人型殷獣
〜プラズマベースキャンプ東部の森〜
「ぐああああ」
《速い》鳥型殷獣の突進により兵士が次々と倒れていく。
一度上空に飛び上がり、再度兵士に向かって滑空を始めた。
兵士まで20メートルほどの地点で何かを察知したのか鳥型殷獣は回避する。
「不意打ちとは卑怯だねぇ。お侍さん」
横から斬りかかってきた涙流華に皮肉をたれる。
「不意打ちも立派な戦術だ」
「その通り!」
右手に炎を纏ったラルトが上から鳥型殷獣に飛びかかっていた。
ラルトは高火力の火炎放射を放つ。
「ヤキトリになっちまえ!!」
「くそっ……」
鳥型殷獣の背中にラルトの炎が直撃し、そのまま地面に叩きつける。
「やったか?」
距離をとったラルトは確かな手応えを感じとっていた。
「許さん……許さんぞ貴様ら!」
鳥型殷獣が地面から羽ばたくと低空飛行し高速で飛び回った。
「お前らもこい!!」
《速い》殷獣の声と共に上空から小さい鳥型殷獣の群れが近寄ってくる。
〜プラズマベースキャンプ北東部の森〜
プラズマが人型殷獣との交戦地へ到着すると味方の兵士は全員倒れていた。
そしてプラズマの眼前には灰色のショートカットに赤みがかった肌、そして赤い瞳をした人間のような少女が立っていた。
彼女は赤黒い液体…血のようなものをドレスのように纏っている。
「お前、知能型殷獣だな」
その人型殷獣はプラズマを睨みつけながら答えた。
「知能型…? まあそうね」
彼女は赤黒いドレスから血のようなものを滴らせている。
「あなた達はなんでここへ来たの?」
「調査のためだ」
プラズマは敢えて討伐のことは伏せた。
「調査? これ以上何を調査しよっていうの?」
彼女は憎しみを孕んだ視線でプラズマを貫いた。
「まだ私たちにひどいことをするの?」
「どういうことだ?」
「あなた何も知らないの? 殷獣のことくらい聞いたことあるでしょ?」
「ああ、ダークエネルギーを持つ微生物が生物に寄生してできた生命体って」
事前の部隊長会議で大元帥がそう説明していたはずだ。
しかしプラズマの説明に対して人型殷獣は首を振った。
「政府が過去にダークエネルギーを使って生物の力の上限をあげれるかどうかの研究を進めた」
「それには哺乳類、両生類、鳥類、魚類、昆虫類、菌類、微生物、もちろん人も。多くの生き物が実験台になった」
「何を……言ってるんだお前…?」
言葉に詰まるプラズマだが、人型殷獣は構うことなく話を続ける。
「人は全部で5000人以上。その中で一応形を保って実験が成功したとされたのが50人くらい」
彼女は悲しそうな表情を浮かべると、俯いた。
「前の殷獣調査の時点で、人の生き残りは私を含めて2人だけだった。他はみんな捕獲された」
「なぜだ?」
「殷獣の数が脅威とみなされたからよ。調査の数年前に殷獣の駆除があった。政府の管理下にいない野良が危険だと思われたんでしょう」
「私達は運良く逃げ切れたけど……結局殷獣の殆どが捕獲されて今は10種ほど、各一体ずつしか残ってない」
「嫌な奴ばかりだし、鳥とか虫とか種族も違うけどけど、それでも同じ“殷獣種”が死ぬのはもういやなの」
人型殷獣は強い眼差しでプラズマを睨みつけた。
「だから………引いてくれないならここであなたを倒す」
涙流華やラルトから聞いていたよりも話が通じる。
それがプラズマの率直な感想だった。
話し合えば戦わずに済むかもしれない。
殷獣とはいえ見た目は自分よりも幼い少女と戦うのは流石に忍びない。
そう考えたプラズマは対話を持ちかけた。
「わかった。じゃあおれは引くからお前も引いてくれ」
「今戦ってるあなたの仲間は?」
彼女は少しも警戒を解く様子はない。
「やつらが手を引けばこちらも手を引かせる」
「あなたたちが先に侵略しにきたんでしょ……!」
人型殷獣の怒りが募っていく。
「各星で人を襲って回ってるのは殷獣だ。こっちからは引けねえよ」
「勝手に生み出しといて…! もういい……ここで討つ!」
人型殷獣は拳を握ると猛スピードでプラズマに迫った。
プラズマは防御のため体の周りに電気を発する。
しかし彼女は拳を立ててそのままプラズマへと突っ込んだ。
「そんなのじゃ止まらないよ!!」
拳がプラズマの手を押しのけ胸へと直撃する。
「くっ………」
プラズマは3本の木を貫通し、4本目の木に打ち付けられる。
「いってえ……」
プラズマは背中や首をさすりながら立ち上がる。
「(なんだこの力……? あんな小さな子が出せる力じゃない……!)」
プラズマがそう思うのも無理はなかった。
人型殷獣はその風体で言えば10歳前後の少女だったからだ。
「左手と肋骨くらいはいっちゃったかな?」
「そうだな…すげえ力だ。そんな力持ちには見えねえけど」
人型殷獣は自分の2倍以上もある岩を片手で掴むと、軽々と持ち上げプラズマに狙いを定める。
「こう見えて…力持ちなの…!」
プラズマはすんでのところで猛スピードで飛んでくる岩を電撃と化して躱した。
「まずいな……殷獣結構強いぞ…?」
プラズマは右手で冷や汗を拭っている。
〜魏月華ベースキャンプ付近〜
「硬え!」「怯むな! 煉術をうち続けろ!」
救援に出た政府軍兵士は迫り来る虫型殷獣に煉術を放っているが、一向に止まる気配はない。
蜂、甲虫、鍬形虫、蟷螂など、多くの種類の昆虫型が迫ってきていた。
どれも人間と同じくらいのサイズで、空気を振動させるほどの羽音を響かせている。
「やぁ!!」
兵士達の背後からピンク色の何かが飛び出ると、甲虫型の殷獣にぶつかった。
政府軍中将のアイリス・ローンが殴りかかったのだ。
煉術でもびくともしなかった昆虫型だったが、アイリスの打突によって大きく吹き飛ばされた。
「かった〜い…!」
アイリスは痛そうに手をブンブンと振る。吹き飛ばされた昆虫型に目立った傷はない。
「大丈夫ですか、ローン中将!? もう帰っててもらってもいいですよ!?」
マイヤードは蟷螂型を吹き飛ばしながら悪気なしに声をかけた。
「あんた非接触系能力だからって余裕ぶって…!」
尚もアイリスは痛みから手を振っている。
「こいつらモブ敵でしょ…? モブ敵でもあんな硬いとなるとホンマものはどうするか……」
〜アドルフベース〜
「ローン中将とマイヤード少将が月華のところだな」
アドルフはホログラムでアイリス達政府軍勢力が月華の方に向かっているのを確認していた。
「それで捜査隊のところは…」
そう呟きながら出撃可能な者を選別していく。するとある集団の通信状態がオンラインになっていることに気づいた。
「あいつらやっと通信をオンラインに…!」
その集団はこの星に先乗りしており、拠点を持たず遊撃隊として運用していたのだが、ずっと連絡が通じなかった者たちだった。
「捜査隊のところにはこいつらに行ってもらうか」
アドルフが彼らを遊撃部隊にしたのは、その実力を実際に見たことがなく評判のみでしかしらなかったからだ。
アドルフは“Shibo”と表示されたアイコンをタップすると救援メッセージとプラズマ達の座標を送った。
「大道芸人がどこまでやるか見せてみろ」
To be continued.....




