28.帰って来たんだね-これがその答え、ってところかな。いい、見てて-
全44話予定です
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四体の被検体が留置されている部屋、そこにはこの研究所ではおなじみの部屋である。被検体を留置しておく為の部屋、つまりは監禁部屋である。腕は後ろ側に組まれて枷をはめられ、足はずって歩ける程度の長さのロープで両足を繋がれトイレの場所だけ教えられる。
そしておなじみの監禁部屋の中でも、ここ[襟坂]がいる部屋と言うのは少しだけ違っている。
通常、被検体は一から二名の監視員がいて、実験が行われると決まった段階で連れ出されたりするのだが、この部屋は実験室も兼ねているのである。つまり彼女たちにしてみれば監禁部屋兼生活スペース兼実験部屋なのだ。そして体調変化を見落とさないようにスタッフが一名つきっきりで監視している。
そういうスペースへと改装したのである。それはひとえに[襟坂]からの申し出によるところが大きい。[一秒でも無駄な時間は避けたいし、一秒でも長く被検体たちを観察していたいから]そんな言葉を言われたのも記憶に新しいところだ。なので被検体の収容スペースを一部改装して実験室にしているのである。
そんな中に、
「帰って来たんだね」
と[襟坂]が迎えてくれる。
「研究は、どう?」
挨拶もそこそこにカズは本題に入る。そんな彼に、
「うん、テミラデに生体コンピューターを取り付けて今は経過観察かな。本当を言えば脳核だけ取り出して実験を、とも考えたんだけど、ちょっとまだその前に済ませておきたい試験が何個か残ってて」
そう言うと[襟坂]はスタッフに指示してテミラデを連れて来る。テミラデは怯えたような仕草を見せながらもカズのところまで歩いてくる。
――足取り、フラフラだね。こりゃあロクに寝てないな。さて、羞恥心はっと。
カズはそう思ってテミラデの躰に手を伸ばす。触れられた瞬間、ビクッとなったがこれは羞恥心からくるものではないだろう。純粋に恐怖が勝っている動きそのものである。
「まぁ、目も見えなければ外の音も聞こえないからね。そんな環境下で誰が自分の体を触ったか、なんて分かるはずもないか」
と言いつつもカズは[襟坂]に指し示された部位を見る。それは首の付け根だ。そこにはカズにはお馴染みの器具が取り付けられていた。
現在のレイドライバーのパイロットには全員埋め込まれている、自分の体とレイドライバーの体の切り替え操作をする機械だ。これを取り付けて接続先をレイドライバーにした時、機体をまるで自分の体のように扱えるようになる、と同時に自分の躰は不随意運動と呼ばれる呼吸や心拍といったもの以外は一ミリも動かなくなる。
その器具を取り付けてある、と[襟坂]は示しているのだ。
「ん? これがどうしたんだい?」
――まさかこのままパイロットには……しないよな?
疑問のぬぐえない顔をカズがしていると、先ほどのスタッフが車いすに座った義体を連れて来る。
「これがその答え、ってところかな。いい、見てて」
[襟坂]はそう言うと切り替え機に配線を繋いで、手近にあるタブレットを操作する。一瞬だけテミラデの躰がピクリと波打ったあと、それまでカタカタと震えていたのが嘘のように止まる。
その代わり車いすに座った義体の上半身がカタカタと震えだしたのだ。
「これは!」
カズにも瞬時にその意味が理解できたのだ。
そう、ただ義体を扱うだけなら何も特殊な機械や技術は必要ではない、というのを目の前でして見せたのだ。
「実験段階ではあるんだけど、さっきも言ったけどもう少しのところまできてはいるんだよ。あともうちょっとで全身を、というところまで来てるの。問題なのは姿勢制御、なのは分かるよね? だけど、レイドライバーを扱う技術はもう確立しているし、この娘には生体コンピューターを取り付けた。きみなら分かると思うけど、このコンピューターに義体の姿勢制御も担わせれば? 理論としてはもう出来てるの。だからこれが本当の意味で立ち上がってくれれば」
「まさしく第一歩だ、と?」
カズがそう続ける。
確かにこれは盲点だった。いや、うすうすは気が付いてはいたのだが、全身義体の話は千歳が[チトセ]になった事でいったん棚上げになっていたのだ。そして[チトセ]でいたころの彼女は切り替え機の事を知らない。だからこんなにすんなりと応用が効いたのだろう。
「これが完成すれば少しは非人道的な実験も減らせるし、何よりまずロールアウトするのはこの一体だけでいいんだ。そして一度技術さえ確立してしまえば」
「あとは大規模試験だけ行えばいい、という訳が。気が付かなかったよ。もしかして、あとの問題って義体の制御系って話だけど、やっぱり?」
と尋ねる。疑問は尽きないが、とりあえず動くのは分かったのだからさしあたっての問題点を聞いてみるのだ。
「そう、レイドライバーと違って小型化という問題が付きまとうからね。あ、人道的と言えばこれもそうなんだけど」
と[襟坂]が言うには、接続されていない部分に相当する部位が、切り替え機でコントロールを自分の躰に戻したときに直ぐには馴染めないのだそうだ。具体的にはしびれのような麻痺が数分から一時間程度残るらしい。そして現在、この義体は上半身しか動作していない。
つまり、
「自分の躰に戻したときにテミラデは直ぐには歩けないの?」
と聞くと、
「そう、しばらくはその場で動けないるの。それがたとえ数分の接続実験でも、ね。だけどこれが分かったのも収穫なんだ。疑似信号を入れてやれば収まるから。今はそういう細かいバグ取りをしている段階、かな」
――だけど、これでまた一歩前進できる。
おそらく二人同じの考えなのだろう。
「すごくいいペースだ。それじゃあ、引き続き全身義体をよろしくね」
カズは全身義体が実現した未来を見ていたのである。
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