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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 前編 カゴの中でもがく虫
9/82

国際教団の企み

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。

 ルトの良き理解者。


 [ジュイス・ブランドー]

 低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。

 女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。


 ▼国際教団

 [胤減(インゲン)

  ソラル教を信仰する国際教団の教祖。


 [神儡(シンライ)

  胤減(インゲン)の弟子。


 [神途(シント)

  胤減(インゲン)の弟子。鉱山での労働を仕切っている。


 ▼その他

 [薄金髪の青年]

  ルトを度々助ける謎の青年。名前は頑なに言わない。

  明るい性格。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 そろそろ……


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



「はぁ……はぁ……」


 また死ねなかった。

 いや…死なずに済んだというべきか。


 あの青年は無事だろうか。

 いやそんなことは分かりきっている。無事では済まないだろう。私は彼を見捨てた。私を何度も救ってくれた彼を。


「本当に自分が嫌になる……」


『なんで?』

 突然耳元に聞こえた彼の声。

 それと同時にピリピリとした感覚が肌を伝う。


 私の目の前に電撃を放ちながら薄金髪の青年が着地した。


「もしかして……倒してきたの?」


「いや、あのデカい赤黒い奴は相手すると面倒そうだから逃げてきた。他はのしたけど」


「のしたって……5、6人はいたでしょ? それを倒したんですか!?」


「おう」

 青年はのんきに明るく笑っているが、無傷だ。本当はものすごい人ではないのか。そう思わざるを得なかった。


「これで国際教団の奴らが動きだすかもな。お前もまた狙われるかもしれない。安全な場所があるのか分かんねぇけど、身を隠しててくれ」


「あなたは…どうするの…?」


「鉱山に向かう。ここらへんを色々調べてたんだが、鉱山の上部に殷獣(いんじゅう)の住処があるみたいなんだが……」

 彼の歯切れは悪い。


「どうも自然に活動してるようじゃなくてな」


「自然に活動してないって、どういうことですか…?」


「普通獣って、腹減ったら餌を探すだろ? ならもっと人を襲ってるはずだ」

 それは確かにそうだった。鉱山で働く誰もが一度は考えたことがあることだが、ソラル教の名の元に納得していたことでもあった。


「けどお前らが週に1回生贄を捧げると、殷獣は襲ってこなくなるんだろ? おかしくねぇ?」

 冷静に第三者を交えて考えるとおかしさしかない。


「殷獣に知能があるのか、それとも…」

 私はその続きを言い当てた。 

「誰かが殷獣を操作してるか…?」


「そういうこった。そこに殷獣を操ってる奴がいるはずだ。で、俺はそいつが国際教団の奴だって踏んでるわけだ」

 だから薄金髪の青年は私に殷獣と国際教団について聞いてきていたのだと納得した。


「とにかく、家かどっか安全なところに隠れてろ。俺達がなんとかするから」

 青年はそう言うと、電撃となって鉱山の方へと(はし)っていった。



 安全なところなんて言われても、そんなところはこの付近にはない。

 家ですら強盗や暴漢に襲われる可能性が十分ある。とはいうものの、目につく外よりはマシだ。


 そうして私はまた死に損なって家へと戻った。


 

 その日の夜はいつもよりも長かった。

 ここ数日で起こったこと。

 

 サヨが襲われかけ、負傷し“神への祈り”として志願した。

 私は襲われ、足を折られ、心も潰された。

 そしてそのたびに薄金髪の青年に助けられた。 

 

 これまで何事もなく穏便に過ごしてこれていたのに、それが一気に崩れ落ちた。

 今もいつ教団の者が私の元に来てもおかしくはない。薄金髪の青年は教団にとって何か都合の悪いことをしている。


 その金髪の青年と接触している私は教団からすれば反体制側と捉えられているのだとしてもなんらおかしなところはない。


 彼は殷獣や国際教団を何とかすると言っていた。

 それはつまり何かしらの方法でこの体制を壊して国際教団に打撃を与えるということ。そうなれば国際教団から確実に私も敵だと認識される。

 彼が安全なところに身を隠すよう言ってきたのはそういうことだろう。


 私の人生はほとんど詰んでいるように思えた。


 彼は恐らく強い。けど国際教団を相手にして勝てるとは思えない。神途(シント)様も、その弟子の4人も遺伝子能力者。


 電撃の能力は確かに強いけど、1人では勝てる見込みはないだろう。

 彼が国際教団の壊滅に失敗すれば、私のところに刺客が送り込まれて殺される。よくても廃人にされて“慰み者”行きだろう。


 仮に私が逃げようとしたって、宇宙港は都市部。まず都市部行きの列車に乗る前に気付かれ、脱走したとして殺される。


 詰んでいる。どう考えても“死”だ。


 死ぬ前にもう一度サヨに会いたかった。

 サヨも後数日で死ぬ運命にある。二人で逃げ出せたらどんなにいいだろうか。

 そんな叶いもしない希望に想いを馳せる。


 

