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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 後編 神に仇なす者たち
29/83

神途の余裕

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【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 ▼国際教団

 [胤減(インゲン)

  ソラル教を信仰する国際教団の教祖。


 [神儡(シンライ)

  胤減(インゲン)の弟子。


 [神途(シント)

  胤減(インゲン)の弟子。鉱山での労働を仕切っている。

  殷獣を放って自分が討伐するという自作自演でこの星の英雄になろうと画策する。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。ルトと共に過ごしていたが、実は国際教団の高位幹部だった。


 [ジュイス・ブランドー]

 低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。

 女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。


 [モウラ・ムケシュ]

 背が高く恰幅の良い国際教団の高官。自信家で豪快な性格。


 [ハウラ・ロラン]

 前回の生贄として捧げられたはずの中年女性。実際は死んでおらず、国際教団の一員だった。


 ▼四帝直轄惑星間遊撃捜査隊

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 薄金髪の青年。ルトを度々助ける謎の青年。

 明るい性格。電撃を操る。


 [バリス・スピア]

 紫髪で天を衝くようなツンツン頭。

 元医者で毒の遺伝子能力を持つ。


 [水王 涙流華]

 没落した名家、水王家の次期当主となる女性の侍。

 青い髪色でポニーテールにしている。性格はキツめ。

 水の遺伝子能力者。


 [ラルト・ローズ]

 没落した名家、ローズ家の出自。元政府軍中佐。

 白い長髪に黒のスーツを着ている。炎の遺伝子能力者。

 水王涙流華とは犬猿の仲。 


 [レモン・ポンポン]

 濃いピンク色のアフロをした褐色の巨漢。元々は芸能界に身を置いていた。

 伝説のエンターテイナーと呼ばれる。体格のわりに超ビビりで戦闘経験もほぼない。

 遺伝子能力も発現していない。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 第二部は一話の文字数減らした代わりに

