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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 前編 カゴの中でもがく虫
3/82

不幸中の不幸

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【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。おっとりしている。ルトよりは身なりに気をつけている。

 ルトの良き理解者。


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【お知らせ】

 R18に引っかからないようにするの

結構大変。


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挿絵(By みてみん)




 教会前。辺りはもうすっかり暗くなった。

 今日の採掘を終えた私の前に、私たちの区画を担当するリーダーが血相を変えてやってきた。

 

「ウォール。お前今日金髪の若い男と話をしてなかったか?」


「してましたけど……なぜですか?」


「そいつに連れはいたか?」


「いえ…一人でした」


「何か言っていたか?」


「いえ…特になにも」


「どこに行くとか言っていたか?」


「いいえ…」


「そうか。また会ったら報告してくれ」


「はい…」


 リーダーは懐から小型ホログラムを取り出しながら、教会の中へと掛けていく。


 薄金髪の彼。何かやばい人だったのだろうか?

 そんな風には見えなかったけど。


 私は何より、もし彼がヤバい人だった場合、喋っていた上にそのことを報告しなかったことでランクに影響があるのではないかと心配になった。


 今度何かあったらすぐ報告しよう。

 そうすれば成績も上がるかも。



「サヨー? 帰るよー?」

 サヨの姿が見当たらない。返事さえもない。


「サヨ…?」

 まさかと思って教会の裏の小屋に急ぐ。


 低ランクのチンピラ集団は、高ランクの女性を狙ってはあの小屋に連れ込んで乱暴する。


 教会の真裏だというのに、国際教団の宗教家たちも採掘場のリーダーたちも知らんふりだ。


 私はツルハシを手に持ってその小屋へと駆ける。


 小屋の外にはチンピラの手下にされているおっさんたち数人が立っていた。

 

 私はツルハシをちらつかせ、おっさんたちを追い払う。

 こいつらは気が弱い。チンピラ達にボコボコにされて従っているにすぎない。


「き、来ましたぁ…!」

 おっさんが声を絞り出すと、小屋の扉が音を立てて開いた。

 

 薄っすらと、女性が苦しんでいるような声が聞こえる。

 その声はサヨだ。


「ウト…?」

 何かを口に詰められている。そんな喋り方で私の名を呼んだ。



「あぁぁぁぁぁ!」


 私は死ぬ気で扉から出てきた男にツルハシを振り下ろした。

 若い男だったが、不意打ちだったためか右手の先に命中した。


 男の腕は勢いよく彼の背後に流れる。


「いあぁぁぁぁってぇ!!! こいつ俺の手を…! 手をやりやがった!」



 私はもう一度大きくツルハシを振りかぶる。

 次は頭をかち割れるように。

「お前ら全員殺して…殺してやるっ!!」



「待て! こいつは解放する。もう手は出さない」


 その言葉に私の手は止まった。

 中から出てきたのは濃い茶髪の若い男。

 このチンピラグループのリーダー、ジュイス・ブランドーだ。

 日に焼けた小麦の肌に、筋骨隆々の体。

 逆らう者はみな腕力で捩じ伏せてきた男だ。


「それでいいだろ? ルト・ウォール」


「今! サヨを解放しなさい!」


「もちろんだ。と言いたいところだが、彼女は今歩けない」


「ほら、丁重にこちらにレディをお連れしろ」

 ブランドーは指を鳴らし中にいる手下にそう指示をする。


 男4人に抱えられながら外へ連れ出されたサヨ。

 仰向けに抱えられた彼女の両足はだらんと力なく下がっていた。


「彼女の両足の股関節を外した。はめれば治る。彼女に乱暴をしたお詫びとして、こちらも君が負傷させたこいつについては一切文句を言わない」


「ちょっと待ってくれよ! ブランドーさん! 俺それじゃ納得」


 その瞬間、ブランドーが右手を水平に振った。

 そして手下のチンピラの首元から血が吹き出す。


「うるせえよ。俺がこれで手打ちって決めたんだ。ごちゃごちゃ抜かすな。殺しちまったじゃねぇか」


「まぁでもこれで文句はないよな? ルト・ウォール。俺もお前に殺されたくはないんでな」

 ブランドーはそう言い捨てて小屋から離れていった。

「さ、引き上げるぞ」



「サヨ! 大丈夫!? 足! それに口!」


「足はすごく痛いけど…関節だからはまるんでしょ…?」


「口は…騒がないように指を入れられただけ…少し血の味がするけど」


「ごめん…私が目を離したせいで…」


「そんなこと…ないよ…私が警戒してなかったから…」

 サヨの苦しそうな笑顔が辛かった。



 私はサヨを負ぶって帰った。

 どうするか決めないといけない。


 さっき関節をはめたけど、医療についてはど素人の私だ。

 あれでいいのか分からない。


 サヨが治るまで負ぶって往復するとしても、リーダー達の目は誤魔化せない。

 歩けないと判断されれば、3日の猶予の後に“慰み者”となる。


 どうすれば……


 

 その日の帰路は運良く襲われなかった。

 こんな手負いの女、狙い目なのに。


 この日ばかりは神に感謝した。




 ボロ部屋についた私たち。

 

 サヨを黄ばんだ布団に横たえると、彼女は股関節付近を触って顔を歪めた。


 そして…


「ルト。私、“神の祈り”に志願するよ」


「え…? 都市部に行くのは…? なんで…?」


「多分だけどね、股関節のところ折れてる。柔らかい皮膚の中に硬い破片みたいなのがあるの」


「前に労働者の特売て置いてあった水枕ってあったでしょ? あんな感触がする」


 年に一度開催される労働者特売市。

 都市部から仕入れてきたとされる商品が並ぶ。

 もっとも商品を買うには、自分の体のパーツを売らなければならない。臓器や皮膚、手足…


 その時に置いていた水枕。中につぶつぶしたものが入っていて不思議な感触だったのを覚えている。

 確か眼球2つが条件だった。



 サヨは私とは逆の方を向いて布団に入った。

 理由はわかる。さっきから考えていた通りのこと。


 鉱山労働者が大きな怪我をすると、3日の猶予の後、鉱山から外される。

 そしてランクとは無縁の慰労従事者として使われる。


 男女問わず、教会近くのとある小屋に据え置かれ、鉱山労働者の慰み者として一生を終える。

 しかし実際は慰み者として一生を終えることは稀で、年数が経てば新人が入ったタイミングで押し出し式で()()()()()()()される。

 

 このままではサヨは慰み者として何千何万回と男たちに使われることとなるのは確実だ。


 それよりは“神の祈り”として皆を助けるため命を捧げようということなのだろう。



 私たちより不幸な境遇を生きている人はいるのだろうか。

 もしいるのならどういう心持ちで生きているのかを聞きたい。教えを乞いたい。



 私とサヨは背中合わせで、静かに泣いた。


To be continued.....


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