二度目
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【登場人物】
▼採掘場
[ルト・ウォール]
19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。
[サヨ・キヌガサ]
19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。
ルトの良き理解者。
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【お知らせ】
暗いですなあ。
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薄金髪の青年に助けてもらってから、私は採掘を抜け出して隣の採掘場の女性ペアに助けを求めた。
一銭にもならないことに2人の女性は心底嫌がっていたが、一応状況を確認しにきてくれた。
結局リーダーに知られることとなり、私は女性ペアとなるまでは待機となった。
当時の…襲われた時の恐怖心を抑えながら帰路についた。
ペアが決まるまで採掘はない。次にこの道を通るのは何日後だろうか。
そんなことを考えていた…時だった。
突然道の脇…草むらの中から叫び声と共に何かが飛び出してきた。
私は驚きで反射的にその方向に顔を向ける。
暗闇の中、月夜に照らされたその何かは…昼間の太った男だった。
左から斜めに振り下ろされる棒状のなにか。
私は咄嗟に両手で顔を守るが、左足に衝撃が走った。
吹き飛ばされて、地面に叩きつけられる。
仕返しに来た!?
逃げなきゃ!
逃げ…
私の左足は脛から二つに折れ、若干血が溢れ出ていた。
「えっ…?」
「昼はよくもやってくれたな…! 舐めやがって!! お前は大人しくヤラれてればいいんだよ!!」
「お前が悪いんだ! お前が大人しく俺たちを受け入れてれば足が折れることはなかった!!」
「今死ぬか、今俺を楽しませるか選べ」
「今俺を楽しませるんなら、これからもお前を使ってやる」
こんなやつに体を捧げるくらいなら……!
私は死を……
死を……
私は……
「分かったから……殺さない…で。命は助けて…」
私にはサヨみたいに勇気はない。
私は無様にも生にしがみつく。
「よし、じゃあ上の服を脱いで口開けろ」
そして私は男の指示通り上を脱ぐと、震えながら口を開けた。
▼▼▼
▼▼
▼
私は…木の棒を杖代わりにして、どこかへ向かっていた。
自宅に帰っても、もうサヨはいない。それに遠すぎる。こんな状態じゃ、また暴漢に襲われる可能性が高い。
かと言って足の折れた状態で、教会の方へ戻ってもリーダーに見つかって3日の猶予の後に“慰み者”。遠くない未来に待つのは死だ。
私は…とにかくこの現状から逃げたかった。
どこか知らないところに…どこか…
まだ下腹部が痛い。
無意識に何度も口も拭ってしまう。
私は気づくと泣いていた。
悲しくて悔しくて、失ったものを取り戻せないような気がして…
「死のう」
私は薄金髪の青年からもらったジャンパーを脱ぐと、近くの木に近寄った。
少し高いところにある太い枝にジャンパーを括り付ける。
足が折れているんだ。輪っかに首さえを通せばすぐに……
私は近くから大きめの足を持ってくると、手で木に寄りかかりながら片足で乗った。
そして……
「なにしてんだ?」
優しい男の人の声。
躊躇いで緊張していた私は驚いてバランスを崩し、転げ落ちた。
声の主はまたも薄金髪の青年だった。
「なんでもないです……何か用ですか…?」
「別にお前に用はないけど。ここらへんで殷獣の調査をしてたら泣きながら変なことしてるから」
「泣いてないです…」
私は目元を拭う。
「まぁ…いいんだけどさ…なんかあったのか?」
「あなたには関係ないことです…」
自分にそう言い聞かせる。これは私の問題だ。
けれど、どうしても涙が溢れ出る。
すると青年は倒れる私のそばに座った。
「お前とは関係ないから独り言聞いても多分わかんないよな」
「…………」
倒れているのに起こそうとしてくれない。それが逆に恩着せがましくなくて少しだけ心地よかった。
杖を手に取り、木を伝って自分の力で立ち上がる。
「親友が足を折って、採掘から外れたんです」
「外れたらどうなるんだ?」
彼の質問に、つい私は尋ねてしまう。
「…独り言じゃないの……?」
「俺も独り言」
彼にはペースを乱されっぱなしだ。
「…………採掘から外れたら慰み者よ」
「なぐさみ…慰められるのか? まぁかわいそうだもんな」
「…違う。体を売ることになるってこと」
「なるほど…?」
「でも親友は慰み者になりたくなくて、“神への祈り”に志願したの」
「“神への祈り”?」
「殷獣っているでしょ? 採掘中に労働者を襲ってくるの。それを防ぐための生贄のこと」
「友達が生贄になりたいって言ったわけか…」
「そして私も…大事なものを奪われました」
折れた足のことではない。私は尊厳を失った。
「悔しくて、悲しくて、苦しくて……」
「もう…楽になりたい…!」
自分のその言葉で体の力が抜け、杖を離した私は前のめりに倒れ込んだ。
あれ。
痛くない。
私は彼の胸の中だった。
その青年は私を抱きしめるように受け止めてくれていた。
「今お前を俺たちで直接守ってやることはできないけど、もう少し耐えてくれ…! 必ず俺たちが助けてやるから…!」
彼の胸は温かかった。物理的なものだけではない。包み込まれて安心するような…
そして彼の晴れた心が私の曇った心を蝕んでいくような…
そんな心地だった。
あぁ、眠い。
辛いことは何も考えたくない。
今は…彼に身を任せて眠ろう。
▼▼▼
目が覚めると、暗い洞窟の中にいた。
柔らかい植物が敷かれており、私が彼からもらったジャンパーが掛けられていた。
起き上がって辺りを見回すと、体の横に一枚のメモがいかれていることに気づく。さらに工具も一式置いてある。
『体は治しといた! 俺たちがなんとかするからもう少しだけ耐えてくれ! また会おうぜ!』
おそらく薄金髪の彼の言葉だ。
字はお世辞にも綺麗とは言えないが、気持ちがこもっているように思えた。
『P.S. 出口の緑色の膜は目の前で少し待つとなくなるから! 絶対に当たるなよ!』
私は光が差し込む出口に目を向けた。
暗くてよく見えないが、確かに半透明の緑色っぽい膜が張られている。
彼のメモ書き通り、目の前で少し待つと、程なくして緑色の膜は蒸発した。
そして外に出ようと思ったとき、ふと足元を見ると、小動物や虫が息絶え絶えでピクピクと動いていた。
「なにこれ…? 毒?」
彼の遺伝子能力?
それになんとなしに歩いていたが、折れた足は治っており、体の痛みもない。
「また助けてもらったのか……」
少しだけ彼の心の名残を感じていた私は、漂うように自宅へと向かった。
今は死にたいと考えることはなかった。
彼に助けてもらった命だから、ということもあるのだろうが、彼の心に影響されたかのように私の心も少し温かくなっていたんだと思う。
『必ず俺たちが助けてやるから…!』
私を二度も救ってくれた彼は一体誰なんだろう。
To be continued.....