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My² Gene〜血を喰らう獣〜  作者: 泥色の卵
第1章 後編 神に仇なす者たち
23/83

血に塗れた獣

 ≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


【登場人物】


 ▼採掘場


 [ルト・ウォール]

 19歳の女性。男勝り。髪はボサボサで鬱陶しいのでポニーテールにしている。基本的にタンクトップと作業衣ズボンで過ごしている。


 ▼国際教団

 [胤減(インゲン)

  ソラル教を信仰する国際教団の教祖。


 [神儡(シンライ)

  胤減(インゲン)の弟子。


 [神途(シント)

  胤減(インゲン)の弟子。鉱山での労働を仕切っている。

  殷獣を放って自分が討伐するという自作自演でこの星の英雄になろうと画策する。


 [サヨ・キヌガサ]

 19歳の女性。ルトと共に過ごしていたが、実は国際教団の高位幹部だった。


 [ジュイス・ブランドー]

 低ランク労働者集団のリーダー。暴力をもって他の労働者を支配している。

 女性を襲ったり、物資を奪ったりと悪行を尽くす。


 [モウラ・ムケシュ]

 背が高く恰幅の良い国際教団の高官。自信家で豪快な性格。


 [ハウラ・ロラン]

 前回の生贄として捧げられたはずの中年女性。実際は死んでおらず、国際教団の一員だった。


 ▼四帝直轄惑星間遊撃捜査隊

 [サンダー・パーマー=ウラズマリー]

 薄金髪の青年。ルトを度々助ける謎の青年。

 明るい性格。電撃を操る。


 [バリス・スピア]

 紫髪で天を衝くようなツンツン頭。

 元医者で毒の遺伝子能力を持つ。


 [水王 涙流華]

 没落した名家、水王家の次期当主となる女性の侍。

 青い髪色でポニーテールにしている。性格はキツめ。

 水の遺伝子能力者。


 [ラルト・ローズ]

 没落した名家、ローズ家の出自。元政府軍中佐。

 白い長髪に黒のスーツを着ている。炎の遺伝子能力者。

 水王涙流華とは犬猿の仲。 


 [レモン・ポンポン]

 濃いピンク色のアフロをした褐色の巨漢。元々は芸能界に身を置いていた。

 伝説のエンターテイナーと呼ばれる。体格のわりに超ビビりで戦闘経験もほぼない。

 遺伝子能力も発現していない。

 

≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡

【お知らせ】

 文章をもっとうまく書きたい……


≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡


 プラズマはルトに介助されながらも立ち上がり、神途に尋ねた。

「どうした…? ()()()()()()()()のか…?」


 神途はよろけながらも立ち上がる。

「分かっているだろう……戻しても意味がないことを…だから甘んじて受けた…」


 その言葉にプラズマは反応し、再度電撃を放つため両手を掲げた。

「やっぱりな…今ので攻めるとするか…!」


「あれ…? 出ねぇ?」

 両手を掲げたプラズマだったが、電撃は出なかった。

「なんでだ!?」


「遺伝子能力は使えない」


「なに!?」

 

「さっき何かボタンを押してたからそれかも…!」

 ルトはプラズマに小声で伝えた。


「前にこの腕輪のせいで私達は遺伝子能力が使えないって言ったでしょ? 遺伝子能力を阻害する機械があって、それが発する電波が腕輪を通して制限してるって聞いたことがある…!」


