33.ある意味羨ましくもあるな-まだこれが最初の一手-
全44話予定です
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「本当に、ある意味羨ましくもあるな。そんな部下を持てるというのは」
クロイツェルの言葉だ。
そのあとは質問をいくつかされた。当然、拠点となる研究所の事を聞かれたが、現在はエルミダス基地が拠点として使用されている、という旨の話をした。これは半分本当で半分は嘘である。だが、脳波を測るような器具は装着されなかった。まぁ、もっともその辺りは帝国の技術では及ばない領域なのかもしれない。あるいは先ほどクロイツェルが言っていた[礼を尽くしてくれた]見返りなのかも知れない。
日が変わって、しばらくはハンガーに留め置かれた。もちろん一日二日という単位で調査が終わる訳ではない。四週間という期間を設けてあるのだから相当のところまでは調べるつもりなのだろう。
ソフィアにとって幸いだったのは夜間は警備の人間しか残らなかったことだろう。職員たちは皆引き上げてしまうのだ。クロイツェルが引き上げるのは分かるが、クラウディアさえも引き上げてしまう。それはもしかしたら一部の人間による集権システムがそうさせるのかも知れない。
ここは帝国、そのトップとも呼べる人間が引き上げさせているのか、それとも時間はまだあるから根を詰めないつもりなのか。
――これは私にとっては有利になり得る、だけど。
出来れば[虫]との通信がしたいが、一般の電波を使用しては探知されるというものだ。そこでノイズに紛れさせた通信を微量ずつ行う。
現在の通信速度はと言えば、普通は、レイドライバーの通信帯域で言えば一〇Gbpsは出ておかしくない。これは一秒間に一二五〇MB程度の通信環境があるというものだ。つまり一ギガのデータをわずか一秒で送れるくらいの通信速度を持っているのである。これが標準規格である。もちろんそれ以上の規格の通信もありはする。だが、そんな通信もこの状況でしてしまっては意味をなさなくなる。帝国だって通信の警戒くらいはしているだろう。それもかなり厳重に。
そう考えれば[虫]との通信はほぼ絶望的、と言えなくもない。しかしそこは同盟連合だってちゃんと考えている。前述のノイズに紛れさせる、という方法だ。
電波というのは電波暗室の中でもない限り空中を無数に漂っている。それこそ、だれも通信していないのに空中には電波は飛んでいるのだ。通信においては、目的の周波数以外は普通無視される。誰も意図していないノイズなど気にも留めないからである。仮にノイズとして飛んでいる電波を拾ってもそればただの雑音にしかならない。
ただの雑音。
それこそがソフィアの意図した通信なのだ。暗号化したものを更に乱数表に照らし合わせて毎秒数十バイトずつ、少しの間隔を空けて送る。先ほどのギガという単位からすれば単純比較で億の単位の情報の違いがある。片や一ギガバイト、片や只の数十バイトなのだから。
それでも情報は確実に送ることが出来る。時間はかかるが、これだけの警戒網を潜り抜けるには仕方のないことなのである。
ソフィアはまず自分の位置情報を送信した。そこからしばし待つ。半日程度待ったところで[虫]からの通信が入る。無事にこちらの近くまで来て、通信網を探し当てたようだ。次に、とらえたこの通信網の解析にかかる。点検用の配線に引っかかれば一番ベストだろう。当然、メインで使用している回線にはプロテクトが施されているはずだからである。点検用の回線であれば、上手くすればプロテクトなしの生データが見られるかもしれない。
しばし待つ。
すると[虫]が掴んだ回線は実際に稼働している回線の、本部とのやりとりを行う回線のようだ。つまりはジュケーのこの施設と本国である大陸の国々との回線である。
さらに[虫]は自分が今いる場所の画像を送ってきた。どうやら少し目立ちそうな場所だったのでもう少し機器が密集しているような、それでいて手が入らなそうな放置されていそうな場所を画像で見ながら指示を出す。そしてそれは上手く行ったようである。
ここまでで一日の夜間をまるごと使っている。ソフィアは生体コンピューターに処理を任せて一寝入りすることにした。
――まだこれが最初の一手。これからが本番なんだ。
そんな夢を見ていたのである。
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