16.その後のことが書いてあった-これほど強烈だったとは-
全44話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
――彼女は確かに望んで殺人をしている訳じゃあない。ただ、殺しに慣れてるのだけは確かだよな。
カズは改めて資料を読み返してそう思った。反対にゼロナインのサブプロセッサーは、それは大人しいものである。自分からは進んで戦闘に立つというタイプではない。だが、その組み合わせがいいのだろう。
前述の話ではないが、パイロット、サブプロセッサーともに好戦的、盲目的では兵器としては失格の部類に入る。統率が取れて、それでいて独善的でないものが部隊としては好まれるのである。しかし、その好まれる範囲に[相手を躊躇なく撃てるか]というものが含まれているのは言うまでもないだろう。
つまり、へっぴり腰でも兵器としては使えないのである。
――でも、シューフイにはきつめの矯正を掛けたと確か……お、あったあった。
資料に目をやりながらその文言を見つける。そこには、その後のことが書いてあった。
………………
相手の肉を平らげたシューフイはそのあとカウンセリングを受けた。もちろん今までもそんな機会がなかった訳でもなかったが、流石に今回の一件は周りの人間にしてみれば危険、と判断されたのだろう。
だが、そこでもシューフイは面接官に対して、
「人の肉の味って知っていますか?」
と問うたそうである。
そんなシューフイだが、研究所の意向としては[そのまま特性を生かそう]となったのである。だからと言ってこのままではちょっと絡んだだけで銃口を味方に向けかねない。必然的に脳科学も[仲間は守れ]というところに重点を置いて強くかけられた。
それが効いたのか、それとも元々そんな気がなかったのか、命令には逆らわない人材が育成できたのである。そして、ほかのパイロットと違う[調律]もなされた。それは、敢えて両親の名前を消去しなかったのだ。研究所は彼女のトラウマさえも利用しようと考えたのである。
それまで自分の置かれている状況に文句ひとつ出さなかったシューフイが、脳科学で任意の記憶を消せると知った時だけは、
[お願いします、両親の記憶を、どうか記憶を消してください]
と懇願したそうだ。しかしそこは[あの]研究所である。とうの担当官は、
「そのトラウマを抱えてきみは生きていくんだ。ずっとね」
そう答えたそうだ。その時のシューフイの半狂乱な姿はよく印象に残っている、とある。まるで二つの人格が競合しているようだ、と。笑いながら悔しがり、泣きながら[それでいい]と言い放ったのである。
それからは極めて順調に推移した。出した命令には絶対に逆らわないし、かといって自主性も損なわれていない。模擬訓練でもちゃんと仲間を守るし、何なら自分が被弾していても助けに入るくらいの献身さを見せたのである。成績も悪くなかった、とくれば研究所としては一応の[成功]をみたといって良いだろう。そのまま二年半の教練を受けて実戦配備されたのがつい先日、という訳である。
………………
――彼女の事は一応聞いてはいたけど、これほど強烈だったとは。そうか、あの資料の子がこの娘だったんだな。でも、これはこれで試してみたくも……なるよなぁ。
そうカズに思わせるほどにはカズ自身もある意味で[おかしい]のかも知れない。ただひとつ言えるのは、トリシャとペアで旧イエメンに派遣されるのはこのシューフイである、という事だろうか。
トリシャも人に、人間に対して武器を向けるのは慣れている。彼女の場合は[慣れた]というべきなのかも知れないが。
――さて、これで算段は付いた。模擬戦闘過程も順調そうだし、アルカテイルに無事配属も出来そうだ。
カズはこの時、そう思っていたのである。
全44話予定です




