表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 後編 神に仇なす者たち
24/83

克己撃摧

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 ▼国際教団

 [胤減(インゲン)

  ソラル教を信仰する国際教団の教祖。


 [神儡(シンライ)

  胤減(インゲン)の弟子。


 [神途(シント)

  胤減(インゲン)の弟子。鉱山での労働を仕切っている。

  殷獣を放って自分が討伐するという自作自演でこの星の英雄になろうと画策する。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。ルトと共に過ごしていたが、実は国際教団の高位幹部だった。


 [ジュイス・ブランドー]

 低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。

 女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。


 [モウラ・ムケシュ]

 背が高く恰幅の良い国際教団の高官。自信家で豪快な性格。


 [ハウラ・ロラン]

 前回の生贄として捧げられたはずの中年女性。実際は死んでおらず、国際教団の一員だった。


 ▼四帝直轄惑星間遊撃捜査隊

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 薄金髪の青年。ルトを度々助ける謎の青年。

 明るい性格。電撃を操る。


 [バリス・スピア]

 紫髪で天を衝くようなツンツン頭。

 元医者で毒の遺伝子能力を持つ。


 [水王 涙流華]

 没落した名家、水王家の次期当主となる女性の侍。

 青い髪色でポニーテールにしている。性格はキツめ。

 水の遺伝子能力者。


 [ラルト・ローズ]

 没落した名家、ローズ家の出自。元政府軍中佐。

 白い長髪に黒のスーツを着ている。炎の遺伝子能力者。

 水王涙流華とは犬猿の仲。 


 [レモン・ポンポン]

 濃いピンク色のアフロをした褐色の巨漢。元々は芸能界に身を置いていた。

 伝説のエンターテイナーと呼ばれる。体格のわりに超ビビりで戦闘経験もほぼない。

 遺伝子能力も発現していない。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 自分に打ち勝つのは本当に

すごいことです。


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


「死にたくない……死にたくっ」

 殷獣の刃がルトの頭めがけて振り下ろされると、彼女は咄嗟に腕で顔を守った。


 すると奇跡的にルトの腕輪に当たり、殷獣の爪は弾かれた。

 攻撃が弾かれた殷獣は驚いたように間合いを取っている。彼女が反撃したと判断したのだろう。


 偶然攻撃を凌いだルトだったが、恐怖から過呼吸気味になっていた。

 腕輪を見た彼女は恐怖の底に叩き落とされる。彼女の腕輪は一撃で破壊され、次の攻撃は防げそうになかったのだ。


「ほんとに……死……死ぬっ……」


 ルトは何とか思考を巡らせた。

 腕輪の壊れた今なら、遺伝子能力や煉術(れんじゅつ)が使えるかもしれない。


 そうも考えたが、彼女は使用する(すべ)を知らない。

 学生時代に知識こそ蓄えたが訓練はさせてもらえなかった。国際教団が労働者たちに反抗されるのを嫌ったためだ。


 そもそも固有の遺伝子能力が何なのかすら知らなかった。

 自分が持っている能力さえ分からないのに、勝てるはずはなかった。



 死ぬ。



 その瞬間、今まで状況を打開しようと巡らせていた思考は停止する。


 ルトの目の前では、様子を窺っていた殷獣が体を小刻みに揺らして襲い掛かる予備動作を取っている。


「あ…あぁ……」

 後退りするルトの抵抗もむなしく、殷獣は唸り声を上げながら再度彼女へと飛び掛かった。




 最後にサヨと会いたかったな。





▼▼▼




 暗闇の中、無音の空間で彼女はただ漂っていた。



 死んだのか。

 彼女はそう感じていた。


 サヨと一緒に星を抜け出して暮らす。

 豪遊なんて望まない。質素でも穏やかに生きていければそれでいい…


 そんな些細な夢すら叶わなかった人生。


 今まで何度もこの状況を打開しようと努力し、生きてきた。


 いや…それは少し前までのこと…


 ここ最近はというと、自分で死ぬこともできず、ただひたすら生にしがみついてきただけだった。


 そんな中、つい先ほど電撃の青年を助けたいと願い、何とか状況を打破しようとして必死に駆けた。

 命を懸けて最悪な状況に打ち勝とうとしていた。


 しかし失敗した。

 鋭い爪を向けて飛びかかってくる獣を前にしては、もう成す術はない。






[あんたは諦めるの?]




 ルトの心に響く声。聞きたことのある女性の声だった。

「だれ……?」


[あんたはサヨと一緒に抜け出すんじゃなかったの?]


[最悪な状況に打ち勝つんじゃなかったの!?]


[さっきは恐怖に……自分に打ち勝ったじゃない!]


 

「自分に打ち勝った……?」

 エレベーター前での葛藤だ。

 電撃の青年をを見捨てて逃げるか、死ぬ危険を冒して彼をを助けに行くか。


 逃げたかった。生きたかった。


 それでも彼女は助けることを選んだ。

 決して恐怖に打ち勝ったわけではない。彼女は心の底から恐怖していた。


 しかし気づけば体が動いていた。



「打ち勝ってない…私は怖かったよ。死ぬほど恐怖してた…」



[打ち勝つっていうのは、自分の弱さを認めながらも立ち向かうこと]


[あんたは打ち勝ったよ]


[だから私はあんたに()調()した]


[あんたはここを切り抜けてサヨのところに行くんでしょ? こんな獣ぶっ飛ばしてさ]


 ルトは殷獣になど敵うはずもないと、生を諦めていた。

 恐怖に支配され、生きる可能性を捨てた。


[諦めたら終わりよ]


「打ち勝つ……」

 そう呟いたルト。


 何故今まで必死に採鉱してきたのか。

 何故サヨが教団の一員と知っても追ってきたのか。

 何故命を危険に晒してまで電撃の青年を助けようとしたのか。


 全てはこの最低な状況に打ち勝つため。



 いまだに恐怖はある。


 しかし、もう迷いはなかった。




「打ち勝つ…! 負けてたまるか! クソったれ!!」


 ルトがそう言い放った瞬間、彼女はその声の主が誰なのか理解した。

 頭ではなく、心で。


[“(あんた)”と“あんた()”でこの状況に打ち勝つよ!]


 そしてルトは自身の遺伝子能力を感じ取る。

 知り得なかった自分の秘めたる力が身体中に満ちていく感覚だ。



 それでも恐怖はあった。怖くて怖くて体の震えと涙が止まらない。

 しかしルトはこの状況に打ち勝つため、最後の一瞬まで抗うことを決めた。



 そしてルトは女性(自分)の声とともに心に浮かんだ言葉を口にした。

 それは遺伝子能力と同調した能力解放の第一段階。



AGIS(エイジス)……」



克己撃摧(スペロ・ミン・メズモ)




To be continued.....

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