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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第2章 中編 研究所の深部
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獅子と化した鬼

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


【登場人物】

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。

 サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。

 遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。


 [バリス・スピア]

 元軍医で、毒の能力を持つ医者。

 薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。

 どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。


 [水王(スオウ) 涙流華(ルルカ)

 元名家・水王(スオウ)家の侍で、水の遺伝子能力者。

 プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。


 [ラルト・ローズ]

 白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。

 口が悪く、目つきももれなく悪い炎の遺伝子能力者。

 政府軍内の裏切りにより、軍を退官してプラズマ達と旅に出ることを決心する。


 [レモン・ポンポン]

 褐色高身長、彫の深い濃い顔にアフロがトレンドマークの伝説のエンターテイナー。

 娯星テロ事件の後、プラズマと涙流華に強制的に同行させられる。ガタイの割にビビり。



殷獣(いんじゅう)討伐部隊


[アドルフ・グスタフ]

 政府直轄機関、通称十闘士(じゅっとうし)の一員。

 今回の殷獣討伐作戦の統括指揮を任されている。


(ウェイ) 月華(ユエホァ)

 政府直轄機関、通称十闘士(じゅっとうし)の一員。


Master(マスター) LIGHT(ライト)

 本名はレクス・テイル。元大元帥。


[アイリス・ローン]

 ピンク髪の政府軍中将。少女のような風体だが34歳。


[ジョン・マイヤード]

 政府軍少将。若い将校でラルトの元部下。


[ストリーム・アクアレギア]

 名家アクアレギア家からの討伐作戦参加者。

 黒いローブを着ておりフードをかぶって素顔を見せようとしない。テンションが高い。


四暮(シボ)(ダン)

 大道芸人集団を率いる男。金髪アフロにサングラスをかけている。テンションが高い。

 レモンを連れてどこかへ行った。


▼知能型殷獣

[アリシア]

 赤黒い肌をした人間の少女のような姿の知能型殷獣。

 人との争いを望んでおらず、停戦のため動く。


[“見えない”殷獣]

 トカゲのような四足歩行の殷獣。声は高く口調は女性寄り。透明化する能力を持つ。

 暴走したプラズマに討たれた。


[“速い”殷獣]

 鳥型殷獣。風の能力を持つ。バリス達に捕らえられていたが、獣人型殷獣によって始末された。


[“硬い”殷獣]

 ジパニカビートル系の昆虫型殷獣。ストリーム・アクアレギアに一撃で葬り去られた。


[巨獣型殷獣]

 巨大な体躯を持つ知能型殷獣。元となる身体のドナーは前回の殷獣調査作戦に参加していた政府軍少佐のレブロ・ヤクアーズ。


[中枢の殷獣]

 全殷獣との通信を司る知能型殷獣。

 脳ドナーは将来を有望視されていた元多星間警察の女性警官。


[獣人型殷獣]

 バリスやラルトの元に現れた多数の格闘技を操る知能型殷獣。“速い”殷獣を始末した。


[蝸牛型殷獣]

 中枢となる知能型殷獣の近くで守っているカタツムリ型の殷獣。


[獅子型殷獣]

 “強い”と呼ばれる獅子型の知能型殷獣。


▼危険人物

[マリア・ヴァージニア]

 前回の殷獣調査で行方不明となった元政府軍少将。

 殷獣汚染により、凶暴化している可能性がある。


[元四帝(よんてい)

 一神(いっしん)四帝(よんてい)から離反した元四帝の一人、“女帝”。


 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 赤黒い獅子型の殷獣は足元から溢れ出た血のような液体を勢いよくレクス達に放った。


「ヴァージニア、目を閉じろ!」

 レクスに言われた通り、すぐに目を閉じるマリア。


 レクスが左から右へと水平に空間をなぞると光を放つ壁が現れ、赤黒い液体を蒸発させるようにして防ぐ。


 赤黒い霧とともに光の壁も宙に消えていく。

「ヴァージニア! 後方!」

 レクスの指示により、マリアは後方へと間合いをとった。


 淡い光の霧の中から獅子型の殷獣がゆっくりと歩み寄ってくる。

「この星には相応しくない能力…… Mastersの【煌弾(こうだん)】レクス・テイル殿、お目通り叶い恐悦至極に存じます」

 機械音のような低い声色で(うやうや)しく(こうべ)を垂れた。


()()()()()()()()は随分と躾がなってるな」

 

 獅子型殷獣の足元からまた赤黒い液体が溢れ出出した。

「ヴァージニア、また来るぞ」

 レクスの声を受け、マリアは周囲を警戒する。


 溢れ出た赤黒い液体はさらに溢れ、獅子型殷獣の周りを渦巻き始めた。

 渦巻く液体は滝のような轟音を上げながら水量を増していく。


 そして渦巻いた液体が十数メートルの槍のように巻き上がったときだった。


「ヴァージニア! 右だ!」

 レクスは咄嗟にマリアの手を引く。


 豪速で伸びる棒のようなものがマリアのポニーテールを掠めた。


 回避して地面に転がる2人だったが、すぐに体勢を立て直す。

 

