11.教官、この配置どう見る?-私は……間違いを犯したのでしょうか-
全44話予定です
曜日に関係なく毎日1話ずつ18:00にアップします(例外あり)
※特に告知していなければ毎日投稿です
「まず配置についてみて。さっきの状況の再現からだ」
そういうと四体のレイドライバーに指示が行く。それぞれが先ほどの位置まで来て武器を構える。ゼロエイトはハッチを開けたままでカズと話をしている。
「そう、この位置まで来て、一番近い相手がこちらに銃口を向けたんです。そこで私は眼前の敵が最優先と判断してパイロットに一番近い敵機を迎撃するよう指示を出しました」
と言って動きが止まる。
――ああ、なるほどね。
カズは、
「教官、この配置どう見る?」
と尋ねてみる。教官、と呼ばれた件の人物は、
「私の見解からすれば、パイロットのほうが正しい選択をしているように見えますが」
と返ってきた。
確かにゼロエイトから一番近い敵機を狙うのがセオリーなのだろう。だが、ゼロエイトは僚機と近接していた。そしてその僚機は左後ろすぐに控えている。
「ならば、最前面の敵は僚機に任せ、きみたちはいっこ後ろの敵に照準をつけてもいいんじゃあないかな。この距離、位置関係ならきみたちの僚機が後ろの敵機を狙うのは角度的にキツい位置にある。ならばきみたちがうしろをけん制しつつ、僚機に前面の敵を排除してもらう。どうかな」
カズの場数がそう言わしめているのである。もちろん教官とてさまざまな経験を積んだ人間を充てている。確かにレイドライバーの指導という意味では不慣れかもしれない。しかし、この状況下をちゃんと言い当てられたのは、他の部隊での経験があるからである。教官をする、という事はつまるところそれだけの場数を踏んでいるという話になる。
「私は……間違いを犯したのでしょうか」
スピーカーからそんなゼロエイトのため息交じりの声が聞こえる。
だが、
「それが一つ一つ、きみたちの経験につながるのだろうよ。もしも、今の状況が再現したとしたら、サブプロセッサーであるきみはちゃんと適切な射撃管制が行えるだろう。今は出来なくても、それが出来るようになれば命が繋がる。命が繋がればひとつ生き残れるというものさ。そうやって生き残り続けた者がベテラン、と呼ばれるようになるんだ」
一方のパイロットのフィリスは、と言えば[ほら見たことか]という顔をしている。
――それはそれでダメなんだよな。
「フィリスいいかい、今回は確かにきみの判断が正しかった。だけど常に自分の判断が正しいいとは限らないというのもちゃんと頭に入れておくんだ。コックピット内で喧嘩をしているようじゃあいけないよ。まぁ、最終的にはパイロットの判断が優先されるのも事実だ。だから一層の慎重さが求められるのは……まぁ分かるか」
カズにそう言われたフィリスは黙ったままだ。その姿をよく見れば少し震えているのが分かるだろう。孤児院での生活は、軍事教練での生活は、それほどにしっかりとマスターの存在を文字通り[刷り込んで]いるのだ。
――でもそれじゃあダメなんだよ、委縮してもらっても困るんだ。
「オレは別にきみやゼロエイトを叱りたいわけじゃあないんだ。何ていうのかな、きみたちが通って来た過程は確かに消えないし、オレの命令は絶対なのも分かる。だけどね、それを踏まえた上できみたちは成長してもらわないといけないんだ。そしてその成長の一助が今回のようなパイロットとサブプロセッサーの齟齬というものなんだよ」
と諭す。するとフィリスは、
「じゃあ、あたしは間違っていなかったのを正当化してもいい……んですか?」
と返してくる。その言葉に、
「正当化というのは違うな。きみは一つ相手に対して最適解を導き出して見せた。それは今までの教練なんかが影響しているのだと思う。そして今回ゼロエイトは一つ学んだ。それはお互いを知るのに役立つと思うよ。言い合いをするんじゃあない、意見を出し合って最適解を導きだすんだ。もちろん、最終判断はパイロットの専権事項だ。だけど、事が終わったらちゃんと話し合いをしよう、そういう話だよ」
カズはそう言いながらゼロエイトに[きみは悪くはない、ただ間違えただけなんだ。次からは間違えなければいいだけだよ]と諭して、
「という訳さ。コックピット内で喧嘩なんてのはするもんじゃあない。もしもするのだとすれば[相談]かな」
その場をそうして収めたのである。
全44話予定です




