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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第2章 中編 研究所の深部
73/83

獣人型殷獣

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【登場人物】

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。

 サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。

 遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。


 [バリス・スピア]

 元軍医で、毒の能力を持つ医者。

 薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。

 どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。


 [水王(スオウ) 涙流華(ルルカ)

 元名家・水王(スオウ)家の侍で、水の遺伝子能力者。

 プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。


 [ラルト・ローズ]

 白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。

 口が悪く、目つきももれなく悪い炎の遺伝子能力者。

 政府軍内の裏切りにより、軍を退官してプラズマ達と旅に出ることを決心する。


 [レモン・ポンポン]

 褐色高身長、彫の深い濃い顔にアフロがトレンドマークの伝説のエンターテイナー。

 娯星テロ事件の後、プラズマと涙流華に強制的に同行させられる。ガタイの割にビビり。



殷獣(いんじゅう)討伐部隊


[アドルフ・グスタフ]

 政府直轄機関、通称十闘士(じゅっとうし)の一員。

 今回の殷獣討伐作戦の統括指揮を任されている。


(ウェイ) 月華(ユエホァ)

 政府直轄機関、通称十闘士(じゅっとうし)の一員。


Master(マスター) LIGHT(ライト)

 本名はレクス・テイル。元大元帥。


[アイリス・ローン]

 ピンク髪の政府軍中将。少女のような風体だが34歳。


[ジョン・マイヤード]

 政府軍少将。若い将校でラルトの元部下。


[ストリーム・アクアレギア]

 名家アクアレギア家からの討伐作戦参加者。

 黒いローブを着ておりフードをかぶって素顔を見せようとしない。テンションが高い。


四暮(シボ)(ダン)

 大道芸人集団を率いる男。

 金髪アフロにサングラスをかけている。

 テンションが高い。


▼知能型殷獣

[アリシア]

 赤黒い肌をした人間の少女のような姿の知能型殷獣。

 人との争いを望んでおらず、停戦のため動く。


[“見えない”殷獣]

 トカゲのような四足歩行の殷獣。声は高く口調は女性寄り。透明化する能力を持つ。


[“速い”殷獣]

 鳥型殷獣。風の能力を持つ。


[“硬い”殷獣]

 ジパニカビートル系の昆虫型殷獣。ストリーム・アクアレギアに一撃で葬り去られた。


▼危険人物

[マリア・ヴァージニア]

 前回の殷獣調査で行方不明となった元政府軍少将。

 殷獣汚染により、凶暴化している可能性がある。


[元四帝(よんてい)

 一神(いっしん)四帝(よんてい)から離反した元四帝の一人、“女帝”。


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挿絵(By みてみん)


〜プラズマベース〜


「アドルフさんと連絡が取れた。始末せず、一応情報を引き出し続けろってさ」

 ホログラムのメッセージを閉じながら、バリスはそう言った。


 バリス、ラルト、マイヤードの前にぐったりと倒れている鳥型殷獣。

 マイヤードから拷問を受け、虫の息となっていた。


「こいつの言ってた雑魚殷獣来ないっすね」

 マイヤードはラルトに話しかけた。


「殷獣の“軸”ってのも、敵に情報ペラペラ喋る奴は要らねえんだろ」

 ラルトは着火式タバコを口に咥え、火をつけている。


「こいつからまだ情報取れますかね?」

 マイヤードの問いにラルトはタバコの煙を吐き出してから答えた。

「マイヤード、それを吐かせるのが情報収集だろ」


「じゃあ、癒唱(ゆしょう)で少しだけ回復させますか」


 マイヤードが鳥型殷獣に近づき回復させようとした時だった。


 何かがテントを上から突き破ると、鳥型殷獣に直撃して砂煙を巻き上げた。


「敵だ!」

 ラルトはすぐさま声を上げ、マイヤードは間合いをとった。


「バリス!」


「分かってる!」

 ラルトの呼びかけに、バリスはアドルフに対して非常通話を開始する。


 砂煙が晴れるに従って、襲撃した敵の姿があらわになる。


 二足歩行に、赤黒い鎧のような表皮。

 刺々しい突起物。邪悪な表情を思わせる顔貌。


 人型というよりは獣のような……獣人を思わせるような風体だった。


「こいつ…知能型の一種か?」


 獣人のような殷獣の右手には鳥型殷獣の首が握られており、前に突き出すようにその手を伸ばしていた。


 鳥型殷獣の体はほぼ潰れていたが、高い生命力からまだかろうじて息はしていた。


 しかし…


 獣人のような殷獣は鳥型殷獣の首を握りつぶす。


「口封じに来たってわけかよ…!」

 ラルトはそう言って手の平から炎を出した。


 殷獣は鳥型殷獣から手を離すと、両手を顔の前に構えた。


「格闘術か!?」

 ラルトも咄嗟に蹴打術(キックボクシング)の構えをとる。


 間合いを詰めてくる殷獣。右手の正拳突きのモーションが見えたラルトは躱そうと試みる。

「速ぇっ…」


 コンマ数秒のことだったが、相手の正拳突きを躱しきれないと判断したラルトは軌道変更(パーリング)しようとした。


 しかし、正拳突きは飛んでこなかった。

 一瞬にして敵の姿が消えたと同時に、ラルトの腹部に衝撃が走る。


 くの字に吹き飛ぶラルトは簡易テーブルに激突した。


 その様子を見ていたバリスがその格闘術の名を口にした。

「ありゃ…躰術(たいじゅつ)か…?」

 

