23.初期位置から動いていない?-つまりそれは撃破、という扱いになるのだ-
全44話予定です
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イーハンはまず移動を考えた。それは初期位置というのは互いに知られているからである。これは実際の戦場でも似たようなことが言える。スナイパーとして茂みに潜んでいるなら話は別だが、守っている場合は別として外部から派兵されて来た場合、初期位置からは出来るだけ速やかに動く必要があるからである。そしてその初期位置、つまり陸上兵器であれば陣地、と呼んでもいいかもしれないが、たいていの場合はその陣地から直接敵を狙う訳にはいかないくらいには相手との距離は離れている。こちらから行って、もしくしは向こうから敵が現れて会敵、戦闘という流れになるのだ。そういう意味でも戦場が近ければ近いほど初期位置から移動する必要性が出てくるのである。
だからイーハンは少しでもうまく移動できるように慎重に足場を選んで移動した。
――流石は参謀殿、以前に模擬戦闘した時と比べて障害物の配置が換わっているな。
それだけクロイツェルは純粋に帝国製と同盟連合製のレイドライバーの違いを見たい、配置されている遮蔽物からもそんな思考が伝わってくるのである。そして、イーハンは副隊長だ。前線にも何度も出ているつもりだし、模擬戦闘なら毎日の日課のように繰り返している。成績もクラウディアを除けば一番いい。そんな彼女だからこそ油断もしていなければ奢ってもいない。さらに付け加えて言えば悲観もしていないのである。
と言っている間に数ブロック右に移動した。初期位置から比べれば二十メートルは移動しただろうか。ちょうどいい岩石の裏手に背を預けて向こうを見る。センサーを最大感度にして見てはいるのだが、向こうの動きはいまだ掴めない。
――初期位置から動いていない? まさかな。
とは思ったが、もしも移動していないなら照準が付けやすいのもまた事実。なだらかに起伏している砂場を少しずつしゃがみながら前進する。しばらくして次の遮蔽物に到達する。
しかし相手の動いた形跡は見当たらない。これは誘っているのか、それとも諦めたか。
「どのみち、武装は同じマシンガンだけ。ならば」
そう思って遮蔽から出ようとした瞬間、弾丸が一発目の前をかすめていく。
「という事は近いのか、でも動いた形跡は」
見当たらないのだが、現実に自分の目の前を弾丸が横切って行ったのである。という事実からすれば相手も何らかの移動はしたのであろう。
どうやら敵の駆動系はとてもしなやかなようである。確かにここは風も出ている。時々砂が舞うような地形だ。そう考えれば駆動音を消しながら移動というのもうなずける話ではある。事実、こちらだってそうやって移動しているのだから。
――それならばいっそ、こちらから仕掛けてみるか。
イーハンはふとそんな事を考えてマシンガンを腰だめに構えた。もちろん腰だめに構えても正確な射撃は出来る。何故ならこのマシンガンには[目]が付いているからだ。そしてこの機能は相手は使用できないはずである。
ならば。
イーハンは遮蔽から出ると、先ほど弾丸か飛んできた位置を割り出した先に向けて数発撃った。その算出したところによれば、相手は初期位置からすれば数ブロックほど前進したのだろう。前進したというのは弾丸の飛んできた角度としては変わっていないからである。
だからこそ、イーハンから見ればもうすぐそこにある手前の遮蔽物こそが相手のいる場所だと思ったのである。
しかし、敵は意外にも反撃してこなかった。諦めたのか、それとも……。
次の瞬間、イーハンの機体頭部に弾丸が命中したのだ。
それがきっかけだった。
相手は正確に弾丸を発射してきた。それも初期位置と思われる場所から。
「なっ、距離にすれば五百以上は離れているはずなのに」
そんな言葉は銃弾でかき消されていく。
腰だめに構えて、いわゆる突撃体制を取ったのが裏目に出た。それはつまり全身を晒すからである。必然的に弾丸は主要部位から順に当たっていく。頭部、肩部、脚部。それだけ当たれば戦闘は不能になる。
それはあっという間だった。こちらが腰だめに構えているマシンガンを一発も打つことなくコックピット内に[腕部損傷の為、武器使用不可]の文字が点灯したのだ。
――なっ! そんな馬鹿な。
とは思ったものの、作戦継続は不可とされた。
つまりそれは撃破、という扱いになるのだ。
全44話予定です