 ルトは以前、労働者のリーダーたちが話しているところを盗み聞きしたことがあった。

 ある機械が鉱山のどこかにあって、それが腕輪に電波のようなものを流して遺伝子能力を封じていると。


 しかし、今プラズマは腕輪をしていない。

 よって神途が押下したスイッチによって機器が作動し、範囲的に遺伝子能力を制限しているのだと考えたのだ。


「もしかしたら遺伝子能力を封じる機械が近くにあるのかも……!」


「それにもしかしたら……もしかしたらだけど、神途様も遺伝子能力を使えなくなってるかもしれない…!」


「ほんとうか!」


 その時、洞窟内に獣が発したような遠吠えが響いた。

「なんだ…!?」


 神途は勝ち誇ったような表情を浮かべている。

「すぐさま私の能力を見破り、回避不能の攻撃を放ったことは褒めてやろう…」


「だが…手負いの状態なら、()()()()で十分だろう」

 神途の横を通り過ぎプラズマ達の方へと近寄っていく複数の黒い影。

 それは人のものではなく四足歩行の……獣のような影だった。


 そのシルエットにルトは声を上げる。

「まさか…殷獣(いんじゅう)…!?」


「その通り。こいつらは私を襲わないように遺伝子操作してある。遺伝子能力が使えない今、お前らに手立てはない」

 殷獣は獲物を狙うかのように間合いをジリジリと詰めていっている。


「遺伝子能力を制限してる機器はどこ!!」

 ルトは神途に向かって叫んだ。


「気づいたか。鉱山を探し回れば見つかるかもしれんな」

 その間も殷獣はゆっくりとプラズマ達に近寄っていっている。


「ルト…! 俺があいつら引きつけとく……! 早く逃げろ!」


「で、でも……」


「いいから早く行けっ!!」

 そう言うとプラズマは殷獣に向かって小石を投げつけると、注意を引くように駆けていく。

 殷獣達はプラズマを追いかけるように走り出した。


 飛び掛かってくる殷獣をプラズマは避けたり蹴り飛ばしたりして何とか攻撃をいなしている。


 逃げることに葛藤したルトだったが、やはり恐怖には勝てずエレベーターの方へと走った。


 ルトはプラズマには申し訳ないと思いながらもひた走っていた。

「(死ぬ…本当に死ぬ…!)」

 初めて見た殷獣。血と獣臭が混ざった悪臭。凶暴さを表すような唸り声。

 全身が恐怖で包まれた。今までに感じたことのない恐怖だった。



「ぐあっ……!」 


 ルトの耳に入るプラズマの痛々しい声。

 その瞬間、ルトの足は止まった。


 エレベーターまであと10メートル程。今なら逃げることができる。死ななくて済む。

 なのに……


 ルトは何度もプラズマに助けてもらった。

 何度も“死ぬ”と言いながら死にきれなかった自分をだ。


 命の恩人…

 いや、それだけではない。


 壊れそうだった心を優しく包んでくれた彼を見捨てようとしている。

 生きるために“生贄”にしようとしている。


 ここで逃げれば、大切なものを失ってしまう。


 自分の心と彼の命。


「助けなきゃ……」

 

 ルトはエレベーターに背を向けていた。

 そして死に物狂いで洞窟へと戻っていく。


「助けなきゃ……!!」


 洞窟に入ると尚もプラズマが殷獣を何とかいなしながら、逃げ回っていた。

 神途もそれに嬉々として見入っている。


「(今のうちに……!)」


 ルトはプラズマを助けたい一心で戻ってきた。

 しかし彼女が戻ったところで殷獣を蹴散らせるわけでもない。彼女が戦闘に加わったところで逆にプラズマの足を引っ張るだけだ。

 彼女は何の算段もなく、戻ったわけではなかった。


 彼女は一つの可能性に賭けていたのだ。

 その賭けに勝てばこの状況を打破できるかもしれない。

 だが負ければ待っているのは死だ。


 ある場所を目指す。

 それは殷獣が出てきた穴。彼女は崩れた天井の瓦礫を手に持ち、強い眼差しで目的地を見据えた。


 ルトはプラズマの逆側から壁を伝って、なるべく音を立てないよう体を屈めながら走る。


「(待ってて…!)」

 

 プラズマは洞窟の壁を伝いながら、時計回りに移動している。

 彼は深く考えてはいないのだろうが、壁の傍を移動することで直感的に殷獣の攻撃方向を限定しているのだ。


 ルトは逆側から壁を伝って反時計回りに移動しているため、早く穴に辿り着かなければかち合ってしまう。

「(このままじゃ間に合わない……)」

 半分まできたところで、このままでは間に合わないと悟ったルトは全力で走り出した。


 ルトが穴に駆け込んだ直後、足音に気付いた神途が振り向いた。

「あの女……!!」


「行け! 殺せ!!」

 神途は一匹の殷獣をルトへと向かわせる。


「(やばいやばいやばいやばい! バレた…!)」

 必死に駆けるルトだったが、彼女の頭上を飛び越えて殷獣が彼女に対峙した。


 狼のような姿をした赤黒い獣が大きく咆哮する。ルトは腰を抜かすと、その場で尻餅をついた。


「やだ……助け…たすっ……」


 殷獣はだんだんと近寄ってくる。

 足には全く力が入らず、ルトは腕の力だけで地を這いながら逃げていた。


「(怖い怖い怖い怖い)」


「(本当に死ぬの……?)」

 彼女は涙を流している。


 正直何とかなるのではないかと思っていた。

 なぜなら彼女は、彼女の人生の主人公だからだ。


 しかし、彼女は命の危機に瀕して初めて痛感した。

 彼女は主人公であると同時に、他人の物語の脇役であると。



 暗い洞窟の中。逃げ場はない。 


「いやだぁ……死にたくないよぉ……!」


「死にたくない……死にたくっ」

 殷獣の刃がルトの頭めがけて振り下ろされた。



To be continued.....

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