話数が増えます。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡



 黙々と刀を振るう涙流華。

 レモンは彼女の斬撃が当たりやすくなるように、打撃を加えて神途の体勢を崩しているが、警戒する神途に中々致命傷を与えることができない。


「おいバリス、もうそろそろ俺行った方がいいんじゃねぇか?」

 落ち着きなくそう尋ねるプラズマ。


 神途に腕輪をはめるためにはプラズマが神途に近づく必要があった。

 しかし涙流華とレモンは隙を作れておらず、まもなくサヨの能力の限界となる5分が経とうとしていた。


 サヨの能力が解除されれば、皆の居場所が露わになり今以上に攻撃が当てにくくなるだろう。


 プラズマはそれを懸念していた。


 だがバリスは…

「いや、まだだ。まだそのタイミングじゃねぇ」

 そう言いながらも彼は彼で手をかざして能力を発動させている。


 プラズマ達の背後に控えるサヨは苦悶の表情を浮かべている。能力の限界が近いのだろう。


「サヨ…大丈夫…?」

 ルトはサヨの背に優しく手を当てる。

「大丈夫……神途と決別するには今しか…彼らのいる今しかないから…」


「このチャンスは逃したくないの……!」

 能力の限界値を超えたサヨは鼻血を流し始めた。


「サヨ…! お願い…! 早く…!」

 ルトはそう祈りながら涙流華達を見つめるが、急所が鉄によって守られた神途を前に攻めあぐねている。


 そして…


「ごめん…ルト…」

 サヨはそう言い残して気を失った。


 それと同時に彼女の幻術は解除され、皆の姿が露わになる。

 そして倒れているサヨを見た瞬間、神途は勝ったと言わんばかりに声を上げた。


「残念だったな!! お前達は好機を逃した!」


 その言葉に眉をひそめたバリスは神途を煽る。

「どっちにしてもこっちが攻撃し続けりゃ、お前は能力の限界がくる。我慢くらべするか?」


「いいだろう…!」


 神途の答えを聞いたバリスはプラズマの肩を叩いた。

「プラズマ、やっぱりルルカとレモンであいつを能力の限界まで追い詰めるのは無理だ」


「あぁ、攻撃が鉄で防がれてるもんな」


「そうじゃねぇ。とにかく当初の作戦通りお前が神途に近づけ。タイミングは俺が合図する」


 バリスは少し前へと歩み出ると大声で神途を煽るように、先ほどプラズマに言ったことと真逆の指示を出した。

「ルルカ! レモン! もっと攻撃強めろ! 能力の限界まで追い詰めてやれ!」


「ラルトはサポートだ! 神途を燃やし尽くせ!」


 バリスの煽りに対して神途は不敵に笑った。

「追い詰められるのならな…」


AGRY(アグリー)…」


無限の過去イェレイアジェ・ムナリ!」


 神途はAGRY(破滅的解放)を発動させた。

 強者の中でもほんの一握りしか使えない遺伝子能力の第二段階目の解放。


「さぁ、我慢比べといこうか」

 神途は余裕な表情を浮かべている。


 AGRYの解放に対してバリスは特に取り乱すことなく、淡々とプラズマに説明した。

「恐らくだが、奴は限界値がなくなったか、限界値を補う能力を使うはずだ」


 “我慢比べ”をして困るのは確実に神途のはずだった。

 しかし、彼は受けて立つと言わんばかりの様子で乗ってきた。

 それはつまり、神途は能力の限界を補う何か……AGRYを修得しているのだろうとバリスは判断していたのだ。


 それを発動させるためバリスは神途を煽っていたのだ。

 プラズマは恐る恐るバリスに尋ねた。

「それじゃ我慢比べってのは…」


「あぁ、俺たちが負ける。ありゃあいつを煽っただけだ」


「なんで煽んだよ! AGRY使ったじゃねえか!」


「どうせ追い詰められりゃ使うんだ」


「なら追い詰めるまで使わせなきゃよかったのに! 余裕ある状況で解放されたらやべぇじゃねぇか!」


「余裕ある状況でAGRYを解放させたことに意味があるんだよ」

 尚もバリスは余裕の表情を浮かべている。




 連続して転移を繰り返す神途。瞬間移動に近いその力で涙流華達を翻弄していた。


「レモン! そっちに行ったぞ!」

 涙流華(ルルカ)の声に反応し、神途(シント)の方へと向かうレモン。

 筋骨隆々の体から生み出されるスピードは非常に速く、アフロも上下に揺れている。


 神途は煉術(れんじゅつ)で鉄の棒を作り出し、それをレモンに向かって振う。


 レモンは両手で顔面を守りながら、意を決して神途に特攻を仕掛ける。

「うああああぁ!!」


 振り下ろされる鉄の棒を左手でガードすると、鈍い殴打音が響いた。

「痛っーーーー!!!」



 神途はすぐさま転移しようとしたのだが、そのままレモンは突進を続け、神途の両腕を押さえた。


「貴様っ! 離せ!!」


「離すかっ…!!」

 レモンは棒の先で何度も小突かれながらも、神途を押さえ続けている。


「レモンっ! 飛べっ!」

 背後から響く涙流華の声。それと同時にレモンは両手を離すとジャンプした。


 その瞬間、神途の両足首が水平に斬られる。


「無駄だ」

 神途は難なく負傷前の状態へと転移した。


 涙流華達と離れた場所に現れる神途だったが、転移が完了したと同時に豪炎が彼を飲み込んだ。


「涙流華、限界まで追い込もうと必死になってるとこ悪いが、多分さっきのAGRYで限界はなくなってるぞ」

 涙流華とレモンの隣に並んだのはラルトだった。

 

「なに!? どういうことだ!?」

 涙流華は驚いて声を上げた。


「バリスが“我慢比べ”っつって煽って自信満々でAGRY発動させたんだ。そう考えるのが普通だろ。脳筋侍」

 

 涙流華に腹を殴られたラルトはさらに続ける。

「だが、この洞窟から転移してないところを見るに、恐らく短時間の巻き戻しを上限なしでできる能力だろうな」


「バリスの作戦は大丈夫なのかい?」

 レモンは不安そうに尋ねた。


「あいつはこれも想定した上で腕輪をはめるって作戦にしてるはずだ。これを想定してなきゃほんとに“我慢比べ”してりゃ勝てると考えるからな」


「それに、これから先のことも考えてなきゃバリスの野郎が俺たちに抗毒薬を飲ませたりしないだろ」

 バリスが指示している最中、彼は皆に自身の能力で作り出した抗毒薬を服用させていた。


「なら…」

 ラルトの説明にレモンは表情を晴らせた。

 

「とにかくバリスの指示に従う。プラズマが近寄る隙を作る。いいな、涙流華、レモン」


「当たり前だ」

 涙流華は刀を構え直す。



「バカの一つ覚えのように攻撃攻撃…知能が低いと生きるにも苦労するだろう」

 神途は転移してラルトの炎から抜け出していた。


「俺らの大将がお前にキツイ一撃喰らわすために、隙作ろうって攻撃頑張ってんだよ。こっちは」


 ラルトの言葉を神途は鼻で笑っている。

「それをわざわざ敵に言うところが知能が低いと言っているんだ」

 神途は見逃さなかった。バリスが遺伝子能力制限機器の腕輪を持っていたことを。

 そのためバリスの作戦が、一番速いプラズマに腕輪をはめさせるということもわかっていたのだ。


「それはお前が勝ってから判断してくれよ」



To be continued.....



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