歴戦の勘
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【登場人物】
［サンダー・パーマー＝ウラズマリー］
金髪の活発な青年。電撃系の能力を持つ。
サンダー・P・ウラズマリーから「プラズマ」というあだ名で呼ばれる。
遺伝子能力養成学校高等部を卒業し、輸送船に忍び込んで宇宙へと旅立った。
［バリス・スピア］
元軍医で、毒の能力を持つ医者。
薄紫で、天を衝くようなツンツン頭。目つきが死ぬほど悪い。
どんな病でも直す幻の植物を探すため、医星を出てプラズマと旅をすることになる。
［水王 涙流華］
元名家・水王家の侍で、水の遺伝子能力者。
プラズマ達に妹を救われた一件で、自分に足りないものを探すため、水王家当主から世界を回ることを命じられる。
［ラルト・ローズ］
白色の長髪で、いつもタバコをふかしている政府軍中佐。
口が悪く、目つきももれなく悪い炎の遺伝子能力者。
政府軍内の裏切りにより、軍を退官してプラズマ達と旅に出ることを決心する。
［レモン・ポンポン］
褐色高身長、彫の深い濃い顔にアフロがトレンドマークの伝説のエンターテイナー。
娯星テロ事件の後、プラズマと涙流華に強制的に同行させられる。ガタイの割にビビり。
▼殷獣討伐部隊
［アドルフ・グスタフ］
政府直轄機関、通称十闘士の一員。
今回の殷獣討伐作戦の統括指揮を任されている。
［魏 月華］
政府直轄機関、通称十闘士の一員。
［Master LIGHT］
本名はレクス・テイル。元大元帥。
［アイリス・ローン］
ピンク髪の政府軍中将。少女のような風体だが３４歳。
［ジョン・マイヤード］
政府軍少将。若い将校でラルトの元部下。
［ストリーム・アクアレギア］
名家アクアレギア家からの討伐作戦参加者。
黒いローブを着ておりフードをかぶって素顔を見せようとしない。テンションが高い。
［四暮弾］
大道芸人集団を率いる男。
金髪アフロにサングラスをかけている。
テンションが高い。
▼知能型殷獣
［アリシア］
赤黒い肌をした人間の少女のような姿の知能型殷獣。
人との争いを望んでおらず、停戦のため動く。
［“見えない”殷獣］
トカゲのような四足歩行の殷獣。声は高く口調は女性寄り。透明化する能力を持つ。
［“速い”殷獣］
鳥型殷獣。風の能力を持つ。
［“硬い”殷獣］
ジパニカビートル系の昆虫型殷獣。ストリーム・アクアレギアに一撃で葬り去られた。
▼危険人物
［マリア・ヴァージニア］
前回の殷獣調査で行方不明となった元政府軍少将。
殷獣汚染により、凶暴化している可能性がある。
［元四帝］
一神四帝から離反した元四帝の一人、“女帝”。
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「血を流させないようにして！」
「なんでだよ！？」
「彼の遺伝子能力はGene of Bloodshed-Engine、血が流れれば流れるほど身体能力が強化される能力なの！」
「だから、もし血を流させちゃったら止められたとしても今よりも速く追いかけてくる…！」
「ほんとかよ！」
「だから痺れさせるくらいじゃないと…」
アリシアの懸念を全く受け止めることなく、プラズマは手に電撃をまとわせた。
「電撃だから血は出ないと思う！」
そして振り返ると、巨獣型に対して電撃を放つ。
巨体にも効くように雷に近いような太い電撃を頭上から落とした。
もろに喰らった巨獣型殷獣は一瞬にして制止した。
その様子を立ち止まって見ていたアリシアも感心したように口をあんぐりと開けている。
「よっしゃ！ 今だ！」
プラズマがそう言って走り出し、アリシアの肩を叩く。
アリシアも我に返ったように返事をすると、プラズマの後を追う。
「すごいね…プラズマ！」
「まぁな！ こう見えても捜査隊のリーダーだからな！」
プラズマは鼻高々と言った様子で得意げな表情を浮かべている。
しかし、その時だった。
「ガァァァァァァァァァ！！」
またも巨獣型殷獣が雄叫びをあげると、あろうことか自分の爪で自分の体を引っ掻き始めたのだ。
「なんだ！？」
走りながら後ろを確認するプラズマとアリシア。
巨獣型の自傷行為に目を疑った。
「まさか…自分で血を流してんのか…！？」
「まずいよ！ 早く逃げなきゃ追いつかれちゃう！」
「プラズマ！ 左！ そこに入口があるからそこに入って！！ とにかく入り組んだところに入ろう！」
アリシアは左前を指差した。
錆びた看板には“備品貯蔵棟”と記されている。
「わかった！」
アリシアを先頭にして備品貯蔵棟に入っていく。
中は薄暗く、先はよく見えない。
「私についてきて！」
「確かこっちに…」
入口から一直線に伸びる廊下を走り続ける２人。
アリシアは何かを思い起こすように渋い表情を浮かべている。
「あった！ ここだ！」
アリシアが声を上げ、右側の部屋の前で止まった。
そこには“ガスボンベ倉庫”という表札が掲げられている。
