孤独なコンビニ
深夜のコンビニの光は、孤独を包み込むようで、時に残酷です。
何も変わらない場所で、全てが変わってしまう夜の話を綴りました。
大学2年の夏休み、コンビニバイトにふける日々になっていた。
日が出ていないのに、生きるのを妨害するように熱いコンクリートを歩き、
バイト先に向かい、早々に着替えて店に出る。
「こんにちは~」
「お、こんにちは!田中君、ありがとうね!」
同じバイトの佐藤さん。皺が目立ち、線が細い体。
それとは裏腹に、太陽が出ていると感じる明るさを持っていた。
「いえいえ、深夜は稼げるので、僕も助かりますよ。」
「なら、良かった。じゃあ、田中君はレジをお願いね」
「了解です!」
足音が2種類だけの店内には、佐藤さんの声音が響き渡っていた。
「あ、さぼっちゃダメだよ~。ちゃんと内職終わらせといてね~」
そう言い残し、佐藤さんは店の奥に隠れていった。
今日の朝9時から発売の一番くじの準備を進めながら、コンビニの扉が開くのを待った。
プラモデルを組み立てる。そんな気分になり、作業に没頭していた。
あと少しで完成。そんな時に、入店音が鳴り響く。
「いらっしゃいませ~」
客は寛大だ。多少、ぞんざいに扱っても許してくれる。
そんな驕りから、顔も上げずに返事した。
精一杯の息継ぎ。引きずるような足音がレジに迫る。
どこか体が悪いのだろう。安易なことを考えながら顔を上げ、客の姿を確認した。
「はい、どうなさいましたか?」
明らかに、世間一般のお客様とは言えなかった。
顔を覆う黒マスク。細く鋭い目つき。黄ばんだ歯。鍛えられた体。そして、拳銃。
「おい。」
客の放つ、たった2文字の言葉。体を磔にされた気分だった。
「あ、お金ですね。」
何とか逃れなくては。汗で滑る手を、レジに伸ばした。
パンッ_________
鋭く重い音が、空気を切り裂いた。
「聞こえなかった?動くなって。」
冷たい強盗犯の声は、僕の動きを鈍らせる。
___勘違いであれ
そんな安い期待とともに、亀よりも遅く、音が走った方向に目を向けた。
今にも崩れ落ちそうな、ガラスの扉しか見えなかった。
__本物だ。
どうやら、ここで生を諦めるしかないようだ。
「どうかした~?」
異変に気付いたのか、品出しの準備をしていた佐藤さんが前にでてきた。
「え!?」
「動いちゃダメです!」
焦る佐藤さんを見ていられず、咄嗟に口が動いた。
自分もこんなに怯えていたと思うと、滑稽だった。
「はは、2人いたんだ。」
強盗犯は佐藤さんを見つけ、何故か笑顔になった。
僕は、1人ではないことに少し安堵していた。
まだ、警察に連絡すれば助かる。
「まぁ、とりあえず、スマホ出せ。」
考えを読んだかのように、連絡手段を断たれる。
強盗犯の指示に従い、素直にスマホを引き渡す。
「ひっ、うぅぅ。お母さぁぁん。」
佐藤さんは、年甲斐もなく泣きじゃくる。
雨に打たれたように顔を濡らしていた。
「はは、ぶっさいくだなぁ。」
それを見て、強盗犯は笑いながら、店内を歩き出した。
こちらの様子を伺い、ポテチを食べだした。
今なら、狩人に追われる獣と友達になれる気がした。
強盗犯は急に、食べかけのポテチを床に捨てる。
ゆっくりと近づき。何かを渡してきた。
「おい、これ」
そこには、鋭利な刃物が置かれていた。
「はは、なんですかこれ。殺し合いでもするんですか?」
夢であるとしか思えない妄想が膨らみ、笑うしかなかった。
「察しがいいじゃん」
強盗犯は楽しそうに笑い、佐藤さんを見る。
その佐藤さんは、なぜか僕の方をじっと見つめていた。
「ご、ごめんね。田中君。」
「おばさん、いいねぇ」
強盗犯は、ゲームでも始めるかのように、声色が弾んでいた。
「じゃあ、始めるぞ~。やらなかったら殺すからなぁ」
あぁ、こんなことなら、深夜に働かなかったのに。
タラればが、他の思考を遮る。
僕の頭は、初期化したように空っぽになった。
____________________________
なんだか、意識を失っていた気がする。
音も気配もない、不気味な静けさを感じた。
「なにしてたんだっけ。」
そう僕が呟いても、佐藤さんの返事はなかった。
人形のように冷たく、見た目からは想像も付かないほど重かった。
僕は、抱えた佐藤さんの体から床におろした。
静かに店内を見回した。普段と変わらぬ深夜の静けさだった。
新品のように何も入っていないレジ。
「はは、」
食べかけのポテチの袋。
「ははは!」
ひび割れたガラスの扉。
「やっぱ、夢じゃないんだなぁ」
思うように足に力が入らなかった。
力を振り絞り外に出る。だが、救いも希望も何一つなかった。
それを知り、不思議と落ち着き、体の力が抜けた。
「あ、通報しなくちゃ。」
急に冷静になり、コンビニに戻ろうと振り返る。
すると、佐藤さんの姿が見えた。
「あぁ、殺したのか。おれが」
充電が切れたように足が動かない。
「はぁ、はぁ、何だよもう、、、」
視界がだんだん暗くなり、息が荒くなる。
「もう、、頼むから、、、」
妙に、体の中央が熱かった。
「夢で、、、誰か、、、、」
心拍は、リズムを失い、耳鳴りが世界を支配する。
「、、たすけ、、、て」
誰にも届かない声を絞り出し、必死に手を伸ばす。
そこには、肉片のようなものがあった。
「な、なんだこれ」
赤黒い塊を目で追うと、自分の体の中に入っていく。
「はは、だめだ、、、」
意識が遠のき、手に残る生温い血の感触。
それだけが、そこにいた。意識を失う最後の一瞬まで。
田舎にポツンと立つ、真夜中のコンビニの光。
ひび割れたガラスから覗くその光だけが、静寂の中に生きる。
深夜のコンビニという閉ざされた空間を舞台に、
どこまで「孤独と諦念」を描けるか挑戦しました。
もっと磨いていきたいので、感想や指摘があればぜひ教えてください。