話し合い
「待っててくれって言ったってお前…戦闘になったらどうすんだ…?」
居残りの指示を受けたバリスはプラズマに尋ねる。
「ならねぇだろ。アリシアがいるんだから!」
楽観的な考えにバリス、ラルト、涙流華が一斉にため息をついた。
「じゃ、行ってくる!」
プラズマはズカズカと歩き出すと、アリシアとともにベースキャンプを出て行った。
「着いていくかぁ…」
ラルトがそう言って背広を羽織ると、涙流華も刀を腰に携える。
「私は…」
殷獣の前になど絶対に行きたくないレモンが声を上げたところでバリスが答えた。
「分かってる、お前は待っててくれ」
「じゃあボクも行こうかな」
黒いローブ、フードを被ったストリーム・アクアレギアも腰を上げる。
「えぇ!? 私ひとりでここに残るのかい!?」
レモンの悲痛な叫びも虚しく、皆は足早に外へと出ていった。
~森の中~
「お前、いつからここにいるんだ?」
プラズマが歩きながらアリシアに問うと、彼女は少し肩をすくめた。
「分からない…覚えている限りではこの星にいたから、多分生まれてすぐか、この星で生まれたか…」
「へぇ、じゃあ親は殷獣?」
プラズマはデリケートな問題をズケズケと聞いていく。
「知能型殷獣は自然的に発生したものじゃないって他の仲間は言ってたから…多分親も人間じゃないかな…」
「他の知能型殷獣も元は人間なのか?」
「他の知能型は鳥とかライオンとか、人間以外の動物。人間種で知能型殷獣として生き残ったのは私だけ」
アリシアは両手を胸の前で握ると、視線を落とした。
「とは言っても、私も人間だったときのことは覚えてないし、元々人間だったかは分からないけど…」
「なるほどなぁ」
さすがのプラズマも雰囲気を察して声のトーンを落としている。
「で、後ろの仲間たちはいつまで着いてくるつもりなの?」
アリシアはプラズマの方を向いて目線のみを後ろに向けた。
「えっ!?」
「1、2…3人かな?」
プラズマが後ろを見ようとするが、それをアリシアが声で制止させた。
「後ろは見ないで。あなたは何となく裏表がなくて信用できるけど、まだあの人達まで完全に信用したわけじゃないから」
尾行に全く気づいていなかったプラズマは怒りの声を上げた。
「あんにゃろ〜たちめ…!!」
「すまん、アリシア。あいつらは俺がやらかすと思って着いてきてんだ…! だからお前を怪しんでるわけじゃないと思う…」
「やらかすって何を?」
「いや、わかんねぇけど…あいつら俺がバカだと思ってるから」
「あなた、バカなの?」
「バカじゃねぇよ!! あいつらがそう思ってるだけだ!」
一方、彼らの約100メートル後ろをつけているバリス、ラルト、涙流華…そしてストリーム・アクアレギア。
彼らは一応見つからないように木陰などに隠れながら尾行をしていたのだが……
「あっ、言っておきますけど、尾行、バレてますよ」
ストリームは突然そう言葉を発した。
「うそだろ!?」
バリスが驚きの声を上げると、ストリームが笑い声を上げた。
「相手は殷獣ですよ!? 普通に歩けばバレてるに決まってるじゃないですか!」
「貴様…! それを初めから言わんか!」
高笑いするストリームに涙流華は鬼の形相で怒鳴りつける。
「全く! 特に涙流華なんて殺気ビンビンでさぁ! 気づかないわけないじゃんっ! ねぇ!」
ストリームはそう言ってラルトの肩に手を乗せた。
「ラルトは涙流華を甘やかしすぎだよ! 気づいたことは言ってあげなきゃ! 気になるのは分かるけどさぁ!」
ラルトはストリームの言葉に過敏に反応して荒々しく肩の手を払う。
「てめぇっ…! 誰が涙流華なんて気にするか!!」
「ラルト貴様…それにお前! 私のことを馴れ馴れしく下の名で呼ぶな!! 呼んでいいのは仲間だけだ!」
涙流華はストリームを指差して激怒している。
「へぇ〜? 仲間ねぇ?」
ストリームがニヤついた声で復唱すると、涙流華は顔を真っ赤にして大声で何か暴言を吐いている。
「ほらほら、置いていかれますよ」
しかしストリームはどこ吹く風といった様子で、プラズマ達の尾行を続けている。
「なんなのだ…! 此奴は…!」
何やら後ろで揉めているな、と感じながらも歩みを進めていたアリシア。
獣の気配が強くなり、そこかしこに殷獣が隠れていることが肌で感じとれる。
「もうそろそろ私たちの集合地点。みんな集まってる気配がする」
「話し合えそうか?」
「大丈夫。だってここまで近づいても攻撃してないんだから、話し合う気はあるんだよ。彼らもあなた達の気配には絶対気づいてるはずだから」
「じゃあ俺たちが話し合えば、このいざこざも終わりだな!」
「そう…そうだね…!」
そうしてプラズマとアリシアは、木々のない開けた場所に出る。
開けた場所の中央付近まで辿り着くと、アリシアは大声を上げた。
「みんな! 人はもう争いはしないって言ってるよ! 戦いをやめよう?」
すると黒い影がぞろぞろと森から出てくる。
そしてそのうちのどれかから低く不気味な声が発せられる。
「はぁ? 何言ってんだお前。あっちが戦いをやめたからってこっちはやめねえよ」
女性のような高い声も続く。
「奴らを痛ぶるのが楽しいからやってるんでしょうが。まさか大義があってやってるとでも思ってんのかい!?」
その言葉にアリシアは声を上げる。
「でも……もう仲間が傷つかなくてもいいんだよ!?」
彼女の言葉に答えたのは最初の声だった。
「はっ!! てめえも含め、こいつらを仲間と思ったことはねえよ!」
「そう言ってやるな。“仲間”……我々にはよく分からんが、美しいことじゃないのか?」
威圧感のある声と共に奥から獅子型殷獣がのろりと姿をあらわす。
「やつらと共にいるということはお前は人間側の“仲間”になったということだな」
「違うよ! わたしは……」
「やってしまえ。もうお前は我々の“仲間”ではない」
獅子型は森の奥へと姿を消す。
「野郎……! またリーダーぶりやがって…!」
低い声の影が姿を現すとそれは巨大な甲虫型の殷獣だった。
そしてその横に爬虫類のような姿形をした殷獣が歩み出た。
「まぁいいじゃない。ここで全員お陀仏よ! 後ろの奴らもね!」
「殺せーー!!」
爬虫類型の叫声とともに複数体の殷獣がプラズマ達の頭上を超えていく。
そしてプラズマ達の方にも数体迫ってきていた。
プラズマは放心状態のアリシアの手を引く。
「行くぞアリシア!」
To be continued.....