「アリシア、まさかお前…」
「ガスボンベを爆発させよう…！ やり方は分からないけど…」
「アリシアは先に行ってくれ。俺が準備する」
プラズマはそう言って煉術の鉄唱を発動させ、太い剣を生み出した。
「プラズマ…？」
「ほら、行けって」
プラズマは優しくアリシアの肩を押して、先に行くよう促した。
言われるがまま奥へと走っていくアリシアを見送ると、プラズマは部屋の中に入り通覧した。
「プローペイン系のガスか…５メーター×３メーターくらいのタンクが数えられねぇくらい…」
その時、雄叫びと共に建物が吹き飛ぶ轟音が響く。
「やべっ、とりあえず１つでいいだろ」
プラズマは持っていた剣をタンクに突き刺すと同時に全速力で部屋を出た。
少し走ると、電撃化して一気にその場から離れる。
プラズマはアリシアに追いつくと、振り返って巨獣型を確認した。
巨獣型は軽々と廊下を破壊しながら追いかけてきている。
「アリシア！ もっと全力で走れ！」
「う、うん…！」
そして巨獣型がガスボンベの部屋を通りかかった瞬間…
「吹っ飛べ！」
プラズマは糸のような電撃を放つと再度電撃化してその場を離れる。
コンマ数秒後、巨獣型は大爆発に巻き込まれる。
大きく揺れる建物。通ってきたところは次第に崩れていく。
プラズマ達２０メートルほど手前で崩落が止まると、程なくして揺れも収まった。
「プラズマ…大丈夫…？」
「あぁ」
「さすがにやっつけたかな…？」
「あれでやってなけりゃとんでもない強さになって復活するな…」
不安な眼差しで崩落した瓦礫を見つめる２人だったが、その不安は的中することとなる。
「待て…なんか聞こえないか？」
プラズマがアリシアに問いかける。
「えっ？ 私は何も聞こえ…いや、遠くで瓦礫が崩れてる…？」
「やばい…！ 逃げるぞアリシア！」
プラズマはすぐさまアリシアを引っ張り、横の部屋へと飛び込んだ。
すると大量の瓦礫が廊下を埋め尽くすように猛スピードで飛んでいった。
「あ、あぶねぇ…！」
「ありがと…プラズマ…よく分かったね」
「まぁ、歴戦の勘だな！」
こんな事態でもプラズマは能天気に笑っている。
「アリシア、ここに穴あけられるか？」
プラズマは部屋の奥の壁を指差した。
これなら巨獣型が向かってくる方向と９０度違う方向へ逃げることができると考えたのだろう。
「わかった…！」
アリシアは右拳を軽く振るうと壁を吹き飛ばした。
「よっしゃ、これで元の通路に戻るだろ？」
そう言ってプラズマは外へと出ていく。
「元の道に戻っても結局身を隠しながら動かなきゃ行けないけど…」
「わぁってるよ！ でも動線は外さなきゃなんねぇだろ！」
「あの爆発でしなねぇなら軍用ミサイル何十発かいれなきゃ効かねぇな…！」
プラズマとアリシアが通路に出て数十メートル走った時だった。
彼らの後方で備品貯蔵棟から通路に瓦礫が吹き飛んだ。
「うそだろ！？ こっちって分かってんのかよ！」
アリシアは全力疾走しながらも答えた。
「彼は私の位置を捕捉してるの！」
周囲からは人型の実験体崩れが寄ってきている。
「あのゾンビみてぇなやつもこっちきてやがる！」
そして備品貯蔵棟から巨獣型が姿を現した。
「やっべぇ…」
あの爆発から相当量の血を流していると考えられ、能力の上昇幅は途轍のないものだと予想できる。
「アリシア！ 早く脇に！」
プラズマが声をかけるその間にも、巨獣型は凄まじいスピードで迫ってきている。
そして巨獣型は一撃を入れられる間合いまで入ると、大きく腕を振りかぶった。
「まずっ…」
プラズマがアリシアを庇おうとした時だった。
「どかーん」
ピンク色の何かが巨獣型にぶつかると、巨獣型を吹き飛ばした。
ピンク色の何かは軽やかに着地すると、声を発した。
「やぁ〜っぱアンタね、パーマー・ウラズマリー」
少女のような風体をしたピンク色の髪の人物。
彼女は長い髪を黒いゴムで束ねると、特徴的なピンク色の線が入った軍服の前ボタンを開けた。
「ったく。ドカドカうるさいからまさかと思って来てみたら…ほんとにアンタとはね」
「アイツヤバそうだから、私が片付けてあげる」
「あんたみたいな小さいのがあんなでっけえバケモンに勝てるわけないだろ！」
プラズマのその言葉に、ピンク髪の少女…もとい政府軍中将アイリス・ローン３４歳は眉を顰めた。
「ふん、まぁ今のは大目に見てあげる。後で寛大な私を土下座して賛美することね」
するとアイリスはポケットから黒いグローブを取り出し、着装した。
「敵もたくさんいていい感じね」
アイリスはそう言って屈伸している。
「パーマー、あんた達は周りの雑魚敵を倒さず、こっちに向かずってしてくれない？」
プラズマに指示する際、隣にいるアリシアに目を向けるアイリス。
今は何も言うまいと、一瞥のみで視線を巨獣型に戻した。
そして彼女は気つけのために両頬を叩いた。
「相手に不足なし……さぁて、久々にバチバチやったりますか」
To be continued.....