 突きを出すと見せかけて、体を回転させながら両手を地面について、低い体勢から蹴りを繰り出す。


 20年ほど前、有名な異種格闘術の選手が使用していた珍しい格闘術。

 飛び抜けた身体能力と高い技術を有する者のみが修得できるものだった。


 バリスが手の上に麻痺毒の塊を生成するが、すぐさま毒の塊が弾け飛ぶ。


「なっ…?」


 バリスが敵の方を見ると、殷獣の手には血でできた拳銃のような物が握られていた。

 撃ち終えた拳銃は形を失って流れ落ちていく。


「こいつ…!」


 空手術、躰術、銃術。

 バリスは即座に悟った。

 この殷獣は異種格闘技選手を元にして造られた知能型殷獣だと。


「こりゃあ…やべえな…」


 接近の肉弾戦であればマイヤードの力は役に立たない。

 マイヤードは煉術(れんじゅつ)で体を鉄化させるが、一瞬で間合いを詰められ、腹部への一撃で倒れた。


 そしてバリスも瞬く間に殷獣によって蹴散らされてしまう。




〜研究所・遺伝子研究棟地下1階〜


「なんか…物々しいわね」

 廊下を歩くアイリスは辺りを見回しながら呟いた。


 至る所にガラス張りの自動ドアが設置されており、どのドアにも“BIOHAZARD”の文字と赤色のマークが施されている。


 その後ろを歩くプラズマとアリシアも辺りの暗さと不気味さから緊張しながら歩いている。

「私も…この棟の地下に来るのは初めて…」

 アリシアは怖がった様子でそう言った。


「知能型殷獣でも近寄れないのか」

 プラズマの言葉に、先頭を歩くストリームが意見した。


「近寄れないんじゃない。近寄りたくないんだよ。ねぇ? アリシアちゃん」


 アリシアは軽く数回首肯した。


「ここには殷獣の“軸”がいる。殷獣にこの辺りで暴れられたくないだろうからね。近寄りたくない何かを出してたのさ」


「“殷獣の軸”ってなんなんだ? 見たことあるのか? アリシア」

 プラズマはアリシアに尋ねる。


「いや、直接見たことはないの。私たちは“中枢”とか“軸”って呼んだりするんだけど、多分生み出されたのはここ数年の話だと思う」

 アリシアはさらに続けた。

「数年前に私たち殷獣の通信機能となるような能力を持った知能型殷獣……“中枢”の殷獣が現れたの」


「どうやって現れたのかは分からないけど、多分誰かに生み出されたんだと思う。私たちと同じように。でも動いてるところは見たことがないかな?」


 その説明を聞いた涙流華は顎に手を当てて難しい表情を浮かべている。

「つまり、殷獣用の据え置き型通信機みたいなものか?」


「涙流華! すごいじゃない! その通りだよ!」

 小馬鹿にしたように大喜びするストリームに、涙流華は怒りの肘鉄をくらわせた。


 そんなやり取りをしながら薄暗い通路を歩く一行。

 各部屋には標本用のホルマリン容器が並べられているのがガラス越しに何となく見える。

 その中には黒ずんだ液体と、何かの固形物が浮かんでおり、電力供給が失われた今は明らかに腐っているようだった。


「なんか、アクスグフスのとこみたいだな…」

 その光景を見たプラズマはふと口からそのような言葉が出る。


 そしてプラズマの言葉に反応したのはストリームだった。

「この研究所もアクスグフスが絡んでるからね。プラズマ君は牢星(ろうせい)でアクスグフスの研究施設を見てるんだったね」


「それにピンクの中将殿もアクスグフスの研究施設を……いや、君は第四区画で雑魚相手に遊んでただけだから見ていないんだったかな?」


「ほ〜ん? 私のことを随分とご存知のようね。私のストーカーかしら?」

 アイリスはなんとか怒りを抑えているが、怒りによる顔面のピクつきは隠せていない。


 ストリームは燃えるアイリスに対してさらに油を注ぐ。

「だから君に興味ないって。勘違いしないでくれ。君だけじゃなくて他の人の情報も持ってるから」


「こいつ…!」


「で、アクスグフスって何者なんだよ!」

 プラズマは声を荒げて尋ねる。


 ストリームは困ったように息を吸い込むと、詰まり詰まり答えた。

「ん〜……この世界の“中心”が生み出した、その複製…みたいなものかな」


「世界の中心の複製…?」

 プラズマは困惑している。


「そう。それが君を狙ってたってことだよ。アクスグフスは牢星の研究所やここでの殷獣研究に関わってた」

 難しい顔をしているプラズマ。ストリームの話があまり理解できていない様子だった。


「アクスグフスは“世界の中心側”から離反した。それで“世界の中心側”に対抗するために君を手に入れようとした」


「なんで俺がいるんだよ?」


「それはだね、君は…」

 

「ちょっと! 牢星とかの意味わかんないことばっか言ってないで、今重要な殷獣のことを説明しなさいよ!」

 話に置いてけぼりにされたアイリスはストリームに詰め寄る。


 アイリスはフンと鼻を鳴らすと、ストリームを追及した。

「で? 殷獣の“軸”ってやつの正体は知ってんでしょうね、情報通さん?」


「知ってるよ。とは言っても中に入ってる脳が誰のかってだけだけどね」

 ストリームの“脳”という言葉に皆息を呑む。


「誰のよ?」

 アイリスの問いにストリームはゆっくりと答えた。


「セシリア……ヴァージニアという……若い女性の脳です」



To be continued.....

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