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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 前編 カゴの中でもがく虫
7/82

死への恐怖

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。

 ルトの良き理解者。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 第二部表紙作りました!

 第一部も章ごとに表紙が追加されてたり

されてなかったり…


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 未だ新しいペアは決まらない。

 私はただひたすら自室で担当が来るのを待った。


 私は薄金髪の青年からもらったジャンパーに目を向ける。

 IMIC……彼は一体……



 その時、ボロい木製の戸が(きし)んだ音を立てて開く。

 新しいペアの決定を伝えに担当者が来たのだろうか。


 扉を開けて現れたのは、もう会うことのできないと思っていた人物だった。


「サヨ…?」


 戸の前に立っていたのは、担当者ではなくサヨだった。

 彼女の後ろには恐らく国際教団の団員と思われるベージュ色のローブを着た男が3人立っていた。彼女は“神への祈り”となる。護衛なのだろう。


「ルト、元気?」

 声色はいい。きっと次の“神への祈り”として好待遇を受けているのだろう。


「まぁ…ボチボチかな…」

 言葉とは裏腹に昨日の忌々しい記憶を思い出す。


「そう言えば、サヨは足治ったの? 歩けてるみたいだけど」


「うん、治してもらったの。今はもう何ともないよ」

 

 サヨは右足、左足と順々に上げて完治したことをアピールしているが…

 あんな怪我がこんなにもすぐに治るのだろうか。

 俄かに信じがたいけど、私も昨日あの薄金髪の人に治してもらった手前、あり得るのだろう。


「サヨ、採掘しなくなってから、なんか色白くなったね。私だけ日に焼けてるね」


 サヨは目を見開くと、申し訳なさそうに(うつむ)いた。

「ごめんなさい…」


 私の言い方が嫌味に聞こえたのかもしれない。


「私のせいでまた新しい人と組むことになって……まだ新しい人を待ってる状態なんでしょ?」


「いいんだよ。サヨの方が辛い目にあったんだから……気にしないで……」


 実は私も昨日……

 そう言いたかったが、不幸勝負をしたって何にもならない。

 喉まで出かけた言葉を何とか飲み込んだ。


「いいえ、私なんて全然辛くない……ルトには本当に申し訳ないと思ってる……」


 サヨはギュッとてを両手を握っている。


「もう! せっかく会いに来てくれたんだから、もっと楽しい話をしよう?」


 その言葉にサヨはさらに表情を曇らせ、唇を噛んだ。

「ルト……今日はお別れを言いに来たの。もう、ルトと直接会うことはないから……」


「そ、そっか……! サヨにはほんとに世話になったよ! 初等部にいたときからペアで……ずっと助け合ってきた…」


「私にとって、サヨは家族だよ」


 私はサヨに近づき抱きしめようとしたが、彼女はそれを両手で拒絶した。


「ごめん……応えられない……ずっと自分勝手でごめんね……」


 サヨは涙を流している。


「ルト、ありがとう。あなたとの生活は本当に…本当に心から楽しかった」


 サヨは右手を私に差し出した。

 私は…正直少しがっかりしながらも、握手に応じた。


 少しの間沈黙して、私達は手をゆっくりと離した。

 サヨの顔は名残惜しそうだった。私だってそうだ。


 そしてサヨは涙を拭うと、覚悟を決めたように鋭い目つきとなった。


 “神への祈り”として生きることを決意したのだろうか。

 それとも死ぬことを覚悟したのだろうか。



 あっという間の最後だった。

 5分にも満たない呆気ない最後。



 護衛の教団に前後を挟まれながら、私達の家から去っていく。


 こうして私は完全に親友を失った。



▼▼▼



「私も“神への祈り”に志願しようかな…」


 それも悪くない。

 この星でいい暮らしができるのなんて一握り。

 しかも私達みたいな底辺で育った人間が這い上がるのなんてその中でもさらに一握り。


 夢を見過ぎたんだ。


 昔、初等部のときに政府軍のお偉いさんが学校に来たことがあった。

 銀河を統べる政府軍。私は、私たちとは住む世界が違う神でも来るんじゃないかって緊張したのを覚えてる。


 なんでもその人は最年少で将校になった人だったそうだ。


 その人はさぞ恵まれた環境、遺伝子があったんだろう。

 そう思っていた。


 けどその人は紛争孤児の出自だった。

 その後少年兵としてあの大規模な戦争に参加させられ、生き残った。

 

 そして政府軍に保護される形で入隊し、将校へと駆け上がった。

 その人は私たちにこう言った。


『夢を捨てるな。知識と力を蓄えろ。いつか春が来た時に咲けるように』



 それから私は初等部で勉強をしまくった。

 学校では死に物狂いで勉強し、放課後の採鉱の合間にも知識を詰め込んだ。そして思考した。


 そうして私は初等部をトップで卒業した。

 採鉱労働地区に住む私たちは中等部に進むことなく労働者となる。

 初等部をトップで卒業したからと言って何かが変わるわけではないが、この知識という武器をいつかこの星から出たときに活かそうと、私には生きる大きな糧となった。


 いつかこの星を出て、宇宙に出る。

 その夢を掴むために。



 初等部から一緒だったサヨと共に命を賭けて働き続けた。


 来る日も来る日も砂に塗れ、怪我をして、暴漢に襲われても鉱石を掘り続けた。



 その結果、親友を失い、尊厳も失い、遂には生きる気力さえも失った。



 夢を見るには相応の境遇が必要だった。

 私には高望みすぎたんだ。


 

 そんなことを考えながら部屋を出た。

 私は気づくとあの忌々しい場所へと向かっていた。


 もしかしたらまた……




 あの場所にたどり着くや、昨日のことがフラッシュバックする。

 忌々しい感触、臭い、味……

 吐きそうになる。


 私はこの付近を歩き続けた。

 いつものようにもし暴漢がいたら、なんて考えもせずに。


 武器となる工具さえも持っていない。


 もう……ヤケクソだった。



 けれど私の求めるものはない。

 情けなくて私はへたりこみ、涙が溢れてきた。


 こんなので泣くなんて自分自身が情けなくなるため、涙が落ちないように天を仰ぐ。


「ふぅ……そんな度胸なんてないくせにさ……」


 “神への祈り”。

 やはり私は怖くなって、一層体がガタガタと震え出した。



 私のぼやけた視界に覗き込むように入ってくる人の顔。



「なんだ? また泣いてんのか、大丈夫か?」


 私の震えは徐々に止まっていった。



To be continued.....



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