いに、
「ああ、大丈夫だよ[襟坂]さん」
と普通の返答をすると、
「実はお願いがあるの」
と来たものだ。
それはそうだろう。基本的に研究所からカズに宛てての通信はしないことになっている。それは位置の特定を避けるためだ。だからカズがホットラインで向こう側と話す際も、暗号化は当たり前として、その発信元を特定されないように何か所も経由して繋ぐのだ。確かに、今回はその手法を採って通信してきたのだから、まず間違いではないのだが。
「着いてからでは遅いの? オレは今エルミダスを出て……そんなに遅くない時間でそっちには着くけど?」
と返してみれば、
「実はレイドライバー用ではないサブプロセッサーが一つ欲しくて」
と言われる。
――それって、もしかして。
「この前見せてもらったけど、もう研究の成果が出そうな感じなの?」
今[襟坂]の中の人が研究しているその主たる内容。それは全身義体である。
そんな問いに、
「あの時はまだ何か所か不具合があって、実際の形として全身義体は見せられなかったんだけど、全身義体の試作機はもう出来てるの。ただ、実際にこれ以上の領域で動かすとなるとあの時見せた実験ではもう追いつかなくて」
それはそうだろう。全身義体といえば、頭部に脳核を乗せて生命維持をし、更に全身をちゃんと制御しなければならないのだから。手足の動作確認だけで言えば確かに埋設してある切り替え機で行えばいいのだろうが、いざスタンドアローンで実験するには実際に躰から脳核を取り出す必要が出てくるのは道理だ。それを今から出来ないか? [襟坂]はそう尋ねているのである。
「オレに確認を取る、という事はもしかして」
「そう、躰を冷凍保存するつもり。そっちの方は免疫系の実験に回すか、それとも」
それ以上は言わなくともわかる。要は、切り刻んで使いつぶすかそのまま凍らせておくか、あるいは廃棄かのどれかだ、という話になるのだから。そして予定されていない脳核の取り出し、つまりはサブプロセッサーの作成というのはカズの決めた非人道的実験に当たる。なのでたとえ副所長補佐という立場でも所長許可が下りないと出来ないのである。
「ちょっと根を詰めすぎじゃない? オレが実験できない分、研究を進めてくれるのは確かにありがたい話ではあるんだけど」
――早速、頭角を見せてきた、というところなんだろうな。千歳はオレの妻、そんな身内びいきをしたと捉えられるような成果では納得させられないのも事実なんだけどさ。
カズにはふとそんな考えが頭をよぎった。全身義体、これは確かに必要な技術だ。実際カズも、レイドライバーの次に来るのはこれだろうと考えている。
カズのそんな心配に、
「うん、でもちゃんと休息は取ってるつもりだよ。なんだろうな、何かじっとしていられなくて。自分の研究しているものの先にある未来を早く見てみたい、というか。確かにきみが帰って来てからでも良かったんだけど、きみのタスクの中に優先で割り込ませておこうと思って。それにきみ、帰って来てからも忙しいでしょ?」
――それは確かに。
事実である。現にこうやって移動中にもかかわらず事務整理をしているのだから。現地に行けば各所から上がってくる研究結果や提案、それに所長として決済しないといけない書類が満載だ。その量は昔より増えたと思うのは、立場がそれだけ上がった証拠だろう。今は政府の立場にも立って仕事をしているのだから。
「分かった。あの時にその被検体は好きにしていいって言ったんだ、その通り、煮るなり焼くなりって煮ないし焼かないけど、脳核の取り出しとその付随実験は許可しよう。オレもちょっと考えがあるんだよ」
と切り出してみる。[襟坂]は、
「あたしにも考えがあるの。多分、きみと考えていることは同じなハズ。きっとそれは自己中心的と捉えられそうなこと。でもきみも、あたしもその可能性を捨ててない、捨てられないんだよ」
一通りの通信を手短に済ませたカズの耳には、そんな言葉だけが残る。
カズはふと考える。一体、どれだけの人間の命や尊厳を足蹴にしたのだろうか、と。確かにただやみくもにメスを振るったわけではないのは事実だ。カズたちなりの道理があっての事である。現に、カズが所長になってからは、出来る限りの人体実験は避けるように努めてきた。二体、三体と必要だった実験など、出来るようなら一体の犠牲で済ませるようにプランを練ったり。
そんなカズをして次に進みたいと願うその心。それはただ研究の先を見てみたい、ただそれだけなのである。
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