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アサシンへの道

 昼。くっちゃんと団子を食べていた私はある提案をされた

「詩音、稽古をする気はない?」

「稽古?」

「うん。制裁を行う時に、今は妖怪化で上がった身体能力と僕の四則演算でどうにかなっている。でも、僕の予想を超える動きをするターゲットが現れたら詩音が危ないと思う」

「なるほど、それで護身術を身につける稽古をしようって?」

「うん」

「確かに、技術は磨いておいて損がないかもなぁ」

「じゃあ、やろうよ!」

「誰に稽古をつけてもらうの?」

「それに関してはうってつけの先生がいるんだ」


 くっちゃんに案内されて訪れたのは町外れの墓地


 「ここ、お墓じゃん。ここに先生がいるの?」

「うん」 


だが、周りを見回しても幽霊たち以外に誰もいない


「ーーあれ?お経が聞こえる」


突然、お経が聞こえてきた。

もう一度周りを見回すといつの間にか袈裟けさを着たスキンヘッドのお坊さんがいて、木魚を叩きながらお経をあげている


「いつの間に!?」

「相変わらず気配を消すのがうまいなぁ〜悟りさん。詩音、あのお坊さんが稽古をつけてくれる先生、悟りさんだよ」

「お坊さんが?」

状況を飲み込めない私をよそにくっちゃんがフランクに挨拶あいさつをする

「悟りさん、読経中すみません」


悟りさんが手を止めてこちらを見てニコリと笑った 


「おや、その声は二口女の後頭部の霊さんですね。その子は新しいパートナーですか?」

「そうです、詩音って言います」 


私もペコリとお辞儀をする


「初めまして、近藤詩音です」


悟りさんは少しこちらを眺めて微笑んだ


「私は悟りといいます。詩音さんは眼鏡とバンダナがよく似合う可愛らしいお嬢さんですね。私に何か用事ですか?」


くっちゃんが答える


「はい、悟りさんに体術の稽古をつけてほしくて」

「体術の稽古、ですか」

「詩音と一緒にギルドの復讐依頼を引き受けているのですが、最近は戦闘になることも多くて。体術を磨きたいんです」

「なるほど、そういうわけですかーー良いでしょう、協力しましょう」

「ありがとうございます」


 話によると悟りさんは見ての通りのお坊さんで、普段は墓地で幽霊たちへの子守唄としてお経をあげて過ごしているらしい。とても穏やかな人で武闘派には見えない。

気になったので稽古場に向かう道中、くっちゃんに質問してみた


「くっちゃん、悟りさんって本当に武闘派なの?」

「うん、強いよ。ターゲットじゃなくて心底安心するくらい」

「そんなに!?」

「手合わせしてみたらすぐに分かるよ」


そんな会話をしているうちに稽古場である道場に到着した


「着いたよ」

「ここが稽古場かぁ」


道場の中は畳張りで閑散としていて、広々としている


「では、さっそく準備をしましょう」


悟りさんは袈裟と羽織りを脱いだ。羽織りのしたは柔道着だった。

瞬間、私は息を呑んだ。悟りさんが脱いだ途端に悟りさんからすごい圧が伝わってくる


「詩音、大丈夫?」

「う、うん」


怖気づきそうなのを隠して悟りさんと対峙する位置に着く


「では、始めましょうか」

「お願いします」


瞬間、悟りさんの姿が消えた。いや、速すぎて見えなかった


「詩音、左に避けて」 

「えっ、あっ、ああ」


なんとかギリギリで手刀をかわ


「なんて速さ・・・見えなかった」

「反撃を」

「うん」


だが、ここからが本当の勝負だった

悟りさんは私が右にパンチすれば左に、左にパンチすれば右に正確に避ける。正面からの腹部へのパンチも受け止められて投げ飛ばされる


「ーーそうか、妖怪の悟りって・・」


悟り。それは、人が考えていることを正確に当てる妖怪だ。こちらの動きが読まれるのも当然の話だった。


「詩音さん。あなたがどこそこにパンチを撃とう、と考えている限りは私にパンチは当たりませんよ。そして、それは復讐代行でも大切なこと。復讐代行の時は動きは読まれないかも知れませんが、詩音さん。あなたは制裁を与えるときに何を考えていますか?」


「制裁の時、ですか?それは、相手を懲らしめようとーー」

「それだけですか?優しそうなあなたのことだ。相手をを苦しめないように気遣っているのではないですか?」

「それは・・・」


図星だった。制裁を与えるときは、なるべく相手が苦しまないように最低限の力で行うようにしている


「どうやら図星のようですね。だが、それはとても危険だ。気遣えば必ず隙が生まれる。相手が刃物を持っている場合はその気遣いは命取りですよ。これからも復讐代行を行うというのなら、心を無にして制裁を与える真のアサシンとなりなさい」

「心を無にして、真の、アサシンに・・・」

「さあ、続けましょう」


その後も次々と繰り出させる悟りの格闘術をなんとか躱し続ける。

"反撃しないとーー"

私は精神を研ぎ澄まして無心になった。悟りさんの手に神経を集中させて正面からのパンチを掴み取る。この人を、倒すんだ。

腕をつかむことに成功した私は髪の毛を伸ばす。

"さあ、復讐の時間だよ"

私の髪の毛が悟りさんの首に巻き付く


「1本!!」


くっちゃんの声で我に返る。そのまま髪の長さを元に戻す


「私・・・」

「詩音の勝ちだよ」


悟りさんが立ち上がりニコリと笑う


「詩音さん、最後の無心は良かったですよ。私を倒すことだけを考えられたのは見事でした。真のアサシンに一歩近づきましたね」

私は笑顔で頭下げた

「ありがとうございます」


 悟りさんと墓地で別れて妖怪アパートに帰宅する。


「詩音、今日はお疲れ様」

「くっちゃん、私・・・」

「大丈夫。ちょっとずつ真のアサシンを目指していけば良いよ。まだ、迷いもあるだろうからね」

「くっちゃん、ありがとう」


私は真のアサシン、という目標に戸惑いつつ、次の復讐代行に備えることにした








 









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