轟唱(ごうしょう)焔填火球(えんてんかきゅう)!」

 マリアはすぐさま煉術(れんじゅつ)で反撃を行った。


 マリアの放った巨大な火球は、渦巻く液体にぶつかり衝撃波を生んだ。


 その間に2人は更に間合いを取る。

 レクスとマリアは先ほど飛び出てきた棒状の何かに目を向けた。


「木……?」

 マリアは目を丸くしている。

 地面に転がっていたのは、太い木の枝だった。


「当たってたら、頭に穴が空いてたな」


「縁起でもないこと言わないでくださいよ……」


 獅子型殷獣は余裕を表すように、のっそりと一歩、二歩と歩みを進めた。

「よく避けたな」


 レクスは服についた砂埃を払う。

「木に水か。環境に優しそうな遺伝子能力だな」

 

「遺伝子能力は木のみ、水は煉術だ」


「知能型殷獣は煉術も使うのか」


「私だけだ。知能型殷獣としては煉術は修得できん。殷獣の遺伝子が邪魔して遺伝子情報を得ることができなくなるらしいからな」


「だが、お前は殷獣の遺伝子が邪魔してないと?」


「いや違う。私は()()()()()()修得している。体に染み付いた状態というわけだ」


「ならばお前は元は人間ということだな」


「私の過去の話などどうでもよかろう」


「そんなことはないさ。敵情報の収集は重要な作戦行動の一つだ。それに今の会話だけでも多くの情報が得られた。ペラペラと喋ってよかったのか?」


「我々は自分の力に自信を持っている。たかがしれた情報を渡したところで戦況には変化ない」

 ハッタリではない。獅子型殷獣には確かな自信があった。


「それに私は戦うときは正々堂々とやりたい質でね」

 獅子型殷獣の予想外の言葉にレクスは小さく笑った。


「殷獣が武人の真似事か?」

 

「……それは戦えば分かること」


 獅子型殷獣の目の前の地面から、直径2メートルはあろうかという大木が左右対称に二本隆起した。


 二本の大木は少し伸びると湾曲し、レクス達の方へ目掛けて凄まじい速さで迫っていく。


「木に挟まれるな!」

 レクスはマリアに指示を出す。


 それと同時に、迫り来る大木二本の間に鋭い枝が伸び始めた。

 大木の間にいれば瞬時に蜂の巣になることは明白だった。


「わかって……ますよっ!」

 マリアは左に飛んで大木の挟撃を回避した。

 レクスも同じように右に飛んで回避する。


「防御!」

 大木の挟撃を避けたレクスは、次の指示を叫ぶと、煉術で岩の防御壁を出した。


 レクスの指示通り、マリアも煉術で鉄壁を出し、防御態勢をとる。


 すると大木からレクスとマリアに向けて鋭利な枝が伸びていく。

 防御壁に当たって枝の折れる大きな振動と轟音が響いた。


 10秒ほど耐えると、獅子型殷獣の猛攻は止まった。

 2人は煉術の防御壁を解くと、陣形を整えるように集結した。


 獅子型殷獣は、大木を地面の中へと引きずり入れて能力を解除する。

「よく防ぎきったな。流石、というべきか。この攻撃で穴あきになって始末できると思っていたのは、驕りだったようだ」


 大木によって(えぐ)れた地を見たマリアは体を強張(こわば)らせた。

「木の能力でこんな威力だなんて……」


 マリアが驚くのも無理はない。

 歴戦を渡り歩いてきたレクスですら、木の能力でここまでの者は見たことも聞いたこともなかった。

 

 レクスは獅子型殷獣に対し、冷やかしや皮肉ではなく、純粋にその能力を賞賛した。


「凄まじい威力だな。俺が知っている植物系の能力の中ではダントツで一番だ」


 その言葉に獅子型殷獣は穏やかに、それでいて自信に満ちた声色で答えた。

「水を支えるための木……誇らしい遺伝子能力だ」


「この姿になって使うのは(はばか)られたが、お前達に敬意を表して、私の誇るべきこの遺伝子能力で葬ってやろう」


AGIS(エイジス)樹成転況(じゅせいてんきょう)


 獅子型殷獣が遺伝子能力との同調を宣言すると、辺り一帯が群立する大樹に包まれた。

 血のように赤黒い大樹は、殷獣独特の邪気のようなものを放っている。


「Masters、【煌弾(こうだん)】レクス・テイル殿、いざ尋常に勝負」




To be continued.....

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