24.この銃には仕掛けがしてある-まさか初期位置から動かないとは思わなかった-
全44話予定です
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「そこまで」
というクラウディアの声がかかるまでにイーハンは六発は喰らっていただろうか。
では当のソフィアは、といえば腹ばいになってずっと射撃体勢を取っていたのだ。いわゆるスナイピングである。もちろん今手にしているこの武器はマシンガンだ、スナイパーライフルとは訳が違う。だが、五百メートルちょっとという距離はマシンガンの有効射程内ではある。だから腹ばいになって両腕を固定し、可能な限りなだらかなこの砂丘を遮蔽にしてただひたすら相手が動くのを待ったのである。
そして案の定、相手は動いてきた。前述のとおりここは砂丘、そして中央部に行けば行くほど傾斜が付いている。それを見越して相手が見えるまで待ったのだ。
傾斜が付いている、という事は向こうからこちらは見えにくい。人工なのか、風も吹いている。もちろん、それを言い出せばこちら側からだって見えずらいのではあるが、腹ばいになっている分だけ、相手からの視認性は低くなる。
逆にソフィアからすれば相手の全身が頭部から順に見え始めるのである。そこで一発、敢えて外して撃ったのだ。
――これで相手は遮蔽物からの弾道と勘違いするはず。
相手にしてみれば[まさか初期位置からまったく動かないなんてありえない]だろうから、それを狙ったのだ。
そこで敵は焦ったのだろう、腰だめにマシンガンを構えて突進する形になった。
そうなってしまえば、相手に自分との位置関係を誤認させてさえしまえば、あとはこちらのものである。それでも初弾を入れて十発は撃った。もちろん四発はきわどく外している。外し方も乱数を用いている。つまり法則性は見いだせないはずなのだ。それをこの短時間で考え、実行に移したのである。
もちろん前述の話ではないが、わざと外すことで[同盟連合の射撃管制はそれほど正確ではない]というのを示す狙いがあった、のではあるが、
――この銃には仕掛けがしてある。
そう気が付いたのだ。初弾を撃ったのは相手を誘うのと同時に、スナイピングするに耐えうるかどうかをテストしたかった、という思惑もある。そして見事にそれは的中した。つまり、銃身が若干曲がっていたのだ。
ではどうするか。
銃身が曲がっているのであれば、そのように修正をかけてスナイピングすればいいのだが、修正の掛け方が正確すぎれば、先の射撃管制の話に繋がってくる。帝国はそれを見たかったのであろうという思惑さえ見抜ければ、それに対しての対策はある、という話だ。
乱数表を頭の中で走らせてターゲットの座標に割り振り、整数との誤差を加味してずらして撃つ。そうすれば、はた目からすれば射撃が[ブレた]ように見えるのだ。そして乱数表を使用している時点で相手側がその意図を汲み取るのはほぼ不可能である。
そして、それだけの性能をソフィアの[頭脳]は持っているのだ。
ソフィアは戦闘終了の合図とともに立ち上がって相手に近づいていく。当然、戦闘は終了しているのだから銃口は下げたままだ。しかし完全に下げ切っていないのは習性、というのもみあるのだろう。常に思考し続けているのだ。
ソフィアはそういう意味でもコンピューターとの親和性がとてもいい。常に疑いの目を向けてかかり、可能性を試算し、自分がとりうる最適解を導き出す。それは味方陣地でも、たった一体しかいないこの敵陣地内でも同様である。
「負けたよ、まさか初期位置から動かないとは思わなかった」
イーハンがスピーカーで話しかけてくる。
「それはたまたまではないでしょうか。この条件下で考えれば相手が一体だけ、味方は自分以外いない、それを考えれば下手に動くよりはこのほうが撃破の可能性がある、そう考えたのです」
と返す。そんなソフィアに、
「どうも同盟連合は本当の逸材を寄越してくれたようだな。この風の中をさすがに地声で話すのもどうかと思ってね」
とオープンチャネルでクロイツェルが語り掛けてくる。とは言っても出力は弱い。これならオープンチャネル、つまりは全世界共通の使用周波数で送信してもこの辺り数十メートルくらいしか飛ばないだろう。そして、ここはジュケーの研究所、つまりは周りには[モグラ]一匹入れないのである。
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