母との再会
「くっちゃん、本当にどうしよう」
「ーー僕に言われても・・・」
私は今、どうしても超えなければならない壁に直面していた。単刀直入に言うと私のお母さんだ。お母さんは私が生きていることをニュースで知ってしまいメールが来ているのだ。犯人逮捕に貢献していることについての取材を断れば良かったのだが、時にすでに遅し。
「妖怪世界のアパートが今の家なんだよなぁ。気に入っているから離れなくないし」
下手に人間界で暮らせば志穂たちとの戦いにお母さんを巻き込む可能性もある。どう考えても妖怪世界のアパートで暮らすのが最善だろう。
「誰か、同居している家の彼氏役を演じてくれないかなぁ」
「そうすれば、普段は彼氏の家にいるって言えるからね。ちょっと無理矢理だけど」
その時、思いも寄らない返事が返ってきた
「私でよければ引き受けましょうか?」
「へっ!?」
返事をしたのはなんと、時田さんだった。どうしてと考えてすぐに原因に思い当たる。今日は部屋に飾る花を買いに時田さんが勤める花屋に買い物に来ていたのだった。ついうっかり、店の前で独り言を言ってしまっていた。
恥ずかしさで耳まで真っ赤になる
「あっ、えっと、その、時田さん、これは・・・」
「なにか訳ありなのでしょう?私でよければ力になりますよ」
言葉が出ない私をよそにはしゃぐ女子1人
「良かったじゃん詩音!意中の時田さんと同居できるチャンス!」
「くっちゃん!?」
「僕はこのチャンスを逃すの、もったいないと思うなぁ〜」
「そんなこと言ったって・・・」
ちなみに、妖怪になって得た霊力を使ってくっちゃんと会話できるため、この会話は時田さんに聞こえていない。
「私ではお嫌ですか?」
「いやなんてとんでもない!うれしいですけど・・・申し訳なくて・・」
時田さんはニコリと笑う
「困った時はお互い様ですよ。本当に同居するわけじゃないですし。時々、私の家で遊べば良いのでしょう?」
「ーーそれは、そうですけど・・」
「試しにやってみましょう。いつからが良いのですか?」
こうなってはやるしかない。私はお母さんを安心させるために彼氏役が必要であること、来週からが良いことを伝えた。
「なるほど、お母さんを安心させるために彼氏役を演じて欲しいと。来週の水曜日が良いのですね?」
「はい・・」
「では、打ち合わせをしましょう」
こうして私は時田さんと2人でお母さんに会うことになった。場所はお母さんと私が好きな喫茶店。
全員が揃ってすぐ、お母さんは戸惑った顔をした
「えっと〜、琴音、この人は?」
「初めまして。琴音さんとお付き合いさせて頂いています。時田銀蔵といいます」
「あらまあ、この子ったら、いつの間にーー」
「2年前に知り合って、今は私の家で同居しています」
お母さんは口をぽかんと空けた
「付き合っているだけでも驚きなのに同居しているなんて・・・」
「お母さん、実はそうなの。黙っていてごめんなさい」
「もう少し早く報告して欲しかったわね」
「お母さんに私と琴音さんが付き合うことを認めて欲しいんです。できれば同居も」
「そういわれてもねぇ・・私はまだ会ったばかりだしーー」
その時、店員さんが頼んだコーヒーを運んできた
「ブラックコーヒーです」
「ありがとうございます」
そのまま戻ろうとする店員さんを時田さんが呼び止めた
「待って下さい店員さん。このコーヒー、変なものが入っていますね?」
店員さんは顔をしかめた
「嫌だなぁ〜何をおっしゃるんですか。普通のブラックコーヒーですよ?」
「そうでしょうか。この匂い、薬物が入っていますね?おそらくはベラノーム」
私とお母さんは首を傾げた
「時田さん、ベラノームって?」
「失礼、説明がまだでしたね。私は大学時代に薬学を専攻していました。ベラノームは最近作られた毒物です。砂糖などの糖分に反応して変色します。ちょうど手持ちがあるので試してみましょうか」
時田さんは上着のポケットから小瓶に入った砂糖を取り出した
「では、入れてみましょうか」
すると、コーヒーは黄緑色に変色した
「本当に!?」
「変色した・・・そういえば、このお店は砂糖が無い!!」
「これが動かぬ証拠です」
店員さんはがっくりと肩を落とした
「まさか、バレるとは・・・」
「どうして」
「誰でも良かったんだよ!!」
「警察を呼びますね?」
「ーーはい・・」
その後、店員さんは警察に連行された
「あの、時田さん」
「何ですか、お母さん」
「びっくりしたけど、時田さんが助けてくれたんですよね?ーー娘を、よろしくお願いします」
「お母さん!」
「ふふっ、大丈夫ですよ。琴音さんについて責任を持ちます」
お母さんはペコリとお辞儀をしてその場を後にした
「ーーあの、時田さん」
「なんです?」
「これから、よろしくお願いします」
時田さんはニコリと笑った
「こちらこそ」
これからは、時田さんとの時間も楽しもう。時田さんを見つめながらそんなことを考えた