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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 前編 カゴの中でもがく虫
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IMIC

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【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。

 ルトの良き理解者。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 一章はポンポン行きたい 


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 その時、糸のような光が私の前を通ると太った男にぶつかり、大きな光を放った。


 男は痙攣しながら白目を剥いて膝から崩れ落ちる。


 

「なにやってんだ! てめぇら!!」

 澄んだ声。だけどとても力強くて頼もしい。

 そしてそれは一度聞いたことのある声だった。


「あ、あなた…! この前の…」


 声の主は鉱石を落とした時に出会った薄金色の髪をした青年だった。


「ん? お! おぉ! あの時の!!」

 あちらはあんまり覚えてなさそうだ。


「痛えええええぇ! クソが! クソビッチが!!」

 股間を押さえてのたうち回る痩せた男。


 その薄金髪の青年は怒りの表情で彼を見下ろすと、私の手を引いて外へと走り出した。



 外に出ても、洞窟内で男の野太い悲鳴が反響し続けていた。


「あ、ありがとう…」


「いいってことよ!!」


「大丈夫か? 襲われてたんだろ?」


「大丈夫……というよりあなたのおかげで助かりました」


 それよりも気になったことがあった。

 彼は光を放ちながら突進していた。

「あなた、今のは…? まさか遺伝子能力?」


 私たちこの地区に住む者達は遺伝子能力を封じられている。

 そのため、能力を使える者などいないはずなのだが…


 見たところ彼には能力を封じる腕輪がない。

 やはり彼は都市部から、もしくは他星から来た者なのだ。


「あぁ、そりゃそうだろ。まさか遺伝子能力ってそんなに珍しいのか? 無能力者?」


「いや、能力はあるんだけど、この星…というかこの地区に住んでる私たち労働者は能力は使えないんです」


「へぇ…なんで?」

 彼の声色が少し下がる。やっぱりただの観光者というわけじゃなさそうだ。


 私は彼に右手を掲げた。

「この腕輪。能力を封じるんですよ。私たち労働者が団結して能力使ったら上層部とか国際教団は困るでしょ?」


 私は“しまった”と口に手を当てた。

 また要らないことを言ってしまった。

「今の私から聞いたって言わないでくださいね」


「お前らの上層部とかいうやつには言わねぇよ。そもそも名前知らねぇし」


 名前はやめておこう。名前を出して、彼が告げ口した場合、私が上層部や国際教団の批判をしたと言われる。

 絶対に成績に響く。



 けど…

 彼の目を見ていると、言ってもいいような気がしてきた。


 なんとでもなる。そんな気持ちにさせられる。

 まるで彼の性格に蝕まれたように。


「ルト・ウォール…」


「そっかルト! 国際教団とかいうのについても教えてくれよ!」


「ちょっとまって、あなたは名乗らないんですか?」


「俺は仕事中は名前とか言っちゃダメなんだよなぁ。あ、これ言ったっけ?」

 この前もその話をしたが、やはりあの時のことはあまり覚えていないようだ。


「まぁ…いいです」

 あれ、私ちょっとがっかりしてる…?

 いや、二度も助けてもらったんだから、名前を聞くのは当たり前。

 名前がわからなきゃ恩返しできない。

 だからがっかりというか残念に思っただけだ。


 絶対そうだ。


 私は気を取り直して、彼の知りたがる国際教団について説明を始めた。

「国際教団っていうのはソラル教という宗教を信仰する組織です」


「信仰してる奴らは都市部だけじゃないのか?」


「私たち労働者も信仰しています。というより信仰させられてると言った方が正しいですが」


「この労働にも国際教団の奴らが関わってるのか?」


「もちろん、関わってますよ。ここの労働者のリーダー達は教団の中でも高位の神徒(シント)…様って人の指示を受けてますから」


「シント……」


「神徒様っていうのは教団のトップ胤減(インゲン)様の弟子の一人です」


「ここの労働に教団が関わっている理由ってのは?」


「ただ単に金が入るからだと思います。ここは稀少な隕鉱石(メテオライト)が採れます。それを売って教団の資金源にしてるんじゃないですかね、これは予想ですけど」


「なるほどなぁ。金かぁ…あと殷獣(いんじゅう)は? 国際教団は何か関わってんの?」


「関わってますよ…」

 彼らが殷獣への生贄を選別しているのだから。


「この鉱山は殷獣が出ます。ソラル教では殷獣は神の遣いなので生贄を捧げて鎮めてます。そうすれば人を襲わないので。その生贄を選別してるのが神徒様やここの上層部です」


「なるほど。どういう人が選別されてんだ?」

 核心に迫る質問だ。

 さすがにこれには答えられない。


「ごめんなさい…それは言えないです…」

 言えば、上がどういう人を選別しているか、という私の主観を言うことになる。


「オッケーわかった! ありがとなルト!」


「いえ、こちらこそありがとう…」

 本当に彼のおかげで助かった。



 でもなんのために?

 この人は私を助けて何のメリットがある?


 国際教団の情報を聞き出すため?

 それにしては核心に迫る質問であっさりと引いた。



 青年は私の方に振り向くと、目線を下にやった。

 私はタンクトップにパンツ。


 そうか…

 そうだよね…


 助けたんだから見返りをってことだよね…



 でもあんな男たちにするくらいなら、助けてくれたこの人にする方が何倍もいい。


「分かった。でもできるだけ早く終わらせてね」

 私は下着に手をかけた。


「おいおいおい! ちょっと待て!!」

 突然青年が私の両手を押さえた。


 流石にこんなところでは嫌だよね。

「なら、あそこの岩陰にする?」


「何言ってんだお前! あいつらから解放されたからって開放的になりすぎだろ!! 露出狂か!!」


「え…? あなたそういう意図で私を助けたんじゃないの…?」


「意味わかんねぇよ! どういう意図だ!!」

 彼の言葉に私は拍子抜けした。


「ズボンどうすっかなぁ…流石に俺のを貸したら俺が露出狂になっちまうし…」


 青年は首を傾げたままぶつぶつとつぶやいている。


「あ! 俺のこの上をあげるから、なんかスカートみたいにしてくれよ!」

 そう言って青年は上着を脱ぎ始めた。

 チャック式のジャンパーだ。


 左の二の腕部分に刺繍がしてある。


「I…M…I…C…?」


「そうそう! これジャンパー作ったんだよ! まだ在庫あるしやるよ!」


「じゃっ!」


「ま、待って!! やっぱりあなたの名前を教えて!!」


「だから名前とか言えないんだって!」


「もし仕事が終わってまた会ったらその時は言うよ!」

 そう言い残して彼は閃光を放ち、光る糸のようにして宙を飛んでいった。


 気づくと私は彼のくれたジャンパーを握りしめていた。

 さっきまで彼が着ていたせいか、少し温かい。


 私はジャンパーの刺繍に目を向ける。


「IMIC…イミック…かな?」


 そしてジャンパーを胸に抱いて空を見た。



To be continued.....


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