 その時、自室の扉が大きな音を立てて勢いよく開けられた。

「よう。ウォールさん、いるか?」


 月光に照らされた人影。そこに立っていたのは、この間サヨを襲ったチンピラたちのリーダーであるジュイス・ブランドーだった。

「お、いるな。寝てるところ悪いが、ちょっと聞きたいことがあってな」


「……何よ……!」


「そんなに睨むなよ。電撃の男の居場所はどこだ?」


 国際教団のやつらだけじゃない…こいつらチンピラまで彼を狙ってる。

 やっぱり私が思ってた通り国際教団はこのチンピラたちを上手く使ってるのかもしれない。


「なんのこと…?」


「とぼけるなよ。お前が電撃の男と接触してたってのは聞いてんだ」


「確かに数日前に話はしたけど、どこに行ったかなんて知らない」


「言わないか。お前ら可愛がってやれ」

 男達が部屋に押し入ってくる。皆武器は持っていない丸腰だ。


 私は近くに置いていた工具の中から刃物を手に取った。

「来たら殺す……!」


「流石。2人も人を殺した女は違うねぇ。あの時もこんな風に襲われたのか?」


「そうよ…! だからツルハシで頭を割ってやった…! それでここら辺の奴らや昔から私を知ってる奴はほとんど襲ってこない…!」

 とは言っても、それでも襲って来る者はいないわけではなかった。

 襲ってきた奴の中には“強気な女を犯すのがいい”と言っていた奴もいた。クズ共だ。


「少しでも近づいてきたらアンタたちの首を裂いてやる…!」


「そうか」


 ブランドーが掲げた手から発せられた閃光が一瞬で私に命中した。

 まるで刃物に吸い寄せられるように…


 刃物を伝って私は感電した。

「でん……き……なんで……」


「お前らは物心ついたときからその腕輪で遺伝子能力を封じられてるだろう?」

 耳にフィルターがかかったようにブランドーの声がぼんやりと聞こえる。


「でも俺の腕輪にはその制限はついていない」


「今のは煉術(れんじゅつ)ってやつだ。初等部で偉い子ちゃんだったお前ならわかるだろう? 個別の遺伝子能力とは違う、誰もが訓練で平等に使えるようになる共通能力(コモンスキル)だ」


 薄っすらと聞こえる“煉術”という言葉。

 奴は遺伝子能力を制限する腕輪が効いていない。誰もが訓練で使えるようになるという共通の能力で電撃を放った。


 私達は初等部でも練習させてもらえなかった。恐らく支配側に対して反抗されると困るからだ。

 けどこのチンピラのボス、ブランドーは使える。どうして……

 もしかしてこいつも権力側の人間…?


 頭は回るが、体は筋肉が細かく痙攣して動かない。


「お前ら、ルトちゃんをしっかりおもてなししろよ? 電撃の男のことを言いたくなるまでよがらせてやれ」


「だれが……よが……るか…死ね……」


 そして私の上に男が乗りかかった。




▼▼▼



「命までは取らないでやるよ。そういう風に言われてるからな」

 そういってブランドーはズボンのチャックを上げている。クズが……


「まぁ、最後にいい思いできただろ。どうせお前ら労働者はあと数時間で死ぬんだ。隕鉱石(メテオライト)もほぼ採り尽くしたし、用済みだ。俺達教団以外の者はみんな死ぬ」


「でもお前らは最後に死して神途(シント)様のお役に立てるんだからこれ以上ない喜びだろ?」

 ブランドーはやはり国際教団と繋がっていた……神途(シント)の配下だったのか。 


「ここにも直獣が来る。特にお前は臭いが強いから速攻で喰い尽くされるかもな。じゃぁな。最後の刻までせいぜい苦しめよ」


 そう言い残してブランドー達は去っていった。



 それから一体何分ほど横たわっていただろうか。

 やっと体が動くようになってきて、私はゆっくりと上半身を起こした。


 そして体中に(まと)わりついた汚液を拭い、立ち上がる。そして裏戸の外に置いていたバケツを手に取ると部屋に戻った。

 溜めていた雨水を頭から被って体を洗った。


「教団以外はみんな死ぬ……」


 私は服を着て、武器となる工具を持って走り出した。


「サヨ……!」


 もう私の目に涙はない。



To be continued.....

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